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番組ダイジェスト

人生を描く ―ろうの画家・八木道夫―(前編)

2014年9月7日(日)放送

ろうの画家
八木道夫さん、66歳です。

日本を代表する公募展の一つ、国展に32回連続で入選を果たしています。
海外でも数々の賞を受賞してきました。

八木さんが今、取り組んでいるのは、
ふるさと 静岡県焼津市の高齢者に贈る肖像画です。
市から依頼を受けて、40年に渡って描き続けてきました。
描き上げた肖像画は、135枚にのぼります。

(八木さん)
肖像画というのは、ただ顔が似ていればいいということではありません。
大切なことは、人生、性格、そして心を描くことです。

人の生きざまや内面を映しだそうとしてきた八木さん。
その肖像画にかける思いに迫ります。

肖像画で感謝を伝えたい

東京、町田市。
見晴らしの良い丘の上に、八木さんのアトリエはあります。
毎年7月になると、八木さんのもとには焼津市から高齢者の写真が届きます。
9月の敬老の日に肖像画を贈られる人たちです。

100歳以上のお年寄りを、毎年4人ほど 描いています
八木さんは、この仕事にふるさとへの特別な思いを込めていると言います。

(八木さん)

地域の人たちに育ててもらった。
その人たちへの感謝の気持ちです。
私は肖像画を描けるから、絵で皆さんに気持ちを差し上げるのです。

地元に支えがあって頑張れた

焼津市の漁師の家で生まれた八木さん。
絵が得意で、地元の風景や近所の人をよく描いていました。

そして高校生のとき、画家を志すようになります。
しかし両親は、聞こえないから無理だと強く反対しました。
そのとき近くに住む人が、両親を説得してくれたと言います。

(八木さん)
両親は絵の道に入るのは反対で、「会社勤めがいい」と言ってましたが、
近所の方が「絵の才能があるからいいじゃないか」と後押ししてくれた。
本当にうれしかったです。
聞こえないからできないとは言わなかった。
聞こえなくても認めてくれたんです。

その人はプロの肖像画家を紹介してくれました。
八木さんは早速弟子入りします。

そのときに描いた作品です。
絵の技術は負けないと、無我夢中で描きました。

(八木さん)
聞こえる人には負けたくない、という気持ちがありました。
聞こえる人のレベルを見ると、自分も決して負けてない。
もっと上を目指していける。
目標をかなえるために、努力し続けてきました。

そして5年後、画家として独立します。
しかし、暮らしは楽ではありませんでした。

そのとき手を差し伸べてくれたのも、地元の人たちでした。
後援会を作ってくれたのです。
個展の場所を手配し、カンパも集めてくれました。
八木さんは肖像画で、焼津の人たちに恩返しをしたいと思っています。

(八木さん)

本当に涙が出るくらいの気持ちでしたね。
忘れられません。
地元は本当に大切だと思っています。

八木さんが故郷を訪問 ―守屋さんの人生を知りたい―

八木さんのふるさと、焼津市です。
八木さんはこの日、妻の由利子さんと取材に訪れました。
肖像画を描くことになっているお年寄りに会い、その人柄を知るためです。
これまではお年寄りの負担を考え、遠慮してきましたが、
今回、自宅で元気に暮らす人が会ってくれることになったのです。

守屋はなさん、102歳です。
息子さん夫婦と一緒に暮らしています。

(八木さん)
守屋さんは今までの人生でつらかったこと、苦労などはありますか。

(はなさん)

別に、これってありませんよ。

(長男)
苦労が無いってことは無いわな。
おやじは早く戦争に行ってさ、フィリピンで死んだからな。
だと思うだよ。だから苦労は多いと思う。

(嫁)
35歳くらいで未亡人になったわけでしょ。
だからきっと大変だったと思うけど。
私には大変だったということをあまり言わないし。
それで、四人子どもがいて、ほとんど田植えとかお茶とか、
いろんなのをお手伝いに行ったりして。

(はなさん)
月給もらう所が無い。
会社が、その時分、あんまり無いからね。
百姓よりほかに仕事ないけの。
でも体が丈夫だから、どうやらこうやらね。

八木さんは話を聞いたあと、スケッチに取りかかりました。

(八木さん)
目の瞳、写真では分からなかった部分があります。
その瞳にあるものをはっきり、強く表現したいんですね。

はなさんの瞳に宿る強さ。
八木さんはスケッチに記録していきます。

(八木さん)
今日、実際に会ってみて、やはり自分が思っていた方と少し違うことが分かりました。
顔はやさしく笑っていますが、その心の中には厳しさも持っている方だと感じました。
はなさんの心を表せるように描きたいと思います。

守屋さんの人生を描こうと試行錯誤

翌日、八木さんはさっそく作業にとりかかります。
しかし、昨夜から悩んでいることがありました。
守屋さんの家族の希望は、この写真のはなさんを描いてほしい、
というものでした。
しかし八木さんは、実際に会って感じた印象も大事にしたいと考えていました。

(八木さん)
描くのは大変かもしれません。
写真はどちらかというと、下を向いている、下目線になっています。
実際お会いしたときは上目線。
写真と違います。
口も結んでいる雰囲気でした。
どちらかを描くのではなく、
2つを融合させて重ねて描いていくことにします。

写真をもとにして描いたデッサンです。
はなさんの、やさしさが表れています。
一方、現場のスケッチには苦労を乗り越えてきた強さが描かれています。
やさしさと強さ。
2つを融合させるにはどうしたらよいのか。

八木さんは、写真のデッサンに修整を加えることにしました。
会ったときの目の印象を入れていきます。

そして、もう一つ。
悩んでいたのが口元です。

(八木さん)
はなさんは我慢強い。
つらい時もいろいろあったと思いますが、それは口にせず、我慢してたと思う。
それを表すために口を閉じるのか、みんなと話をしているときの楽しそうな、
口を開けて笑っている様子を表現するのか、迷っているんですね。

八木さんは、あえて口を閉じることを決断しました。

(八木さん)
いつもにこにこ笑っているけれども、心の奥底には我慢強さがある方なので、
口元が笑うよりも、結んだほうが性格が表れると思い描きました。

肖像画の完成

ついに肖像画が完成しました。
はなさんの「心」が描かれた肖像画です。

結んだ口元。
そして正面を見据えた瞳には、
やさしさと苦労を乗り越えてきた強さが表されています。

(八木さん)
はなさんの人生を通して、頑張っている姿を表したかった。
そんな気持ちで描きました。
待っていると思います。
早く渡して、皆さんに喜んでもらいたい。
私も本当に楽しみです。

ふるさとへの感謝を込めた肖像画。
敬老の日、はなさんと家族のもとに届けられます。

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