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番組ダイジェスト

“働く”を見にいこう! 聞こえない医師・藤田保さん

2015年3月29日(日)放送

聞こえない学生が、聞こえない先輩を訪ね、
働き方について話をうかがう、「働くを見に行こう」!

今回、先輩を訪ねるのは、皆川愛(みなかわ・あい)さん、22歳。
大学の看護学部に通う4年生です。

実習では、手話通訳をつけましたが、
患者さんへの対応に不安を感じています。
研究職に進んだ方が良いのか、迷っているといいます。

(皆川さん)
医療現場は予想外のことが多いんです。
もし何か起きたときには音がしますよね。
でも、その音が聞こえない場合は
患者さんをとっさに助けに行くことができません。
そんなときにどうしたらいいんだろうって、
今いろいろ悩んでいる最中なんです。

皆川さんの悩みに答えるのは、この人!
中途失聴の医師、藤田保(ふじたたもつ)さんです。

(藤田さん)
聞こえない医療従事者の役割は、小さいとは言えないと思う。

医療現場で必要な心構えとは何か。
聞こえない当事者だから出来ることは何か。
先輩の経験に学びます。

看護師を目指す学生×中途失聴の医師

今回、訪ねたのは、滋賀県・大津市にある、琵琶湖病院。

(藤田さん)
こんにちは。

精神科医の藤田保さん、66歳です。
29歳のときに失聴、両耳は全く聞こえません。

この日の仕事は、入院患者の回診。

(藤田さん)
おはようございます。

(患者)
おはようございます。

診察中、患者さんの話は病院の手話通訳士が訳します。

(藤田さん)
夜はよく寝られますか? 

(患者)
寝られます。

(藤田)
寝られる、うん。
最近どうかな、夜の睡眠は。

(看護師)
落ち着いておられます。

そして藤田さんが
特に力を入れているのが、
「聴覚障害者外来」。

精神科と内科、
両方の患者を受け入れています。

手話や筆談で会話ができるため、
安心して診察を受けられます。

患者との関係 どう築く

それでは早速、話をうかがいます。

(皆川さん)
聴覚障害者が来てお話をする中で、一番大切にしていること、
心がけていることがあれば教えてください。

(藤田さん)
精神科の場合は、患者さんが自由にリラックスして、
話ができることが一番、基本的には大切になりますので。
病院の職員にもまず強く言ったことは、
一番理解できるコミュニケーション手段を早く見つける。
できるだけ手話で、対応する。
補聴器をしている人が聞き取りやすい話し方がありますし。
補聴器が使えない人の場合は筆談をする。

(皆川さん)
自分にあったコミュニケーション方法が、
一番心を開いて話しやすいですよね。
逆に聞こえる患者さんにとっては、
立場の違い、言葉の違いがありますよね。
信頼関係をつくるのが難しいこともあるんでしょうか?

(藤田さん)
聞こえる患者さんがはっきり「不満」ということは少ないです。
逆に、私が障害を持っているから、
言いやすいという患者さんもいるように思いますね。

(皆川さん)
そうなんですね~。

(藤田さん)
患者さんもある意味では、障害をもっているわけですから
どんな援助をすれば、適切なケアができるかは、
自分も障害をもっていて、体験からわかる面もあるんです。

(皆川さん)
聞こえる患者さんと関わるときに
コミュニケーションにズレがないかとか、
きちんと把握できているかとか、そういう不安はありますか?

(藤田さん)
それは当然あります。
だからできるだけ、例えば手話通訳を利用するとか。
病院側に頼んで。
それが言えるようにならないと。
とにかくできないこと、できることを周りのスタッフに言って。
日頃からとにかく、コミュニケーションを上手にとること。
まわりのスタッフとの関係作りがうまくいけば、
まわりからの協力は得られると思います。

藤田さんは、29歳の時、両耳の聴神経腫瘍を切除。
聴力を失いました。
患者として病院に通う中、聞こえない不便を痛感したといいます。

(藤田さん)
病院の受付で、私は聞こえないから
手招きで呼んでくださいと言っても、なかなかしてもらえない。
だから私の1人前に待っている人の顔や服装を覚えてね。
もし、前の人が呼ばれたら、
自分も呼ばれたんだろうと思って受付に行く。
それは本当に気を遣うし、疲れることです。

