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番組ダイジェスト

もっと学びたい! ―ろう・難聴学生の進学塾―

2014年10月19日(日)放送

(講師の手話)
ここ・・・さっきと同じだよね。
(x+y)×1/2 = ・・・yに掛け算するの忘れてるよ!

大学進学を目指す、ろう・難聴の生徒のための学習塾です。
ここでの授業には、手話通訳や講師の音声を文字で表示する人がつきます。
塾の手厚い支援のおかげで、生徒達は今、確実に力を伸ばしています。

(ろうの高校生)
勉強に自信が持てるようになった。
学校の先生にはわからないと言いにくかったけど、
塾ではわからないこともはっきり質問できる。

ろう学校の生徒が、大学・短大に進学する割合は、
およそ20%にとどまっています。
しかし、塾を立ち上げた、日本社会事業大学の斉藤くるみ教授は、
環境さえ整えば、進学率は上がると考えています。

(斉藤教授)
聞こえない子どもたちっていうのは、同じスタートラインに立つ、
ということが、もう最初からできない環境が多いわけですね。
いろんなところで活躍できないっていうのはとても残念なので、
無限の可能性があるっていうことを、知ってもらいたいなと言う風に思います。

ろう・難聴の生徒たちが、本来持っている力を発揮するには何が必要なのか。
塾の取り組みからヒントを探ります。

学習塾は、新宿にあるビルの会議室を借りて、
毎週金曜日に開かれています。
学べるのは、国語・英語・数学の3教科。
1コマ90分です。
日本財団の助成を受けて、受講料はすべて無料。
生徒は、およそ20人。
高校生がほとんどですが、中学3年生も入ることができます。
大きな特徴は、学校ではなかなか得られない、
手厚い支援を受けられることです。

(塾コーディネーター)
手話で授業をうけたい生徒には、手話通訳がつきます。

(英語講師)
一番最初に出てきたitは「それは」って訳しちゃいけないんだよね。
本当に主語にしたいものは、後ろに置いてあるto不定詞だもんね。

説明を、手話ではなく、文字で知りたい生徒には、
音声を全て書き起こす、パソコンテイカーがつきます。
言葉を要約せずに、全て書き起こすため、2人がかりで行います。
ここで文字化されたものが、スクリーンへ映し出され、
生徒に伝わる仕組みです。
普段は、相手の口の形から言葉を想像するしかない生徒も、
ここでは、授業内容を完全に知ることができます。

(英語講師)
じゃあこれ。
何することは?

(生徒)
鋭いフォーカス?視点?
持つことは本当に大切なことだ。

(英語講師)
おお、いいじゃん。
ちょっと長いけど。

(生徒・インタビュー)
普通の学校では先生の方を見てまっすぐ聞かなきゃいけないんだけど、
ここでは先生の口がわからなかったら何回も確認ができるから、
内容の確認もできるし、すごく助かる。

更に、ろうや難聴の講師による授業もあります。
講師のうち、およそ半分が聴覚障害者です。
通訳を介さずに、手話で直接やりとりするので、
授業がスムーズに進みます。

(生徒)
あ、してない、分配してないのか。

(数学講師)
分配でyの方にかけるのを忘れたのかな。

(生徒)
ああ~そっか、なるほど!

(生徒・インタビュー)
先生が深く細かく教えてくださるので、わかりやすいです。
私が気付いてないところを先生が教えてくださるので。
そうだ!と気づいて問題を解くことができるんです。
それがいいところ。

同じ障害のある講師に教わることは、
言葉をフォローする以上に大きな意義があると、塾では考えています。

(塾コーディネーター)
同じ聞こえない講師ですと、自分も高校生の時ここがわからなかったとか、
今この段階でつまずいているんだとかいうことが経験からよくわかるようなので、
やはり同じ当事者というのは大事かなと思っているのと。
先生も聞こえないんだと言う方が、
勉強が苦手な受講生さんだと特に通って来やすいのかなと感じています。

さらに、復習したい生徒や遠すぎて通えない生徒のために、
授業のポイントをまとめたミニレッスン動画も公開しています。

受験生だけではなく、最近では、大人のろう者も利用するようになりました。

(利用者)
中高の時なんて90%わからない。
たまたまこれを見て、まだ間に合う!
それでもう1回勉強始めました。

塾の取り組みは、多くのろう者や難聴者に、
学びのチャンスを広げています。

学習塾を始めたのは、日本社会事業大学社会福祉学部の斉藤くるみ教授。
5年前に立ち上げました。

これまでも大学に手話通訳やパソコンテイクを導入し、
聴覚障害のある学生のために環境を整えてきました。

(生徒)
自分の考えを合理的にまとめて話すのが難しいと思いました。

しかし、せっかく支援を充実させても、
肝心のろうの学生がなかなか入学してきませんでした。
大学への進学をあきらめる生徒が予想以上に多かったからです。

(斉藤教授)
聞こえない高校生が大学に入るっていうことは、
かなり難しいっていう風に、決めてしまっている子どもも多い。
みんなと同じようには、分からないのは仕方がないということで、
塾に行くにしても、学校でも、仕方がないので自分で、なんか文字を読むなり、
先生にもうまく質問できないままで終わっているという子もいると。
いろんな事情があるんですけれども、なんとか、その高校生一人一人に合った、
支援ができないものかなっていう風に思いました。

