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もう一度 やりなおそう ―「自立準備ホーム」の日々―

この放送回の番組まるごとテキストを掲載しています

  • 2013年7月16日(火曜)再放送2013年7月23日(火曜)

ナレーション
遠藤 憲一さん (俳優)

もう一度 やりなおそう ―「自立準備ホーム」の日々― の番組概要を見る

出所後の社会復帰を支えるために

今、刑務所を出所する4人に1人が帰る場所がない。
頼る人、仕事もない出所者は、犯罪を繰り返すケースが多い。

(出所後、再び強盗事件を起こした男性)

男性:結局そのときは、「行く場所がない。で、どうしましょう。刑務所行けばとりあえずはいいかな」みたいな。まあそれぐらいしか考えてなかったので、「簡単に強盗でも」みたいな感じでやってしまいました。

刑務所の出所者に、救いの手を差し伸べる男性がいます。

坪内:おーい、まあ散らかして。そろそろ起きれ。天気いいぞ。

坪内達雄さん。1年前から出所者のための「自立準備ホーム」を運営しています。

坪内:自分としては、どんな関係の仕事が?

ひとつ屋根の下、生活を共にしながら、社会復帰や就職のサポートをしています。

坪内:一緒に就活しましょう。

入居者:はい。

坪内:それ(自立)ができる。オバマさんじゃないけど、“CAN”ですね。とにかくできるんだということを、本人に希望を持たせることが一番大事じゃないでしょうかね。

しかし、1度犯罪に手を染めた人たちにとって、社会復帰は生易しいことではありません。

坪内:ちょっとお前信じられねえぞ、全然直ってねえじゃねえか。苦労したかいねえな、せっかく就職したのによ。

坪内さんは、メンバーを見放すことなく、家族のように支え続けてきました。

(入居者と将棋をしながら)

入居者:刑務所上がりの人なんて、みんな強いで。

坪内:やっぱりそうか、はははは。

坪内:ハッピバースデー、トゥーユー。

自立準備ホームで社会復帰を支える坪内さんの日々を見つめます。

再犯を防ぎたい 自立準備ホーム

朝5時。「函館せいかつコミュニティ」の1日が始まります。
代表の坪内達雄さん、70歳。

坪内:おはようございます。

——朝早いですね。

坪内:まあこれぐらいからやらないと。

メンバーの朝食と、働きに出る人に持たせるお弁当の支度です。

——昔からお料理よくされるんですか?

坪内:しない。この仕事するようになってから。料理する人を確保できなくなってから始めましたけど、世の中にこんな面白いもんないよ。

今年2月。ホームでは6人が共同生活を送っていました。多くは出所後、行き場のなかった人たちです。

坪内:はい、食べよう。いただきます。

一同:いただきます。

こうした場所は「自立準備ホーム」と呼ばれています。2年前、国が始めた制度で、出所者の支援を民間に委託し、再犯を防止することが目的です。

入居者:坪内さんの割にはややしょっぱめですね。

坪内:今日しょっぱい。

自立準備ホームは今、全国におよそ240か所あり、NPO法人などが運営しています。

坪内:食事の後は椅子を引いて下さい。

入居者:はい。

利用料は、食費、光熱費込みで月6万円ほど。仕事のない人は、生活保護を受けています。

入居者:頑張ってきまーす。

坪内:はい、いってらっしゃい。

坪内:ここに見えるもの、全てもらいものです。テレビも。

家具や家電のほとんどは、寄付されたものです。自立準備ホームには、国からの委託費も支給されます。しかし運営は厳しく、坪内さんの自己負担額は、100万円を超えています。

スタッフは1人。事務作業や送迎など、手分けをして行っています。

メンバーにとって、自立までの道のりは長く厳しいものです。ホームに来てからも、犯罪を繰り返す人もいます。

去年入居した、伊藤 浩(仮名)さん、58歳です。

(歌を口ずさんで)

伊藤:命、ぬくめて……。

無銭飲食や窃盗を重ね、人生の大半を刑務所の中で過ごして来ました。

——演歌がお好きなんですか?

