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6月。岡山県で、障害のある若者とアーティストがペアを組み、2人でつくりあげた作品を発表するというイベントが開催されました。プロのアーティストが深くかかわることで、一人一人に眠っている感性の扉を開くことが狙いです。
きっかけさえつかめば可能性は無限大。2人で1つの作品を目指し交流を重ねた半年間を追いました。
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アートリンク・プロジェクト |
昨年、障害のある人と芸術家が1つの作品を制作する「ART LINK PROJECT(アートリンク・プロジェクト)」という企画が岡山県で始まりました。 |
プロジェクトを企画したのは、知的障害者の施設を回って絵の指導をしている田野智子さんです。
田野: 障害のある人の、ことばにできない、やむにやまれず行う表現と、若いアーティストさんの柔らかい感性を組み合わせるとおもしろいものができるんじゃないかなと。
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田野さんの呼びかけで、障害のある9人の若者が集まりました。企画に賛同したプロのアーティストたちもボランティアで参加します。テーマは自由。絵や音楽など、自分たちが好きな分野の相手とペアを組んで半年間の共同制作が始まりました。
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ミュージシャンの岡本永さんは「自分自身の活動の幅を広げたい」と今回参加を決めました。ペアを組む相手は養護学校に通うダウン症の片山雄司さん(17歳)です。音楽が好きな雄司さんと2人で曲を作り、演奏しようと考えています。
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岡本さんは雄司さんが持つリズム感や、どんな楽器が演奏しやすいかを知るため、毎回ユニークな楽器を持って、雄司さんの家にやってきます。ギターの弦をこする音に合わせて自由な発想で音を返してくる雄司さん。2人の作品作りに新しい可能性が生まれていました。
雄司: 心も体も温まるみたいで、心が温かいです。
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生後まもなくダウン症と診断された雄司さんに、母 悦子さんは毎日歌を歌って聞かせていました。歌には悦子さんの願いが込められていました。
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悦子: 歌ってやると、足をバタバタさせたり体を動かしてうれしそうにしていたので、抱いている時も、寝ている時も、いつも歌っていたような気がします。「お母さんの声を聞きながら、思いやりがある子になればいいな」と。
歌や踊りが好きで明るい性格に育った雄司さん、小学校時代はクラスの人気者でした。しかし中学に入ると、まわりの友達はクラブ活動や受験勉強で忙しくなり始め、雄司さんは部屋で独りぼっちで過ごすことが増えていきました。そんな時、雄司さんの支えになったのは大好きな音楽でした。
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雄司: 音楽で気持ちを立て直す。フレンド、お友達。
3月、ミュージシャンの岡本さんは、雄司さんと海へドライブに出かけました。2人で過ごす何気ない時間も作品作りにつながっていきます。
雄司: 雨降りとかってありますよね。雨ってほんとうにいい音がする。
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雨も音楽の1つに感じる、そんな雄司さんの感性に岡本さんは引き込まれました。
雄司: 雨の音がすると、曲が1曲できるんですよ。
岡本: ロマンチックだね。
浜辺で集めた材料を持ち帰って、2人だけの楽器を作ることにしました。
波の音に誘われ、2人は演奏を始めます。解き放たれたように体いっぱいで音楽を表現する雄司さん。2人の音が響き合いました。
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岡本: また違ったバイブレーションが感じられたような気がします。いいね、やっぱり外は。
雄司: はい。気持ちいいです。
作品発表まで2か月。2人は手作りの楽器で感じるままに演奏するパフォーマンスを披露することに決めました。
参加者の中には、障害を乗り越え、プロの漫画家を目指そうとしている人もいます。二十歳になる伊丹宏太郎さんは、毎日オリジナルのキャラクターを描き続けています。
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自閉症の宏太郎さんは、自分の考えや感情をことばで表現するのが苦手なため、他人とうまく関係を築くことができません。
父 英徳さん: 他人に対してものすごく不安を感じるという苦手意識があります。自分の思いをことばでしゃべるということがとても苦手なので、できるだけいろいろな人とのかかわりを持たせてあげたいと思っています。
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小さいころの宏太郎さんは、ことばにできないもどかしさを自分にぶつけ、窓ガラスや壁に頭を打ちつけては、大けがを繰り返していました。
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絵を描くことを覚えると、日々の出来事や楽しかった思い出を絵にして両親に伝えるようになり、ものを見る観察力は、次第に研ぎ澄まされていきました。
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高校時代に描いた自宅の洗面所の絵。繊細な描写や、質感をうまく伝える色の使い方など、美術の教師も驚くほどでした。
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これまで1人で絵を描き続けてきた宏太郎さん。今回、初めてほかの人との共同作業に挑戦します。
宏太郎: 自分で作るのと、数人で作るのとは違うから、違った作り方、おもしろそうと思って。
