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ブレイクスルー
File.39 会えるはずなかった 私の子どもへ

この放送回の番組まるごとテキストを掲載しています

  • 2015年10月5日(月曜)再放送2015年10月12日(月曜)

出演者
風間 俊介さん(俳優)
安藤 桃子さん(映画監督)
スプツニ子!さん(MIT助教、アーティスト)
牧村 朝子さん(タレント・文筆家)(中継参加)
長谷川 愛さん(マサチューセッツ工科大学メディアラボ所属アーティスト)
オープニング・エンディング音楽:若旦那さん(歌手)

ブレイクスルー  File.39 会えるはずなかった 私の子どもへ の番組概要を見る

会えるはずがなかった子どもに出会うまで

(VTR)

フランスの美しい風景に憧れていた訳じゃない。 
愛する人と共に暮らし続けるためここにやって来た。
牧村朝子さんと、モリガさん。
2年前、フランスで正式に同性婚した。

この夏、2人は不思議な贈り物を授かる事になった。
この世でたった一つの写真集。 
写されているのは2人の間にできるかもしれない、子どもの姿。

女性同士の間に産まれる子ども。 
そんな事が起こりうるのか。
生命誕生の在り方を 根本から変える可能性があるのが、iPS細胞。
近い将来、ヒトの皮膚から精子や卵子をつくる事もできると見られている。

スプツニ子!:男と男で、女と女で、同性同士でこどもをつくるっていう未来があながち不可能でもない。

現代アーティストのスプツニ子!さん。
敬遠されがちな話題だからこそ議論する必要性を感じた。

スプツニ子!:多くの人がそれを知って、多くの人がそれについて考えて、議論した結果、社会がそれを許すか許さないかって決めたほうがいいんじゃないかな。

フランスに住む牧村さんたちの遺伝子を解析。 
将来2人の間にできるかもしれない子どもの姿をシミュレーションする。
会えるはずがなかった子どもに出会うまで、4か月の記録。

孤独の果てに掴んだ幸せ

日本でタレント、文筆家として活動してきた、牧村朝子さん。
3年前、恋人と共にフランスに移住しました。

牧村:豚肉を1ヒレ、小さいのと。

店員:1ヒレ?1切れのことですか?

牧村:はい、1切れお願いします。
200グラムとかそれぐらい。

店員:フランス語上手ね。

牧村:本当ですか?ありがとうございます。
もう4年目なんです。

取材者:(この村に)日本人、牧村さんだけ。

牧村:そうでしょうね。

取材者:来たとき、心細かった?

牧村:全然。一緒だから、すきなヒトと。

夜8時。モリガさんが仕事から帰ってきました。

モリガ:ただいま。
明日は弁当いらない、ジュリエットと食べる。

牧村:早く言ってよ、そういうの。
にんじん煮ちゃったよ。

2人が出会ったのは、4年前。
牧村さんと、日本で出版社に勤めていたモリガさんは一目で恋に落ちました。

モリガ:一緒にいて、すごい楽しかったし、会いたい、いつも会いたかった、できるだけ誘ってみた
り。

牧村:古民家園いったよね。

モリガ:私のベストスポットだった。

恥ずかしいくらいのラブラブカップル。
子どもの話になるまでは。

牧村:でもなんか、モリガの中ですごい拒否反応がない?
ぶっちゃけ、子ども嫌いじゃない?

モリガ:嫌いじゃないよ。私はモンスターじゃないわ。

牧村:いやでも、すごいなんか、赤ちゃんの泣き声
聞いて私は全然平気だけど、モリガは、うる
さっみたいな感じになるじゃん。

モリガ:だってうるさいじゃん。

牧村:私はうるさいと思わないんだよね。

モリガ:嫌いなわけではない。関係ないよ。

牧村:自分が言ったことじゃん!

触ると壊れてしまいそうな部分が2人にもあります。

iPS細胞で可能になる!? 同性間の子供

今年2月。牧村さんのもとに不思議な話が舞い込みました。

牧村:正直言ってることが難しすぎて、何を言ってるのか分からなかったんですけど。

「同性カップルの子どもをつくる未来を探りたい」というもの。
差出人は現代アーティストのスプツニ子!さん。
性や科学技術をテーマに作品を発表してきました。
今、注目しているのがヒトの皮膚などからつくる事のできる、iPS細胞。
体のほぼあらゆる細胞に変化させる事ができ、医療に活用され始めています。

