双極性障害からの回復

もくじ

(監修:東京女子医科大学神経精神科教授 坂元薫 ※所属は監修時)

まずは正しい診断を

うつ病とは薬も治療方針も異なります。

双極性障害は、放置していて自然に治る病気ではありません。正しい治療をしないまま放っておくと、再発を繰り返し、次第にその間隔が短くなってきてしまいます。

しかし、早期に発見して正しい治療を行えば、コントロールすることができる病気です。適切な治療を受け、再発を予防しながらうまくつきあっていけば、社会生活をおくることは十分に可能です。

そのためには、まず、何よりも正しい診断を受けることが大切です。「うつ病」と間違われることが多いのですが、「うつ病」と双極性障害では治療方法が違いますから、うつ病の治療をしてもよくなりません。現在「うつ病」と診断されていて、何度も再発を繰り返したり、長引いたりする場合は、双極性障害の可能性を考えてみることも必要かもしれません。医師に自分の状態をよく相談して、適切な診断を受けましょう。

 

薬物療法

気分の変動を安定させ、「躁」にも「うつ」にも効果を発揮します。

双極性障害の治療の基本になるのが薬物療法です。中心となるのが、気分安定薬という薬です。

気分安定薬にはいくつか種類がありますが、リチウムやバルプロ酸がよく使われます。気分が大きく上下に乱れた状態を安定させる働きがあり、そのため「躁」状態にも「うつ」状態にも効果があります。服薬している量が適切かを確認するためや副作用をチェックするため、血液中の濃度を計測しながら治療を進めていく必要があります。なお、ラモトリギンも双極性障害の予防薬として使用可能となっています。

「うつ病」の治療に用いられる抗うつ薬は、原則的には使いません。抗うつ薬により、かえって急速な「躁」状態を引き起こすこと(躁転/そうてん)があるためです。ただし、症状によっては、抗うつ薬や抗精神病薬を慎重に併用したり、抗不安薬や睡眠薬をあわせて処方したりする場合もあります。

症状が安定しても、再発予防のために薬は長期に渡って服用し続けます。調子がよくなったからといって、自己判断で勝手に服薬を止めたりせず、必ず主治医と相談しましょう。

 

精神療法

ものごとの捉え方を変え、思考や感情をコントロールできるようにしていきます。

薬物療法と並んで治療の柱となるのが精神療法です。治療者と患者とのやりとりの中で症状を改善していく方法の総称で、さまざまなものがあります。

代表的なのが「認知行動療法」です。ものごとの捉え方(認知)や問題となっている行動を見つめなおし、自分の陥りやすい思考や感情のパターン=「心のクセ」に気づいて、コントロールできるようにしていこうというものです。

その他、患者の重要な他者との関係に注目し、その人間関係で直面している問題に焦点をあてて問題解決をはかる「対人関係療法」や、起床や就寝・食事・仕事・他者との接触などの生活リズムに着目し、リズムの乱れを整えることによって再発を予防する「社会リズム療法」などがあります。

いずれも治療者から一方的に答えを提示されるものではなく、患者自身が自分の問題に気づき、主体的に取り組んでいくことが不可欠です。

 

双極性障害と上手に向きあう

病気を受け入れ、うまくつきあっていくことが大切です。

長年、「躁」状態や「うつ」状態に振り回され、悪戦苦闘してきた人も少なくありません。診断を受けた直後はショックで、なぜ自分はこんな病気になってしまったのかと嘆いたり、病気を否定したい気持ちになったりすることもあるでしょう。しかし、自分が病気であることを受け入れ、主体的に向き合っていくことが、双極性障害をうまくコントロールするための近道なのです。 「躁」や「うつ」の波に翻弄されていると、そうではない自分を忘れがちです。まずは、症状がないときの"本来の自分"の姿を取り戻しましょう。そして、どのようにすればそれを維持していけるかを考え、生活を立て直していきましょう。

医学的な治療をきちんと受けるほか、毎日の暮らしの中でストレスを上手に避けたり、生活のリズムを整えたりすることが有効です。生活リズムが乱れると、再発の引き金になったり、症状を悪化させたりすることがあるので気をつけます。中でも大切なのが睡眠リズムです。徹夜は不眠を招き、「躁」状態を招く原因になるので絶対に避けましょう。

再発の兆候を見逃さないことも大切です。おかしいと思ったら早めに主治医に相談して対処するようにしましょう。本人だけでは気づけないこともあるので、家族や友人、同僚などの協力が必要になります。周囲の人たちが病気を正しく理解し、患者と協力することで、再発を防ぎ、効果的に治療をしていくことができるのです。

 

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