本文へジャンプ

シリーズ 多様な“性”と生きている 第2回 セクシュアル・マイノリティーの子どもたち ―成長を支える―

この放送回の番組まるごとテキストを掲載しています

  • 2013年6月4日(火曜)再放送2013年6月11日(火曜)

出演者
山田 賢治キャスター (司会)
佐藤 かよさん (モデル)
日高 庸晴さん (宝塚大学 看護学部准教授)
佐々木 掌子さん (立教女学院短期大学専任講師、臨床心理士)
ナレーション
河野 多紀さん

シリーズ 多様な“性”と生きている 第2回 セクシュアル・マイノリティーの子どもたち ―成長を支える― の番組概要を見る

多様な“性”を生きている 子ども

山田:ハートネットTVです。6月のシリーズ「多様な"性"と生きている」。今日もセクシュアル・マイノリティーの子どもがテーマです。
ゲストは引き続き、モデルの佐藤かよさんです。昨日は、生きづらさを抱えている子どもがテーマでしたが、どう感じましたか。

佐藤:私自身が10代のときに悩んでいたことと似ている部分があったり、居場所をつくったり見つけていくのに、苦労している今の10代の方たちの話を聞いて、今後どうしていったらいいのかなとか、そういう話も今日はたくさんしていきたいと思います。

山田:今日は子どもたちの成長をどう支えていくか、周りの大人たちができることを考えていきたいと思います。
ご一緒していただく専門家のゲストをご紹介します。まずは引き続き、宝塚大学准教授の日高庸晴さんです。
そしてもう一方、臨床心理士でGID(性同一性障害)学会理事の佐々木掌子さん。スクールカウンセラーの経験もあるということです。

佐々木:10年前と比べますと、性同一性障害という言葉がだいぶ世間に知られるようになって、そういう意味で理解は進んできているとは思うんですけれども。実際学校にいる先生方が「うちのクラスにはいないんじゃないか」と、いないことになってしまっているという危惧がありまして、いることを前提として学校づくりができるようにと考えております。

山田:まずは、セクシュアリティーの悩みがあることを誰にも打ち明けることができずにいた生徒と実際に向き合ってきた、ある高校の先生を取材しました。

多様な“性”と生きている 悩む生徒との出会い

(VTR)

首都圏の高校で養護教諭を務める、服部なつさん(仮名)です。3年前、セクシュアリティーに悩む生徒と出会い、考え方が大きく変わったと言います。

服部:そういう子が、クラス40人いれば2人はいるっていう話は知識としてわかっていたんですけど、自分の身近な問題だっていうふうには感じられていなかった。

去年、この高校を卒業した海斗さん(19)です。当時、女子生徒として通っていましたが、現在は男性として生活。今も月に一度は先生を訪ねてきます。

海斗:彼女の報告とか、結構してるか。

服部:彼女の報告ね。

そんな話もするんですか?

服部:すっごくしますね。

海斗:なんでもするよね。

先生が海斗さんに出会ったのは、2年生のとき。性別のことで悩んでいるとは、まったく知りませんでした。

当時の海斗さんの日記です。

気持ちが不安定でたびたび自傷行為を繰り返し、やがてその苦しみを保健室で訴えるようになりました。先生は毎日話を聞き、外部のカウンセラーにも相談。しかし海斗さんの苦しみを取り除くことはできませんでした。

実は海斗さんは、高校へ入る前から自分が周りと違うことに悩んでいたと言います。しかし、誰にも言えずひとりで抱え込んでいました。

海斗:最初に女の子を好きになったのが、中学2年生のとき。そのときも「絶対これおかしい」って。もしそれを自分自身で受け止めきれなかったとき、自分に残された手段として、もう死ぬしかないんじゃないかなって思っていたので、なるべく(性別の悩みを)見ないように。自分を傷つけていることだけ見ておけば、何とかなるかなっていう意識はあった。

海斗さんの苦しみの原因がわからないまま1年が過ぎたある日。ちょっとした出来事で、事態が動きました。女子生徒同士の口論を、海斗さんが止めに入ろうとしていました。その様子を見ていた先生は、普段穏やかな海斗さんがとった行動が気になり、声を掛けました。

服部:感情むき出しにして、ひとりの女の子を守ろうみたいな態度がすごかったんです。「どうしてそんなふうに怒ったの?」っていうところから、海斗が話し始めたんだよね。「その子が好きだから」って。女の子が女の子を好きであったりっていうの、ありだなと思ってはいたので、「そうなんだ」って。「かわいいもんね。いい子だよね」なんて話したのを覚えていますね。