伊藤:歌、けっこう好きだね。若いやつも歌うけど、だいたい演歌だね。

服役中に肉親を亡くし、身寄りのない伊藤さん。この1年だけで無銭飲食で9回捕まり、その都度坪内さんが弁償し、話し合いで解決してきました。

伊藤:後先のことを考えないで勝手に行動したりさ、自分さえよければって、まあ極端に悪く言えばそうなるんですよね。

伊藤さんは去年、坪内さんの勧めで障害の有無を調べる検査を受けました。その結果、知的障害があることがわかりました。

50年以上、障害に気付いてもらえないまま、ひとり犯罪を繰り返してきたのです。

——これからどこ行くんですか?

伊藤:仕事。

伊藤さんは今、障害者の就労を支援するパン屋さんで働いています。坪内さんが見つけた職場です。

伊藤:よろしくお願いします。

坪内:はい、いってらっしゃい。

伊藤:いってきます。

伊藤さんの犯罪の経緯は、坪内さんから経営者に細かく説明してあります。

伊藤:いらっしゃいませ。

坪内さんとの出会いで伊藤さんは、人生が一変しました。

伊藤:初め行ったとき不安でさ、何回か仕事失敗して怒られたけど。今正直言って、仕事やっていても楽しいんだよね。

伊藤さんが自立できる日まで、支え続ける。坪内さんは心に決めています。

坪内:忍耐しかないと思いますよ。1回失敗したから、2回失敗したから、3回失敗したからって、諦めていたらできないでしょ。何回までって言われると困りますけどね。そこで辞めてしまったら、それまでのことは何だったの? となりますよね。

自立準備ホームを始めたきっかけ

坪内さんがホームを離れ、自宅に帰るのは週に1度です。
長女の美香さんです。知的障害があり、普段は施設で暮らしています。

坪内さんは、サラリーマンとして働きながら美香さんを育てるうち、「社会で困っている人をサポートしたい」と思うようになりました。

現在の活動を志したのは退職後、海外のNGOに参加したことがきっかけでした。滞在先でホームレスの人々と接する中で、社会に居場所がない人の力になりたいと考えるようになったのです。

坪内:帰る家がない、帰る家庭がない。刑務所出所した人や、家庭的のいろんな事情ではじき出された人がほとんどそうなっている。本当に力のある人、社会に溶け込める人はなんとかなるんだけど、そうじゃない方はちょっと大変な生活をしている。

妻の紘子さんです。
最初、坪内さんがホームを運営することに反対でした。しかし、メンバーと関わる中で、彼らを応援したいと思い直しました。

紘子:やっぱり彼らの生い立ち聞いたりすると、本当にかわいそうだなと思うのね。彼らも普通に家庭の中で育ったら、決してああはならなかったんだろうなと思うと、なんかね。何人かでも自立していってくれたら嬉しいなと思うんだけど。

坪内:いわゆる家庭っていうものを、人間で構成される家庭ですよね。それを味わってもらいたいなと思って。

社会復帰するまで 絶対に見捨てない

この日、坪内さんはある男性を迎えに、駅へ向かいました。
3日前、東京の建設会社に就職が決まり、ホームを巣立ったはずでした。

田中 徹(仮名)さん、20歳。去年ホームに入居して以来、務め先で仕事を投げ出して帰ってくるのは、これが2度目です。

田中:だって最初の話と全然違うもんよ。舗装やるって話して、それで俺もやったことある仕事だかんね。それで安心してたんだよ。したっけさ、こっちも一生懸命やってるのに、なんか嫌みったらしいことばっかり言ってきてさ。なんか、遅いだの、何だのって。もっと真面目にやれよだのって。

