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シリーズ 多様な“性”と生きている 第1回 セクシュアル・マイノリティーの子どもたち ―現状―

この放送回の番組まるごとテキストを掲載しています

  • 2013年6月3日(月曜)再放送2013年6月10日(月曜)

出演者
山田 賢治キャスター (司会)
佐藤 かよさん (モデル)
日高 庸晴さん (宝塚大学 看護学部准教授)
ナレーション
河野 多紀さん

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多様な"性" セクシュアル・マイノリティーとは

山田:ハートネットTVです。6月新たなシリーズをお届けします。テーマは「多様な"性"と生きている」です。
今日と明日のゲストはモデルの佐藤かよさんです。背が高くてきれいですね。

佐藤:ありがとうございます。

山田:佐藤さんは、もともとは男の子。

佐藤:はい、男の子として生まれてきました。

山田:今回シリーズで考えるのは多様な性。
私たち普段は、男という枠組みと、女という枠組みという2つの枠組みで考えがちですが、実はそうではないんです。
多様な性を考えるときに必要なのが、生まれ持った「体の性」、自分がどの性別に属しているかという「心の性」、さらに好きになる人の性別「恋愛対象(性的指向)」、この3つで、その組み合わせは実にさまざまなんです。
たとえば、私は体が男、そして心の性も男、女性に恋愛感情を抱くということで、図で言いますと、色が付いた部分です。佐藤さんは、生まれたときの体は男の子、心は女の子。ずっと女性として暮らしてきました。トランスジェンダーと言いまして、生まれたときの法的・社会的な性別と異なる性を生きる人もいます。他にも同性を恋愛対象とする、ゲイ・レズビアンと呼ばれる人もいますし、バイセクシュアルというのは恋愛の対象が男女どちらにもある人のことを言います。さらに、この図では表現できない人もたくさんいるんですね。こうした人たちは異性愛者よりも少ないことから、「セクシュアル・マイノリティー(性的少数者)」と呼ばれています。日本にはどれくらいいるかと言いますと、人口の5.2パーセントという調査結果が出ていまして、たとえば学校ですと1クラスに1人から2人いるという計算になるんです。

佐藤:私は数字がちょっと苦手なので、よくはわからないんですけど。ゲイの人もいれば、レズビアンの人もいたり、本当に多種多様というか、ひとりひとりの個性であって性格ですから。普段からいろんな友達と遊んでいます。

山田:一緒に考えていただく専門家のゲストをご紹介します。宝塚大学准教授の日高庸晴さんです。セクシュアル・マイノリティーのメンタルヘルスの問題について研究されていらっしゃいます。人口の5.2パーセントという数字、なかなか実感として湧きにくいんですが、どういうふうに捉えればいいんでしょうか。

日高:これまでの調査と比較しても、正直に答えられる人たちが増えてきていまして、5.2パーセントというのは最も高い数字になっているんです。一方で、メンタルヘルスのことだとか、いろいろ課題を抱えている人がたくさんおられるのも事実かと思います。

山田:そうした現実がある中で、多様な性について、みんなで分かちあうために何が必要なのかをシリーズを通して考えていきます。
今日と明日は、子どもの現状と学校や家族のあり方についてお伝えします。
多くの人が自分のセクシュアリティーを自覚するのが、思春期以前だというデータもあるんですね。

子どもたちが直面する問題

(VTR)

ある調査では、ゲイであると自覚するのは平均13歳。性同一性障害でも9割が中学生までに性別への違和感を持つと言われます。

子どもたちはどんな問題に直面しているのか。ある相談施設を訪ねました。

「SHIPにじいろキャビン」(横浜市)。セクシュアル・マイノリティーの若者が、年間千人以上訪れます。運営しているのはNPO法人。学校が休みの日や放課後、無料で開放しています。

(特定非営利活動法人SHIP代表 シンジさん)

シンジ:どこか行ったの、連休は?

N:おばあちゃん家に行ってました。

シンジ:デートじゃなかったの?

N:そうだ、私、言うの忘れてた。別れたんですよ。

Y:実は……。

N:なになに?

Y:彼氏が。

N:うそ。すごい。シンジさん聞いた?

