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虹色 - LGBT特設サイト

連載

「分かってほしい」だけじゃダメ

2010年04月08日

自分のことを分かってほしい…当事者にとっては、勇気を振り絞ってのカミングアウト。でも、自分がGIDであることを伝えるだけじゃダメ? 今回は、カミングアウトする側、される側の気持ちについてです。

第2回 「分かってほしい」だけじゃダメ

じゅん(FtM) 本当はこうしたいのにって思ってることはある? こうなったらいいのに、でもできない、とか。
ナナ(FtM) わがままを言っちゃえば、理想っていうことなのかもしれないですけど、クラスメイトとかにみんな話して、それで分かってくれたらなとは思います。
じゅん それで分かってくれたら、どこまで求める? どう接してほしい?
ナナ そこまで考えると、急に態度を変えられても困る。特別扱いして欲しいわけじゃないから…そう思うと、別に全員に理解してもらう必要はないかな…。カミングアウトをしたとしても、「だからどうしたいの?」って言われたらそれまでですよね。ただ分かってほしいって思うだけじゃだめだって、最近分かってきた。
じゅん 分かってほしいってどういうこと? 何を求めているの? っていうところを考えないとね。
けい カミングアウトする側にとっては、言うっていうことがすべてであって。知ってもらうことがゴールなんだよね。言えた! 感動! 終了! みたいな。
じゅん 受け止める方は、そこがスタートだからね。
しん その関係性において、お互いどうしていけばいいの? っていうところが、やっぱり聞きたい。そこを知らないと、言われたことに対して応えられないよね。
じゅん 具体的に言ってくれないと分からないじゃん。聞いた方は当事者じゃないから、何も想像つかないわけで。
けい 受け入れてくれた人は、友達になりたいわけだし、「分かった、そういう子なんだ」って受け止めてくれる。でも、「じゃあ、どうやって扱えばいいの?」って困る。ケイちゃん? ケイ君? “ちゃん”は失礼? とかさ。そういうところから考えてくれるんだよ。こっちが、「男女どっちでもないから」とか言っていると、えー、じゃあどうすればいいの!? ってパニックなんだよね。
しん 言うからには、その先も意思表示していかないと、逆に失礼だよね。迷わせてしまうことになるから。
けい 自分自身の場合は、やっぱり触れられたくない部分でもあるから、カミングアウトはしたけどその先は聞かないで、そんな感じだった。言えてスッキリして。ゴールした気分、みたいな。正直自分でも何を求めたいのか分かってなかったし。でも少なくとも相手に変わってほしいとか、気を遣ってほしいとは思わない。特別扱いしてほしいとも思ってない。でも、なんか普通じゃないっていうことが言いたかったんです、みたいな(笑)。
しん ものすごい独善的なことだよね。ただ言いたかっただけ。なんかもう、「宣誓!」みたいなさ(笑)。
けい 相手は、ぽかーんだよね。で、なに? いつも通りでいいの? いけないの? って。自分的には意味があることだと思ってカミングアウトをした。それをすることで自分はスッキリするからさ。よし、今日もまた自分を知ってくれた人がひとり増えたって。そして相手から「そういう生き方っていいよね、自分らしく生きなよ」って言われて、“あ、この人は自分のことを受け入れてくれた”って解釈して。でも、その人にとってはぽかーんな状態で、まだ何も受け入れてないんだよね。
しん どうすればいいの? っていう状態ね。場合によっては、そのままどうしたらいいか分からないから、相手が離れていくこともあるし。本当はそこで終わっちゃいけないんだよね。
じゅん そこで求めすぎてもダメだしね。言ったんだから分かってよみたいなさ。
けい 「言ったじゃん、この間、男だって。なんで前の名前で呼び続けるの?」とか。FTMにありがちだよね。
じゅん でも、相手は悪気があってそう言っているわけじゃなくて、今までの習慣でそう言っているだけなんだよね。当事者は、カミングアウトした=自分のことを分かってくれているに違いない、って思い込みやすいけど。
けい これだけ頑張ってカミングアウトしたんだから、分かってくれて当然でしょ、みたいなね。
しん でも、そこはゴールじゃない。相手にとってはそこからが始まりだからね。


