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番組ガイド
がんサポートキャンペーン 第3回 2005年2月14日放送  揺れる抗がん剤イレッサ

 肺がんは日本人のがんで最も死亡率が高く、発見されたときに手術できる例は、4人に1人にすぎません。

 その上、効果のある抗がん剤が少なく、治療の難しいがんと言われています。
 そんな中、2002年7月に承認されたのが肺がん治療薬「イレッサ」です。
 副作用も少なく、劇的な効果がある「夢の新薬」と期待され、世界に先駆けて5ヶ月という異例のスピードで承認されました。しかし、承認直後から服用した患者さんが亡くなるなど、イレッサは様々な問題となってきました。
 今回はその揺れる抗がん剤「イレッサ」をめぐる現状、そして今後、日本ではイレッサをどうすべきなのか、さらに一連の出来事を通して、抗がん剤治療のあり方、薬の安全性について、今後の課題は何かを考えました。

ゲスト:沖原幸江さん(肺ガン患者の会代表)、佐々木康綱さん(埼玉医科大学臨床腫瘍科教授)、小出五郎NHK解説委員
1. 相次ぐ副作用死の背景
横山さん

 横山文野さんは3年前、肺がんと診断され、抗がん剤治療を受けてきました。しかし、病状の進行は止まらず、体力的にも治療に耐えられなくなった去年5月、医師からイレッサを提案されました。

「ここで飲まなければ、遅かれ早かれがんで死ぬでしょうが、薬を飲んだら肺炎で1か月以内に死んでしまうかもしれないとも思いました。でも、もう、それしかなかったからですから。あと、副作用対策はちゃんとやりますということを言われたので、信頼するしかないなと思いました。」(横山さん)

 イレッサを飲み始めて2週間、効果が表れ始めました。肺に点在していた白い小さな腫瘍の影が消え、全身を襲っていた激痛もなくなりました。
  退院後も、イレッサの服用は続いています。仕事を再開した横山さんにとって、一番大切なのは今の生活を維持することであり、その為にはイレッサが欠かせません。
  副作用死の波紋をうけ、既にイレッサを服用している患者からは承認を取り消さないでほしいという切実な声が上がり始めています。

横山さん

 「私は、肺がんのステージ4なので、完治の可能性はほとんどないと今の医学では言われています。現状維持というのが目標ですから、あまり積極的に攻撃して攻めの治療をやるよりも、ある程度良い状態が保てるのなら、そちらを長く続けていきたい。
  制限したり、承認取消にしたりというのではなく、継続して使える様にしてもらいたい。そして、使えるドクターをある程度絞ったり、講習研修を義務づけたり、何かそういう形で安全に使い続けられるようにして欲しいと思っています。」(横山さん)

2005年7月28日 横山文野さんはご逝去されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。横山さんが私たちに問いかけて下さったことを大切にしながら、これからもがん医療の向上を考えていきたいと思います。

イレッサ

 従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく、正常細胞にも作用するため、重い副作用が起こってしまいます。一方、新たに登場したイレッサはがん細胞だけに作用する“分子標的薬”と呼ばれ、効果が大きく副作用が少ないと言われていました。さらに、経口薬の為、自宅で服用できる点が、患者にとって大きなメリットでした。
  しかし、市販直後の2002年10月から副作用死が相次ぎ、発売後半年で173人が亡くなりました。去年11月には、遺族が製薬会社・厚生労働省を相手に訴訟を起こしました。遺族は「副作用については、何も知らされてなかった」と訴えています。

 さらに、去年12月、日本を除くヨーロッパを中心に世界28か国で行われた臨床試験では、延命効果がないという衝撃的な臨床試験結果が発表されました。EUでは承認申請取り下げ、アメリカは市場回収を示唆するなか、日本でもイレッサ検討委員会を立ち上げ、検討が始まりました。

 京都大学薬剤疫学の研究室では、イレッサに関する臨床試験のデータや資料を詳細に分析しました。その結果、福島教授は、薬の説明書、添付文書に問題があると考えました。イレッサ発売直後の医療機関に向けた添付文書には、「重大な副作用」の欄の一番最後に間質性肺炎が載っていますが、死に至る危険性についての記述はなく、発症頻度も不明となっています。

京都大学・福島雅典教授

 「添付文書に重要な副作用が全然あがっていないんです。医者や患者さん、看護師、薬剤師にとっても、最も拠り所となる情報というのは、添付文書です。なのに、報告されている副作用を添付文書にあげず、医療関係者に伝わらなくなってしまったというのは、重大な問題です。」(京都大学・福島雅典教授)

