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同志社大学社会学部 立木茂雄教授による分析

災害と障害者に関するNHKアンケート

2015年12月から翌年1月にかけて、首都直下地震の緊急対策区域および南海トラフ地震防災対策推進地域に指定された市区町村923自治体に、郵送調査を実施した。有効回収数は658件(有効回収率71.2%)であった。

1.避難行動要支援者の名簿の作成状況
避難行動要支援者の名簿の作成状況
避難行動要支援者の名簿の作成状況表

避難行動要支援者の名簿とは、災害時に自力で逃げることが困難な人の住所などを記載した名簿である。災害時にこの名簿を用いて自治会・民生委員・自主防災組織などが避難支援や安否確認を行うために作られている。平成25年の「災害対策基本法」の改正によって、避難行動要支援者の名簿作成は自治体の義務となった。今回の調査では回答した自治体のうち80%の自治体が名簿を作成済みと答えており、またその他の多くの自治体でも作成に取り掛かっているようである。しかしながらそういった状況の一方で、その活用には課題が残っている。例えば、昨年9月の関東豪雨災害では、名簿は作成されていたものの、実際に活用されていなかったという事例が報告されている。これからは名簿の作成だけではなく、「どのように活用していくのか」という議論が各自治体の急務となっている。

2.避難行動要支援者の開示を決めている組織
民生委員
自治会
自主防災組織
民生委員表
自治会表
自主防災組織

避難行動要支援者名簿は活用の観点からみても、平時から地域に開示することが重要である。特に、民生委員だけでなく、自治会や自主防災組織への開示が重要となってくる。今回の調査によると約半分の自治体で自治会や自主防災組織への名簿の開示がなされていることがわかった。個人情報保護などの問題がある中で、災害対策基本法の改正から3年でこの水準まで達成できていることは評価できることである。

3.名簿は必要な人をカバーできているか
名簿は必要な人をカバーできているか
名簿カバー状況

まず前提として、名簿の作り方には様々な方法がある。要支援者本人が自ら手挙げて名簿に登録する「手挙げ方式」、自治体が要支援者本人に働きかけ、名簿への登録について同意を得る「同意方式」や、本人の同意がなくとも福祉関連部局などで情報を共有する「関係機関共有方式」などが存在する。これらの手法には一長一短があり、自治体はこれらの方法を組み合わせ、名簿作りを行うこととなっている。また名簿にどのような人を登録するかの基準は自治体によって異なっている。
名簿に登録すべき人すべてをカバーすることは、非常に難しいことである。例えば日中、独居であったり、(一見しただけでは分からない)障害のある人、難病を抱えている場合(難病患者の名簿などは市町村ではなく県で管理している)などが考えられる。他にも自治体の名簿登録の基準を満たさないがために、本人が希望しているにも関わらず名簿に登録されないこともある。こういった理由から約8割に及ぶ自治体が名簿は必要な人をカバーできてないと答えている。この反応はある種、想像できるものである。むしろ問題となるのは「名簿は必要な人をカバーできている」と答えた22%の自治体が、本当にカバー出来ているのかということである。今回の調査の分析によると法律で設立が義務づけられている自立支援協議会のなかで障害当事者や関係者と議論を行っている自治体の方が「名簿は必要な人をカバーできていない」と答える傾向があった。抜け・漏れ・落ちのない名簿の作成には、当事者との話し合いが不可欠であり、そのためには時間がかかるのだと考えた方が良い。

「名簿は必要な人をカバーできているか」と「自立支援協議会で災害の体制を議論しているか」のクロス集計
4.福祉避難所の指定の状況
福祉避難所を指定しているか
福祉避難所有無

福祉避難所とは、一般の避難所で暮らすことが困難な人たちのために、様々な配慮がなされた避難所のことである。具体的には障害者施設や高齢者施設などが指定されている。今回の調査では、1箇所も指定していないと答えた自治体は7.1%。9割を超える自治体が一箇所以上福祉避難所に指定していると回答した。そういった福祉避難所がきちんと指定されている点に関しては評価すべきであるが、その運用については要支援者名簿と同様に課題が残っている。例えば、必要に応じて一般の避難所に専門の担当者がいなかったために、困っている要支援者を発見できず、福祉避難所を活用できないなどの事例がある。福祉避難所を指定するだけでなく、活用する体制づくりが必要となっている。

要支援者へのニーズと合っているか
要支援者へのニーズと合っているか表

福祉避難所の指定自体は多くの自治体でされていることは確認できたが、「その福祉避難所が要支援者のニーズに合っているか」という問いには多くの自治体が「合っていない」と答えていた。その背景には、全項でも指摘したように自立支援協議会などを通じて直接障害当事者や関係者との話し合いを始めている自治体は全体の3割以下に留まっており、多くの自治体では要配慮者の声を聞くことができていないことや、収容可能人数の問題など様々な問題があることが伺える。

