ハートをつなごう LGBTシリーズ 《BGMに込めた想い》2
2010年06月18日
「ハートをつなごう」の音楽から考える性の多様性・パート2をお送りします!
-その1-
「ゲイ/レズビアン第2弾-1/凌さん・美月さん」(2008年9月29日放送)で使用されたBGM
Tracy Chapman 『The Promise』

本コラム中のイメージは、前回に引き続き、イラストレーターのkaori kawaguchiさんです!
(文=番組ディレクター・今村裕治)
凌さん、美月さんはカナダで結婚式を挙げたレズビアンカップルです。彼女たちに最初に会ったのは、美月さんの職場近くの喫茶店でした。落ち着いた雰囲気で、静かに、しかし、すっと相手の心の中に入ってくるように自分たちの気持ちをしっかりと言葉を選んで語る姿が印象的で、出演をお願いしました。
彼女たちがとった“結婚証明書をとり、結婚式を挙げる”という選択は、同性結婚という選択肢が法的には明示されていない日本では、理解され、祝福されることに一定のハードルが存在すると思いますし、レズビアン、ゲイの人たちの中でも、パートナーシップのあり方については様々な考え方があります。そのことについて、二人とは何度か話し合いの機会を持ちました。彼女たちの考え方は明白でした。誰かと対立して、自分たちの主張を訴えるのではなく、日頃からそうしているように、自分たちの姿を静かに見てもらうことで共感を広げていきたい――実際、撮影時の二人のインタビューでは、異なる考え方を持つレズビアン・ゲイの人たちに対しても細かな配慮がなされていましたし、異性愛者の友人たちとの会話にも、分かってほしいという主張よりも、違いを受け止めて、少しずつ長い時間をかけてお互いが歩みよってきたそれぞれの優しさがにじみ出ていました。
Tracy Chapmanは、世の中にあふれている社会問題をアコースティックギター一本で切々と歌うスタイルが人気を呼び、世界中で親しまれているアーティストですが、彼女の“The Promise”という曲をこのときは使いました。彼女の歌うテーマは、人種や貧困、暴力など様々ですが、そのどれもが声高に主張するというタイプのものではなく、パーソナルで小さな物語を語りかけるようなものが多く、また、そういった社会的問題とともに、愛についても同じように歌の中の主人公たちの小さな物語がつづられている素敵な作品が多くあり、“The Promise”もそんな曲の一つです。
離れている恋人に、“待っていてくれれば必ずあなたの元に戻ります”と語りかける歌詞が印象的な曲です。歌の中の主人公は、自分の気持ちを、繰り返し“I always hold a place for you in my heart(私はいつでも心の中にあなたのための場所を空けています)”という言葉に込め、そして最後に“ …and say you'll hold a place for me in your heart(あなたの心にも私のための場所があると言ってほしい)”と静かに歌います。
凌さん・美月さんカップルにとっての結婚は、二人がお互いのために交わした“約束”でしたが、それ以上に、様々な価値観や考え方を持つ人たちのことを受け止めた上で、この社会に対して1歩1歩、共感の輪を広げて少しずつ変えて行きたいねという、二人の“誓い”であったように感じています。
***
放送後の11月、彼女たちの日本での結婚式の二次会に出席させてもらいました。たくさんのレズビアンの友人、そして、異性愛者の友人が祝福する温かい雰囲気に包まれた場で、挨拶した友人の中のお一人が“テレビで二人のカナダでの結婚式の様子を見て、自分も結婚という選択ができるんだと思えて泣きました”と語ってくれました。
彼女たちの“約束”が、放送を通じて全国に流れることで、将来に不安を感じている人たちに何らかのポジティブなきっかけを与えられたのであれば、それはとても嬉しいことだと思いました。そして同時に、そんな“約束”について、日頃あまり思いをはせたことがない人たちにも、それについて少しでも考えてみるきっかけができていれば…と思いました。
多くの人の心の中には、自分の価値観や考えだけではなく、多様性を受け止めるための場所がきっとあると思います。放送を見た人たちの心の中にも、彼女たちの思いや願いが入っていくための場所があれば…と感じています。
