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ブレイクスルー File.34 「キムさんの日本語教室」

この放送回の番組まるごとテキストを掲載しています

  • 2015年7月6日(月曜)再放送2015年7月13日(月曜)

出演者
ナレーション:風間 俊介さん(俳優)
オープニング・エンディング音楽:若旦那さん(歌手)

ブレイクスルー File.34 「キムさんの日本語教室」 の番組概要を見る

外国人ろう者に日本語を教える教室

(VTR)

今日の舞台は、ちょっと変わった日本語教室。

取材者:おはようございます。

キム:あっ!おはようございます。

彼女はこの教室の先生。

取材者:今、何やってたんですか?

キム:教材作り。
なかなか自分もカタカナが書けないので、苦手です。
え、これ、「ン」じゃないの?
いや、「ソ」だよ。え、これ「ソ」じゃないの?ううん、「ン」だよと。
(日本人は)きれいに書いてくれないので、読むのが難しくて、「えー!これちょっときれいに書いてくれないと読めんわー」という。
時には私の名前を、キム・ナムユンなのに、キム・ナムコン…キム・ナムコン…。

韓国出身のキム・ナムユンさん。
彼女が教えている外国人は、日本語が分からないだけではありません。
生徒は耳が聞こえないろうの外国人。

キム:これを写して書いて練習してね。
私は100回書いたよ。

幸恵:(韓国語は)はやく打てたのにすごく遅くて嫌になっちゃったわ。

キム:聞こえる私も(日本語は)難しい、聞こえない人はもっともっともっと。
わかったときの喜び、いやーそれは味わった人以外にはわからないでしょう。
「あ~っ!」という。「わ~、これか」。

言葉を学び、誰かと通じ合いたい。
そんな思いに寄り添う、キムさんの教室です。

6万人を超える外国人が暮らす、名古屋市。
キムさんの教室は、町なかに建つマンションの一室にあります。
この日も、日本語を学びたいという人が訪ねてきました。
台湾出身の女性です。
耳が聞こえないろうの外国人を受け入れていると聞いて、はるばる静岡からやって来ました。

女性:はじめまして。
(台湾の)大学で勉強しました。

キム:大学で?勉強の内容は何だったの?

2年前、日本人と結婚し台湾から移り住んだ、女性。
言葉を学び、日本のことをもっと知りたいと考えています。

キム:仕事欲しい?大学行きたい?どっちの気持ち?

女性:大学で勉強したいです。
静岡の聴覚障害者協会に電話しました。
ろう者に日本語(教室)はあるんだけど、外国人にはない。
で、難聴者に教えた経験はあるけど、外国人に教えたことはないし、そういう授業もない。
対象はやっぱり日本人、ていうふうに言われました。

キム:「勉強」って日本手話はこうするけど、台湾手話では?

日本語を教える時最初に立ちはだかるのが、国による手話の違い。

女性:「ありがとう」は日本はこう、でも台湾ではこう。

キム:謝謝!「日本」は?同じ?
韓国の手話ではこうやって日本を表します。

女性:台湾と日本の手話は50%くらい同じなんですよ。

女性の場合、夫から日本の手話を習ったため、辛うじて会話はできます。
しかし日本語の読み書きは、自分の名前を書くのが精いっぱいです。

キム:彼女の場合は、名前をカタカナに少しふれているので、最初はカタカナ勉強。
あと、ひらがな勉強。両方ともできるように。

耳で聞いて覚える事ができない女性にとって、言葉は目で見て得られる情報が全て。
正確に文字を書けるようになるのが、何より大切です。

更に「あいうえお」の一つ一つに対応した、指文字も覚えなければなりません。

キム:15~16年前は(耳が聞こえない外国人は)そんなにいなかったんですけど。
最近ですね。最近増えてますね。
韓国のろう者もそうだし、中国、ドイツからも。
結婚のために来る人が多いと思います。私もその中の1人ですので。

取材者:結婚して?

キム:はい、結婚して。

「とにかく誰かと話したい!」

日本に来る前、キムさんは韓国で手話通訳の仕事をしていました。
在日韓国人の男性と結婚し、日本で暮らし始めたのは20年前。
当時はキムさんも日本語の壁に苦しんだといいます。

キム:外に行って会話をする時に分からない。
分からなくて…これって何の意味かな?ずっと分からなくて、みんな笑ってるのに自分は笑えない。まるで「ろう」の気分。
みんなしゃべってるんですけど、自分が分かんない。
主人がいる時には「何?何?」と翻訳して通訳してもらったりして。
でも、何回もすると面倒くさいので、むこうが。
むこうはそう思ってないけど、悪いなと思って「じゃ、いいわ」と。
…で、聞くのに集中してでも、やっぱりつまらないし、分かんないし。
分かんないのでつまらない、楽しくない。

とにかく誰かと話がしたい。
その時、頭に浮かんだのが手話でした。

キム:近所に(日本人の)ろうあ者が住んでいると情報をきいたので、なんとか会いたいな、と。
自分ができるものを使って、できるならしゃべりたい。
それで日本語はできないけど(韓国の)手話ならしゃべれるから。