シンジ:聞いた聞いた。

仲間と出会え、悩みを相談できる場として6年前にできた「SHIP」。子どもたちは学校にあるパンフレットなどで知り、訪ねてきます。

同性の女の子が好きだという高校生のNさん(17)です。学校の友達にはそのことを話せないと言います。

N:「男性の芸能人で誰が好き?」って聞かれたら、「松山ケンイチ」って答えておけば大丈夫みたいな。答えを決めておけば「ずっと松山ケンイチのファンなんだよね」みたいな感じで流してくれるから。面と向かって「レズビアンなんでしょ」って言われたことがあって。怖かったっていうか。怪しまれるのは嫌だから言わない。カモフラージュしてる。

Nさんが同性を好きだと気づいたのは中学生の頃。以前は友達にも話していましたが、ある授業をきっかけに隠すようになりました。

N:私が「同性愛者でもHIVとか性感染症になるんですか」って質問したら、先生は「なるよ」って言って、その後に「でも同性愛者って気持ち悪いよね」って軽蔑してるような感じで、ちょっと半笑いして。すごくショックで。怒りで涙が出てきちゃって、授業の後に。自分が女の子が好きだってことは「レズビアンでしょ、気持ち悪い」ってみんな言うんじゃないかなって、そのときから思うようになりました。

「同性愛者であることを、絶対に知られたくない」これまで何でも相談できた母親にも話すことができず、今も悩み続けています。

N:シンジさんも(親に)言ってないよね。

シンジ:そうそう、やっぱり親との関係って一生続くものだからね、そこってなかなかね、言って受け入れてもらえなかったら……。

N:どこで暮らしていけばいいんだって感じだし。

シンジ:だから言えないんだよね。

NPO法人の代表・シンジさんも同性愛者です。SHIPを始めてから、悩みを抱えた多くの子どもたちと向きあってきました。

シンジ:学校とか家だと、どこか隠しているわけですから、もう常に緊張していると感じだと思うんですね。周囲の友達とも話ができなくなってしまって。そこが一番の問題だと思うんですよ。ちゃんと周りに話ができて、受け入れてくれて、どこか自分の居場所があればいいんですけども、居場所がなくなるのは、すごくかわいそうなことですよね。

自分の居場所を見つけられず、危険な体験をする子どもも少なくありません。この春、高校を卒業したYさん(18)。中学生のとき同性を好きだと自覚しましたが、話せる相手を見つけられずにいました。

Y:いろいろ知ってみたいなっていうのがあって、(同性愛者の)自分と違う人はいったいどうやって生活しているのかなって興味もあって。

Yさんは中学2年生のとき、インターネットのコミュニティーに参加し、同性愛の男性と会うようになりました。そこで知り合った男性と交際。学校や家庭では話せない悩みを理解してくれる唯一の相手だったと言います。しかし男性から別れを告げられると、Yさんは強い孤独感に襲われるようになっていきました。

Y:友達には踏み込んだ話ができなくて、やっぱり相手は異性愛者なんで。相談できる人はいなかったですね。すごく寂しくて、もう自分はひとりなんだって。

寂しさに耐えられなくなったYさんは、高校1年生のとき、今度は同性愛者向けの掲示板を使い始めました。しかし、自分を理解してくれる相手には出会えませんでした。

Y:少し話をして、ちょっとセックスして、それでおしまいですね。嫌って感じのことは言ったんですけど、相手の方が強引に来て。もっと乱暴されたらどうしようとか、そういうことを考えて。ただ他愛もない話で良かったんで、とりあえず誰かと一緒にいたかった。理解者と一緒にいたかった。

それでも相手を探し続けたYさん。高校3年生のとき、知り合った男性から「会いたい」というメールがしつこく送られてくるようになりました。身の危険を感じたYさんは、悩んだ末に学校の保健室へ。そこでSHIPの存在を知りました。

Y:親身に話を聞いてくれて、シンジさんの経験談も聞いて、だんだん自分はひとりじゃないんだなって感じるようになってきましたね。自分の体を大切にしようと思えるようになって、それ以来掲示板は使っていないです。

多様な“性”を生きる子ども 学校で何が

(VTR終了。スタジオでのトーク)

佐藤:私も小中学校のときに先生から言われた何気ない一言がグサッと来てしまったり、十数年経っていますけど、今でも鮮明に覚えてる言葉だったりする。先生って絶対的な大人でもありますから、学生時代にそういう言葉を受けると、それがベースになっちゃうのかなって思います。

山田:多くの人が周りに話せない背景というのは、どんなところにあるんでしょうか。

日高:いろいろな事情があるんだと思いますけれども、ひとつには学校での情報のあり方が大きいと思うんです。1999年以降、ゲイ・バイセクシュアル男性を対象にした調査を定期的に実施しまして、今までに4万人の方にお答えいただいているんですけれども。その中で、学校で同性愛とか、そういったセクシュアリティーについて習ったかどうかとお尋ねしたら、今の10代の人の50パーセントは一切習っていないと。半分の方はそう言っていますし、否定的な情報とか同性愛は異常だという情報提供を受けた人は、23パーセントということもわかっていまして、この数字は肯定的な情報を受けた人よりも多い数字なんですね。

山田:こういう現状があるんですね。

佐藤:中学1年生のときにブラスバンド部だったんですけど、ある日私がいないときに、先生が部員の子みんなに「わかっていると思うけど、佐藤さんは病気だからね。わかってあげてね」って言ってたよって、友達から聞いたんですね。ちょっとショックでした、病気っていう言い方。

山田:それから先生の見方とか、対応の仕方とか変わったりしました?

