大人の発達障害とは・基本情報

もくじ  


(監修:昭和大学附属烏山病院 病院長 加藤進昌)※所属は監修時




 

そもそも「発達障害」って?

発達障害とは、幼少期から現れる発達のアンバランスさによって、脳内の情報処理や制御に偏りが生じ、日常生活に困難をきたしている状態のことです。特定のことには優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手といった特徴がみられます。こうした得意なことと苦手なこととの差、いわば凸凹は誰にでもあるものですが、発達障害がある人は、その差が非常に大きく、そのために生活に支障が出やすいのです。

発達障害は行動や認知の特徴(「特性」)によって、主に次の3つに分類されます。図のようにそれぞれは重複することもあり、人によっては複数の特性をあわせ持つ場合もあります。





ASD(自閉スペクトラム症)
・コミュニケーションおよび相互関係の障害
人の気持ちを理解するのが苦手、冗談や比喩が理解できない、興味のあることを一方的に話し続けてしまう、非言語的なサイン(表情・目配せなど)を読み取るのが困難 など

・同一性へのこだわりや興味・関心の狭さ
日課・習慣の変化や予定の変更に弱い、特定の物事に強いこだわりがあるなど

・その他の特性
聴覚・視覚・触覚など感覚の過敏性を伴うこともある

 

ADHD(注意欠如・多動症)
・不注意
物をなくすことや忘れ物が多い、人の話を一定時間集中して聞けないなど

・衝動性
予測や考えなしに行動してしまう、相手の話を待てないなど

・多動
じっとしていられない、動き回る、しゃべりすぎるなど

 

LD(学習障害)
「読む」「書く」「計算する」などの特定の分野の学習だけが極端に困難


こうした特性は見た目では分からないため、周囲はつい「本人の努力が足りない」と思ってしまいがちです。しかし、努力をしてもなかなか改善が難しいということがあります。だからこそ、発達障害が「障害」として位置づけられたともいえます。

なぜ大人になるまで見過ごされるのか

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発達障害のある人は、「相手の気持ちを読めない」「注意のコントロールが苦手」などの特性のため、子どもの頃から集団に馴染めないということが起こりがちです。そのため、いじめを受けたり、なんとかして周囲に合わせようと無理をして、苦しい思いをしてきたという人も少なくありません。
それなのに、なぜ大人になるまで発達障害があると分からなかったのでしょうか?

考えられるのは、周囲の環境や人間関係によってカバーされていた場合です。学校では、決められた日課に沿って生活し、与えられた課題をこなしていれば、人付き合いが苦手であってもあまり問題にはなりません。勉強ができれば、多少場違いな行動があっても、先生や親がフォローしてくれるでしょう。家族や先生、仲のいい友達といった限られた人間関係の中では、発達障害の特性も「個性的」ということで認めてもらえていたかもしれません。しかし社会人になると人間関係は複雑になり、いろいろな人とやりとりをしなければならなくなります。相手の表情や空気を読み取ったり、周囲に合わせて行動するなど、高度なコミュニケーション能力や社会性を要求されるようになります。また仕事や学習においても、人から与えられるものだけでなく、自ら計画を立て、主体的にアプローチしていくことが求められます。そうした周囲からの要求によって、それまで潜在的にあった特性が一気に浮かび上がってきて、社会生活に支障をきたすということが考えられます。

また、発達障害という概念が知られるようになってきたのはごく最近であり、以前はその特性からもたらされる失敗や困難さを、本人の努力不足や親の育て方のせい、とされることはよくありました。いまでもそうした傾向は残っています。そんな誤解の中で自らの特性や対処法を学ぶことなく育ち、社会に出てから頑張って働こうとしてもやはりうまくいかず、深く傷つく中でようやく「発達障害」という言葉と出会い、診断を受けた、というケースも少なくないのが現実です。
さらに、せっかく医療機関を訪ねても、成人を診る精神科医の中で発達障害のことがよく理解されておらず、統合失調症など、他の疾患と誤診されることもありました。そのため、誤った治療を受けて苦しんだという人もいます。

自分の「生きづらさ」の原因がわからず、周囲からも理解されず、マイナスの経験が積み重なっていくことは、「自分は周囲に受け入れられていない」という感覚を抱いたり、“普通”になろうと無理な努力を重ねたりすることにつながり、その結果として社会的な不適応を起こしやすいといえます。
ある研究によれば、ひきこもりの人たちの3割に発達障害があったことがわかりました。しかもそのほとんどは本人も家族も気づかず、診断されていない人たちです。現在も発達障害に気づかないまま、社会適応がうまくいかず、苦しんでいる人たちは数多くいると考えられます。
しかし、大人になってからわかった場合でも、悪化を防ぎ、治療を進めることはできます。発達障害の特性を踏まえた環境の調整、生活の工夫、ソーシャルスキル・トレーニングなどと組み合わせていけば、状況を改善していくことは可能です。

診断と治療

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発達障害の診断は、ASD、ADHDなど、診断名ごとにそれぞれ国際的な診断基準があり、精神科医が相談者との面談や検査を行いながら、時間をかけて総合的に判断します。他の病気の診断と大きく違うのは、子どもの頃からの生育歴が重要ということです。発達障害の特性は子どもの頃から存在しているものなので、現在の症状や困難さが子どもの頃の特性とどのように結びついているかを見極める必要があります。子どもの頃の成長の記録や証言があれば、用意していくといいでしょう。

ただ残念ながら、現状では、大人の発達障害を診断できる精神科医はまだ多くありません。診察を希望する場合は、精神科のある病院やクリニックに「大人の発達障害について診断できるか」ということを問い合わせてみてください。地域によっては発達障害の診察をしている医療機関を、医師会や発達障害者支援センターなどが公表しているところもあります。

治療については、主に薬物療法と生活療法の二つがあります。
薬物療法では最近、ADHDの症状を緩和させる効果のある薬が成人にも適応されました。またうつ病など二次障害で陥りがちな症状への治療としても、よく行われています。

生活療法ではデイケアがあります。そこでは、障害について理解を深めることを目的とした心理教育や、コミュニケーションの向上を目的としたSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)などが行われています。しかし、発達障害に特化したプログラムを有しているデイケアは少ないのが現状です。

どちらの治療法にせよ、現在のところ発達障害を根本的に「治す」ことはできません。発達障害の特性とは、その人が生まれもった「ものの感じ方・考え方・行動の仕方」と深く結びついていて、それを根本的に変えることはできないからです。

従って「治療」のめざすところは、生活上の不適応を軽減し、「発達障害」を発達の「凸凹」の範囲に収められるような方策を見つけることになります。そのためには、なぜ不適応が生じているのか(発達障害の特性そのものか/二次的な要因によるものか/周囲の環境によるものか など)を検討し、どうすれば不適応を減らせるかを様々なアプローチ(症状を緩和させる/対処法を身につける/環境を変える/周囲の人にサポートを求める など)で探っていくことになります。その上で安定的な「居場所」と「役割(仕事)」を見つけることが目標となりますが、その際にはさまざまな支援機関を活用することも可能です。

 

相談窓口/支援団体/サービスなど

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