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自殺と向き合う 〜生き心地のよい社会のために〜

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自殺について語ろう

今、自殺について語る。(第3回)

今、ここがスタートライン。
「生き心地のいい社会」へ向けて。

前回に引き続き、今年7月1日に開かれた「自殺を『語ることのできる死』へ 〜自殺対策新時代 官民合同シンポジウム〜」の第2部の模様をお届けします。最後に、自殺対策に関わるそれぞれの思いから、新しい社会への希望を見いだします。

清水康之さん
(しみず・やすゆき)

自殺対策に取り組むNPO「ライフリンク」代表。今回の「自死遺族キャラバン」を企画するなど、さまざまな活動を行っている。
山口和浩さん
(やまぐち・かずひろ)

中学2年のときに父親を自殺で亡くす。長崎県のNPO法人「自死遺族支援ネットワークRe〈注2〉」代表。
姜尚中さん
(かん・さんじゅん)

東京大学大学院教授。2006年に行われた自殺対策の法制化を求める署名活動で、賛同者代表をつとめた。
司会: 町永俊雄アナウンサー    

「手一杯の状態」に誰でもなりうる。
その延長線上に「自殺」はある。

町永 「自殺」というとちょっと遠い話として片づけてしまいがちだけれども、その自殺に通じるような「息苦しさ」を、実は私たちは感じていると思うのですが、いかがですか?

清水 僕自身にも、将来に対する得体の知れない不安はあります。3年前、自分の気持ちに正直にやろうと思ってNPOを立ち上げました。でも、原稿の締め切り、シンポジウムの企画、調査のコーディネート……いっぱいいっぱいになっていても、なかなかそれは言えないし、自分でも「できない」ことを認められない。収入はないし、貯金はどんどん減ってゆく。具体的な問題がどうのということではなくて、すべてが一体となって襲ってきて、それに対してすべて終わりにしたいと思ってしまうんですよね。
自殺してしまった人はこんなふうにして追い詰められていくのかなと感じます。この延長線上に「自殺」はあるんでしょう。おそらく、ちょっと離れた場所から見ると、一つひとつの問題は解決できるように見えるんです。でも、本人は当事者なので、すべてを一体化して抱え込んでしまっている。だからこそ、介入の余地、支援の余地があるんだと思います。

 清水くんが言うように、私たちはみんないろいろな面で、いろいろなことを抱え込んでいるわけです。個々人は手一杯になって、でも誠実にがんばっている。
しかし、個々人の心の中をどれだけおしはかれるかというと、そこには限度がある。実は、社会的な条件としての「幸福」を考えなければならないのに、みんなそれぞれに個々人のしんどさの中で引き受けてしまっているわけです。たとえば、会社の中で「病気で働けない」ということになると、「お荷物」になってしまう。そうではなくて、病気の人がお荷物になるような危ういところでようやく組織が成り立っているということに注目してほしいのです。やはり、社会のコンセンサスの中で、みんなが「お互い様」だという感覚で支えなければならないのはどこなのか、きちっとした区画整理をしなければならないと思います。

もっとも傷を負ってしまった人たちが
声をあげ、つながりはじめている。

町永 姜さんのお話は、個々人の思いをつなげていくのが社会的責務であるということですね。そこで、山口さんがはじめようとなさっている実態調査について、教えてください。

山口 「1000人の声なき声に耳を傾ける」という調査〈注3〉で、ライフリンクが中心となって、全国で1000人のご遺族の方に聞き取り調査をしようとしています。
自殺で亡くなった人の中には、社会的に追い込まれる中で「自分では解決できない」と思いながら死んでいってしまった人がたくさんいると思いますが、きっとどこかに解決ポイントがあったはずで、それを探りたいという思いが、まず一つ。自分の問題で言うと、何らかの形で父親からサインが出ていたはずなのに、受け止められなかった自分がいます。そうしたサインはどういったものなのかを具体的にまとめることが、自殺を防止するなんらかのヒントになりうるんだと思います。
また、遺族支援には何が求められているのか。姜さんがおっしゃっていたように、心のケアはもちろん制度として支援策がないと、気持ちは立ち直れても、社会的に立ち上がれない。たとえば、僕の場合はいくつかの奨学金を受けて大学に行くことができましたが、進学を断念せざるを得ないケースも多々あります。そこで、どんな支援が必要とされているのかというニーズを調査したいとも思っています。
桂城さんも言っていたことですが、「亡くなってしまった人の思いに、もう一度耳を傾けませんか」と、同じ立場の人に呼びかけたいですね。社会の中で孤立している遺族を、一緒に考える仲間として引き入れたい……そういう思いもあります。