同じ団地に暮らしているという、耳が聞こえない日本人。
キムさんは毎日団地の入り口に立ち、手話をしている人が出てくるのを待ち続けました。

キム:この辺でウロウロすれば必ずどこかで出てくる。
下りてきたの見て、はい。
「ああ、この瞬間を3か月も待ってたぞ」と。
「私、韓国人だよ。手話できるの?」と。

ようやく見つけた住民は、キムさんの部屋のすぐ上の階に暮らしていました。
韓国の手話だけを頼りに会話を試みた、キムさん。
そんな彼女を温かく迎えてくれたのが、中村さん夫妻でした。

中村妻:初めて会ったとき、「韓国人だけど手話ができる」というので、通じなくてもいいからとにかく日本の手話で話しました。

中村夫:日本と韓国の手話は、70%ぐらいは似ている。
だから半分くらいは話が通じるんだよね。

この日から日本語が分からないキムさんと、耳が聞こえない中村さん夫妻の不思議な交流が始まりました。

キム:分からない時に「ごめん。これ、ちょっと分からないから書いてくれない?」と書くんですよ。
書くとこれが意味が分からないので、韓国の意味を調べる。「あっ、こういう意味か。ああ、この手話はこの意味で使うんだ」と。
手話と日本語をいっぺんに学ぶ事ができるという恵まれた環境。

誰かと話したい一心でつかんだ、中村さん夫妻との出会い。
そこで教えてもらった日本の言葉は、キムさんの世界を広げていきました。

キム:字が見える、これはいい、買い物したときに、これはああ分かる、で、そういうことでちょっと一歩ずつ外に出たり。
この異国で なんとか話ができるこの喜び。さみしくない。
だから2人は掛けがえない、私にとっては宝石です。

学ぶ場所がない外国人のろう者のために

10年ほど前、キムさんは日本の手話通訳の資格を取得。
耳が聞こえない人たちのサポートを始めました。

韓国人
ろう者:
冷たいもの食べると痛いのよ。

キム:私が説明するから。

歯科衛生士:どこが痛いですか?

キム:上の歯です。

歯科衛生士:左上?

キム:はい、そうです。

その中で出会ったのが、ろうの外国人でした。
彼らには、日本語を学ぼうにも、その場所すらありませんでした。
キムさんは2年前、日本語教室を設立。
外国人の受け入れを始めたのです。

キム:どうしたの?

トップラク:「勉強を見学したい」というので連れてきました。

この日やって来たのはトルコの人たち。
日本の手話ができるのは、この男性だけです。

トップラク:(友人の手話を見ながら)
彼が言ったのを訳すと、「私たち4人のうち聞こえるのは1人だけで……」。

取材者:日本の手話上手!

トップラク:ありがとうございます。
日本、英語、ドイツ、トルコ、ベトナムの手話ができます。
日本の会社に勤めるのが目標です。
日本語を書くことができないと採用してもらえないので…。
英語ができてもダメ。
日本語が書けないと会社には入れない。
今までも不採用が多かったので日本語が書けるようになりたいんです。

トップラクさんは結婚を機に来日し、この教室で学び始めました。
ドイツで自動車整備をしていた経験があり、日本で働く資格もありますが、雇ってくれる会社は見つかりませんでした。
そのため生活は苦しく、教室に通い続ける事ができなくなりました。

トップラク:もっと勉強したい。
キムさんも忙しいとは思うけど、本当はもっと勉強したいんだ。

キム:勉強したいの?

この教室に来る外国人たちは、さまざまな人生を背負いながら日本で暮らしています。

トップラク:ありがとう、またね。

キム:日本人になった、ペコペコ。
これ(おじぎ)は日本人になった、ペコペコ。

取材者:誰?

キム:トップラクさん。はい。
これ(おじぎ)があるので、大丈夫です。
慣れてきました、日本に。

頑張り屋さんの韓国人生徒・幸恵さん

街がにぎわう、大型連休。
一人、教室へと急ぐ人が。
韓国出身の佐々木幸恵さん。
4年前、結婚して日本に来ました。
教室に通い始めて1年。
キムさんもあきれるほどの頑張り屋さんです。

キム:今日はゴールデンウイークで休みです。
だけど佐々木さんの希望で休みたくない。勉強したいという事で。

今日の授業は日付を表す日本語。
手話で何度も繰り返しながら覚えていきます。

キム:1が。

幸恵:ついたち。

キム:2が。

幸恵:ふつか。

キム:4月の29日から5月の7日まで、連休にも名前が付いてるの。聞いたことある?

幸恵:何のこと?

日本では誰もが知っている、ゴールデンウイークという言葉。
来日して4年。
幸恵さんはこの日、初めて知りました。

キム:ながーいながーい休みってこと。
長いお休みはとってもいいねっていう意味で「ゴールデンウィーク」っていう言い方をしていて、手話ではこういう風に「GW」。
見たことある?