-その2-
「ゲイ/レズビアン第1弾PR」(2008年4月放送のプレマップ)で使用されたBGM ※動画でご覧いただけます
Seu Jorge 『Changes』

この“Changes”は、カヴァー曲で、もともとは、David Bowieが1971年に発表した曲として知られています。
ゲイ/レズビアンのシリーズを始める時、30秒のPR動画を作成することになりました。NHKで、ゲイ/レズビアンのことをテーマにして放送する番組は、過去にそう多くはありませんでしたから、シンプルにテーマを提示できるものにしたいと思っていました。PR映像は短いので、音楽からもそのテーマを感じさせるものをと考えたのです。そこで浮かんだのがDavid Bowieでした。David Bowieのセクシュアリティーが何かと問われれば、その答えは、(あるいは多くの人にとってもそうであるように)とても難しいものであると思いますが、いずれにせよ彼がその個性的な衣装を身にまとって、バイセクシュアルであると公言し、様々な話題を振りまいていた時期の活動は、(後に批判を浴びることもありましたが)その後のゲイミュージシャンにも大きな影響を与えているだろうと思います。それは、Bowieのセクシュアリティーが何か? ということよりも、むしろ彼の“自由さ”であったり、それがもたらすアーティスト表現の“豊かさ”に惹かれた人が多かったためだろうと思います。
なので、これから新しいテーマで多様性について考えていく番組のPRとしてBowieの曲を使うというのは、とても素敵なアイデアであるように思いましたし、“Cha… Cha…Cha…Cha…Cha…Changes”と印象的に繰り返すこの曲のサビの部分は、キャッチフレーズとしてもインパクトがあって素敵だと思っていました。しかし、Bowieの表現は個性が強く、音楽の主張が、映像を超えてしまうかもしれないなぁと思っていたところ、この曲をちょっととぼけたような雰囲気で歌う自然体のSeu Jorgeの姿に出会ったのでした(Seu JorgeがDavid Bowieの曲をカヴァーするというのは、映画“ライフ・アクアティック”のためのプロジェクトで、全編Bowieのカヴァー曲のアルバムも発表されています)。
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このシリーズを始めるに当たって、多くのゲイやレズビアンの人たちに出会って番組を制作していくための話をうかがっていたのですが、振り返ってみると、最初は、お互いにとても肩肘を張っている感じがあったと思います。それは、これまで日本のテレビというメディアが同性愛というテーマをどのように表現してきたか(あるいは多くの場合してこなかったか)という歴史を考えれば当然のことで、私は多くの人から“そんな企画を出して、NHKでの立場は大丈夫なのか?”とか、そういった心配をされたり、あるいは、とてつもなく大きな期待をかけられたりしていました。私も私なりに一定の緊張感を持っていたことは確かですが、一方で、こうして、音楽や映画の世界では、こんなに豊かで自由な世界があって、それを多くの人たちが楽しんでいる(当時はちょうど“Lの世界”が日本でも爆発的な人気を得始めていた頃でした)というのに…というギャップを感じてもいました。
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このPR映像には、取材で出会った様々なゲイ・レズビアンの方々が登場します。映像を見返してみて感じるのは、当たり前ですが“人は豊かで多様だ”ということ。自然な形で誰一人同じでない個性を出しながら、柔らかく日常を生きているのだということです。
当たり前のことを、当たり前であるように変えて見せていくこと。そこに劇薬は必要ありませんが、ちょっとした意識を変えるためのスパイスのようなものが必要なのかもしれないと感じました。
Seuのように鼻歌でも歌うような軽やかさで、人の多様さや、豊かさについて語り合うことで、見ている人たちにちょっとした変化を起こせるような番組ができればといつも思っています。
(おわり)
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