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認知症 ~ケーススタディー篇~


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        監修=国立長寿医療研究センター・内科総合診療部長 遠藤英俊氏
        情報更新日=2013年7月25日

質問:16. 私が通帳を盗んだと言う母。どうしたのでしょう?

回答:
「物とられ妄想」とは

通帳や財布などをしまった場所を忘れたのに、誰かに盗まれた、隠されたなどと言い出すのは「物とられ妄想」の症状です。「物とられ妄想」は、認知症の初期に起こる症状で、「自立したいのにできない」現実を受け入れられないことが背景となって起こります。
認知症の症状には、「中核症状」と「行動心理症状」があります。中核症状は、病気によって脳の認知機能が障害されることによるもので、認知症の人誰もに現れる症状です。もの忘れや判断力の低下などがあります。行動心理症状は、心理状況や環境、生まれつきの性格が影響し合って起こります。全ての人に起きるわけではありません。本人が安心して暮らせる環境を整えたり、ケアの仕方を工夫することで症状が緩和することがあります。
「物とられ妄想」は行動心理症状の1つです。 「物とられ妄想」の原因は心理的なものなので、薬での治療はできません。普段はしっかりしているので「盗んだ」と疑われている人以外にはわかりにくいものです。周囲の人は、症状を理解した上で、疑われている人を守ることも大切です。

認知症の人の立場から考えてみる

「物とられ妄想」をしている本人の行動を分解してみましょう。

  1. 大切な物をしまう。
  2. しまったことを忘れる。
  3. 大切な物が目の前からなくなる。
  4. 周りの人を疑う。

分解してみると、認知症による症状は、(2)だけだとわかります。「疑う」という感情は、誰にでもあります。「物とられ妄想」は、認知症という病気によって「疑う」感情が強く出てしまうだけなのです。周囲の人は、このことをしっかりと理解することが大切です。

「物とられ妄想」への対処法を教えて!

介護する人と認知症の方との人間関係は様々です。基本的な信頼関係があれば、自分の対処が正しいかどうか、いちいち悩まない方がよいでしょう。その経過を見ながら、アドバイスするのが医師の仕事なのです。
妄想には、他にも「嫉妬妄想」や「被害妄想」などの複雑な症状があります。持って生まれた素質が重要な要因となって引き起こされ、刃物を持ち出したりなど、事故につながる場合もあります。中には適切な薬の処方によって穏やかになる場合もあるので、初期段階で受診し、認知症に精通した医師の判断を仰ぐことをおすすめします。なお、薬による副作用が起こりやすいので、症状の小さな変化を見逃さないよう、注意しましょう。

本人の人格を損なわないことが大切

「本人が言っていることが正しい」という考えのもとに対処するとよいでしょう。認知症の本人の身近にいる人が「盗んだ」と疑われる場合が多いですが、身近な人ほど本人が安心する状況がわかるはず。冷静になり本人が安心できるよう行動することを心がけてください。
認知症は「くっつき虫」のような存在と考えてみるのはどうでしょうか。他の病気と同じように病気が本人にくっついただけなのです。認知症の人は人格まで変わってしまったかのように思われがちですが、あくまで本人は変わっていないのだと認識し、人格を損なわないことが大切です。

わかってもらえそうな人に相談を

「盗んだ」と疑われている人の精神的負担は大変です。自分のつらさをわかってくれる人に話をすれば心理的に楽になります。
家族の会には、必ず経験者がいますので、相談をおすすめします。

質問:17. 「はいかい」の症状をどう考えたらよいでしょうか?

回答:
「はいかい」の症状には段階がある

「はいかい」は、段階によって現れる症状が違います。認知症の初期段階では、新たに覚えた場所への道順がわからなくなったり、よく知っている場所から戻ってこられなくなったりします。方向感覚がわからなくなる「見当識」の障害によって起こります。
認知症が進行すると、自分がどこに住んでいるのか、どこにいるのかさえもわからなくなります。例えば、徒歩では行けない遠い場所へ歩いて行こうとするなどの行動を起こします。
「はいかい」の症状によって対応も違ってきます。介護する側は、「時間、出かけた場所、保護された場所」などを具体的に観察し、記録しましょう。次に症状が現れたときの参考になりますし、医師が解決策をアドバイスするときの材料になることもあります。 