 その後、添付文書は8回改定されました。最新版では、文書の冒頭で、間質性肺炎が死に至る副作用であることが警告されています。厚生労働省も、死に至るほど重篤な間質性肺炎が頻発するとは、予想できなかったと言います。

厚生労働省 安全対策課長 平山佳伸さん

「治験の段階だけで、100%副作用を捉えるのは不可能ですので、市販をして、経験を積みながら、副作用の種類や頻度などが積み重なっていく。そういうふうにやっている限りは、常に新たな事が起こったときに遭遇される方がいるわけです。」(厚生労働省 安全対策課長 平山佳伸さん)

 承認から1年半後、市民グループ・薬害オンブズパースン会議によって、死亡した患者家族36例への、アンケート調査がまとめられました。アンケートによれば「肝臓がんの患者にまでイレッサが投与されていた」というような医療現場の実態が明らかにされました。
 その医療現場の立場として、国立がんセンター東病院長は次のように振り返っています。

国立がんセンター東病院・吉田茂昭院長

「一般の開業の先生や、がんの専門でない人達も含めて、イレッサで治せるというふうに思って、適応でない患者さん、例えば、肺臓炎を既に持っている患者さんなどにもたくさん使われてしまった。そういうこともあり、予想もしない様な有害事象が、かなり高率に出たのではないかと思います。」(国立がんセンター東病院・吉田茂昭院長)

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沖原さん

沖原: 私も肺がんの患者で、かかってみて知ったのですが、肺がんというのはとても悪性度が高く、決定的に効く薬がないんです。そんな中発表されたイレッサは、夢の新薬だと7月の承認を心待ちにしていました。しかし実際には、投与された患者さんが亡くなってから初めて、死亡例があったことを知らされたんです。そういう意味ではとても残念なことだったと思います。

佐々木医師

佐々木: 効く場合、効かない場合の二面性がある、非常に特徴的なお薬です。効く患者さんには驚くほど効き、実際に年単位で完全に病気が消えている方がいらっしゃる。こういった薬というのは、今までかつてありませんでした。しかし、三日目に間質性肺炎を起こされた患者さんもいらっしゃる。つまり、どういった患者さんにメリットがあって、どういった患者さんが危ないかということを、まだ正確には予測し得ないという点が非常に使いづらいお薬です。

臨床試験の概念図
臨床試験の概念図
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 そもそも、抗がん剤がどのように承認されるかといいますと、まず第 I 相という試験が行われ、この薬の安全性について、臨床試験を行います。そして、第 II 相で、腫瘍縮小効果(この薬が腫瘍にどの程度縮小効果を表すのか)を見ます。一般の薬の場合は有効性を見る第 III 相の後に承認となりますが、抗がん剤の場合は、承認を早くしたいということもあり、この第 II 相が終わった段階で承認をしています(抗がん剤の場合の第 III 相は、薬の延命効果、この薬を飲むとどれだけ延命できるのかを意味します)。

イレッサの被害が拡大した原因
イレッサの被害が拡大した原因
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佐々木: 抗がん剤の臨床試験の問題点は、認可される前に得られたデータが“極めて限局的なデータ”でしかなかったという所です。限局的とは “がんが縮むということが寿命を延ばすためには非常に有効なものさしになる”という考え方です。しかし現実には、第 II 相試験でがんが縮んでも、必ずしも第 III 相試験で延命があるとは限りません。
 現行の厚生労働省のガイドラインでは“がんが縮むということが確認された時点で、できるだけ早く新しい薬剤を患者さんの手に”というコンセプトから認可されますが、最も重要なのは、第 III 相試験でそのお薬が本当に有効・有用なのか、寿命を延ばせるのか、患者さんの苦痛を取ることができるお薬なのか、ということを検証することが一番重要なのです。

沖原: イレッサが出る前は、『明日まで生きていれば新しい薬が出るかもしれない』と言われてもなかなか信じられなかった。自分たちが生きている世代ではそれはないだろうと思っていましたが、イレッサがそういう体験をさせてくれました。
 抗がん剤というのはすごく副作用が大きいものですから、副作用と主作用と天秤にかけて決めていくという中で、なるべく早く効果がわかった段階で使いたい、というのは患者の心理だと思います。

