自殺について語ろう

今、自殺について語る。(第1回)

自殺について「語る」ことが
私たちに伝えてくれるもの。

今年7月1日に開かれた「自殺を『語ることのできる死』へ ~自殺対策新時代 官民合同シンポジウム~〈注1〉」の第2部の模様をお届けします。第1部に登場してくださった桂城舞さんのお話を受けて、自殺の問題に関わる3人が語ります。
(2008年度掲載)

清水康之さん
(しみず・やすゆき)

自殺対策に取り組むNPO「ライフリンク」代表。今回の「自死遺族キャラバン」を企画するなど、さまざまな活動を行っている。
山口和浩さん
(やまぐち・かずひろ)

中学2年のときに父親を自殺で亡くす。長崎県のNPO法人「自死遺族支援ネットワークRe」代表。
姜尚中さん
(かん・さんじゅん)

東京大学大学院教授。2006年に行われた自殺対策の法制化を求める署名活動で、賛同者代表をつとめた。
司会: 町永俊雄アナウンサー    

亡くなった人がどう生きたか
そのプロセスと向き合う。

町永 第1部で、桂城舞さんが亡くなったお父さんのこと、そして自分自身のことを切々と語ってくださいました。ご自身も中学2年生の時に、お父さんを自殺で亡くされている山口さんは、今のお話をどのようにお聞きになりましたか?

山口 まず、桂城さんが話をしてくれたことにお礼を言いたいです。
桂城さんにとっても、「語る」ことの意味は大きいと思います。体験を語ることで、身内を亡くした悲しみを昇華させる方法の一つを見つけ出せたと思います。僕自身も、桂城さんと同じように、父親が亡くなって、ちょうど3、4年たって、やっと語ることができるようになりました。
「語る」ということは、亡くなった人と真正面から向き合うということでもあります。「死んだ」「自殺した」ということに向き合うのでなくて、亡くなった人がそれまでどう生きてきたかというプロセスに焦点を当てて、向き合うことができるんですね。

町永 桂城さんは、「もっとお父さんにやさしくしてあげればよかった」という後悔の念を話してくれました。
やはり、家族は、まず自分を責めてしまうものなのでしょうか?

山口 僕自身は、僕が父を殺したんじゃないかと思っています。
僕は、父が死ぬ前に気づくチャンスがあったにも関わらず、気づかなかった。僕にしか救えなかったのに……。そんな思いを持っています。また、絶対に不可能な話ですが、僕がもしそのとき高校生だったなら、金銭的な援助ができたんじゃないか、とも思ってしまいます。
自分の力ではどうしようもないことまでも、「僕のせいなんじゃないか」と感じてしまうんです。僕が死んでしまうまで、この気持ちはなくならないんだろうと思います。

「強くなければならない」という
価値観が本人を、遺族を追い詰める。

清水 僕が最初に自殺問題と向き合うきっかけになったのは、あしなが育英会で自死遺児として活動していた彼らと出会ったことなんです。
彼らと接して、まず遺族は「救えなかった」という強い自責の念を持っているということがわかりました。そのとき僕は、その気持ちを物語ることができれば、悲しみとの向き合い方がつかめてくるだろうと思いました。ところが、自死遺族の場合はそれがなかなかできない。社会から「自殺で亡くなった人は弱い人間だ」という偏見の目で見られ、無言の圧力を受けているんです。語りたくても語れない。だから、孤立して苦悩している遺族がたくさんいるということがわかってきました。
実は、僕自身も、彼らと出会うまで、偏見を持っていました。自殺とは「現実逃避して、身勝手に死んでいくこと」と思っていたんです。しかし、遺族の方から話を聞いていると、どうもそうではない。亡くなった人は、家族を大事にしていたり、一生懸命仕事をしていたり、あるいは強い人間として周囲に見られていたり……特別に弱い人というわけではなかったんです。
ただ、共通しているのは、「強くなければならない」という価値観です。これは僕たちも例外ではありませんが、「強くなければならない」から、つらい状況にあっても、なかなか人に打ち明けられず、追い詰められてしまう。遺族に共通しているのも、家族が自殺したと知られたら、自分まで弱い人間だと見られてしまうんじゃないかという思いです。

町永 遺族の方々はなかなか自分のことを物語ることができない。物語ることができないからこそ、周囲の人の中に誤解や偏見がそのまま生き残ってしまう……。どうしてこんな状況になってしまったんでしょう?

