強迫性障害とは 基礎情報・支援情報

もくじ


(監修:千葉大学 子どものこころの発達研究センター長 清水栄司)

 

画像(「とらわれ」の病)

「とらわれ」の病

わかっているのにやめられない。

「手を何回洗っても、きれいになった気がしない」「戸締りが気になって、何度も確認してしまう」…。ある特定の考えが自分の意思に反して繰り返し浮かび(強迫観念)、それによって引き起こされる不安や恐怖などを打ち消すために、同じ行動を繰り返すことを自分に強いる(強迫行為)のが「強迫性障害」の症状です。英語の疾患名Obsessive Compulsion Disorderを略してOCDともいわれます。
 
原因は今のところわかっていませんが、脳の神経伝達に関係していると考えられています。発症の背景には、ストレスや生活環境の大きな変化があるケースが多いようです。
 
強迫性障害になる人の割合については、調査の時期や方法によっても違いがありますが、世界的におおむね人口の0.5~2%と報告されており、決して珍しい病気ではありません。また、未受診の人も多く存在すると考えられています。発症年齢は10代~20代の若い時期が多く、平均すると19~20歳ですが、小児期から症状が始まるケースもあります。
 
強迫観念・強迫行為によってとらわれるものは、人によってさまざまです。また、一つのことだけではなく、複数のことにとらわれる人も多いようです。

 

主な症状の現れ方(1)

洗わずにはいられない。確かめずにはいられない。
 
強迫性障害の症状で、非常によくみられるのが「汚染/洗浄」と「確認」です。「汚染/洗浄」は、ばい菌やウイルス、排せつ物などに、自分や周りのものが汚染されるように感じられ、強い不安に襲われます。そのような汚染を防ぐために、何回も手や体を洗ったり、汚れがついていると思うものに触れることを避けたりします。「確認」は、ドアの戸締りや電気を消す時など、実際はきちんとできていても確信が持てず、もう一度確かめたくなり、それを何度も繰り返してしまいます。
 
こうした不安は、誰でもある程度は感じるものですが、強迫性障害の人はその反応が過剰です。例えば「汚染/洗浄」の場合、汚れが衣服などを介して家具や壁、床、部屋全体に広がると感じて、トイレに行くたびに服を着替えたり、体を洗ったり、部屋中を掃除しなければ気がすまなくなったりします。手洗いや入浴に何時間もかかるようになったり、外に出るだけで汚れがつくと感じて外出できなくなったりすることもあります。「確認」の場合も、一つの行為をするのに人の何倍も時間がかかってしまい、仕事や生活に支障が出たりします。

 

主な症状の現れ方(2)

人によってさまざまな「とらわれ」があります。

「汚染/洗浄」「確認」のほかにも、よく見られるいくつかの症状があります。
 
・「加害」
自分のせいで人に危害を加えてしまわないかという強迫観念です。例えば、車を運転していて、「誰かをひいてしまったのではないか」という考えにとらわれ、車を降りたり、その場所に戻ったりして、大丈夫かどうかを何度も確かめる(確認)、あるいは運転を避ける(回避)といった強迫行為をしてしまいます。
 
・「不吉」「道徳」「儀式」
ある嫌な考えやイメージが、ひんぱんに頭をよぎったり、こびりついたように頭から離れなくなったりします。例えば、「道を曲がるたびに神仏への礼拝を唱えないと、悪いことが起こる」といった考えにとらわれ、それをしないと不安でたまらなくなり、他のことが手につかなくなったりします。
 
・「数字などへのこだわり」
数、色、対称、順番、寸法などに対して、自分なりの決まったルールがあり、そのことに過剰にとらわれます。例えば、4や9など特定の数字は不吉なことが起こる気がして、病院の番号札にそれらの数字が含まれているといても立ってもいられなくなったりします。
 
ほかにも、人によって症状の現れ方はさまざまです。また、一つだけでなく、複数の症状をあわせ持つ人も少なくありません。

 

単なる「こだわり」とは違う

本人はとても苦しいのです。
 
強迫性障害の症状は、単なる潔癖症や縁起をかつぐというものとは異なります。強迫性障害の人が行う「強迫行為」は、繰り返しややりすぎが多く、しばしば常識や科学的な事実にそぐわない不合理な方法をとります。
 
一番大きなポイントは、本人が強迫行為をすることに精神的な苦痛を感じているということです。自分でもやっていることがおかしいという感覚があるのです。無駄なこと、意義のないことを行っている自分自身に対して、とても嫌な感情がともないます。また、その行為をすることに大変疲れます。しかし、その行為を行わないと、とても耐えられないほどの強い不安や恐怖に追い立てられているのです。
 
強迫行為を行うと、不安は一時的に下がりますが、特定の場面に出会うと再び強迫観念が起こり、また強迫行為を行ってしまいます。この悪循環にはまると、自分ではなかなかコントロールできなくなり、強迫行為の程度がエスカレートしていく人も少なくありません。

 

強迫性障害は生活のすべてに影響する

日常生活に支障が出てきます。
 
症状が比較的軽いうちは、苦痛があったり症状に時間がとられたりしても、なんとか日常生活をおくることができます。しかし、症状が重くなると、強迫行為に大半の時間をとられて他のことをする余裕がなくなったり、行けない場所が増えたりするなど、日常生活に大きな影響が生じるようになります。学校や仕事に通うことができなくなり、部屋から出られずひきこもりになる人もいます。
 
症状に追われる生活が長く続くと、気分が落ち込みやすくなり、自分の行為に自信がなくなったり、悲観的な考えに傾きやすくなったりします。そのため、うつ病を併発する人も多く見られます。
 
また、家族と同居している場合、家族も症状に巻き込まれてしまうことがあります。たとえば、汚染への不安のため、本人が家族にも不要な手洗いを要求したり、特定の場所にさわることを禁じたりするなどです。そうなると、家族の生活にも支障が出てしまいます。ストレスを感じた家族がうつや睡眠障害になってしまうこともあります。

 

相談窓口/支援団体/サービスなど

「メンタルヘルス」のページをご覧ください。