akta Diary 2009.08
2009年08月20日
HIV/エイズをはじめとした性感染症の情報センター、community center aktaのディレクター張由紀夫さんは言います。人がHIVやエイズなどと向き合うのを難しくしているのには、ふだんセックスの話が他人としづらい、社会のなかのタブー感も関係している、と。「人とセックスの話をすることってすごく大事なことだと思う」(本文より)。

「どうしてこんなにゲイの人たちのあいだにHIVはひろがってくの?」と訊かれることがある。他の層にくらべたら意識的に検査に行く人が多いからと答えることが多い。それも確かにその通りなのだと思う。けれど、他にいくつもある理由のひとつに、異性愛者とくらべたらはるかに小さなパイのなかで「元彼の元彼がいまの彼氏なんだ」なんていうことがたくさん起こってることも、またひとつの理由なのかもしれないなとも思うんだ。そしてそのなかでセーファーセックスに失敗したり、リスキーなセックスが行われてたりすることも。もちろん、ゲイやバイセクシャルのひとたちがみんなセックスばっかりしてるわけじゃない。セックスをたくさんするけれど、感染したりさせたりすることを避ける努力をしながら楽しんでる人もたくさんいる。誰しもそうであるように、時には失敗してしまうこともあるけれど、おおむねそれはうまく行っているように思う。それに意外に思う人もいるかもしれないけれど、セックスがあんまり好きじゃないっていうゲイだっている。ゲイだなんていってもホントに一括りにすることは出来ないんだ。とはいえ、やっぱり相対的に考えるとゲイはたくさんセックスをするような気がするのもたしかだなあ。
でも、そこで貞操を叫んでみてもたくさんの人を動かすことは出来ないだろう。感染が広がることでしんどい思いをする人が増えることはもちろんなんとかしなくちゃいけない問題なんだけど、欲望はコントロールのむずかしい体(と心)のなかの猛獣だからね。それにHIVや性感染症を持ってしまうことを「わるいこと」だと決めつけることも出来ない。それでも毎日、しあわせを感じながら長生きすることだって可能なんだし、感染を防ぐのならばコンドームというツールもある。そして何よりもセックスについて考えることを断ち切ったり、知らないふりを決め込む前に、一体全体セックスってなんなんだろう、なんてことをもっとみんなで考えてみたいなあとぼくは常々思っているんだ。

セックスは、とても大切な人の営みだと思っている。爆発しそうな欲望もあるけれど、どうしても埋められない寂しさをちょっとの間なぐさめたり、一人だけど独りじゃないことを確かめたり、愛情だけでなく友情を育んだり、自分がまた生きていることを思い出したり、繋がりや体温を思ったり。セックスには様々な効用があるものだと思う。もうずいぶん前になるけれど、冬の寒い夕暮れ時に、伊勢丹百貨店の前のショーウィンドウの前でうっとりした顔でじーっとビキニに毛皮を羽織ったマネキンを眺めているおじいさんがいた。いくつになったってセックスは、なにか人の命の温度計をいい頃合いに保つ役割を持ってるんだなあと思ったことを憶えている。
いま、新宿二丁目の150件ほどのバーやクラブには、コンドームのディスペンサーにいろいろなデザイナーや絵描きや写真家によって彩られたパッケージ入りのコンドームを置いている。これは「DeliveryBoys Project」という名前で、うれしいことに配達をする男の子たちは通称「デリヘル君」なんて呼ばれて街の皆さんに大事にしてもらっている。もちろんコンドームは使ってもらいたいから置いているのだけど、このプロジェクトにはもう一つの目的がある。バーにしてもクラブにしても、そこはなにかを飲んだり食べたり、人と出会ったり話をして笑ったり怒ったり泣いたり、酔いつぶれれば寝てしまったり・・・つまりそこで行われているみんなの営みは人生や人の暮らしそのものなわけで、当然セックスもその暮らしの同一線の上にあるものだと考えたぼくらは、本当は同じ線の上にあるものなのに「人前で話すのはあんましよくないことだ」、とか「恥ずかしいことだ」とされているセックスの、一つの象徴でもあるコンドームを置かせてもらいたかったんだ。人とセックスの話をすることってすごく大事なことだと思う。なかには「セックスぐらいは秘め事にしておかないと、魅力がなくなっちゃうよ」なんてことをいう人もいる。「SEX AND THE CITY」でも、シャーロットがセックスの話ばかりをしてるサマンサに愛想をつかせて出向いたハイスクール時代の友だちとの会食のテーブルで「わたし、ホントに欲求不満なの!!」と話しだしたら、ハイソ風の旧友に眉をひそめられた上に「シャーロット・・・わたしたち食事中なのよ」とたしなめられて怒って帰るシーンがあったよね。「その時、彼女は(食事の席でもセックスの話ばかりをしてる)サマンサになった」ってキャリーのモノローグに笑ったな。でもね、たとえそれが食卓だろうが何だろうが、少々話したくらいで、秘め事じゃなくなっちゃうような小さなテーマじゃないと思う、セックスって。もしかしたら宇宙とおんなじくらい壮大なテーマを抱えてるんじゃないのかと思うこともあるもの。だから話をしよう。そしていろんな人と自分の性の在り様をひとつずつ肯定したり検証したりしてくことができたらなあと思ってるんだ。最初はこないだやったセックスの冒険の話でもいいんだ。失敗したことでも良いし、うれしかったことでもいい。でも、そこから、どこか深いところに話を進めあってくことが出来たら、本当の意味での大人の階段を一歩上がったことになるんじゃないかなあ。たとえこれを読んでるあなたが15歳でも、72歳でも。