小出: 抗がん剤の場合は第 II 相で承認されます。承認されると、普通のお医者さんならば、特に抗がん剤の専門家でなくても誰でも使用することができる。承認されるとはそういう意味なんです。
 しかし、イレッサなどの抗がん剤の場合は、使いながら問題点を見つけていきます。完成していないものを使うわけですから、途中で修正しなければいけません。その修正で重要なのは、やはり情報です。どんな副作用があったのかなどを調べて、集めて、それを評価して、またみんなに知らせる、それがきちんと行われないとなかなかうまくいかないでしょう。
小出五郎NHK解説委員  つまり、修正しながら使うということは、極めて慎重に使わなければいけないのに、一旦承認されると、もうそれが全然関係なくなってしまうというところに無理があります。抗がん剤を使うという条件が整ってないことになりますね。

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2.イレッサと向き合ってきた患者と家族

 〜結城富美子さんの場合〜
 尼崎市に住む結城富美子さんは、2002年春、肺がんと診断されました。
既にそのときには胸や腰の骨に転移しており、余命2ヶ月と宣告されました。激しい痛みで歩けなくなり、車いすの生活を余儀なくされた結城さんを奇跡的に回復させたのが、イレッサでした。

結城さん 「この薬があったから、私は生きられているんだという想いがあります。そのイレッサがなかったら、今はないでしょう、多分。」(結城さん)

 結城さんにイレッサを勧めたのは、「夢の新薬誕生」という記事を目にした夫の俊和さんでした。
 開発されたばかりのイレッサを服用できないか。結城さんは尼崎市内にある総合病院に向かいました。この病院では2年前から、イレッサを初めて服用する患者には、必ず4週間入院してもらう体制をとっています。医師が、副作用の症状をいち早くつかむためです。その結果、これまでにイレッサを服用した患者は40人。その内2人に間質性肺炎が見られましたが、いずれも迅速な対処で回復。最悪の事態を防いでいます。

 結城さんの主治医、腫瘍内科医の後藤浩之医師にとって結城さんは、初めてイレッサを処方する患者でした。しかし真っ先に間質性肺炎のリスクについて説明しました。

後藤医師

 「私は呼吸器専門で、薬剤性の間質性肺炎の症例を見ているんですけども、かなり起こると命が危ない。風邪薬でも起こす人は起こします。やはりイレッサに限らず新しい薬の場合は、そのことを念頭に置いておかないといけないと思います。」(後藤医師)

 2002年10月。主治医の説明を聞き納得して薬を飲み始めた結城さん。しかし、その矢先、衝撃的なニュースが飛び込んできました。イレッサを服用した患者13人が副作用で死亡、という報道でした。瞬く間に、患者の中で不安が広がり始めました。期待していた薬への絶望感。一方で、被害が拡大すれば大事な選択肢であるイレッサが使用中止になるのではないかという切実な声もあがっていました。

 「私にとっては命の綱だから。私にとってはイレッサを取り上げられるということは、私の命を絶たれるような気持ちがしました。」(結城さん)

 医師から副作用の説明を受けていたものの、新たな不安を感じた結城さんは、自ら、薬の効果とリスクについて情報をかき集めました。そして診察のたびに、疑問や不安を積極的に主治医に伝え、判断を仰ぐことにしたのです。

後藤医師と結城さん

 後藤医師は、患者の疑問や不安に答えるため、出来る限り具体的なデータや資料を渡して説明するようにしています。
 中でも重視しているのは、自宅でイレッサを飲む時の注意点です。副作用の初期症状がどのようなものか、患者自身が分かるように詳しく書いた表を手渡しています。更に、診察のたびに酸素濃度を計ります。これはレントゲンにも現れない肺炎の兆候を見つける目安になります。

 イレッサを飲み始めて2年。骨に転移していた腫瘍も縮小し、結城さんは普通の暮らしを取り戻しました。今、結城さんにとってイレッサは、一日一日を精一杯生きるために欠かせないものになっています。
 そして、今日も1錠、イレッサを飲む結城さん。
「これを飲むとすごい元気になるような気がするんですよ。」(結城さん)

 結城さんは、医師と患者がともに細心の注意をはらうことで、イレッサを飲み続けることができると考えています。

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〜荒木 洸(こう)さん・峰子さん夫妻の場合〜
 埼玉県に住む荒木峰子さんは、おととし、夫の洸さんを肺がんで亡くしました。がんがわかったときには既に病状は進行し、手術はできないと医師から言われました。
 標準的な抗がん剤治療かイレッサのどちらかという選択肢から、洸さんは、副作用による間質性肺炎で死ぬ場合もあるという説明を受けたイレッサを選びました。