「はいかい」する目的を考える

「はいかい」という言葉の意味は、「目的なく歩き回る行為」ですが、認知症の人は、ほとんどの場合、何らかの目的を持って歩いています。本人が目的をうまく伝えられなかったり、周囲が察知できないのです。
「はいかい」の症状が現れたら、介護する側は、まず、目的を考えるところから始めるとよいと思います。目的がわかれば、解決の糸口が見つかることがあります。

夕食後は、脳が起きた状態にする工夫を

夕方になると脳が眠くなるので、どんどん混乱して「はいかい」へとつながることがあります。夕食前に昼寝や、一緒に散歩などをして、夕食後に脳が起きた状態にしておくと、混乱しにくくすることができます。

「もの忘れ」の症状を利用する

自宅にいるのに「家へ帰りたい」気持ちが起こり、「はいかい」することがあります。「帰りたい」と言い出したら、全く別の話をすると効果的です。「帰りたい」を過去にして忘れてもらい新しい「今」に気をそらすのです。

外出時に身につけるものに連絡先を

靴やお守り札など、外出時に身につけるものに連絡先を入れておくとよいでしょう。ただし、認知症の人の自尊心を傷つけないよう、気づかないように入れましょう。

質問:18. 「排せつ」の失敗はどうして起こるのでしょうか?

回答:
排せつを失敗する理由は認知症の段階によって異なる

排せつの問題で最初に現れるのは、夜間の尿失禁です。
通常は、慣れた場所だと暗くても何がどこにあるか勘が働くものです。認知症の場合、勘が働かなくなり、トイレの方向がわからず迷っているうち、我慢できずに失禁してしまいます。
認知症が進行すると、ドアが閉まっているとトイレだということがわからなくなったり、上手に身体を動かせなくなって、衣服の上げ下ろしに手間取るうちにもらしてしまったりします。認知症の段階によって、排せつに失敗する理由が違ってくるのです。
ただし、認知症の早期から尿失禁の症状が現れた場合は、泌尿器系の疾患などの可能性もあるので、医師の診察を受けることをおすすめします。

認知症の人の立場になって「排せつ」の行為を分解して考える

「トイレを探す」→「トイレに行く」→「下着をおろす」
というように排せつするときの行動を分解して考えて、認知症の人がどこにつまづいているのかを観察するとよいのではないでしょうか。どこで手伝いが必要かわかってきます。 

家の環境にあわせてできることを考える

暗くてトイレの場所がわからない場合は、夜間でも廊下を明るくしておく、トイレのドアを開けっ放しにして電気をつけておく、大きな貼り紙をしておく、などが効果的です。
風呂場や玄関など、トイレと間違えられそうな場所は、カーテンやブラインドなどでドアを目立たなくする工夫をするのもよいでしょう。
家の環境にあわせてできることを考えてみてください。

トイレに起きなくてもいいように周囲が声がけを

夜間、トイレに起きなくてもいいように、寝る直前にはあまり水分をとらない、トイレに必ず行くなど、周囲が気遣って声をかけてあげるとよいでしょう。

質問:19. 排せつ後、大便をトイレの壁やタオルになすりつけます。

回答:
事前にトイレに連れて行くなどの備えを

本人には悪気はなく、排せつ後の「異物感」が気持ち悪くて、お尻を手でふき、次に手の「異物感」を取り去るために、壁で手をふいているのです。タイミングを見て事前にトイレに連れて行くなど、先まわりして備えておくとよいと思います。
気持ちを大きく持ち、「周囲ができることをして、それでも失敗するなら仕方がない」と、割り切ることも必要です。

便器を取り替える

和式の水洗トイレの場合、簡単に排泄物を手にとれるので壁につけてしまう場合があるようです。洋式のトイレだと簡単に手にとれず、自動的に流れるものもあるので、場合によっては、便器を取り替えると有効かもしれません。

本人のプライドが傷つかない程度に声がけを

家族は、トイレに立つときには気を付けて、本人のプライドが傷つかない程度に、気遣って声をかける、扉を閉めないでおくなどするとよいです。

質問:20. オムツの利用をどう考えたらよいでしょうか?

回答:
本人の気持ちを考えて上手にすすめる

オムツを取り入れると、認知症の人の生活の範囲が広がるということもあります。普通の下着のような形をしているオムツもあるので、うまく使うとよいでしょう。また、本人の気持ちを考えて上手にすすめることが大事です。