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シリーズ 多様な“性”と生きている 第3回 自分らしく暮らす ―新しい住まいのカタチ―

この放送回の番組まるごとテキストを掲載しています

  • 2013年6月5日(水曜)再放送2013年6月12日(水曜)

出演者
山田 賢治キャスター (司会)
日高 庸晴さん (宝塚大学 看護学部准教授)
山下 敏雅さん (弁護士)
ナレーション
河野 多紀さん

シリーズ 多様な“性”と生きている 第3回 自分らしく暮らす ―新しい住まいのカタチ― の番組概要を見る

多様な“性” シェアハウスの試み

2012年に行われたある調査によると、日本に暮らすセクシュアル・マイノリティーはおよそ20人に1人。しかし、その性を明らかにして住まいを選ぶのは難しい現実があります。

(群青さん 20代 バイセクシュアル)
「単身用賃貸に隠れて2人で暮らしています。ルームシェア可の物件を探しても見つからず、あっても『男女が前提だよね』と、諦めるしかありませんでした」

セクシュアル・マイノリティーをめぐる社会の状況にまだまだ無理解や偏見がある中、2013年4月、あるシェアハウスが誕生しました。

ゲイやレズビアン、トランスジェンダーなど、さまざまな性の人たちがその性を明らかにして共同生活を送る日本初の試みです。

シリーズ3回目の今日は、自分らしく暮らしていける住まいのかたちを考えます。

山田:ハートネットTV「シリーズ・多様な“性”と生きている」。
ゲストは昨日に引き続き、宝塚大学看護学部准教授の日高庸晴さんです。住まいと言いますと、私たち誰もが「安らぎたい場所」と思っているんですが、セクシュアル・マイノリティーの人たちが抱える住まいについての問題というのは?

日高:自身の性的指向を家族や周囲に話すことが難しいという現状があることが調査でわかっています。本来、家はくつろいでゆっくりできるはずの場所なんですが、家に帰っても緊張や不安が続くということもあるかと思います。

山田:そうすると、孤立感を深めてしまうようなことになるんでしょうか。

日高:そうですね。抑うつとかメンタルの問題も抱えやすくなってしまうと思います。

山田:住まいの悩みが孤立感を強めてしまう。それを解消しようと始まった、ある住まいのかたちをご覧いただきます。

(VTR)

4月20日、東京都内にシェアハウス「カラフルハウス」がオープンしました。

大家:いろんな友情関係とか恋愛に発展するかもしれませんけど……。

入居者は20代から30代の13人。ゲイやレズビアン、トランスジェンダーなど、さまざまなセクシュアリティーの人たちが、ひとつ屋根の下で暮らします。

2世帯住宅をリフォームして入居者それぞれの個室をつくりました。家賃は都内としては格安の月5万円ほどです。トイレや風呂、キッチンなどは共同で使います。

リビングにある連絡帳には、入居者たちが早速自己紹介を書き込んでいました。そこにはそれぞれのセクシュアリティーが記されています。自分らしく暮らしていくための第一歩です。

(ユウさん パンセクシュアル)

ユウ:普通のコミュニティーだったら、「ここまでこの人には言ったっけ?」とか、この人には隠しているから、彼氏がいるとか男の子が好きって前提で話をしないといけない。そういうのは抜きでもっと深い話もしていきたいし、相談とか乗れたらいいし、お互いに。

ここにはストレート(異性愛者)の人たちも5人暮らしています。

——カラフルハウスを選んだ理由って?

(レイコさん ストレート)

レイコ:職場から近いところ(笑) 私の中で、その(さまざまなセクシュアリティーの)人たちと住めるっていうのが、外国人とシェアできますみたいなルームシェアとほぼ同価値だったから、楽しみって感じ。

夜8時。シェアハウスのキッチンでは、早く仕事を終えた人が夕食の準備を始めていました。
じゅんさんです。小学6年生の頃、自分がゲイだと気づいたと言います。

周囲にセクシュアリティーを伝えるかどうか考える煩わしさから解放されたいと入居しました。ひとり暮らしが長かったものの、料理には不慣れです。

じゅん:オクラって茹でるの?

他の入居者:茹でなかったっけ?