幸恵:初めて聞いた。

キム:5月の長いお休みにはこういう言い方があるので、友達とか夫に「ゴールデンウィークどこに行きましたか?」って聞いてみたらいいかもね。
そうしたら今の「GW」という手話通じるから。

幸恵:わかりました。

日本で生きるために学ぶ

夫:録画した韓国ドラマがあるけどどうする?見たいのある?

幸恵さんは、耳が聞こえない日本人の夫と2人暮らし。
20歳以上年の離れた喜浩さんから熱烈なプロポーズを受け、結婚を決めました。

幸恵:(テレビは)日本語の字幕だけではわからないので、夫に聞いて通訳してもらっているの。

日本で暮らし始めたものの、全く理解できない言葉。
幸恵さんは何をするにも夫を頼るしかなく、3年間家に籠もってばかりいました。

幸恵:最初はゲームばかりしていました。
日本語を勉強しても独学では難しくて…結局ゲームばかりして3年も過ぎてしまったんです。
韓国に帰りたいと思ったこともありました。
でも、彼のことを愛しているから、彼のために日本にいようって…。

言葉も分からない日本で生きていく。
そんな妻のために喜浩さんが見つけてきたのが、キムさんの教室でした。

夫:本当に寂しそうにしているのが よく分かった。ずっと家の中にいるだけで。
私は仕事に行くので。その間は一緒にいることができないから
年が22歳も離れているので、私のほうが先に死ぬと思う。
そのあとの彼女の生活が心配なんです。
今から日本語を覚えて、私がいなくてもひとりで生活できる力を身につけて欲しい。

「もっと妻と通じ合いたい」 夫も学ぶ

キムさんの教室には、夫の喜浩さんも月に1度顔を出すようになりました。
友達の夫婦も一緒です。
目的は韓国の手話と言葉を学ぶ事。

キム:よろしくおねがいします。

夫:妻と仲良くしたい、妻の国を理解したい。
だから難しいけど、韓国語を勉強しようと思ったんです。

キム:夫婦げんかのときに「ナガ(出て行け)」って言われたら?

夫:「ナガ」?モ?(何?)

キム:「アンナガ」(出て行かない)

友人:「アンナガ」

キム:そうそうそう。

夫:「アンナガ」

キム:そう。覚えてる?

夫:忘れた。

キム:忘れた?

夫:「アンナガ」

キム:そうそうそう、「アンナガ」。

夫:ミヤン(ごめん)。ミヤン(ごめん)。

キム:怒ったとき、「ニガナガ」(あなたが出ていって)と言われたら?

夫:怒らないで、落ち着いて、こっち来なよ。

キム:そう~、うまくなりましたね。
「イェップダ(かわいい)」という手話、奥さんにやった?

夫:いつも使うよ。

キム:どうだった?

夫:喜んでたよ。

日本語を学ぶ幸恵さんの大変さを少しでも理解したい。
喜浩さんが韓国語を学び始めた理由の一つです。

夫:妻は今集中しているから、勉強を優先させてあげたい。
帰る時間は多少遅れてもいい。
家でも夜になると勉強しています。
僕は先に寝てしまうんだけど、ひとりで頑張っているみたい。びっくりします。
応援します。 「ファイト」って声かけたい。
韓国語だと「ファイティン」ですね。

幸恵:楽しかった~!

夫:イェップダ(かわいいよ)。

幸恵:ウフフフフフ…。
いつもそんなこと言わないのに。
家でいつも「かわいいよ」とか言わないじゃない。

夫:サランヘヨ(愛してるよ)。

幸恵:もう、いやだわ。

日本語を学び始めて1年。
幸恵さんが初めて書いた作文です。
「日本語はむずかしいです。文化もむずかしいです。でも、楽しいです。もっと学びます」。

この日、幸恵さんは食材を教室に持ち込み、キムさんと一緒に韓国料理を作り始めました。
ふだんお世話になっている日本人スタッフに、ふるさとの味を振る舞うためです。

キム:作るのうまい!
辛い、青とうがらしがあるんですけど、それを「作ってあげるから食べてみやー」というお姉さん心。
今日、効くと思いますよ、はい。

幸恵さんが夫以外に料理を作るのは、初めての事です。

幸恵:おいしいお昼をいただきます。
辛いかも。食べてみて。

日本人スタッフ:これ?(口に入れて悶絶)

幸恵:キムさんがいれたんだから。

日本人スタッフ:(せきこむ)

幸恵:最初は辛いかもしれないけどいつも食べていると美味しくなるのよ。うちの夫もそう。
汗をかくし 体に良いんだよ。
イライラしたときに、辛いものを食べると落ち着くしね。

キム:もう心がオープンになった感じで。すごく嬉しく思います。
今までちょっと遠慮した部分もあったと思うんですが、作ってくれたのですごく嬉しく思います。

幸恵:キム先生と一緒に韓国料理を作れたから、もっと嬉しい!おいしかった!

月に一度の“女子会”。
さまざまの国籍のろう者が集う。
みんな自分のことを話したい。

日本人女性:結婚する前はもっと痩せてたけど、結婚してから太っちゃったのよね。

幸恵:そうだよね、私も一緒。

キム:しゃべるの好きです、みんな。
しゃべるの大好き。私もそうだけど。

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