先生は養護教諭の研修を通して、同性に好意を持つ子がいることを知っていました。その気持ちを先生が自然に受け止めてくれたことで、海斗さんは一歩踏み出すことができました。

海斗:生まれて初めて自分の性別に違和感があることを先生に話したんです。一番大きなきっかけは、「女の子が女の子を好きでもいいんじゃない」って。つくってるとかじゃなくて、自然にその言葉が出てきたときに、「あ、この人だったら大丈夫だ」って、本当にこの人に話したいなって思うような感覚があったので話した。

悩みを打ち明けることができた海斗さん。男性として生きたいという気持ちも表せるようになり、自らを傷つけることも減っていきました。

先生は海斗さんとの出会いをきっかけに、あるものを保健室につくりました。セクシュアル・マイノリティーに関する本やDVDを集めたコーナーです。

服部:絶対にいるんだ。そういう子たちに見てもらうきっかけになるように置き始めました。やっぱり気になっていた子は「実はね……」って言いながら、「これどういう意味?」とか「自分こんなだけど大丈夫かな」って話をしてくれる。本当にきっかけづくりになる場所ですね。

多様な“性”を生きる子ども 悩みを受け止める

(VTR終了。スタジオでのトーク)

山田:保健室の先生と生徒の、すごく自然な関係でしたね。

佐藤:すごくナチュラルですよね。しっかり向き合って人間関係をつくっているのが素敵ですね。

佐々木:わかってくれそうな雰囲気を出している先生なんだと思うんですよね。思春期というのは、自分が「性同一性障害なのかな? 同性愛なのかな?」と、まだ漠々としている状況ですので、「性同一性障害なの? それとも同性愛なの?」「男なの? 女なの?」と突きつけたりするのではなくて、大らかに。「いいね、女の人が好きなんだね。かわいいもんね」と、さっきの先生が言って、そこで彼も「自分は性別の違和もあるかもしれない」と言うことができて、とてもいい流れがあったのではないかなと思いました。

山田:あいまいな状態を受け止めるということですか。

佐々木:はい、そうですね。

佐藤:そういう話を聞いてくれる人が学校にひとりいれば、きっと環境は全然違うし、しっかり話を聞いてくれて、ちゃんと相手のタイミングを待ってくれる、そういう付き合い方をしてくれる大人が学校にいるってことが大事なんじゃないかなって。

佐々木:私がスクールカウンセラー時代にやっていたのは、図書館司書の先生と保健室の養護の先生と3人で話し合いをしながら、図書室と保健室の廊下の掲示板に、お悩み相談の一問一答みたいな掲示をしましょうと。その中のひとつとして、「自分は男だけれども男の人が好きになる。これはどういうことなんだろう」というような悩みも入れておいて、スクールカウンセラーの回答で「男の人を好きになるのも素敵なことですね。たとえばカナダやオランダでは同性で結婚することができます。日本もそうなるといいですね」というような回答をつけて。少なくとも保健の先生と図書の先生とスクールカウンセラーは、そういったことに対してポジティブな態度なんだっていうのが、少しは示せるのではないかと思って、そういう取り組みをしたことがあります。

山田:どうやったら、こういう取り組みができるのかなと思うんですが。

日高:VTRの先生は、研修を受けたこともあって知識があった。大前提としてセクシュアリティーの問題を扱うときは、性同一性障害と同性愛(性的指向)、その両方を正しく認識していただく。あとは学校の中でいろいろな課題、いじめや不登校とかあるわけですが、もしかしたらその背景に性的指向や性同一性障害といったことがあるのかもしれない。そう先生方が早い段階で気づいてくださると、変わっていくんじゃないかと考えます。

山田:そういうことを、先生はどれぐらいご存知なんでしょうか。

日高:大学などの教員の養成機関で同性愛について学んだ人は7.5パーセント、性同一性障害に関しては8.1パーセントということで、1割にも満たない状況ですね。先生方が学ぶチャンスがなかなかないということが言えると思います。

山田:どんなことが必要になってくるんでしょうか。

日高:たとえば教員養成機関の段階で、必修科目としてセクシュアリティーについて学んでいただく。あるいは教員になった後、現職研修などでセクシュアリティーについて考える場をつくる、というふうなことを、すべての自治体で恒常的に働かせていくような仕組みができないかと考えています。

山田:思春期の子どもたちが感じている苦痛に、どう寄り添っていったらいいのか、どう支えていったらいいのかを考えてきました。
今度は、苦痛を感じる前に周りが早く環境を整えたことで、学校生活を順調に送っている子どもを取材しました。

多様な“性” 自分らしく生きる子ども

(VTR)

中学2年生の優愛(ゆうあ)さんです。生まれもった体の性は女の子、学校へは男の子として通っています。

学校楽しい?