坪内:俺がそう(頑張れ)言ったらよ。「なら、俺東京でビッグになる」って言ったんだよな。俺はそう思ってたぞ、未だによ。

田中:ビッグのビの字にもなれねえって。

坪内:ちょっとお前信じられねえぞ、全然直ってねえよじゃねーか。苦労したかいねえな、せっかく就職したのによ。

坪内さんは、仕事先でつらいことがあっても、踏ん張る強さを持ってほしいと期待していました。

田中:じゃあね、ありがとう。

この日、ホームは満室で引き受けることができず、しばらく別の施設に入ることになりました。

田中さんを再びホームで受け入れるべきか。
坪内さんは、自分が居ない場所に田中さんを行かせた方が、将来のためになるのではと迷っていました。

——いつもこれぐらいですか?

坪内:そうですね。今日はいつもより早いわな。明日早いから寝ます。

声を上げられない弱者の力になりたい

午前3時。坪内さんはスタッフと共に、函館駅へ向かいました。

毎月かかさず続けてきた、ホームレスへの声かけです。この活動がきっかけで今坪内さんと暮らし、自立を目指している人もいます。

坪内:お疲れです。支援団体の者なんですよ。もし行く所に困っているんだったらお世話できますけども。1日2日でも体験で。

男性:全然困ってないです。

坪内:失礼しました。ここにそういう方いらっしゃるものですからね。支援しに来てるんですよ。

ホームレスの中には、困っていても自分から言いだせない人がいます。そうした人のためにも、まず声かけが大切だと考えています。

坪内:声かけしたときに、とにかく困ったら連絡するところあるよっていう意味で名刺を渡して。受け取ってくれれば、それで電話かけてくる方もいるし。

終わったのは、朝5時。ホームに戻ればすぐ、朝食の準備です。

仕事を辞め東京から帰ってきた田中さんは、出所者を一時的に保護する施設にいました。頼る肉親もなく、他に行き場のない田中さんを、坪内さんはホームで引き取ることにしました。

田中:自分では頑張ってきたつもりだし、仕事でこういうふうになるって俺も思ってなかったから。はっきり言ってプライドもガタガタだし、折れてしまったしさ。

坪内:みんな1回そういう挫折、青春の蹉跌(さてつ)っていうのがあるんだよ。そういうこと繰り返してみんな大きくなるんだ。少しへこんだ方がいいけど、あんまりへこみ切らないで。

田中:やれるだけやるしかないね。

坪内:いいところが出るんだからさ。これから自分の得意なところでさ。

もう1度、田中さんの成長を信じてみることにしたのです。
つらい過去を乗り越えて坪内さんが田中さんを支えたいと思うのは、本人のつらい生い立ちを知っているからです。

田中さんは、幼い頃から両親による虐待を受けたといいます。施設で育ち、高校1年生で傷害事件を起こし、少年院に入りました。

田中:あるとき、成績めちゃくちゃ悪くて全部赤点取ってしまってさ。そのときに親父に包丁向けられて、「てめえ死んでみるか」みたいなこと言われて。結局、親父面下げているだけで、俺の気持ちなんてわかんないんだべって。それで深夜徘徊とかしてこんなで、少年院入ってさ。

田中:平和を祈って。

坪内:そうですね。

田中:いただきます。

田中さんはホームに来た当初、坪内さんに固く心を閉ざしていました。その気持ちに変化があったのは、去年9月、窃盗で逮捕されたときのことでした。

田中:鑑別所に面会に来てくれたときに、坪内さん号泣しちゃってさ。やっぱりそのときの気持ちって、今でもこれからもずっと残ると思うし。「このままだと駄目だな」って気付いたのがそのとき。本当に気づいたっていうのは、心の底から。これだけ俺のこと思ってくれてんのかって、今までの大人と全然違った。