佐藤:本音は言いにくくなりましたね。先生は私のことを病気って思っているんだって思いましたし、「そうじゃないんだよ」って言いたいんだけど、言えないっていう気持ちは、その当時ならではなんじゃないのかなって思います。

日高:自分のことを安心して話せない。それが「こういう自分じゃダメなんじゃないか」と、そんなふうに考えてしまって、結果的に傷ついたり、自尊感情を低めてしまうことにつながっていくんじゃないのかなと考えています。

山田:自尊感情がこの時期低くなるっていうのは、かなりつらいと思うんですよね。

佐藤:確かに。私は負けず嫌いなところがあったので、そんなこと言う先生だったら、こっちからいいやと思って。何も言わずにわかってくれる友達の方に、自分を受け入れてもらおうというよりも、仲良くしてればいいやって。

山田:でも、そうは行かない人たちもいるわけですよね。

日高:そうですね。佐藤さんのように、いいお友達が周りにいたという場合もあるでしょうけれど。そうじゃないと、孤立していくとか、誰にも話すことができないということになるんじゃないのかなと。

山田:Yくんのように、インターネットを使ったことによって、結果的に危険な目に遭ってしまう例もあるんですね。

日高:その背景に孤独感や孤立があって、それを埋めるためだったり、友達や恋人をつくりたいと思って出会っていくと思うんですね。若い子たちにしてみれば、本当は友達や恋人をつくりたいという思いだったのに、性的な関係だけで終わってしまうというところで傷ついてしまう。調査のデータを今まで見てきて、そういう子たちは決して少なくないということを、感じているところです。

山田:相談できる場所はないのでしょうか。

日高:本来であれば、教育相談、教育委員会、あるいは行政で行けば心の健康センターだとか、いろいろな窓口があるんですけれども、そこでセクシュアル・マイノリティーのことや、性の多様性のことを想定されていない。そこが壁になっているんだと思うんですね。

山田:なかなか、そういうところまで対策は行ってないという。

日高:SHIPのような場所にたどり着けた若い人たちは、すごくラッキーだったと言うか、本当に多くの人たちが、なかなか支援を受けることができない。どこに「助けてほしい」と声を上げればいいかがわからない、そういう現状にあるんじゃないのかなと捉えています。

山田:そういった心に傷を負ったまま大人になった人も少なくありません。その人を今回、取材しました。

子ども時代の“傷”が今も

(VTR)

ある地方都市で暮らす、みわさん(28)です。体の性は男性で、今は女性として生活しています。大人になった今も、10代のときの経験に苦しめられています。

みわ:学校に行っていたってことが全部マイナスっていうぐらい、何もいいことがないっていう感じ。もう記憶から消したい。なかったことにはできないですけど。

小学校へは男子として通い始めたみわさん。3年生のとき、「女っぽい」とクラスメイトからいじめられるようになりました。中学校に入ると、男性という性別に違和感を持ち始めます。女子の制服を着たいという気持ちが次第に強くなっていったのです。誰にも相談できないまま、3年生のある日、クラスメイトの制服を持ち帰ってしまいました。

みわ:最初は、ダメって言い聞かせる感じでいたんですよ。けど、それでは自分の気持ちが納得しないっていうか、抑えられなくなって……。「あ、着れる」っていう、嬉しさの方が大きくて。その気持ちも一時だけで、どんどん罪悪感の方が大きくなる感じで、結局自分を責める方向へ行きました。「なんで取っちゃったんだろう」みたいな。

「女性として生きたい」という気持ちを、行動でしか表せなかった中学生のみわさん。しかし、そのサインに周囲が目を向けることはありませんでした。

高校へ進んだみわさんを、さらに深刻な問題が襲います。「陰湿ないじめ」です。知らない間に女子の制服を鞄に入れられ、盗みの犯人にされる嫌がらせを2回も受けたのです。

みわ:「お前を見た奴がいるから、ちょっと来い」って、(先生に)相談室へ連れていかれて。「どこへやった」って怒鳴られて、完璧に犯人って疑ってた。もう自分の中ではすごくショック。なんで入っているのって状態で。