なかなかHIVの検査に行くことが出来ない人はいまでもたくさんいる。感染してるかもしれないなあと思いながら、怖くて現実に向き合えない人もたくさんいるだろう。HIVを持っていることがわかったあとでも、そこに向き合えない人だっているんだ。もちろんつらいこといっぱいあるだろうなあって思う。そしてそれにはいろいろな理由があるだろうけど、大きな理由のひとつには、これがセックス(とセクシュアリティー)に関わる病気だということがあるだろうなあと思っている。セックスやセクシュアリティーについて、陽のあたる場所で話が出来ないタブー感が、HIVやエイズという「社会の病」のむずかしさを大きく支配しているのを感じるんだ。それにゲイ同士のパートナーシップを形作っていくときにも、このタブー感が置き石になってジャマをすることが多いみたい。付き合ってるうちにセックスに飽きて、浮気をしちゃって感染して、でもそれが言い出せなくて・・・なんてケースは実は案外多いんだ。二人の間にセックスがなくなったから浮気を繰り返して「ハイおしまい」とかね。躊躇なしで恋人同士、ナマでやっちゃう人はとても多いし、それが突然「つけようよ」なんて言ったら浮気がバレちゃうんじゃないかって悩む気持ちはとてもよく理解出来るんだけどね。だから、恋人同士でも、友だちどうしても、家族の間でもいい。「自分の場所だな」と思える場所を見つけたら、そこで他にもたくさんある人生の素晴らしいさまざまなお話のレパートリーに、セックスの話も加えてみてほしいと思うなあ。「鶏が先か、卵が先か」なんて話もあるから、まずは社会の側からタブー感をなくしてよ、なんて声も聞こえて来そうだけど、その社会にはぼくらもパズルの一角を担ってることを忘れないで、たまにはこっち側から一歩を踏み出してくことができたらいいなあとぼくは思っている。そうしてセックスやエイズの話が、陽のあたる場所でふつうに出来ちゃうようになって、他にもたくさんある人生の素晴らしいものとおんなじ線上で語られるようになれば、セックスと出会い以外にも、自分たちの本当の価値ともっといい感じの未来を見いだせるようなゲイの人たちも、増えてくるんじゃないのかなーと思うんだ。

文・写真/張由紀夫(community center aktaディレクター/アーティスト)
■community center akta
2003年に新宿二丁目にオープンした、HIVやその周辺のさまざまな情報をとりそろえたコミュニティーセンターです。運営はRainbow Ringという団体が行っていますが、HIV陽性者やその周囲の人々に対する支援活動を行う「ぷれいす東京」や、「日本HIV陽性者ネットワーク/JaNP+」、そしてその他にもさまざまな分野との恊働でバラエティーに富んだプログラムが進行していて、予防や感染不安を抱えた人たちのための資材にかかわらず、HIV陽性者が相談や支援を受けたり仲間を見つけるためのさまざまな情報が揃えられています。
立地からも想像出来るようにゲイを始めとしたセクシュアルマイノリティーのための情報がメインにはなっているものの、誰もが立ち寄ることの出来るオープンな場所になっています。
奥のスペースではさまざまなアーティストによる展覧会やライブ、語学や俳句サークルの集まり、勉強会やちいさなシンポジウムが開かれることもあります。
オープンは16時から22時。年末年始と、毎週月曜日および第2日曜日を休館としています。
■「discovery新宿二丁目」

2008年3月に刊行された、新宿二丁目に働くバーやクラブを営業するマスターやスタッフのみなさんに「HIV/エイズのこと、この街のこと」をインタビューした冊子。aktaやLiving Together計画から発信される情報や冊子、コンドームを通して変わって来た街の意識の変容や、予防主体になりがちなHIV対策に対する疑問が見え隠れする語りがおもしろい。当たり前のことなのだが、「新宿二丁目」がここまで多種多様な人々によって作られ、今もまた形を変え続けていることにびっくりする。
(問い合わせ:community center akta)
■すぐに役立つHIVの情報サイト HIVマップ

(別ウインドウ※クリックするとNHKサイトを離れます)
■すべての人がHIVとともに生きている」というリアリティを共有するためのプロジェクト Living Together計画

(別ウインドウ※クリックするとNHKサイトを離れます)
このカテゴリのその他の記事を見る: HIV/エイズ
筆者プロフィール

ハスラー・アキラ/張由紀夫
アーティスト/アクティビスト。エイズ予防財団流動研究員、コミュニティセンターakta勤務(東京/新宿)。69年東京生まれ。京都市立芸術大学大学院絵画研究科修了。93年よりHIV/AIDSをめぐる活動に入る。00年より、ハスラーアキラ名義で、東京、フランス、ベルリンなどで展覧会に出品。03年からRainbow Ringを立ち上げ、コミュニティセンターaktaにて勤務する。コンドームのパッケージをさまざまなアーティストとともに制作し、都内のゲイバーなどにアウトリーチする活動を手がける。街の人々や行政、メディアとNPOとのあいだに、音楽やアートを用いて橋を架けること、目には見えないかもしれないものを見えるようにすること(Visualizeすること)を大切に考えている。04年からNPO法人ぷれいす東京と共にLiving Together計画を発足、HIV陽性者やその周囲の人々のリアリティを伝えて行く形を模索している。◆主な展覧会:個展(OtaFineArts/Tokyo)、「ゲームオーバー」展、「アート一日小学校」展(WATARI-UM/Tokyo)、「どないやねん」展(国立パリ美術学校/France)、「Suddenly Inclusive」展(Kunst Werk/Berlin)、「あきまへん」展(Maisonde Folly/Lille France)、「J’embrasse pas」展(コレクション・ランベール/France)◆ 主な出版物:「売男日記」「The Rose Book」(イッシプレス刊)
(別ウインドウ※クリックするとNHKサイトを離れます)