(語り手)
じゅん:28歳、社会人、FTM
けい:27歳、社会人、女性
しょう:20歳、学生、MTF
まりあ:13歳、学生、FTM
ひょうご:25歳、社会人、FTM
ナナ:15歳、学生、FTM
しん:40代、社会人、男性


【解説】

(※私自身がFTMということもあり、解説中はFTM を例に話を進めていますのでMTFの場合は言葉を置き換えて読んでもらえたらと思います。)

初めてカミングアウトをするときって、本当に勇気がいります。何年もの間、誰にも言えずにひとりで抱え続けてきた秘密を初めて言葉にして伝えるわけですから、相当の覚悟が必要になりますし、「もし受け入れてもらえなかったら…」という不安や恐怖に打ち勝たなければなりません。当事者にとってはそれだけ重大なことなので、つい『カミングアウトすること』をゴールに設定してしまいがちなんですよね。今日こそ勇気を出して伝えるぞ! って。頭の中はもう、それ一色。
しかし、カミングアウトされた側の人にとっては、「心は男なんだ」、「幼い頃からずっと違和感があって…」、「GIDかもしれない」といった情報を得ただけでは、その先を想像するのは難しいことでしょう。GIDの人が何をされたら嫌なのか、どうされたら嬉しいのかなんて分かるわけがないですよね。今まで想像したこともなかったと思います。「これから先、どうやって付き合っていったらいいんだろう?」と少なからず不安を感じると思いますので、その不安を極力減らせるように準備をしておくとカミングアウトが上手くいく確率は高まるかと思います。
「○○ちゃんって呼ばれるのは嫌? なんて呼べばいい?」なんて気を遣って聞いてきてくれる人も中にはいますが、大半の人にとっては想像の範囲を超えていて質問すらも出てこない状態だと思いますので、まず大事なのは一度のカミングアウトで理解してもらおうと思わないことです。カミングアウトをしようと選んだ相手は、きっとあなたにとって大切な人ですよね。だからこそ、時間をかけて自分を知ってもらう努力を惜しまないでください。
カミングアウトされた人は「こんなこと聞いたら傷つけちゃうかな…」と気を遣ってくれることが多いのですが、それによってギクシャクした関係になってしまったら悲しいです。なるべくそうならないように「男として扱ってって言われても急には無理だと思うし、変に気を遣わないでほしい」というようなことは伝えたほうがいいんじゃないかと思います。それを伝えた上で、自分の希望を言ってみるのが良いですね。
例えばすでに通称名を考えてあるのなら「これから少しずつこの名前を使っていこうと思ってるから、こう呼んでもらえたら嬉しい」と伝えるとか。その瞬間からその名前で呼んでくれる人もいれば、呼び方を急に変えることに大きな抵抗を感じる人もいますから、そこは強要せずに、「ゆくゆくはこう呼んでもらえるようになったら嬉しいな」くらいの軽めな伝え方から始めるのがいいんじゃないでしょうか。
その後は自分の努力次第ですね! 新しいその名前が似合う自分になってください。見た目や中身は○○ちゃんなのに、いきなり超男らしい名前で呼んでって言われたら、相手は抵抗を感じて当然ですからね(笑) 通称名を考えるときには、呼ぶ側の気持ちも考えてみるといいかも知れません。あとは戦略も大事ですね。なかなか新しい名前では呼んでくれない人に対して「昔の名前で呼ぶな!」とキレても良い結果は得られないでしょう。それよりも、その人が思わず新しい名前で呼んでしまうような環境を作っていく方がよっぽど効果的ではないでしょうか? そのためには周りから攻めていくというのも1つの手ですね。呼び方を変えることに抵抗を感じない人だっていますからそういう人から攻めていって、周りを固めることができたらもうこっちのものです♪ いつの日か、「みんながそう呼んでるから思わず新しい名前で呼んじゃった!」と、ちょっと照れくさそうにしているその人に「ありがとう」って心の底から言えたら、きっとお互いハッピーです。
通称名に限らず、カミングアウトをするときには相手の気持ちもよく考えることが大事ですね。『GIDだということを分かってほしい』それだけじゃ相手にとっては不十分なので、『なんのために、GIDだということを分かってほしいのか?』を、まずは自分に問いかけてみてほしいと思います。
(GIDmedia 園田 純)

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