自殺について語ろう

中田 新一(なかだ しんいち)さん /映画監督

1944年石川県出身。山本薩夫、熊井啓、深作欣二、佐藤純爾の元で助監督を務めたあと、84年『海に降る雪』で初監督。代表作は、『ドン松五郎の生活』『花の季節』『公園通りの猫たち』、長編アニメ『PiPiとべないホタル』でヒューストン国際映画祭金賞受賞。日中合作劇映画『チンパオ/陳宝的故事』では同映画祭プラチナ賞受賞。『ウィニング・パス』では北九州功労賞を受賞。劇映画『風のダドゥ』が内閣府(自殺対策担当)発信の普及啓発映画として指定される。
(2008年度掲載)

中田 新一さんからのメッセージ

「ウィニング・パス」という車椅子バスケットで再び人生を歩きだす少年の映画を5年前に撮った。なかなか、シナリオが作れなかった。
それは、下半身不随になった人は、皆一度は死を考えるからだ。
分からなかった。 その人たちの気持が、私には分からなかった。
映画を撮り終えた時、私も落ち込んでいた。こんな映画で人の命を助けたり、
勇気づけたりできるのか・・・。厳しい現実の中で、何の役にたつのか・・・。
失敗したと思った。

上映が始まり、会場へ行き、観客と対話を重ねるうち「思いやりをもって支えあうこと」の大切さが伝わっているように思えてきた。思い起こせば、私自身、いつも何かやるたびに沢山の失敗を重ねていた。何本映画を撮っても「失敗した」と感じていた。
精神的なダメージが伴ったりして、死にたいくらい落ち込んだこともあった。何よりも孤立した時は・・・。

しかし、まだ全世界から拒否されたわけじゃないように思えて、誰か一人ぐらい私の背中をやさしく見つめていてくれているような気がして、そのうち「案外なんとかなっている」ように思えてきて、死なずにすんだのかな・・・・。
失敗しても自分は手前勝手な理屈でなんとか乗り切ってきたように思う。
東に西に困った人や病んだ人がいたらかけつけてくれる宮沢賢治のような人が必ずいると信じて気楽にやってきたのか・・・、また懲りずに「風のダドゥ」という映画に挑戦した。

命がテーマの映画だ。

賢治が言っている「孤独にならなければ自分が磨けない。しかし孤立とは違う。なぜならば他人を否定した孤独ではないからだ」。
気楽で勝手な理屈で、なんとかなる自分をイメージしている。

 
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