優愛:楽しい。帰りに話するとき、みんなで。それが一番楽しい。

優愛さんの母、洋子さんです。介護の仕事をしながら3人の子どもを育ててきました。夕食の時間、話題はいつも学校での出来事。

母・洋子:(優愛さんは)学校がお休みっていうとすごく残念がる。

姉:そうなの?

母・洋子:この人(弟)は学校が休みだと喜んで、ね。学校がある日はすごく暗くなって、優愛ちゃんは反対で、学校があるともう嬉しくて、学校が休みになると、早く学校行きたいみたいな。

「男の子として生きたい」優愛さんの希望に周囲がきちんと向き合ってきたことが、今の生活につながっています。

小学校の入学式、優愛さんはスカートをはくことを嫌がったと言います。しかしこのとき母親の洋子さんは、性別への違和感があるとは思っていませんでした。

母・洋子:入学式のときはスカートをはいてくれたんですけど、その日だけです。それ以降はいっさいはきませんでした。でも、友達のお子さんもスカートをはかなかったし、ズボンの方が楽だったのかなっていうふうにしか、とらえてなかったですけどね。

優愛さんが性別に違和感を持っているのではないか。周囲が初めて思ったのは、4年生の頃でした。

きっかけは学校の養護教諭。当時優愛さんは、先生とのおしゃべりを毎日楽しみにしていました。外で遊んでばかりいた優愛さんに、「男の子なんじゃない?」と冗談で言うと、突然保健室へ来なくなってしまったと言います。

母・洋子:(養護教諭が)「もしかしたら、優愛ちゃんは女の子っていうよりも男の子の心があるのかな」みたいな感じで心配なさってくれて、電話をしてくださって。

優愛さんには男の子として生きたいという気持ちがあるのか。洋子さんは、さりげなく優愛さんに尋ねました。

母・洋子:「女の子と手をつなぎたい」、「付き合うなら女の子と付き合いたい」っていう言葉が返ってきたんですけど。家庭を持つことが無理なんじゃないかとか、社会に出て仕事するときにも好奇な目で見られたりっていうふうに、あの子の人生のことを考えたら、なんか涙が出てきちゃって、すごくショックでした。それを考えた後に、自分が守っていかなければいけないって思いました。

「思春期に入る前に、相談できる場所を」学校の先生からアドバイスを受けた洋子さんは、すぐに専門の医療機関を探しました。

そのときから通っている精神科医の松永千晶さん。優愛さんはここで、さまざまな相談をしてきました。小学校高学年のとき優愛さんは「中学へは男子の制服で通いたい」と訴えるようになりました。

松永:優愛さんの年の場合は学校生活がとても大事なので、学校の先生方とも協力関係を持ってサポートしていく体制をつくっていかないと、不十分ですね。

主治医が勧めたのは、進学する中学校へ早めに相談に行くことでした。そこで、男子の制服を着て学校生活を送りたいと伝えた優愛さん。その希望を当時の校長は受け止めてくれました。

入学前の2月、校長の呼び掛けで中学校での生活について話し合う会議が開かれました。メンバーは、校長を中心とした学校関係者と優愛さん親子。さらに校長の依頼で主治医の松永さんも同席しました。

そこで性別によって分けられているさまざまな項目について、ひとつひとつ優愛さんの希望を聞き、対応を考えていきました。

当時の校長:着替え、トイレ、それから英語の授業の中で「he」と呼ぶか、「she」と呼ぶかとか。そういったことも本人の了解をきちんと得ることと、(医師の)先生にもご指導をいただくこと。初めてのことですし、いろいろ相談や準備を進める中で、こうするとどうでしょうというアドバイスをいただけたので、学校現場としては非常にありがたかったです。

さらにもうひとつ、校長が行ったことがありました。生徒や保護者への説明です。

一緒に進学する他の小学校の6年生、中学校の先輩たち、そして保護者に、優愛さんが男子の制服で通うことを事前に話し、理解を求めました。

「『男らしく』『女らしく』ではなく、『自分らしく』」
非難する声は上がりませんでした。

去年、優愛さんは希望通り、男子の制服で中学校へ通い始めました。毎朝7時前、野球部の朝練に出かけていきます。

母・洋子:優愛はすごく生活しやすい状況を作っていただいたと思います。普通に生活している、普通の子でいられて。それが一番いいことだなって思いますね。

優愛さんが男子として生活していることを、学校の友達も自然に受け入れています。

同じ野球部の男の子、クラスの女の子。優愛さんはいつも男女関係なく一緒に過ごしています。

——誰が一番野球上手なの?