今年7月。
京都大学のチームがiPS細胞を使った、重大な研究成果を発表しました。

京都大学斎藤通紀教授:これまでできなかったヒト生殖細胞のメカニズムを解明する基盤を形成した。

ヒトのiPS細胞から精子や卵子のもとになる細胞をつくる事に成功したとの報告でした。
精子や卵子をつくる研究競争は国際的に過熱。
2年以内に子どもをつくる事が可能になると予測する研究者もいます。
スプツニ子!さんが所属するMITのグループ。
前代未聞のプロジェクトを明らかにしました。

スプツニ子!:男と男だったり、女と女だったり、同性どうしで子どもを作るっていう未来があながち不可能でもないっていうことになってるんですね。
そんなこと人間がしていいのか。
この問題って正解も不正解もない。
アートだったりデザインの力を使って問題提起をして、その考えというか議論を拡散していこうっていうふうに考えてます。

同性カップルの遺伝子を解析。
2人の間に産まれる子どもの姿をシミュレーションするというのです。
牧村さんたちは、参加の是非を数日間話し合いました。

牧村:単純に私も子どもに会ってみたい。
想像上のことでもね。と思ったし。
あとは、とってつけたようだけど、やっぱり意義あることじゃない?
単純にひとことで、神の領域だ、自然の摂理だっていって、その一言ですませちゃうよりも、もっと具体的に発展性のある議論ができるんじゃないかって思ったの。

モリガ:そのプロジェクトに関わったら無性に悲しくなるんじゃないかなと思ったんですね、彼女が。何回も確認しました。
本当にやりたいのかとか、後悔しないのかとか。
私は別にそうはならない自信はあるんですけど。

参加を決意した2人。まずは唾液を採取。
解析業者に送る事で遺伝子の情報が分かります。

コンピューター上で「受精」

7月。重要な儀式を行うため、スプツニ子!さんのオフィスを訪ねました。
プロジェクトの発案者、長谷川愛さん。
科学者へのリサーチを基に、特殊なプログラムを完成させました。

愛:このサイトをつかって、第一号のベイビーを作ってみようっていう。

唾液から解析された牧村さんたちの遺伝子情報。
それを掛け合わせる疑似的な受精を行い、子どものデータを書き出します。

愛:お願いします。

牧村:私の指でやるのね?ポチッ。

愛:これ10分ぐらいかかるかもしれない。

牧村:産まれる日を待つお母さんの気持ちを、これくらい感じられているのかな、って名前考えなきゃ。

愛:っていう間に、あ、出ましたね。

牧村:あ、来た、来た。

現れたのは、体の特徴や病気のかかりやすさ、性格など150の項目。
最終的にはこの情報を基に、子どもの姿を形づくっていきます。

牧村:うちの妻に似てますね。
ポジティブだし、私、スポーツ大嫌いなんですけど、彼女はスポーツ大好きですし。 
足が速いだろうって書いてますね。

スプツニ子!:書いてあるね。「喘息になるリスクが半分」。

牧村さん、モリガさん、それぞれが1人ずつ女の子を妊娠する想定。
まめ子とぽわ子という名前を付けました。
はしゃぐ牧村さんの様子が少し気になります。

スプツニ子!:なんかある種、産むことできないんだっておもってたとこが、うめるかもっていう風な希望にかわるとき、自分の世代でできるかわからないこと多いじゃないですか。
掴めない星を見せられているような気分みたいな、いつ見えるかわからない問題。

牧村:うん…でもやっぱり、画面の上で会えることは嬉しいですよ。
画面の上で、妻と私にもしかしたら生まれたかもしれない子どもに会えるのは、嬉しいと思います。それを想像すると。

(VTR終了。スタジオでのトーク)

風間:うーん。

安藤:胸が痛くなってくるよ。
それは別に彼らだけじゃなくて、自分もこれをやってもらったら。

風間:うん、そうだね。

安藤:なんていうんだろう。

風間:パリにいる牧村さんと中継が繋がっています。
まめ子とぽわ子という名前をつけたときに、こう本当にリアリティのある名前をつけてしまったら、牧村さん自身が、すこし、怖いとお感じになったのかなという印象を僕は持ったのですが。

牧村:そのとおりです。
あまりにもリアルな名前をつけてしまうと、私の中でリアルと現実の区別がつかなくなっちゃうんじゃないかなって思いました。
私の子どもに会うんだと思わないようにしてきました。
そう思うと、やっぱり、なんかリアル過ぎちゃうのかな。
受け止めきれなくなっちゃうのかなと思って。

安藤:作品をアーティストとして出していくっていうことは、批判の部分とかも出てくる可能性があるわけじゃないですか。
それが怖いなと思ったりすることってあります?

