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番組ダイジェスト

夢はチャンピオン ―難聴のキックボクサー・郷州力―(前編)

2014年10月26日(日)放送

パンチとキックで激しく打ちあう格闘技、キックボクシング。
試されるのは、恐怖心と向き合う心の強さです。

プロのキックボクサーとして活躍する、難聴の選手がいます。
郷州征宜(ごうしゅう・まさのぶ)さん、28歳です。
リングネームは、郷州力。

持ち味は、打たれても打たれても前にでる、
強気で攻撃的なファイティングスタイル。

プロデビューから4年。
14戦13勝の快進撃を続けています。

(郷州さん)
今の目標は(チャンピオン)ベルトです。
聞こえないから無理じゃないかなという人を見返したいっていう気持ちが大きいので、
人よりも練習して、もっともっともっと強くなって見返してやろうっていう気持ちが大きいですね。

目指すはチャンピオン。
大きな目標に向かい闘い続ける郷州さん。
2週にわたり、その挑戦を追います。

朝6時半。
キックボクサー、郷州さんの1日は、40分のロードワークで始まります。
ロードワークを終えた後も、さらにジムで30分の筋力トレーニング。
休む暇はありません。

(郷州さん)
眠いですね、毎日。
眠気との戦いですね。

午前9時から午後6時までは仕事です。
勤務先は、IT関連の会社です。
社員研修の予算やスケジュールを管理しています。

仕事の指示は、口の動きを見て理解します。
離れた部署とのやり取りでは、
電話の代わりに社内に整備されたチャットを使います。

(郷州さん)
すごい、やりやすいですね。
メールだと時間がかかっちゃうので、チャットの機能があると助かります。

会社の同僚は、キックボクサーとして活躍する郷州さんを応援しています。
この日、次の試合で会場に飾る横断幕が出来上がりました。

(郷州さん)
すごい応援してくれてて、毎回人を集めて応援に来てくれますね。

(会社の先輩)
仕事も真剣にやって、めりはりをつけてるけど、
どっちも手を抜かずにやってる。

(もう1人 会社の先輩)
性格が本当にいいんですよ。
試合が終わってぼこぼこに倒した相手にすぐ近寄っていって、
大丈夫ですかって言うのは彼くらいだと思います。

仕事が終わると、ジムへと急ぎます。
練習は週に6日。
1日4時間です。

郷州さんがキックボクシングを始めたのは5年前。
最初はアマチュア選手としてスタートしました。
7戦全勝の好成績を残し、わずか1年でプロに昇格。
日本でただ一人の、聞こえないプロのキックボクサーとなりました。

郷州さんを指導するトレーナーは、タイの元ムエタイ選手です。

(トレーナー)
(パンチが)軽い。
もっと重い(パンチを打て)。

トレーナーは口の動きがはっきり見えるように、
一度動きを止めてから説明します。

(ジムの会長)

口で説明して、そのあと動いたりとか、
やっぱりゆっくりしゃべったりするんで、
どうしても短い言葉で説明しようとしちゃうんで、
そうするとどうしても伝わりづらいかな。
それはすごい大変だと思いますね。

郷州さんにはもう1つ、大きなハンディーがあります。

(過去の試合の映像)

試合時間は1ラウンドが3分。
会場には残り時間のアナウンスが流れます。

(アナウンス)
ラスト30秒。
選手はアナウンスを聞き、戦い方を考えます。

(アナウンス)
ラスト10秒。

残る10秒では体力を振り絞ります。
しかし、聞こえない郷州さんはこうしたペース配分がなかなか出来ません。

(郷州さん)
大変ですね。
大変というか、ゴングが鳴った後に攻撃したこともあるので、
相手に迷惑をかけたんじゃないかなっていう心配もありますね。

時間の感覚を身につけるため、
郷州さんは3分にセットされたタイマーを何度も確認しながら練習しています。

帰宅はきまって夜11時過ぎ。
会社の寮で独り暮らしです。

外食は避け、スーパーで買った軽めの夕食で済ませます。
急いで洗濯を済ませ、床に就くのが12時半。
仕事との両立は、並大抵のことではありません。

(郷州さん)
はじめは嫌になったりはしましたけど、今は慣れましたね。
俺はやりきったなって言えるものが欲しいなと思って。
だから、今回のキックボクシングは、
やりきったぞって言える所まで行きたいなって思っていますね。