じゅん:わかんない。

他の入居者に相談しながら、久しぶりの自炊に挑戦です。

夜9時を過ぎた頃、キッチン脇のリビングには入居者たちが集まってきていました。帰宅後すぐには部屋に戻らず、今日あった出来事などを話して過ごします。

ユウ:初任給の日だったんだよ、今日。

一同:おめでとう!(拍手)

ユウ:調子に乗って、これ(ベルト)を買った(笑)

複雑な自分のセクシュアリティー

こちらは加藤さん。会社ではゲイであることを明らかにしています。よくある新入社員の誤解を話し始めました。

加藤:(新人の)男の子たちって、なんか勘違いするんだよね、「俺のこと好きになられたらどうしよう」って。なんねーし。みたいな(笑)

じゅん:そうそう、そんなことあるよね。

加藤:そういうヤツには、ガーッと後ろから抱きついたりしてやるけどね(笑)

じゅん:ノンケ(異性愛)で3人も好きになったことがあって。告白して、でも「そんなんじゃないから」って断られ、その後はやっぱり微妙な感じ。

トモ:女の子に告白したことがある、そう言えば。

トモさんは自分の性を、アセクシュアルと言えるのではないかと考えています。

トモ:でも好きだったかと言われると、よくわかんないや。

トモさんの体の性別は女性です。しかし、自分では女性でも男性でもないと感じているため、女性らしい服を着ることに苦しさを感じてきました。

複雑な自分のセクシュアリティーはわかってもらえない。そう考えたトモさんはこれまで家族にも伝えてきませんでした。

トモ:完全に偽っている、仮面をかぶっている感じ。たとえば服とか「これ可愛いね」とか……、困りますよね。可愛いとは思うけど、自分は着たくないなとか。その理由を説明できないから。その距離感を保って接していると、ちょっと疲れるなって。

トモさんは7年前からひとり暮らしを続けてきました。しかし自分ひとりで自分のセクシュアリティーについて考えることが苦しくなったと言います。

そんなとき、偶然インターネットでこのシェアハウスのことを知りました。

トモ:ゲイの人とかレズビアンの人とか、性同一性障害の人とかストレートの人とかに、自分の中のものを出そうと思って。これだけメンバーもそろっていると、少しはわかってもらえそうだな、と。

暮らし始めて1か月。この日、トモさんにとって大きな出来事がありました。異性愛の入居者レイコさんが、トモさんのセクシュアリティーについて尋ねてきたのです。

トモ:アセクシュアルが?

レイコ:そこがまずわからない。アセクシュアルでしょう? 「ア」って、ひとつのって意味でしょう。

レイコ:いや、よくわかんないんだ。ひとつのでしょう? ひとつのセクシュアルでしょう?

トモ:恋愛をしない人か、相手に性的欲求を抱かない人。

レイコ:それを、アセクシュアルって言うの?

トモ:「Aセクシュアル」とか「アセクシュアル」とか。生まれつき、そういうのがわからないっていう人もいるし、恋愛がわからないっていう人もいるし、性的欲求が最初から体にないって人もいるし、その世界はいろいろいる。

レイコ:思ったよりたくさんあるなと思った。

トモ:たくさんあるよ。

レイコ:だってLGBTっていうから、その4つだと思ってたんだもん、私。

遠慮せず率直に質問を投げかけるレイコさん。トモさんにとって初めての経験でした。

トモ:LGBTの中に入るか入らないか微妙なくらいマイノリティーだと思う。

自分の複雑なセクシュアリティーをわかってもらえる。レイコさんとの会話は考え方を変えるきっかけとなりました。

レイコ:自分が関わり合いにならないこととか、なかなか入ってこなかったりするよね。情報とか。

トモ:ここまでしっかり聞いてもらったのは初めてですね。嬉しいですね、やっぱり。必ずしも隠さなきゃいけないものではないと思うし、相手に聞ける余裕があるならば、話した方が誠意があるだろうし、お互いいいのかなって。

シェアハウスの新しい可能性

このシェアハウスを企画したのは、あるNPO法人です。メンバーは証券会社や広告代理店などで働く、仕事もセクシュアリティーもさまざまな人たちです。セクシュアル・マイノリティーがよりよく歳を重ねられる社会を目指して活動してきました。

(NPO法人 グッド・エイジング・エールズ代表 松中 権さん)

松中:LGBTの人は、まだ家族を持つことが制度上もできないし、なかなか社会との接点も持ちにくいので、どうしても孤立しがちだったりして。

そこで考えたのが「カラフルカフェ」など、さまざまなイベントを通してセクシュアル・マイノリティーと社会のつながりを深めることでした。

松中:セクシュアリティーというのは見えないものなのでわからなくて、LGBTがいないという世の中になっていたり。すぐ隣にいるんですよ、だけど見えないからわからなかったり。そういうのを少しずつ世の中に見せていくような場所をと。頭で考えても、実際にいるのは人間なので、人と人とのつながりがないと理解は深まらないんじゃないかなと思って。