さらに、教師もみわさんを追い詰めました。「取っていない」というみわさんを相談室に閉じこめ、服を脱がそうとするなどの暴力をふるったのです。そのまま犯人にされたみわさんは、無期限の謹慎を言い渡され、退学へと追い込まれていきました。

みわ:最初の1か月はどん底状態でしたよ。生きる気もしないっていうか、先が見えないし自分が何なのかもわからないし。リストカットも当たり前のようにするし、「死にたい」ってしか頭になくって、もう抜け殻みたいな状態だった。

みわさんは今も精神的に不安定で、働くことができずにいます。

高校でのいじめや暴力から12年経った今も、精神科への通院が欠かせません。3年前には、睡眠薬を大量に飲んで自殺を図りました。子どもの頃学校で受けた傷から、みわさんは抜け出すことができずにいます。

みわ:いつまでこんなふうに死にたいって気持ちまで落ちるのかなとか。一生こんなふうに思っていくことになると、実際仕事を始めたとしても、会社側にも迷惑かかりますし。いっそ死んだ方がいいのかなって考えちゃう。

多様な“性”と生きている 10代の“傷”

(VTR終了。スタジオでのトーク)

山田:いかがでした?

佐藤:彼女が10代のときに経験したことが、今の足かせになっているっていうか。彼女の話を聞いていると、社会に出たり人と交わっていきたいという気持ちは、すごくあるんじゃないのかなって思ったんですね。でも、なかなか踏み出せない。そこで自分と戦ってしまう彼女のことを考えると、何とかしてあげたいなというか。それだけ10代のときに負う傷だったり、人からの言葉は大きなものなんだってことですよね。

山田:こういうふうに対応がひどい学校は、今もあるんでしょうか。

日高:性同一性障害だとか、中には性的指向のこともそうですけれども、先生方も頑張って前向きに取り組んでいこうという学校が増えてきていると思うんですね。その一方で、今回のような、あまり良くない対応、ひどい対応の学校がないとは決して言えない。

山田:この頃のことが、後々の人生にも影響を与えるものなんでしょうか。

日高:そうですね、中には1回の自殺未遂ではなくて、複数回という方もおられます。調査一般でわかっていることとして言えば、自暴自棄な気持ちだとか、自分を大事にできない、まさに自尊感情が低くなっている状態が、他の健康行動にも影響するということです。

山田:実際に自殺を考えたことがある人というのは非常に多いんですね。
岡山大学のジェンダークリニックの調査では、性同一性障害で受診した患者の6割近くが自殺を考えたことがあると。日高さんの調査、ゲイ・バイセクシュアル男性の調査では65.9パーセントの人がこれまで自殺を考えたことがある。さらに14パーセント前後の方は、実際に自殺未遂の経験があるということで、この数字を見ると非常に高いですよね。

日高:複数の要因が絡まりあって、嫌な出来事や傷つきの体験が自尊心を低めたり、メンタルヘルスを悪くするというふうなことが重なって、自殺未遂につながっていくんだと思います。

山田:VTRのようないじめもかなりの傷になりますからね。

日高:そうですね、学齢期にいじめ被害に遭った子どもたちというのは、特にこの集団では多いので、ずっと尾を引いていくんだと思います。

山田:周りの人は気づかないものなんでしょうか。

日高:今までいろいろなお話を伺ってきているんですけれども、「今思えば、自分の教員生活の中でずっと気になっている生徒がいるんだよね」と。いじめや不登校の背景として、性的指向や性同一性障害のことがあるのかなと、気づかなかったわけじゃない。だけれども、どう対応していいんだろうかと躊躇してしまって、そのまま卒業させてしまったというお話はたくさん伺っております。

佐藤:先生も難しく考えちゃうんですかね。きっと生徒のことをいろいろ考えてくれているんだと思うけど、ゲイとかレズビアンとか同性愛とか、いろんなセクシュアリティーがあるとかってことは置いておいて、生徒それぞれをひとりの人間として見てあげて、「そんなこと、どっちでもいいじゃん」って言えるぐらいの前向きな考えで接してあげた方がいいんじゃないのかな。

日高:伺った中では、「セクシュアル・マイノリティーの現状はよくわかった。自分なりに勉強した、研修も行った」けれども「知れば知るほど、どう対応していいか不安だ」とか「かえって傷つけてしまうんじゃないかと、躊躇しちゃう」と言う方もおられたんですが、佐藤さんがおっしゃるように、ひとりの人間としてどう対応していくか、そこに立ち返るってことなのかなとも感じています。

山田:佐藤さんはどんなことを感じますか。

佐藤:先生にとっては6年間だったり、3年間、もしくは1年間かもしれないけど、子どもたちにとっては一生続いていくということを理解してほしいなって思いますね。

山田:今日はありがとうございました。

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