 社会が競争力をつけて、いろいろな国と渡り合っていくという状況は、もはや世界的な流れですよね。その中で、日本では自殺する人が大変多くなっている。私たちは、西洋と東洋を比較して、「東洋は情義で結びつく。情け深くて仁義に厚い」と漠然とイメージしていますが、アングロサクソン型のイギリスやアメリカの方が自殺率は低いわけですよね。日本の自殺率はアメリカの2倍、イギリスやイタリアの3倍になっているそうです。〈注3=各国の自殺率〉

これを宗教的要因で説明する人もいるでしょう。しかし、今、私たちの社会は、これまでの共同体主義が崩れて、急速に変わっているところです。そして、自殺は、社会がどうなっているかということの明白なバロメーターでもある。
今のこの状況を見ると──悪い表現かもしれないけれど──「あなたの不幸は私の幸福、あなたの幸福は私の不幸」といったメンタリティが、私たちの社会に急速に広がっているのではないかと思うんですね。そういう雰囲気を感じて仕方がないですね。

〈注1〉自殺を『語ることのできる死』へ ~自殺対策新時代 官民合同シンポジウム~
自死遺族全国キャラバンをスタートするにあたって、今年7月1日に開かれたシンポジウムです。

「自死遺族全国キャラバン」とは……
2006年の「自殺対策基本法」、2007年の「自殺総合対策大綱」を受けて、自死遺族支援をテーマにしたシンポジウムを47すべての都道府県で開催していくプロジェクトです。

  • 自殺総合対策の理念を全国(それぞれの地域)に根付かせること
  • 全47都道府県で「自死遺族のつどい」設立のきっかけを作ること
  • 「1000人の声なき声に耳を傾ける」調査との連動により自殺実態を解明すること
  • 官民学の枠を超えた自殺対策関係者の連携基盤を各地域で構築することを目的としています。今回ピックアップした東京大会のほか、47都道府県で随時開催される予定です。

「自殺対策基本法」とは……
「自殺は、個人的な問題としてのみとらえるべきものではなく、その背景に様々な社会的要因があることを踏まえ、総合的な対策を早急に確立すべき」との方針で、2006年に施行された法律。自殺の防止や自殺者の親族への支援など、「自殺対策の総合的な推進」を図るとしています。

「自殺総合対策大綱」とは……
2007年6月に閣議決定された、政府が推進する自殺対策の指針のこと。「社会的な取り組みによって、自殺は防ぐことができる」ということを明確にしています。今後、国は地方公共団体や民間団体と連携しつつ、自殺対策を推進していくとしています。
「自殺対策基本法」「自殺総合対策大綱」全文は「自殺対策ホームページ(別ウインドウ ※クリックするとNHKのサイトを離れます。)」へ。

〈注2〉自死遺族支援ネットワーク Re
2005年に、長崎県で発足した団体。遺族の分かち合いの場を提供するだけでなく、自殺予防対策を含めた活動も行っています。

〈注3〉各国の自殺率
WHO(世界保健機関)がまとめた主要国の自殺率(人口10万人あたりの自殺率)は以下の通りです。

日本: 24.2
韓国: 23.75
フランス: 18.3
中国: 13.9
ドイツ: 13.15
カナダ: 11.65
アメリカ: 11.05
イタリア: 7.25
イギリス: 7.05

データは、WHOの自殺防止プログラム(Suicide prevention and special programmes)ホームページより。

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