神奈川県秦野市出身の郷州さんは、3人兄弟の末っ子。
聞こえるのは長男だけ。
父も母も聞こえない環境で育ちました。
郷州さんの将来を考えた両親は、2歳から保育園に通わせ、
健聴者の中で言葉を覚えさせました。

小学校は地元の普通学校に進みます。
ところが、同級生からのいじめが始まりました。

(郷州さん)
小学校の時はいじめがあったので、ちょっと苦しかったですね。
やっぱり聞こえないので、みみつんぼ、とか、つんぼ、とか。
ろう学校に行けとか、この学校に来るな、とか言われたりはしましたね。

なぜ自分は聞こえないのか。
郷州さんは、泣いて母の佐和子さんを責めました。

(母親)
聞こえないのは辛いからわかっているけれど、お父さんもお母さんも聞こえないから申し訳ないねって。

(郷州さん)

お母さんも泣きながら、ごめんねって言ってくれたので。
あぁ、お母さんも辛いんだな悔しいんだなって思って。
そこからはあまり言わなくなりましたね。

初めて母の苦しみを知った郷州さん。
佐和子さんを責めた自分の弱さを恥じました。
そして、少しずつ障害がある自分を受け入れていきます。

(郷州さん)
聞こえない事を気にしていても、普通の聞こえる人、
健聴になれるわけではないんですよね。
聞こえないからではなく、聞こえないからどうしようとか、
前向きに考えるようになりましたね。

運動が得意だった郷州さんは野球を始めます。
監督の指示も、打球の音も聞こえませんでしたが、
努力により上手になる事が自信につながりました。

高校は野球の名門校に進みます。
寮生活をしながら練習に没頭。
甲子園出場を果たしました。

大会中は代打で2本のヒットを打つ活躍。
チームは準決勝まで進みました。
しかし、代打での出場には悔いが残ったといいます。

(郷州さん)
県予選までレギュラーだったんですけど、
甲子園に行った時にレギュラー落とされちゃって、
中途半端に終わっちゃった気がしたんで、
その野球も高校で辞めちゃったので。
自分の中で、何か一つ達成したいなっていう気持ちが大きいですね。

レギュラー落ちの原因は、スランプで打率が下がったためでした。
もう一度、自分の可能性を試したい。
そう思っていた時、偶然テレビで見たのがキックボクサーの姿でした。
郷州さんはキックボクシングに強くひかれます。

聞こえない自分にも出来るのか、
不安を感じていた郷州さんを快く受け入れてくれたのが今のジムでした。

(郷州さん)
もう一度夢中になれるスポーツに出会えたので。
しかも、ここのジムは会長もトレーナーも周りの仲間も、
すごい素晴らしい人たちが多いので。
すごい出会えて良かったかなと思います。

ジムに入ったあと、郷州さんは貪欲に練習に励んできました。

後輩を対戦相手に見立ててのスパーリング。

(郷州さん)
もっと、こうした方がやりにくいとか、ありますか?

対戦相手がブロックしにくい攻撃は何か、
後輩にも積極的にアドバイスを求めます。

(後輩)
実力が下の僕にも、
どんどん聞いてくるっていうのがすごいなと思います。
すごい貪欲で真面目だから、どんどん強くなっていく。

他の選手が帰り始める中、
郷州さんはひとり、筋力トレーニングを続けていました。

誰よりも長く練習する事で、
聞こえないハンディーを乗り越えたいと郷州さんは考えています。

(郷州さん)
人よりも練習して、
もっともっと強くなって見返してやろうっていう気持ちが大きいですね。
今の目標はベルトですね。
ベルトがある事によって、強さの自信にもなるんじゃないかなと思います。

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