2010夏 GID 海の家レポート
2010年10月18日
「虹色」の連載でもお馴染み、性同一性障害の若者たちが多く集まるNPO法人GIDmedia。この夏新たな試みを行いました。神奈川県逗子海岸で「海の家」の運営を自分達で行うというもの。客商売を通して社会の中で生きていく力をつけよう――。レポートをお送りします。

「BORDERLESS」店内からの眺め。
文=園田 純(GIDmedia)
2010年夏、GIDmediaは海の家の運営にチャレンジしました。
これまでと比べて長期にわたるイベントであり、ビジネス的な側面もある初めての試みとなり、日々学習することだらけで自分の力不足を再認識させられた夏でしたが、本当にいい経験が出来たと感じています。感想を一言で言うならば、「やってよかった!」、これに尽きます。
営業期間が終了して早1ヶ月が過ぎようとしていますが、期間中に各種メディアで取り上げていただいたこともあり、多くの方が応援してくださったり、興味を持ってくださったので、「海の家をやってみてどうだったのか?」をこの場をお借りして少し振り返ってみたいと思います。

ここが僕達の拠点、海の家「BORDERLESS」です。
GID当事者と海。ものすごくかけ離れた存在です。
GID当事者の多くは、自分の身体に強い嫌悪感や違和感を抱いており、「学生時代のプールの授業が死ぬほど嫌だった」という声は本当によく耳にします。
水着を着用することに抵抗があるため、プールや海に遊びに行こうなんて思ったこともなかったり。遊びに行きたいとは思っていても、やはり水着にはなりたくないから友達の誘いも断ってしまったり。
そんな"海とは対局にあるような存在"の僕らが海の家を運営したら面白いんじゃないか――そういった思いからこのプロジェクトは始まったのでした。やり抜けば、きっとみんなの成長と自信に繋がるだろうという期待と共に。

看板も内装も出来るところは自分たちで手作り!
春先にスタッフ募集を開始。
「自分を変えたくて、思い切って応募しました」
「将来は自分の店を持ちたいと思っています」
「この経験を通して、たくましくなりたい」
「募集を見た瞬間、これは運命だと感じた!」
など、様々な思いと情熱を胸に集まった応募者。

お客さんを呼び込み中。
その中から一夏を共にするスタッフを選出し、初めての顔合わせ。そこからは一気に夏の終わりまで駆け抜けた感じがします。海の家を運営している間、僕らスタッフは逗子へ引っ越し共同生活を送っていたのですが、知り合って間もない人たちがいきなり寝食を共にした生活を送るというのは貴重な経験でした。

焼きそばをつくる店長のゆうすけ(左)。
修学旅行や部活の合宿、友達との旅行などを避けてしまいがちな当事者も多いと聞きます。そういう人たちにとっては、"他人と1つ屋根の下に暮らす"という経験を通して得られるものも多いと思いますので、機会があれば来年以降にぜひ海の家スタッフにチャレンジしてもらいたいですね。

立て看板にメニューを書き込んでいるところ。
海の家がオープンする前の準備期間中は、まだ体力的にも余裕があったので遅くまでお酒を飲みながら語った夜もありました。今となってはそれもいい思い出。夏本番になると、1日中炎天下で働き続ける日々が続いたので、帰宅と同時にバタンキュー(笑)。ふと目が覚めると真夜中で、「あぁ、また布団を敷かずに寝てしまっていた……」という日がどれだけあったことか。
海の家の経験者は誰一人いなかったのですべてが手探り状態でしたが、日々の営業を通して出てくる反省点を翌日に活かし、少しずつ改善しながら進んで行きました。なんと言っても営業期間はたった2ヶ月。海に人がたくさんいるのは7月中旬~8月中旬までなので実質的に勝負出来るのは1ヶ月ほどしかありません。だからこそ大事なのが「すぐ改善する」ということ。素人ながらも思いつく限りのことを実践しながら、今自分たちに出来る最善を目指しました。

店の1番のおすすめメニューは、レモンラーメン!
日本初のLGBTフレンドリーな海の家、という謳い文句を掲げ、自分たちがGID当事者であることも隠さずに運営してはいましたが、実際のところ自分たちがGID当事者の集まりであると意識する場面はほとんどありませんでした。この海の家の噂を聞きつけて足を運んでくれたトランスジェンダーやゲイ、レズビアンなど、LGBT当事者であるお客さんと話をする場面くらいでしょうか。つまり、仕事をする上でGIDか否かなんて関係ないと言うことですね。

炎天下で肉を焼きまくります。
9割方は、僕らの事情を知らずたまたま立ち寄ってくれたお客さんたちなので、GIDのことが話題に上がることは滅多になく、稀にスタッフが「男の子? 女の子?」とお客さんに聞かれる程度でした。そんな時には「どっちに見えますか?」と逆に聞き返してみたり、「体は女だけど、心は男です!」と笑顔で答えてみたり。そして「実はうちのスタッフみんなそうなんですよ」と言うと、「えっ!! ホントに!?」と皆さん驚いてくれます。その反応をみんなで楽しんだりもしていました。「こうやって堂々とカミングアウト出来る環境って本当にいいなぁ、これだけで海の家をやって良かった!」と思えるような光景でした。

みんなでBBQした後で記念撮影。
カミングアウトすることに不慣れで自信のない当事者だったとしても「他のスタッフもみんなそうなんですよ」って言っちゃえば、恐いものなんてないじゃないですか。カミングアウトなんて、慣れですからね。初めは誰だって恐い。隠し続けて来た期間が長ければ長いほど、人に話すには勇気がいると思います。だけど「カミングアウトしても大丈夫なんだ」ってことを実感出来れば、その後のカミングアウトはスムーズです。その始めの一歩を踏み出す時に仲間がいたら、心強い事この上ないですよね。
GID当事者が集まって運営しているということを初めて知ったお客さんたちは「全然分からなかった、みんなすごいね、頑張ってね」と応援してくださったり、「かっこいいじゃん!応援するよ!!」と熱い握手を交わしてくださったり、中には「私の友達にもいますよ」と言う方も。また、ありがたいことに逗子市長が訪問してくださり、「新聞記事を見ましたよ。応援していますから頑張ってください。」と励ましの言葉を頂きました。市長が訪問してくださるとは思ってもいなかったので、予想外の嬉しい出来事でした。

今年の海の家の営業がすべて終わり…、乾杯!!
そして印象的だったのが、海の家での交流会へ参加してくれた10代の当事者らが「自分もこんな風に働きたい」と言ってくれたこと。そういった若い当事者に勇気や希望を与え、共に成長していける場を今後も作って行きたいと思います。GIDであることを恥じる必要もなければ引け目を感じる必要もありません。もちろん、努力して周りに認めてもらえるだけの力をつけることは大事ですけどね。自信を持って生きられる当事者が一人でも増えることを願います。
2ヶ月の運営期間を終え、ちょっとたくましくなったスタッフたち。連日猛暑でとても厳しい労働環境でしたが、一夏を共に乗り越えた彼らを誇りに思います。初代BORDERLESSスタッフ、この面々を一生忘れることはないでしょう。
また来年、勇気あるチャレンジャーの応募を楽しみにしています。
ご来店いただいた皆さん、応援してくださった皆さん、どうもありがとうございました!
来年のBORDERLESSは、どんなお店になるかな~^^

また来年会いましょう。
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