田中さんが一番楽しみにしているのが、坪内さんとの将棋です。

もう一度、やり直そう。
田中さんの自立する意欲が高まるまで、坪内さんはじっと待つことにしました。

坪内:これはまずいよ。これはかなりまずいよ。

田中:勝った。

坪内:参りました。

坪内:いろいろ行って戻るところはここだ、と思ってくれるだけでもいいかな。やはり多くの人が2度目から、本当に自立していくんだ、再スタートするんだ、となってくれていますけどね。

活動を始めて1年半余り。これまで6人がホームを巣立ち、社会復帰を果たしました。

何度でもやり直せることを伝えたい

4月。この日は、札幌近郊の刑務所に向かっていました。
坪内さんに暴力を振るい、服役していた男性がこの日出所するのです。

男性は刑務所に入る前、坪内さんのホームにいました。
坪内さんは「もう1度自分の元で自立を目指してほしい」と刑務所に手紙を送りました。受け入れるための準備を進めていることも伝えました。

男性は刑務所に入った当初、ホームへ戻ることを拒んでいましたが、再起を決意しました。

坪内:チクっと痛むようなこともあったんですけど、本人から「やり直す」って言葉を聞いたときには、そんな傷もなくなりましたね。過去のことから学ぶことは学んで、将来に生かすことだけ使って。後はくよくよしたりしないでやろうって何度も何度も伝えたんですね。その思いが届いて、「もう1度やり直したい」って表明してくれたことが嬉しかったですね。

入居者:おかえりー。

山本:お疲れ様です。

山本 一(仮名)さん、40歳。22歳のときに家を飛び出し、傷害事件を繰り返し起こしてきました。

山本さんは今回改めて、「自分は1人じゃない」と気づかされました。

坪内:頑張ろう、改めて。

山本:お願いします。あまりやったら涙出てくるから駄目(笑)

山本:今回捕まったときに、ふとなんか思ってね。そうだよな、ひとりじゃ無理だよねって思いながらね。やっぱり助けてもらえる人がいないと、きっかけがないと無理なんだなというのは思いました。

山本さんたちの自立を助けるため、坪内さんは新たな働く場を見つけていました。

休業中のあるレストランのオーナーが坪内さんの活動を知り、経営を引き継がないかと声をかけてきたのです。坪内さんは、ここを本格的な仕事を始めるまでの就労の場にしようと考えています。

坪内:働くことはどういうことなのか、訓練する場所が必要だと思うんですよね。いろんな礼儀とか基本的なマナーを覚えていけば、次の職場に行ったときに定着できるなと。

山本:はい、おまたー。

以前、飲食関係の仕事をしていた山本さんは、厨房を手伝います。

——手際いいですね?

山本:格好だけです。音だけで切れてないから。

坪内さんは、他のメンバーにも、ここで経験を積んで、働く意欲を高めてもらいたいと思っています。

新しい出発に向けて 一歩ずつ

5月。東京から戻ってきた田中さんは、建築現場で働き始めていました。

田中:弁当入れたよね?

坪内:入れた、入れた。

田中:水筒入れたよね?

坪内:水筒入れた。

田中:忘れもんなし。いってきまーす。

坪内:いってこーい。けがすんなよ。

坪内:どうしたの? たばこ我慢してるのに、また声出なくなってきたよ。

入居者:いや、出る。

坪内:声出る? 朝だってゲホゲホってやったじゃない。昨日も今日も。

(入居者の男性からマッサージを受ける坪内さん)

入居者:凝っている、かなりね。いつも休む暇ないから、かなり疲れてるわ。70のじいさんだから。

坪内:いただきまーす。

入居者:今日豪華ですね。

坪内:いつもだろうが。

入居者:はい、そうですね、いただきます。

坪内:ここでは合言葉的は「リセット」ですよ、リセット。リセットできるよって。ひとりでもその先うまく新しい出発ができる人が出れば、僕はいいと思っています。

今、刑務所に入る人の6割近くが再犯者です。
犯罪を繰り返す人を、どう支えていけばいいのか。坪内さんの格闘の日々が続いています。

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