スプツニ子!:いやあこうやって作品を世に出していく時に、宗教的にも思想的にもかなりの反発を産みかねない。
アダムとイブの話をぶっ壊しかねないようなコンテンツ、作品なので、それが怖いっていう話もすごいしていたし。

それは越えてはいけない一線か、多様性を生み出すのか

(VTR)

繊細なテーマを考える上で、話を聞きたい科学者がいました。
まずは10年前、生命誕生の常識を覆した河野教授。
河野教授が生み出したのがこのマウス。
遺伝子操作により世界で初めて、卵子だけから産まれた哺乳類です。

スプツニ子!:それはヒトにも可能な技術?

河野:たぶんそれは出来てくる可能性が高いと思いますね。
ただ、命って技術でできるからつくるんだっていう短絡的なものではないはず。
それは、ダメなものはダメ、シンプル。

スプツニ子!:子供ができない男性と男性、女性と女性に、この不妊治療的な、ものをしてあげることができるのか、できないのか、っていう問題。

河野:そうですね。まず、第一に、それは医療ではないですよ。

スプツニ子!:医療ではない?

河野:不妊治療といのは、あくまでそのひとの持っているポテンシャルに欠陥がある場合に、補う。
卵巣の機能がおちている、精子の機能がおちている。それを補うのが、医療なんですよ。生殖補助医療。
でも、いまのは、もともと医療じゃないんですよ。
たとえば、レズビアンの方で(子どもが)ほしい。そのひとたち、機能不全ではないんですよ。
命なんかすぐできる。っていうことにもし、みなさんなっていったら、本当にそれで幸せな社会が来るのかどうか。

次にたずねたのが、世界のiPS細胞研究を牽引する京都大学iPS細胞研究所。
生命倫理が専門の、八代准教授の考えは、また別のものでした。

八代:僕はきちんと安全性とかを担保するようなことの積み重ねの果てにであれば、同性間であろうが、iPS細胞からであろうが、ES細胞からであろうが、生殖細胞を作っていいはずだと思っているし、同性間が持つことに対しての違和感は、僕はあまりないんですよね。
だから、そういういろんな考え方の多様性が担保されて、みんなができるだけ嫌な思いをしないですむ社会になるんだったら、それに越したことはないと思うんですよね。

(VTR終了。スタジオでのトーク)

安藤:かなりさまざまな議論できるポイントが含まれてるVTRだったなと思うんですけど。

スプツニ子!:安藤さんは最近出産を経験されたっていうことで、どういうふうに?

安藤:人が1人、人から人が産まれるっていうことを当たり前と思うけど、やっぱり命がけ。
やっぱり人が入っていけない領域。
それはたぶんこれだけじゃなくて、山とか海とか自然、地球にあるものすべてをコントロールできると思うことは、人の傲慢さだと思うんですね。
うん、そこを忘れてはいけない。

風間:でも、じゃあ僕が同性を好きだったら、自分の家族がそうで、切に子どもを望んでいたらって思ったら、また話は変わってきてしまうんですね。
1人1人、自分の大切な人が幸せであってほしいって願うのは自然のことだし。

浮かび上がる子どもの像

(VTR)

作品の制作は最終段階。
日本を代表するCG制作会社が協力してくれる事になりました。

愛:よろしくお願いします。長谷川と申します。

池田:池田です。

まず遺伝子情報を基に、顔のパーツを1つずつ作っていきます。

愛:遺伝子のほうなんですけど、まめ子が髪の毛が太くって、ぽわ子はカール。
なおかつ鼻の幅をちょっと広めにできますか?
ぽわ子ちゃんは、たぶんここの眼球の距離から鼻のトップがモリガさん似。

顔の印象に大きく影響する、鼻の先端と眼球の距離。
これも遺伝子と相関関係があるとされます。
2人の顔だちの違いが浮き立ってきました。

スプツニ子!:すごい、ふたりの子どもっぽい。
人間作っちゃったよ、データから。

遺伝子から分からない部分は顔の細かい凹凸を採寸。
2人の中間の値をとる事にしました。

愛:いい感じ。

子どもに出会うまであと1日。

モリガ:あした?

牧村:明日ですよね。まめ子とぽわ子の写真が。
ぽわ子にしたの、言ったっけ。

モリガ:言ったよね。

取材者:どんな気持ちですか。

モリガ:楽しみですよ。ただ、バーチャル、リアルな
ものじゃないんで、なんか、作品を楽しみに
している気持ちかな。
自分の子どもに会うっていう気持ちは全くないですね。ある?