東京都立井草高校。
ここに塾に通って、成績を伸ばした生徒がいます。
この春入学した、難聴の渡辺貴文(たかふみ)君です。
板書だけではわかりにくい授業では、先生にマイクをつけてもらい、
声をタブレットで確認しています。

しかし、この他の授業は、口の形を見て、言葉を読み取らなくてはなりません。
渡辺君には大きなハードルです。
労力がかかる中でも、勉強を続けてこられたのは、
塾のフォローがあったからだといいます。

(渡辺君)
井草高校に入れたのは、多分新宿の塾のお陰だと僕は思ってます。
国語の先生が細かく見てくださって、
それのお陰で僕すごい小論文はしっかり書けるようになって。
それですごい小論文を高得点取れて受かった。

高校に入った今も、渡辺君は塾に通い続けています。
ここでの学びが必要だと感じているからです。
今では勉強が楽しくなり、積極的に質問するようになりました。

(渡辺君)
今はちゃんと積極的に聞けるようになって、そういうのでしっかり、
ああここはこういうふうにやるんだなとかっていうのが分かるようになったので、
すごいその問題がすごい解きやすかったりとかして、面白いなって思う。

この日、塾の国語クラスでは、読解問題が出されました。
苦戦気味の渡辺君に、講師からキツイ一言が。

(講師)
じゃあさ、ネタばらししていい?
今日最初に説いた問題あるでしょ、あれ中学生用の問題。
渡辺君、満点取ると思ったんだよね。

(渡辺君)
これが?まじで?

最近ちょっと、気が緩んでいるのではないかと、言うのです。

(講師)
そろそろ取り戻してよ。
高二になっちゃう。

(渡辺君)
戻った、気分戻った。

時には厳しいことを言われることもありますが、
渡辺君はそれでも塾が楽しいといいます。

(渡辺君、友人と楽しそうに話す)

(Q.何でそんなに楽しそうなの?)

(渡辺君)
わかんないよな。
仲良いからじゃないですか。多分。

(友人)
同じ障害の人といることによって、話し方とかも、やっぱ心が合うというか・・・。

(渡辺君)
知らない人たちだと、自分しか頼りになる人いないから。
(難聴同士)そこが同じなので、どんなに喋ってても、
ここがわかんないんだなっていうのがどっちも同じなので、
すぐにわかるから、そういうところで話してても気がねなく話せる。

障害を気にせず、語り合える。
生徒たちにとって、塾はかけがえのない場になっています。

塾の取り組みは、勉強面を支えるだけでなく、
生徒の探究心をも育てています。
ろう学校出身の大学1年生、仲菜摘(なかなつみ)さん。
塾に3年通いました。

(友人)
いつも図書館行って、やってるよね。
休み時間とか、パソコン室でさ、課題やってるよね。
偉いと思う。

(Q.みんなもそういうことはやってるの?)

(友人)
はい、一緒に。やりますけど。
でも私たちよりあの、まあテストの点は彼女の方が上です。
はい、すごい。AA。

(もう1人 友人)
本当にいつも図書館で2人で勉強すること多いんですけど、
なんかやること本当に早いし、なんかいつもね、
学んでもらってるっていうかなんか、そんな感じですね。

(仲さん)
こちらこそ。ありがとう。

(仲さん・インタビュー)
(塾に行く前は)全く勉強が楽しくなかった。分からなかった。
でもそのままでいいやって思っていました。
でも、(塾の先生から)分からないままにするのもったいないって言われて、
頑張ろうって思った。
学んでるうちに、知らないことが増える楽しさとか、自分の知識が増える嬉しさ、
身近な生活に繋がって、役に立つと言う嬉しさもさらに加わりました。

塾をきっかけに、世界が広がった仲さん。
大学からの課題で出た本に刺激を受け、新しい夢も芽生えています。
カンボジアの子ども達の厳しい現実を知り、
自分に何ができるのかを考えるようになりました。

(仲さん)
世界の子どもたちの中に起きている現実を見て、
本当に私、刺激というかショックを受けました。
将来を担う子どもたちをどう支援したらいいのかという気持ちが強く芽生えて、
そこから国際的な活動もいいかなと思い始めました。

聞こえないところを、フォローしてもらえれば、もっと学べる。
生徒たちは今、自分の可能性を信じて学び続けています。

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