男の子1:誰だろうな。

男の子2:たぶん優愛。

男の子1:優愛だな。もう普通に、ムードメーカー。

男の子2:ムードメーカーだよな。

男の子1:なんか中心的だもんね。

——みんなの中では男の子って感じ?

男の子2:はい、ほぼ男の子。

男の子1:ほぼ男の子ですよ。

女の子:(小学校の)入学式のときは違ったんだよ。すごく可愛かった。スカートはいてて可愛かったけどね、どんどん男の子になっていった。

優愛さんは、女の子と男の子どっちと遊びたいってあるの?

優愛:男子は外で遊ぶ派でしょ? 女子は中で話したりみたいな感じ。自分的にどっちもしたいから。どっちやっても楽しいから、どっちもできるように。

多様な“性”を生きる 子どもたちのために

(VTR終了。スタジオでのトーク)

佐藤:楽しそうでしたね。

山田:ねえ。どんなことを感じました?

佐藤:時代が変わったと言うか。一番いいなと思ったのは、誰かが先走って、こうしましょうと決めるのではなくて、お母さんであったり彼を中心に置いて、友達や学校が協力して、どうしていくのがいいのかなって、ちゃんと話し合えていることがすごいと思いました。

佐々木:生徒さんのニーズに学校が丁寧に具体的なところまで応えようとしているところが、素晴らしい取り組みだなと思いました。ただ、優愛さんにとってはこういう取り組みがいいけれども、他の性別違和を持つような生徒さんにとっては違う方法がいいかもしれない。優愛さんでこうだったからうちの学校もこうしようではなく、ひとりひとりを見てあげられるといいと思います。

山田:こういう対応の仕方というのは、全国的にはどうなっているんでしょうか。

佐々木:平成22年に文部科学省が、全国の教育委員会に「性別違和を抱える生徒や児童の心情に配慮した対応を」と通知を出しているんです。その通知が出たことは、とても大きいことだと思います。ただ、同性愛の生徒さんもいるし、性別違和はないけれども性役割にはすごく嫌な気持ちがある生徒さんとか、非常に幅があるので、そういった多様性をすべて込みにして、教育現場が対応できるようになるといいなと思います。

山田:同性愛などの子どもたちにとっても、いやすいとか、自己肯定感を持ちやすいとか、そういう学校の環境はつくれるものでしょうか。

日高:少なくとも性的指向に関しては肯定的なメッセージをきちんと伝える。そのときにお笑いやネタとして扱うのではなくて、わざわざ話題にして肯定的なメッセージを常に送れるような環境が必要だと思います。

山田:学校の授業の中で何かできることというのは?

日高:保健の授業のときに、異性を好きになる人もいれば、同性を好きになる人もいるし、あるいは男女両方とも好きになる人もいれば、男女両方ともそんなに性的に感心を持たない人もいるということを、どれかに偏って言うのではなくて、どのこともきちんと先生方が伝えていっていただければ違うと思います。たとえば社会であれば、「歴史上の人物で、誰々さんは……」と話題にしてみることもできると思いますし、英語や他の科目でも最近の同性婚の流れについて話題にしてみるとか、ホームルームでの課題にしてみるとか、いろいろな取り組みができるんじゃないのかなと思います。

佐藤:こう授業ってなるとちゃんと聞かなきゃいけない。先生と生徒たちのコミュニケーションの一環として取り上げていくぐらいの感覚でもいいんじゃないかな。

山田:今後、何が子どもたちのために必要になってくるかということをお伺いしたいんですが。

日高:学校現場が取り組まなければいけない課題が、セクシュアル・マイノリティーのことに限らずたくさんあるので、次から次にいろいろなことを先生方に頑張ってもらうのは大変なことなんですが、性のありようは多様であるということを前提に、学校教育がされていくようになればと考えています。

佐々木:声を上げないと、いないことにされてしまうのがとても問題で。声を上げていなくても、いること前提で、教育なり社会が成り立つようにということを一番考えたいですね。

佐藤:当事者の子たちには、絶対に焦らないでほしいなって思っていて、性別とか自分の体は一生付き合っていくものだし、ひとりひとり自分らしさを必ず持っていると思うから。今の世の中はまだ、カテゴライズして色分けをしがちなところはあるけど、そういうのをどんどん消していきたいなって、私自身も思うようになりました。恋愛対象や育ってきた環境で判断するんじゃなくて、ひとりの人間として見られる世の中になっていくのが一番いいんじゃないのかな。

山田:そうですね、自分らしく生きていきたいと言っている子どもたちを、どう大人が自然に支えてあげられるかということは、私たち全員が考えなければいけない問題だと思います。
今日はありがとうございました。

カレンダーにもどる