そうした活動のひとつとして、メンバーの1人が去年東京で開かれた国際的なプレゼンテーション・イベントに参加。会社の社宅への入居を断られたケースを元に、セクシュアル・マイノリティーが置かれている実体を訴えました。

(プレゼンテーション・イベントの様子)

NPOメンバー:彼は社宅に男性の恋人と入居したいと言ったのです。彼はゲイでした。

このプレゼンを会場で聞いていた麻生次郎さんです。不動産会社を経営する麻生さんは、このとき、同性愛者が住まいで直面する現実を初めて知りました。

麻生:シェアハウスの企画をいろいろやっているんだけど、次のシリーズはこれをやろうと思って。

麻生さんはその場でNPOのメンバーに声をかけ、シェアハウスをつくろうと持ちかけました。そして理解のあるオーナーを探し出し、そのアイデアを実現したのです。

シェアハウスができてから2か月。入居者たちがリビングに集まる機会は日に日に増えていきました。異性愛者の入居者たちは、自分が住んでいるこのシェアハウスのことを友人に伝えて良いか、迷っていました。

(美山さん ストレート)

レイコ:みんなどうなんだろう。私が勝手に言うことによって、嫌がるかなと思ったの。

美山:みんなに知ってもらいたいって思うの? 別に話さなくても、近所付き合いはできるでしょう?

そのまま、ご近所に自分たちのことをどこまで伝えるか、話し合うことになりました。

加藤:聞かれたら答えるでいいと思うけどね。町内会のゴミ掃除とかに参加して挨拶して、そこから話が広がったらいいけど。いきなりピンポーンって、「隣に住む○○ですけど、私たちLGBTフレンドリーなシェアハウスなんです」って言うのは、それこそ「え?」ってなるかもね。

他の入居者:でもさ、そこのおばちゃんが植木鉢をくれたりしたじゃん? ああいうのはいいなと思う。

ユウ:それもらったなら、何かお返ししなきゃいけない。

すると、トモさんがあるものを持ってきました。

トモ:丈夫でつくりやすい、すぐできるっていう。

野菜の種です。ガーデニングをしているご近所さんに教わりながら、みんなで育てようというのです。

加藤:収穫したのを、隣に。「取れすぎちゃったんで」って言って。

ユウ:言ってみたい、そんなこと(笑)

ご近所とはことさらセクシュアリティーについて語らず、まず隣人同士として付き合っていく。このシェアハウスの入居者たちが出した結論でした。

孤独ではない お互いが支えあえる住まい

(VTR終了。スタジオでのトーク)

山田:日高さん、VTR見てどう思いましたか。

日高:やはり自分の性的指向を隠さないでいい、自分を偽らないでいいというところが、一番の利点だと思うんです。本当のことを言えないということがどれだけストレスになって、日々しんどいかにつながっていくんじゃないのかな。

山田:今日はもう一方ゲストをお招きしています。
セクシュアル・マイノリティーの法的な問題に詳しい弁護士の山下敏雅さんです。今のVTRはどうご覧になられましたか。

山下:やはり孤独でないこと、ひとりぼっちではなくお互いが支え合い認め合うということはとても大切だと思っていますし、それが人権という言葉の大きな柱だと思っています。先ほどのシェアハウスは、セクシュアル・マイノリティーの方々が「ひとりではない」と実感できて、お互いを尊重し合って、日々の居場所としてできている。まさに大事な取り組みだと思いました。

山田:住まいを見つける難しさって、どういったところにあるんでしょうか。

山下:セクシュアル・マイノリティーの方々が、賃貸物件で住まいを探すときには、やはりハードルが実際にはあります。同性カップルの場合、公営住宅では法律上の親族でないと一緒に入居できない。民間の賃貸住宅の場合には大家さんがOKしてくれれば、借りられはするんですが、2人の関係性を正直に話していいのか、というハードルがあります。先ほどのシェアハウスのように、こういったセクシュアリティーもフリーですよ、ということもオープンにする大家さんが増えれば増えるほど、セクシュアル・マイノリティーの住まいという問題点は解決していくんだろうと思います。

山田:そこで、どう歳を重ねていくか。老後への不安もセクシュアル・マイノリティーの人たちは抱えています。その現状を取材しました。

老後を安心して暮らすために

(VTR)

静岡県駿東郡の2LDKのマンションに暮らす、岩口さん・ダイキチさんカップルです。岩口さんは44歳、ダイキチさんは35歳。夕食はいつも一緒につくります。

最近、食事のメニューに気をつけるようになってきたと言います。

岩口:中高年になってくると、脂っこいものとか確かに満足するけど、健康診断に引っかかっちゃいますよね(笑)