清水 昨年、自殺対策の法制化を求める3万人署名を行い、結果的に1ヵ月半で10万人を超える署名が集まりました。そのときの署名には、手紙つきのものがよくありました。その多くが遺族からのもので「ようやく自分にもできることが見つかりました。参加させてくれてありがとうございます」と書いてあるんですね。「ありがとう」と……そう、書いてあるんです……。胸が詰まりそうでした……。ご自分を責めておられるんですよね。何かできることがあったのではないか、でもできなかった、大切な人は亡くなってしまったけれど、その経験を次につなげることができないかと……。実態調査もそうで、「ぜひ参加したい」「他の人にこの思いをさせたくない」と多くの遺族の方に申し込みをいただいています。
冒頭でお話ししたように、痛みを最初にひらいてくれたのは親を亡くした当事者である子どもたちでした。逆に言えば、子どもたちが声をあげるまで、周りの大人はまったく動かなかった。その大人の1人が僕です。同じ時代、同じ社会、同じ空気を吸っている一人の人間として、彼らの思いとどう向き合うのかということを、大人としてきちんと考えなければならないと思います。
今、痛みを抱えた人同士のつながりが確実に広がっていて、これまでの悪循環を方向転換させる力になるのではないかと感じています。この力が、自殺に追い詰められる人の数を減らす、自殺にいたる手前にいる私たちも追い詰められにくい社会──「生き心地のいい社会」を作るのではないかと思っています。ここに、希望の光があると思うのです。

 清水くんや、山口さんのお話を聞いていていると、「日本は捨てたものじゃない」と感じます。問題をもっとも深刻に抱える人たちが復元力を持ち、当事者性を突き抜けて、今、社会をどう変えていくかという方向に進みつつある。つまり、今までだったらパブリックなものから切り離されていると考えられていた人、どうしようもなく痛みを背負わざるを得ない人々が、人と人はお互いに支え合わなければ生きていけないという「新しい公共」に目覚めて、具体的にやっていこうという動きができはじめているということなんです。日本社会を表層からだけ見ると、たいへん悲観的になってしまうのですが、清水くんがいて、山口さんがいる。そして、そこにたくさんの人が集まってくる。本当に「捨てたものじゃない」と思いますね。
戦後60年経って、日本の社会がたいへんな状況になり、もう一度社会を再建する。私は、その重要な動きの一つとして、自殺をめぐる取り組みを見ています。そして、そこに、未来を託すことができると考えています。

町永 「生き心地のいい社会」を目指す動き、その一つが自殺対策であるというお話しがよくわかりました。私もひとりの人間として、今日お聞きした「思い」と向き合っていかなければならないと思いました。どうも、ありがとうございました。

〈注1〉自殺を『語ることのできる死』へ 〜自殺対策新時代 官民合同シンポジウム〜
自死遺族全国キャラバンをスタートするにあたって、今年7月1日に開かれたシンポジウムです。

「自死遺族全国キャラバン」とは……
2006年の「自殺対策基本法」、2007年の「自殺総合対策大綱」を受けて、自死遺族支援をテーマにしたシンポジウムを47すべての都道府県で開催していくプロジェクトです。

  • 自殺総合対策の理念を全国(それぞれの地域)に根付かせること
  • 全47都道府県で「自死遺族のつどい」設立のきっかけを作ること
  • 「1000人の声なき声に耳を傾ける」調査との連動により自殺実態を解明すること
  • 官民学の枠を超えた自殺対策関係者の連携基盤を各地域で構築することを目的としています。今回ピックアップした東京大会のほか、47都道府県で随時開催される予定です。

詳しくは、プロジェクトチームの事務局をつとめる「ライフリンク」のホームページ(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます。)へ。

「自殺対策基本法」とは……
「自殺は、個人的な問題としてのみとらえるべきものではなく、その背景に様々な社会的要因があることを踏まえ、総合的な対策を早急に確立すべき」との方針で、2006年に施行された法律。自殺の防止や自殺者の親族への支援など、「自殺対策の総合的な推進」を図るとしています。

「自殺総合対策大綱」とは……
2007年6月に閣議決定された、政府が推進する自殺対策の指針のこと。「社会的な取り組みによって、自殺は防ぐことができる」ということを明確にしています。今後、国は地方公共団体や民間団体と連携しつつ、自殺対策を推進していくとしています。
「自殺対策基本法」「自殺総合対策大綱」全文は「自殺対策ホームページ(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます。)」へ。

〈注2〉自死遺族支援ネットワーク Re
2005年に、長崎県で発足した団体。遺族の分かち合いの場を提供するだけでなく、自殺予防対策を含めた活動も行っています。
※詳しくは「自死遺族支援ネットワーク Re」のホームページ(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます。)へ。

〈注3〉「1000人の声なき声に耳を傾ける」社会的な総合対策立案のための自殺実態調査
2007年6月にはじまった自死遺族に対しての聞き取り調査で、自殺の実態や自死遺族の生活実態・ニーズ等を把握するために行われています。2008年8月までに1000人分の調査を終了、9月には最終報告を予定しています。

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