牧村:ちょっとある。

モリガ:えーっ。想像力すごいね。


作品受け渡しの日。

(ドアを叩く音)

牧村:いま出まーす。お待ちしておりました。

愛:お久しぶりです。

牧村:めっちゃきれいな格好。

愛:あっ、お久しぶりでーす。受け取ってください。

牧村:楽しみにしてました。ありがとうございます。
ジャッジャ、ジャ~ン!誕生。
すごくない。誰の目ですか、これ。

モリガ:早く開けなよ。

牧村:何かケーキ入刀みたいに…。

モリガ:パッてめくんなよ~!もう!本物だよ。

牧村:わっ、かわいい!かわいい!
この辺のポツポツした感じとかさ…。

モリガ:そばかすは私だ。

牧村:うわ~、まめ子!

モリガ:超リアルだ。不思議。

牧村:まめ子!まめ子!
ぽわ子こそ一緒にめくろうよ。せ~の。
めっちゃクルクル!
ちょっと何か今度は…。

モリガ:似てるね。

牧村:今度はモリガに似てるじゃん。

モリガ:そうだね。

そこにいるような、いないような。まめ子とぽわ子。

モリガ:めくれ、めくれ。わっやばい。

牧村:あー。

モリガ:ほわーっ。

牧村:あっ、すごーい。

モリガ:すごいね。やっぱかわいいね、ふたりとも。

牧村:かわいいね。この子パクチー嗅いで嫌がってる。

モリガ:超嫌がる。クッサってしてる。

牧村:パクチー食べれない遺伝子持ってるんですよ
ね。
私はなんか自分が、この顔なんだけどさ、ママの顔になったように思える。

モリガ:うん。

愛:でも、私もなんか、これ見てて、子どもがいる時に、なんかやっぱりお母さんぽく見えるというか、不思議だなと思って。

牧村:誕生日だ。

モリガ:2人ともかわいいね、やっぱ。

牧村:かわいいね。

モリガ:マキム、めっちゃ楽しそう。
自分の誕生日みたいだよ。

牧村:やー、うれしいだろうね。
自分の子どもの誕生日ってね。
1年1年うれしいだろうね。

モリガ:まあね。

牧村:同じ日に生まれたんだっけ、2人ね。

モリガ:あー、そっか。まあ、仲よくしてる。

牧村:仲よくしてくれてるね。
ほんとに大事なものをいただきました。

モリガ:やっぱり見ると考えちゃうよね。

子どもを産む事。家族を築く事。

取材者:同性間の子どもを作るような技術が可能になって倫理的にも、社会制度も、法律も認められたらどうしますか?

牧村:それは、お祝いすると思います。
それですごく、やったーってなる人がたくさんいると思う。

モリガ:そうじゃなくて、自分が子どもつくるかどうかの話じゃない?

牧村:それはその時考えることじゃない?

モリガ:いまできるようになったらつくる?

牧村:そこ、話し合おう。私はでも。

モリガ:そんな真剣にならなくても、自分の気持ちだ
け言えばいいじゃない。つくりたい?

牧村:モリガの気持ちはどうなの?この技術を前にしたときに。

モリガ:今でも欲しいと思っていない。
でも、なんか理由があるわけじゃない。気持ちの問題。
私との子が作れるんだったら欲しい?迷う?

牧村:いや、なんか頭が真っ白になっちゃう。
頭が考えるのを拒否してる感じ。

(VTR終了。スタジオでのトーク)

風間:うーん。

スプツニ子!:つかめない星を見せられてるかもしれないっていうのが、私の中ではずっと残ってて、それでいまだに葛藤があるんですけど。

牧村:ぽわ子とまめ子の話はたびたび出ますよね。
本当に日常のなんてことない場面、帰り道でトコトコ帰ってる時とかに、ふと話します。
なんとなく、ここにいるような気がするんですよね。
って言ったら怪しい人みたいに思われそうですけど、ここになんとなく。

風間:少し心に寂しさを覚えてないかなって勝手に
心配になってしまうんですが。

牧村:感謝ですね、あれは。
なんか、自分もこうやって1年1年育ててもらって、1年1年周りの人に誕生日祝ってもらってここまで生きてきたんだなってことが、あの写真を見た時にすごくこみ上げたんです。
私は自分が育ててもらうっていう経験しかまだしてないですけど、あの時に、バーチャルな形ではありますけど、人を育てるっていうことをちょっと感じたのかなと思いました。

スプツニ子!:この問題に関しては本当に、例えば、欧米がやってるから日本もやろうとか、そんな簡単なことじゃないと思うんです。
日本は日本で考え方があると思うし、時代がそういう流れだから追いかけていこうとか、そういう簡単なことにしてほしくなくて、しっかり考える。社会が考えなくちゃいけないんじゃないかなって思ってます。

エンディング

(VTR)

遠くない未来
ヒト誕生の常識を覆すブレイクスルーが起きたとき
私たちは判断をせまられます


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