2人はこれから先も一緒に歳を重ねて生きたいと考えています。しかし、今の日本では同性同士が結婚することはできません。戸籍上は他人のため、将来への不安を感じることがあると言います。

ダイキチ:年齢差を考えると自分の方が長く生きるというか、相方の方が先に亡くなるんだろうなと思ったときに、みとった後ひとりで生活していけるのかと思ったんです。

岩口:子どもがいないってことで、年老いた後支えてくれる人がいない。

老人ホームなどに入れたとしても、ゲイであることが受け入れられるかは難しい現実があります。

そこで岩口さんたちが考えたのが、セクシュアリティーを理解してくれる人たちと一緒に暮らし、互いに助け合うことでした。

その生活の場が「コレクティブハウス」。それぞれが独立した居住空間を持ち、共有スペースでつながりも持てる集合住宅です。去年2人はインターネットで一緒に考える仲間を募りました。その数は70人に達しています。

岩口:僕たちは、子孫を残すことができない。ただ、考え方やライフスタイルは、次の世代の人たちに伝えることができると思うんですよね。まだゲイユース(ゲイの若者)の人たちで生活設計とかきっちり定まっていない人たちに、道しるべみたいなのがつくれたらいいかなと思います。

そんなとき知ったのが、セクシュアル・マイノリティーが暮らしやすいシェアハウス、カラフルハウスでした。

5月の連休、2人は早速シェアハウスを企画したメンバーに会いに行きました。

岩口さんはセクシュアル・マイノリティーが安心して老後を暮らせる共同住宅をつくりたいと話しました。

岩口:結局ね、僕たち独身じゃないですか。ひとりで生活して、ひとりで老いていくっていうこと。セイフティーネットとしてのコレクティブハウスっていうのも……。

NPOのメンバーはカラフルハウスでの経験から資金面など、共同住宅をつくる上でのリスクを伝えました。

NPOメンバー1:僕たちと一緒にやってくれている会社さんは、不動産業者の方で広いビジネスをされていて。(カラフルハウスは)そのうちのひとつ。試しにやってみるっていう位置づけなんですよね。

セクシュアル・マイノリティーの終の住処をどうすれば実現できるのか。話し合う中で、あるアイデアが生まれました。

NPOメンバー2:「週末コレクティブハウス」みたいな。

岩口:ログハウスでも借りてやってみるとか(笑)

NPOメンバー1:すごくいいかもしれない。

それは計画に賛同してくれる人と、週末だけの共同生活を試してみることでした。その中で困難を共に分かち合える仲間を集められるかが、共同住宅実現への第一歩になります。

岩口:すごく刺激になりました。

ダイキチ:自分でどんどん声を上げるというよりも、共感してくれる人を増やしていくといった努力もしていかなきゃなと。

セクシュアル・マイノリティー「住まい/老後」

(VTR終了。スタジオでのトーク)

山田:なんとか自分たちの住まいのかたちを切り開きたいという気持ちが伝わってきましたが。

日高:これまでの調査でわかっていることなんですけれども、30代40代のゲイ・バイセクシュアルの男性のうち60パーセントが老後に不安を感じると言っていて。また同時に「長生きはしたくない」と答えた方も6割くらいいる。つまり、ひとり暮らしがずっと続いて、これから健康問題や老後のことを考えると、より孤立感だとか社会的な接点がないということもあって、そういった先の見えない大きな不安を打ち消すかのような自暴自棄な生活、そういったライフスタイルを取ってしまう人がいることも現実かと思います。

山田:山下さんはどういうふうにVTRご覧になられましたか。

山下:どんなに歳を重ねてもその人のセクシュアリティーが最期まで尊重されるかという点が、セクシュアル・マイノリティーではない方とは違うところかなと思います。たとえば、戸籍上の性別とは違う性別でずっと暮らしてきた方が、高齢者の施設の中で本来の性別として尊重されるかというような問題。あるいは同性カップルの関係を、施設の側が尊重してくれるかというような問題など。在宅の介護が進んでいったときに、地域がきちんとセクシュアリティーを尊重してくれるかということが、これから問題になってくることだと思います。

山田:今日はセクシュアル・マイノリティーの人たちが暮らしやすい住まい、さらにどう歳を重ねていったらいいのかなどを考えてきました。

日高:本当に一部の人たちが頑張ってつくっている仕組みだと思うんですね。そういった世の中を変えていくということが、当事者だけの頑張りに求めるのではなくて、社会の側もどういうふうに受け入れていくことができるのか、政治であっても制度や人間関係においても、性の多様性という視点を盛り込んだ上で、どう受け皿をつくっていけるかということも、できることのひとつかなと感じています。

山田:今日はありがとうございました。

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