「病院には聴覚障害者への配慮が足りない」。
そう感じた藤田さんは、
自分が勤める病院に
聴覚障害者外来の設置をうながしました。

提案が認められると、藤田さんは手話講習会を開きます。
聴覚障害について学ぶ機会も設け病院全体で
患者を迎える体制を整えます。

こうして1993年、日本初の聴覚障害者外来がスタート。
手話で診察を受けられることが評判を呼び、
全国から患者が訪れるようになりました。

(患者)
健聴の医師と筆談でやり取りするときは少し不安があります。
ここでは率直に話せるし、精神的にリラックスでき、
ほっとするような気がします。

院内では、聞こえないバリアをなくす、
様々な工夫がこらされています。

受付には、必要な質問をまとめた単語帳を用意。
聴覚障害がすぐにわかる、耳マークをつけた診察券もあります。

レントゲン室には、息を吸って止めるタイミングを伝える、
ランプが設置されています。

聞こえない立場だからできることとは

(藤田さん)
精神科の場合は(患者さん)が外来で暴れたりとか、
大声を出すことがよくあると思う。
でも私には聞こえない。
例えば興奮した状態を、私は、過小評価、
実際より低く見てしまうことがある。
それはすごく、よくないので、
他のスタッフに、私が聞こえない情報は補ってほしいと言います。
一方で聞こえるスタッフは、患者さんの声がうるさいと。
不快に、思って緊張して、かまえている。
けれども私は聞こえないので
落ち着いて話しをすることができる。
その意味で、聞こえない医療従事者の役割は、
小さいとは言えないと思う。

(皆川さん)
自分だけで全てを解決しようとするのではなく、
できないことは他のスタッフに助けてもらい、逆に、
自分ができるところでは、きちんと周りをサポートする。
ということですよね。

病院では、今も週に1回、
手話講習会が開かれています。
患者さんとの距離を縮めたいと思う、
スタッフが自主的に参加。
独学で学ぶ人も増えています。

(看護師)
初めて聴覚障害者の患者さんとお話ししたときは、
やっぱりこの人って手話できないし
分かってもらえないんやなっていう、
そういうふうなのが伝わってきました。
でも、やっぱ、その人とどうしても向き合いたかったので、
挨拶程度から「こんにちは」とか
「昨日は一緒に外出してうれしかった」とか。
ちょっとでもできたら、
すごいやっぱ患者さんもうれしそうにされてて。
で、だいぶ信頼関係も築いていけるようになりました。

聴覚障害のある患者さんについて、月1回、
意見交換も行っています。

この日の会議では、精神と聴覚に障害のある
入院患者への対応が話し合われました。

(看護師1)
本人とのコミュニケーションがうまくとれないということと
他の患者さんが本人に対する不満が大きい。

(看護師2)
大声とか、大きな物音を立てられたりとかケアや
処置への拒否などが多くって、対応の方に大変困っております。

(看護部長)
音が大きいっていうのは、
あの、本人さんが体験できないことなので、
そこは十分に考えてケアした方がいいのかなと思います。

聞こえない患者さんは、
物音に気がついていないかもしれない。
注意は慎重にした方が良いという意見が出ました。


(藤田さん)
彼女はね、私と面接すると、時々ね、
お母さんの料理がおいしかったっていう。
「お母さん、お料理が上手やったねぇ」とか。
そうすると、本人はうれしいと思うので
それを突破口にしてコミュニケーションをはかると、
うまくいくかもしれない…。

聴覚障害者外来が開設されてから20年あまり。
聞こえるスタッフが、聞こえない患者の機微に気づき、
丁寧に向き合うケアが根付いています。

(皆川さん)
病院のスタッフとの関係がすごく大事だと
おっしゃっていたのが本当にそうだと思うんです。
私もそういう関係を築けるかなあと思って…。

(藤田さん)
現場へ入ればいろいろ、
もう難しいこともいっぱい起こってくる。
とにかく、焦らない、焦らないで。
委縮しないで、腐らないでやり続けていくことが大切。
あなたもこれから、進む道はいろいろだと思う。
ただ、現場は、現場の経験はぜひしてほしいと思う。
それがやっぱり一番基本になってくるので。
何をするにしても現場の経験っていうのは必要だろうと思う。

(皆川さん)
今回はいろいろと良い刺激をいただいたので、
自分にできることを着実に積み重ねたいと思います。

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