自殺について知ろう

[写真 上]精神科医・大塚耕太郎さん
[写真 下 左から] 精神科医・遠藤仁さん、精神科医・吉田智之さん、医療相談福祉室ソーシャルワーカー・青木慎也さん

自殺未遂者へのサポート……ある救急チームの取り組み(前編)

岩手医科大学附属病院と岩手県高度救命救急センター

生と死の間、ギリギリの局面をケアする救急センター。
自殺未遂を起こし、身体的に重症な方は、ここに運び込まれます。
しかし、身体の治療が終わった後、さらなる自殺を試みる方が多いのが現状です。
そんな中、救急センターに運び込まれた時点から、
救急医、精神科医、ソーシャルワーカーがタッグを組み、自殺未遂者の方をケアしていく救急チームがあります。
そのスタッフのみなさんに、自殺対策の最前線を聞きました。
(2008年度掲載)

身体的治療とともに精神的治療も必要な
自殺未遂者のケア

[写真]高度救急救命センターは、県下の救急の重要な部分を担っています。
3次救急〈注〉の施設である岩手県高度救命救急センターと、1次救急・2次救急〈注〉の施設である岩手医科大学附属病院には、毎日たくさんの患者さんが救急受診しています。
その中には、自殺未遂を起こして運ばれてくる方もいます。
そうした患者にすばやく対応しようと、岩手県高度救命救急センターには精神科医が常駐しています。これは全国的にもめずらしい試みです。

「自殺しようとしたところを誰かが見つけて連れてくるとか、自殺を試みようとしたが幸いにも身体的に重症ではないという場合には、1次救急・2次救急で対応しますが、意識がないような身体的に重篤な場合には高度救命救急センターで対応します」。
お話を聞かせてくださるのは、岩手医科大学の精神科医・大塚耕太郎さん、吉田智之さん、遠藤仁さんです。吉田さん、遠藤さんは、現在、救急科の一員として救急センターに常駐しています。こうした救急医療の中の精神科医療を指導しているのが大塚さんです。

「高度救命救急センターでの対応は、身体的に重症ですから、身体の治療が必須です。しかし、同時に精神的に重症でもある。ですから、身体的な治療、精神的な治療を同時に円滑に行います」。
救急チームの一員として精神科医が関わっているから、搬送時点から病棟への入院や申し送りまでケアを途切れなく続けていける……それが最大のメリットだと大塚さんは言います。
遠藤さんも「僕自身も、最初は救急科の一員として、ご家族の方などと接していますが、後で精神科の医師であることを打ち明けると、患者さんやご家族は安心してくれますね」と話します。
治療の途中でふいに精神科医師が現れるよりも、運び込まれた当初から同じ医師が途切れることなく担当してくれる……たしかに安心感があります。

問題の早期解決が
治療の一助になることも

[写真]医療相談福祉室ソーシャルワーカーの青木慎也さん

自殺未遂者は、何かしら問題を抱え、身近に相談できる人がいないケースも多いといいます。

そんなとき、この救急センターでは、岩手医科大学附属病院内の医療福祉相談室にサポートをお願いしています。
医療福祉相談室の青木慎也さんは、救急チームとタッグを組むことが多いソーシャルワーカー。ご家族の所在がつかめないとき、保健所や福祉事務所などから情報を収集したいとき、あるいは多重債務問題の相談先を紹介するときなど、「治療」以外の問題の解決法を患者や家族と一緒に考えています。

[写真]救急科の一員でもある精神科医・遠藤仁さん
「ケースワークの観点から見ても、早めに問題に関われることは大きなメリットです。退院間際になって『実は、こういう問題を抱えています』と言われても、関係機関につないでいるうちにご本人は退院されて連絡が取れなくなってしまう。早めに情報をもらえれば、ご本人が治療を優先させている間に、ご家族と問題解決の方法を探ることもできますからね」と青木さん。
遠藤さんも、「精神科医は精神療法や薬物療法などの治療を行います。でも、問題を抱えて辛い状況が続き安定されない患者さんもおられます。問題に早めに手をつけながら、同時に治療を進めていくと、相乗効果でよくなっていくことがあるんです」と、ソーシャルワーカーとの連携の重要性を強調します。


自殺を繰り返すリスクを判断する
精神科医の仕事

[写真]救急科の一員でもある精神科医・吉田智之さん
ここに救急搬送される患者は年間3000人。そのうち自殺未遂の方は160~170人、自傷された方を含めると220人強にのぼるといいます。救急医療の中で働く精神科医として、自殺問題と関わるとき、もっとも大変なことは何なのでしょうか?

「自殺の再企図……つまりまた自殺未遂を起こしてしまうリスクがあるかないかを判断するのが難しいですね」と、吉田さんはいいます。

薬を大量に服用して自殺を図ったケースでも、夫婦の間の葛藤や失恋など人間関係で悩んだり、また長い間経済的な問題で苦しんできた……など、その背景はさまざまです。患者が抱えるそうした背景を見据えながら、精神科病棟に入院させるか、一般病棟に入院させるか、身体的症状が落ち着いたら退院させるかを判断しなければならない。これがとても難しいのだと吉田さんは言います。
「たとえば『帰りたい』と言っている方に向き合いながら、身体的治療を行う中で、帰すべきか、入院をしていただくかを判断するわけです」。

適切な人に適切な治療を……。
岩手県高度救命救急センターの精神科医は、救急医と協力し、ソーシャルワーカーと連携しながら、今日も自殺対策の最前線に立っています。

〈注〉1次救急、2次救急、3次救急
患者の状態によって、救急の種類があります。1次救急は外来で対処できる帰宅可能な程度の患者に対応。2次救急では、入院治療が必要な重症な方に対応。3次救急は、救急救命とも言われ、2次救急では対応できない重篤な患者に対応しています。

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