荒木さん

「先生は、イレッサは1日に1錠飲むだけで良いと。ところが、簡単に言うと、これは効く人にはものすごく効きます。効かない人には全然効きませんと。荒木は、『俺は苦しいのはもうイヤ、痛いのはまっぴらごめんだ。どっちみち生きてもしれてるし、僕は仕事はもうやるだけやった。この薬を1錠飲むだけだから、簡単で良い。お母さん、どうだい?』って言うから、私はお父さん、十分・・・もう思い出すと涙が出てくる。幸せでしたからね。いいんじゃないのって言ったんです。」(荒木峰子さん)

 1ヶ月のイレッサの服用を試みましたが、残念ながら効果は表れず、服用を中止しました。それから1週間後、急に体調を崩した洸さんは緊急入院。副作用である間質性肺炎により9日後亡くなりました。
  しかし、荒木さんは後悔していません。

「荒木が一番幸せでしたね。そりゃ私は生きとって欲しいですよ。でも荒木のためには良かったですね。苦しまなかったし。暴れることもなかったし、ものすごく先生を信頼してましたからね。」(荒木峰子さん)

沖原: がんにかかるといろんな数字が患者に提示されます。例えば、5年生存率だとか、腫瘍の縮小効果が何十%であるとか。でもそれは、自分のことではなく、今までの患者さんのデータの集積でしかないんです。
 何かを選んだときに、そのあと何が起こるかというのは、医療者にも分かりませんし、我々患者にも分からないわけです。
 主作用と副作用、何が起こるのか。それが、白血球が減ったり、脱毛だったり、入院しなきゃいけなかったり。また、自分がどうやって生きていくのか、家族と家で過ごす事が大事なのか、あるいは自力で生活することが大事なのか。そういったことを天秤にかけて選択し、薬を選ぶという段階で、医師と患者の意思の疎通がとても大事だと思います。その選んだ薬を安全に使うために、たとえば体調を報告するとか、あるいは、お医者さんから情報をもらうとか、そういう意味でも意思の疎通は大事だと思います。

佐々木: イレッサの経験から学んだことは、飲み薬だからといって、安全な薬であるとは言いきれないことです。
 ましてや非常に新しい作用基準を持ったお薬であるがゆえに、市販された後もきちんとモニターしていかなくてはなりません。さらに現実に肺がんに対してイレッサを処方されている先生方というのは、呼吸器内科医か、もしくは必ずしも、がん薬物療法の専門ではない呼吸器外科医の先生です。呼吸器内科医の先生であっても、たとえば喘息だとか、睡眠時無呼吸症候群のような、がんとは違う部分が専門で、必ずしもがんの専門の先生というわけではない先生も処方しているのも現状です。
 こう考えてみますとやはり、最近よく強調されますが、がんの薬物療法の専門医、もしくは腫瘍内科医の育成と専門医の確立というのが、やはり早急に望まれるのではないかと思います。

小出: 日本は海外に比べて専門医がはるかに少なく、日本とアメリカの有名ながんセンターを比較したデータでは、職員の数がアメリカは日本の7倍以上だといいます。当然抗がん剤の専門家もその中にいますし、サポートするスタッフが多いでしょうから、情報のやりとりもたくさんできるわけですね。
 やはりそういう水準というのは、もちろん制度の違い、いろいろありますが、今の日本の病院は、そういう意味ではちょっとぎしぎしではないかと。やはり、こういったことを改善していくことが重要なポイントであり、同時に、改善するまで待っているわけにはいかないのは、患者として当然ですよね。

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3.薬の効果を見極める最先端研究

  去年5月、イレッサが腫瘍を小さくする仕組みを明らかにした、重要な論文が発表されました。

遺伝子変異

 細胞にはEGFRというタンパク質があります。がん患者の何割かは、この遺伝子が変異してEGFRに変化が起こり、がん細胞を増殖させる信号が活発化します。イレッサは、この変化が起きた所に作用し、信号を抑え、がん細胞の増殖を止めるとされています。

 京大病院では、肺がん患者のEGFRの遺伝子が変異しているか否かを調べる方法を研究しています。これまで遺伝子変異のある患者9人がイレッサを服用し、全員が腫瘍が小さくなりました。そのうちの一人の男性は、肺がんが再発した際に、遺伝子検査を受けました。その結果、遺伝子変異が見つかり、イレッサを服用。そして、服用1ヶ月後には腫瘍はほぼ消えました。

京都大学病院 田中 文啓医師

「イレッサを使うかどうかの判断にとって、患者さんが考える材料の一つとしては、非常に大きいだろうと思います。」(京都大学病院 田中 文啓医師)