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宏太郎さんの相手は、立体的な現代アートの世界で活躍している真部剛一さんです。
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ペアを組んで3か月。真部さんは宏太郎さんの描いた絵をもとに、新たなアート作品を作ろうと試行錯誤を続けていました。宏太郎さんは一番気に入っているキャラクター「正義のために戦うヒロイン」の人形を作りたいと希望していました。
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真部: 相談なんだけど、このキャラクターに合う女の子を探そうと思うんだ。
真部さんは、人形ではなく実際のモデルを使って現実の社会に登場させようと提案しました。多くの人とかかわりながら表現していくことの楽しさを知ってほしいと考えたからです。
真部: 伊丹君が考えている世界、自分自身が持っている世界が、彼の頭の中だけで終わるのではなく、実際に形にして世の中に出すということ。彼にそういう体験をしてほしいというのが一番にあります。
宏太郎さんが描いた空想の世界のキャラクターに命を吹き込むという2人の挑戦が始まりました。
1週間後、モデルになってもらうことをお願いした女性との顔合わせです。自分の思いをことばで伝えるのが苦手な宏太郎さん。しかし真部さんは、キャラクターの説明を宏太郎さんに任せることにしました。
宏太郎: セーラって人間と妖怪のハーフです。母親が人間で、お父さんが吸血鬼。しっかり者で世話好き。怒ると怖い。
宏太郎さん、自分が考えたキャラクターの衣装や性格をひとつひとつ説明することができました。 |
モデル: 普通に生活しとったら絶対できない格好だし経験だから、楽しそう。
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Q: どうしてたくさん話せた?
宏太郎: 自分でもわかりません。
Q: どんな気持で?
宏太郎: ただワクワクしながら。
Q: いい作品になりそう?
宏太郎: あとは僕の腕次第です。
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雄司さんと岡本さんのペアは、浜辺で拾った瓦に穴を開け、釣り糸を通し、オリジナルの楽器を作っていました。
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パイプの中に貝殻を詰めて鳴らすと、雄司さんが好きだと話した雨の音になりました。
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Q: 何で雨の音が欲しいと思ったの?
雄司: 音楽を楽しくしようと考えています。
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半年掛けての作品作り。2人の間には深い友情が芽生えていました。
Q: この赤い顔は誰?
雄司: 岡本さんです。
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漫画のキャラクターを題材に作品作りに取りかかっている真部さん、宏太郎さんペア。モデルの衣装と小道具が完成しました。宏太郎さん、いよいよ自分のキャラクターと対面です。空想のキャラクターが現実の世界に登場するのです。
宏太郎: ああ、なんかびっくりしました。
Q: 伊丹君の世界と近い?
宏太郎: それ以上になっちゃったな。
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アート展では宏太郎さん自身が撮影した写真も展示します。どんなポーズを取ってもらうのか、自分のイメージをことばで伝えなければなりません。作品作りの総仕上げは宏太郎さんに託されました。宏太郎さん、堂々と指示を出して現場のスタッフを引っ張ります。
宏太郎: もうちょっとまっすぐ持って。こんな感じ。
モデル: もうちょい寝かすのか。
宏太郎: もうちょっと腰を左に。はい、そのまま。
この日は、宏太郎さんの両親も見学に来ていました。
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父 英徳: すごいですね。ちゃんとコミュニケーションとっているじゃないですか。きちんと要求もできている。やっぱり興味があって好きなことの力はすごいな。今までにないよう表情だったから、きょうは見にきてよかったです。
宏太郎さんの1枚の絵から迫力ある作品が誕生しました。
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6月の初め。岡山市内のギャラリーを会場に半年間の成果が姿を現しました。
真部さんと宏太郎さん、2人でつくりあげたざん新な作品に注目が集まります。
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見学者: すごくかわいくて、驚きました。
他人とのコミュニケーションが苦手だった宏太郎さん。初めて挑んだ共同作業をみごとにやり遂げました。
宏太郎: 頑張ったかいがありました。
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会場の外では雄司さんと岡本さんの演奏が始まろうとしていました。半年間の交流を重ねてきた2人の集大成です。
手作りの楽器を使った即興のパフォーマンス。自由に感じるままに音楽を表現する雄司さん。2人の気持は1つになっていました。最後は雨の音をかき鳴らします。
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雄司: 最高です。もう止まらない気分です。
岡本: 型にはまらないこと、それが一番大きいですね。自由に音を楽しむ。本来の音楽の意味ですよね。何か伝えたい気持をぶつけてやっている姿というのは、いろいろ感じるものがありますね。
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障害のある人とアーティストが1対1で向き合うことで生まれた新しいアートの形。感性と感性で響き合った2人が表現したもの、それは無限に広がる可能性そのものでした。
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