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被災地で生活するLGBTの人たちへの支援

2011年05月13日

東日本大震災のあと、LGBTの人たちはどのような問題に直面しているでしょうか? 先日行われたシンポジウム「被災地とセクシュアルマイノリティ」を取材しました。

(文=番組ディレクター・今村裕治) 

5月5日、東京・中野区の「なかのZERO」で、「被災とセクシュアルマイノリティ」というシンポジウムが開かれました。
東日本大震災から2カ月。被災者の皆さんの避難生活、復興までの道のりの長期化が予測される中、年齢、国籍、障害、病気などそれぞれの人が抱える問題やニーズに応じた細かな支援が必要とされています。
被災地で生活を送るセクシュアル・マイノリティーの人たちやHIV陽性者の人たちには、どんな支援が必要とされるのか? 被災地で支援活動を行おうとしている団体や、被災した東北地方の当事者団体のメンバーなどが集まり、議論がなされました。

シンポジウムの様子を動画で見ることができます。動画

トランスジェンダー・性同一性障害の人たちの被災地での状況

 

東北地方を中心に活動するセクシュアル・マイノリティーの当事者団体「ESTO」の真木柾鷹さん、性同一性障害の人たちへのサポートを行う株式会社GIDの井上健斗さんからは、トランスジェンダーや性同一性障害の人たちを中心に、セクシュアル・マイノリティーの人たちの被災地について被害状況の報告がなされました。
震災の影響で、性同一性障害の人たちの、ホルモン療法のための薬が不足している現状、避難所で起こりうる、多くの場合は男女別になっているお風呂、着替えといった場面でのプライバシーの確保の問題などが指摘されました。

井上健斗さん。自身もFTM当事者として性同一性障害の人たちをサポートしている

被災地のHIV陽性者への対応

HIV陽性者の支援を行う「ぷれいす東京」の生島嗣さん、仙台で主にゲイの人たちに向けてHIVの情報発信を行うボランティア団体「やろっこ」の太田ふとしさんからは、震災直後HIV陽性者へ向けて情報がどのように発信されたか、またHIV検査など、平時に行われていた活動がどのように被災地で再開されつつあるのか、報告がありました。
HIV陽性者のうち85%の人は日常的に服薬をしており、半数の人が月に一度の通院をしています。そのため、服薬の継続が難しい状況にある人、日頃通っている病院の診察状況などによって通院が難しい人への情報提供が大切な課題となっていました。

「ぷれいす東京」の生島嗣さん(左)、「やろっこ」の太田ふとしさん(右)

今回、被災地のHIV陽性者への対応として、厚生労働省やエイズ治療・研究開発センター(ACC)のHPから、服薬継続・中断のためのポイントや、相談窓口へのアクセス方法などの情報が早い段階で出されました。

厚生労働省の情報ページ(別ウインドウ※クリックするとNHKサイトを離れます) 

一方でインターネットへのアクセスが難しい人たちに向けた情報提供をどうすべきか、また、東北という広い地域の中にあって、診察を継続している大きな病院だけで全ての陽性者をカバーすることは難しく、日頃地元の小さな病院などに通っている陽性者の孤立をどう防ぐかといった課題も指摘されました。

当事者のニーズをどのように把握するか

今回のシンポジウムでは、性同一性障害の人たち、HIV陽性者への具体的な支援の可能性などについては、多くの指摘がなされましたが、レズビアンやゲイの人たちに向けて何ができるのかという問題については、目に見える具体的なニーズを拾い上げることが難しく、多くの団体が模索をしている段階にあるようでした。

その他、多くの登壇者から共通してあげられていた課題は、声を上げにくい当事者のニーズをどのように把握するのかという問題です。当事者のニーズを把握しないままでの一方的な支援は、被災地での当事者のアウティングにつながってしまったり、マイナスの影響も考えられます。

(※アウティング…悪意のある、なしにかかわらず、当事者の意思に反して、他の人が、当事者のセクシュアリティーを明かしてしまうこと)

セクシュアル・マイノリティーの当事者や、また、HIV陽性者は、周囲に自分のセクシュアリティーや、病気についてカミングアウトしているとは限りません。多くの人はごく限られた人にしか、自分のセクシュアリティーについて明らかにしていませんので、支援のあり方は、目に見えるニーズを持っている人と比べると難しい面があります。また、非常時には、生命を守るという第一の目的のために、細かなニーズへの対応まではなかなか手が回らないという現状もあります。

しかし、震災から2カ月が経過し、被災者の皆さんの日常生活が問題になってきた現在、他の様々なニーズと同様に、「セクシュアル・マイノリティーの当事者、HIV陽性者が被災者の中にいる」という前提に立った対応もより大切な問題として考えていかなければならないことでしょう。
また、愛する人を失った人、離れ離れに暮らしている人への配慮は、その相手が同性であるか、異性であるか、また、法律上の家族であるか否かに関わらず、なされるべきものです。

LGBTであることをオープンにしている議員、上川あやさん、石坂わたるさん、石川大我さんからは、自治体の取り組みについての報告があった。どの自治体でもセクシュアル・マイノリティーのことを視野に入れた災害対策まではなかなか考えられていない現状がある。

気軽に集まれるコミュニティーを守ること

シンポジウムの最後に、仙台で活動をする「やろっこ」の太田ふとしさんは、「被災支援というと、避難生活を送っている人たちのみに目が向けられがちだが、被災地に観光に来るだけでも支援になるので、ぜひ協力してほしい」と訴えました。たとえば、被災地にあるゲイバーなどは、お店自体の被害とともに、震災の影響から客足が減り、とても厳しい状況にあるといいます。ゲイバーは、単に商業施設というだけに留まらず、ゲイの人たちがお互いに気兼ねなく日頃の悩みや楽しみを語れる場でもあるため、地元のゲイコミュニティーを形成する拠点ともなっており、ゲイバーが閉まっていくと、ゲイの人たちが気軽に集まれる場所が減っていくという影響が懸念されているのです。

被災地の人たちが日常生活を取り戻すためにできることは何なのか? こうしたシンポジウムなどを通じて、被災地の当事者の細かなニーズを把握し、支援につなげていくことが求められています。

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