佐々木: 遺伝子の変異のあるなしで事前にイレッサの効果を予測できるようになることは、非常に重要な研究テーマです。現実には、今までの抗がん剤と違って、分子標的治療薬という種類の薬剤は、それが可能ではないかと考えられています。
 実際、何種類かの新たな分子標的治療薬では、そうした患者さんの事前のがんの顔つきに基づいて、効く患者さんを選別できており、そういった方法が現実に日常の医療の場でも行われています。
 ですから、イレッサについてはEGFRの変異があるということが本当に患者さんの選別につながるのかが一番大きなポイントです。埼玉医大の経験では、遺伝子変異がない患者さんでも効いてる方がいらっしゃるのです。その辺の遺伝子変異で全てが説明できるかという部分はまだ分かっていませんし、これは今後の非常に大きな研究課題です。

沖原さん

沖原: このような事前に分かる判断材料があるとうれしいですよね。自分に効くのか効かないのか、副作用が出るのか出ないのか、事前に分かるような検査ができていけばすごく安全に使えますし、使いながら不安になるようなこともないですよね。  それと、今回のような、海外では延命効果がなかったといっても、実際には効いている方がたくさんいらっしゃるわけで、その点をよくふまえて判断をして欲しいですね。

 <延命効果に関するプレスリリース>
 昨年12月、製薬会社から、世界28カ国1692名の患者が参加して行われた臨床試験の結果が報告されました。イレッサを飲んでいた人の生存期間の延長、つまり延命効果が示される結果が出なかった、と報告されています。しかし、日本人の方はこの中には入っていません。ただ、日本人以外のシンガポールやマレーシアなど東洋人374人の方が入っており、この患者さんを対象とした解析によると、“生存期間の延長にこのイレッサが役に立っている、ということが示唆された”という表現で報告されています。日本の方に効くかどうかという点については、日本では今この延命効果についての第 III 試験が現在行われています。その結果が出るのはしばらく先ですので、日本人についてはここはまだ分かっていません。ただ、今回報告されたこの海外の例は3月により詳しいものが発表されます。それを受けて厚生労働省は、そのデータを基にこのイレッサについて扱っていくべきなのか、再び検討会を開くことにしています。

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佐々木医師

佐々木: 専門的になりますが、全体で効いていない、ただ、東洋人を抜き出してみると効いた、というような解析は、参考にはなりますが、それで最終的な結論にはなりません。
 今まで抗がん剤というのは、日本人に使ってもアメリカ人イギリス人に使っても同じように効いてくるという大前提で開発が進んでいました。要するに、人種差によって抗がん剤の効き目が違うかもしれないという事例は、今回が初めてなのです。
 ですから、今まで海外でいいデータが出たら、そのデータを日本人の患者さんに当てはめようということで済みましたが、海外の臨床試験がうまくいかなかったとき日本はどうするのか、というのが今直近の課題です。
 そしてもう1点、現在日本では第 III 相試験が行われていますが、その結果で今問題となっている全ての問題が解決されるわけではないのです。
 こうしていろんな経験を積んで、いろんな事が分かってきました。遺伝子の情報も分かってきたと。そうすると、今の段階で分かった知識に基づいて、新たにいくつかの方面から臨床試験を設定して再評価、もしくは評価を完成させるという作業が早急に必要になってきます。ただ、ここで非常に需要なポイントは、そういった評価を行うから、現在非常によく効いてメリットが得られている患者さんからお薬を取り上げるというのは本末転倒なことではないかと思います。

小出五郎NHK解説委員

小出: ひとつ考えるべきなのは、私たちの国で薬害という歴史があるということ。
 副作用があるのに売り上げを伸ばす為に隠して売り続けた、という大変な薬害がありました。そうすると、悪いのはそういうやり方なのに、薬そのものが悪いとされて葬られてしまった。たとえば、サリドマイドなどはその例と言われてますが、そういうことを繰り返さないようにしたいと。  それから、このイレッサのケースをきっちりやると、日本の医療の安全・安心というところで、非常に大きなターニングポイントになり、新しく開けていくんじゃないでしょうか。そういう意味でもイレッサについてちゃんとやっていただきたいですね。

沖原: がんにかかると、今までに日常になかった初めて聞く情報がたくさんあります。だからお医者さんにまかせるのではなく、お医者さんをはじめとした医療者と一緒に、患者も家族も考えていくことが必要なんじゃないかと思います。
 私も自分自身が納得できる治療法を選び、自分がどう生きたいのかを考えていきたいなと思います。

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