5.指定避難所での合理的配慮の提供について
対応職員の配置を決めている
対応職員の配置を決めている表
配置ペースを決めている
配置ペースを決めている表
視覚・聴覚障害への情報保障を決めている
視覚・聴覚障害への情報保障を決めている表

福祉避難所の活用にも直結する問題が、一般の避難所での要配慮者への対応である。平成28年に施行される障害者差別解消法では、要配慮者への合理的配慮の提供を国や地方公共団体の義務として定めている。合理的配慮とは障害の有無によって機会の平等が左右されないようにする「変更や調整」のことである。合理的配慮は、平時はもちろん災害時にも不足なく提供されなければならない。内閣府は災害時の合理的な配慮の例として、筆談、要約筆記、読み上げ、手話、点字など多様なコミュニケーションや本人への説明の上、施設の状況に応じて別室を準備することなどを挙げている。
今回の調査の結果に目を向けると、一般の指定避難所での配慮スペースを決めている自治体は全体の約3割程度あったものの、避難所に要配慮者への対応職員を配置している自治体は20%に満たなかった。さらに視覚・聴覚障害者への情報保障については、わずか5%の自治体でしか準備ができていなかった。こういった現状は、避難所内での要支援者の生活をより困難なものにするのと同時に、福祉避難所へ移ることを希望する人を見つけることができないという結果を招く原因の一つとなっている。

差別化仕様に向けて見直す
2016年4月に向け見直しをした

多くの自治体では避難所での合理的な配慮の準備が整っていない。その一方で、2016年4月から「障害者差別解消法」は施行され、自治体にとって合理的な配慮の提供は義務となる。それにも関わらず「障害者差別解消法」に向けて避難所での対応の見直しを行った、もしくは行う予定であると答えた自治体は全体の1%に過ぎないということがわかった。このことは非常に由々しき問題であるといえる。

個別避難状況策定状況
個別避難状況策定状況表

合理的な配慮の提供のためには、地域に暮らす一人ひとりについて、「災害時にはどのような配慮の提供が必要か」について、把握しておくことが必要である。そういった情報を平時から把握しておくことによって、災害時でもあわてることなく、必要な合理的な配慮の提供が可能となる。このような状況を踏まえ、国は「個別避難計画」の策定を呼びかけている。「個別避難計画」とは避難行動要支援者に一人ひとりについて、居住状況、地域支援者、情報の伝達、避難時の合理的な配慮を提供する際の留意点などをの情報収集し、災害時に要配慮者への適切な支援が行えるようにする計画である。しかし現状での策定状況は、半分の自治体ではまだ策定されておらず、名簿8割以上の策定が完了している自治体は全体の12%に留まっていた。

6.災害時の合理的配慮の提供に熱心に取り組んでいる自治体はどこか

災害と障害者に関するNHKアンケートの主な目的の一つとして「合理的配慮の提供について、どれほど熱心に取り組んでいるかの把握」が挙げられる。そこで、「合理的配慮の提供に関する取り組みの熱心さ」という指標を用いて、どのような自治体がより熱心に合理的な配慮の提供に取り組んでいるかを明らかにしたい。最適尺度法という統計手法を用いて、各質問に対する回答に点数をつけ、その合計点が最終的な得点となる。

避難所での要配慮者への対応として視覚聴覚障害者への情報保障を行うことを決めている
避難所での要配慮者への対応として配慮スペースを決めているか
避難所での要配慮者への対応として視覚聴覚障害者への情報保障を行うことを決めているか
避難所での要配慮者への対応として自立支援協との議論
防災主管と福祉主管との連携

例えば問10-1「避難所での要配慮者への対応として対応職員を配置しているか」という質問に対して「対応職員の配置を決めている」と応えた場合は1.210点加算され、「あてはまらない」と応えた場合-0.262点となる。自治体ごとに6問の点数を合計し点数が高かった自治体、つまり合理的配慮の提供に関する取り組みを熱心にしている自治体を地図上に示したのが以下の地図である。

地図

合理的な配慮の提供に関する取り組みに熱心に取り組んでいる自治体は緑色で示されている。緑の色が濃いほど、より熱心に取り組んでいる。この地図をみると、首都圏や東海地方、近畿地方などの海に面した自治体ではより熱心に合理的配慮に関する取り組みが行われていることがわかる。
(文責:立木茂雄)

謝辞
 今回の災害時の障害者や要配慮者への対応を問い合わせる自治体調査データの解析は、同志社大学社会学部立木茂雄ゼミの3回生、4回生の諸君がボランティアで協力してくれました。データの精査、基礎集計、クロス集計、合理的配慮の提供への取り組みの熱心さの地図化などでは、立木研究室の松川杏寧特任助教にもサポートをいただいています。ここに記し感謝申しあげます。

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