火曜日 こころの相談室

大人のアスペルガー症候群
2005年2月8日(火)

 「あいつは変わり者だ」「常識がない」と言われていた人たちが、実はアスペルガー症候群という脳の障害だったと診断されるケースが増えています。例えば、周りがどんなに忙しくしていてもそのことに気づかず、一人だけ先に帰ってしまう。物事の優先順位が決められず、次の行動になかなか移れない。そして、一度興味を持ったものに対しては、時間を忘れてとことんのめり込む。

町永アナ この障害は、適切なケアを受けずにいると本人に強い精神的ストレスがかかり、うつ病や強迫性障害などを引き起こす危険性もあります。きょうは、大人のアスペルガー症候群の実態を紹介し、どのようにサポートしていけばいいのかを考えていきます。

 

大人のアスペルガー症候群 その実態

 佐賀県にあるNPO法人「それいゆ相談センター」では、アスペルガー症候群や自閉症の人たちを対象に、カウンセリングや職業訓練などの支援を行っています。

 週に4日、このセンターに通い、職業訓練を受けているという33歳のこの女性は、1年前にアスペルガー症候群と診断されました。

アスペルガー症候群の女性私は視線を感じるのが嫌なので、こうしてもらっています。(この囲いがなかったら)「人に見られている」と不安を感じます。(アスペルガー症候群の女性)

囲いの中で仕事をする女性 この女性は、こうした囲いがないと他人の視線が気になって物事に集中できなくなると言います。以前勤めていた会社では、仕事上のトラブルが相次ぎ、2年前に退職せざるを得ませんでした。アスペルガー症候群と分かったのはその後のことです。

専門学校卒業式 もともと他人とのコミュニケーションが苦手だったと言うこの女性。しかし、それを障害とは気づかないまま、コンピュータ関係の専門学校を卒業。その後、食品関係の企業で事務の仕事に就きました。そして、そこで大きなトラブルに遭遇することになります。取引先から注文の電話を受けた女性。しかし、その内容を正確にメモすることができず、発注の中身を間違えてしまいました。

電話をしながらメモが取れない電話を取っても、私、一緒に字が書けないんです。書いている字が言葉と字にならないという感じで。だから私は、一つのことしかできない。やりながらっていうのはまず無理です。(アスペルガー症候群の女性)


 大切な発注を間違い、取引先に大きな損害を与えてしまった女性。しかし、自分のミスがなぜ取引先をそれほど怒らせてしまったのか、今もなお理解できないと言います。

アスペルガー症候群の女性「電話の取り方が悪いから謝りに来い」と言われて、事務員で土下座したの初めてですよ。何で土下座までしなくちゃならないんだろう。こっちは普通に応対したのに。(アスペルガー症候群の女性)

学生時代の女性 女性は幼いころから何をするにも動作が遅く、自分の意思で行動するのが苦手でした。毎朝出かけるまでに時間がかかり、学校にもたびたび遅刻していました。

女性の母親朝、起きないというより、何回も何回も起こして……という形で、親が過保護なほど手をかけていましたね。何かにつけて、「自分で行動することがないな」とは思っていましたが、そのうち治るかなという思いできました。(女性の母親)


学校でも一人で過ごすことが多かった 度重なる遅刻を心配して、自宅に迎えに来てくれる友達もいました。しかし、女性には友達の気持が理解できず、むしろ負担に感じることのほうが多かったと言います。学校でも周囲とは話が合わず、食事の時や休み時間も一人で過ごすことがほとんどでした。

アスペルガー症候群の女性人に合わせないといけないじゃないですか。それが私にとって……。小学、中学、高校と、話についていけなかったんです。ただ時が流れるのを、もう必死でというか、その時はまだ障害のことは何も分からなかったですからね。(アスペルガー症候群の女性)

強迫性障害の診断書 勤め先で大きなトラブルを起こして以来、女性を取り巻く状況は悪化していきました。電話に出ると、「ほかの人に代われ」と言われたり、担当を途中で変えられたり、次第に職場で疎まれるようになりました。
 やがて、度重なる職場でのストレスが原因で、女性は強迫性障害になってしまいました。アスペルガー症候群の人たちは、適切なサポートを受けずにいると、こうした二次的な障害が出ることもあります。この女性の場合、職場の物は何でも不潔に感じるようになり、手を洗う回数が極端に増えていきました。風呂に入る時間も長くなり、時には7時間以上入っていることもありました。

女性の母親親としては、「もしお風呂でどうかなったらどうしよう」と、寝てても気が気じゃなくて、1時間おきくらいに「大丈夫? 早くあがらんね」と、それの繰り返しでたいへんでしたね。(女性の母親)

 娘の異常に気がついた母親は、心の病ではないかと女性を精神科に連れて行きました。そこで専門的な診察を受け、初めてアスペルガー症候群だと診断されました。32歳の時でした。

アスペルガー症候群の女性最初、主治医から「あなたは人のしぐさとかが読めない」と言われて、「えっ?」と思って。私は別に普通に接していると思っていたのに、「普通の人はしぐさとか雰囲気で読んで行動をするけど、あなたは読めない」と言われました。こちらに来て、あらためてアスペルガー症候群という障害だと言われて、「ああ、それでか」と思いました。早く分かっておけばまた違った人生があったんじゃないかなとも思いました。(アスペルガー症候群の女性)

梅永雄二さん
梅永雄二さん

ゲスト:
宇都宮大学教授 梅永雄二さん

専門は障害児教育。臨床心理士としての立場からアスペルガー症候群に取り組み、支援のあり方などを提言している。

―アスペルガー症候群とはどのような障害だと考えればよろしいのでしょうか。

梅永: アスペルガー症候群は心の病だというイメージがありますが、そうではありません。自閉症と同様、脳の情報処理機能の不全による発達障害です。 


―自閉症とはどう違うのですか。

梅永: 自閉症によく似た傷害ですが、アスペルガー症候群は知能にまったく問題がないので、発見が遅くなる可能性があります。

<アスペルガー症候群のおもな特徴>

アスペルガー症候群のおもな特徴

・社会性やコミュニケーション能力に問題

・相手の気持が理解できない

梅永さん「目と目が合わない」「友達が作れない」、先ほどの女性の場合では、「友達が迎えに来たのを苦痛に感じてしまう」など。

・感覚に特異性がある

アスペルガー症候群も自閉症候群も、自閉症スペクトラムという医学的には「広汎性発達障害」と言われるものに入ってる。こういった自閉圏の方々は刺激に敏感で、目から入ってくる刺激がたくさんありすぎると、ほかに目が行ってしまう。パーテーションによって刺激を遮断することにより、落ち着いて仕事に取り組むことができる。

・興味の範囲が狭い

―そういったことに関しては思いあたる節のある人もいると思います。これを障害と判断するポイントは?

梅永: 一番大きなポイントは、友人関係を作ることが困難であるということかもしれません。


―アスペルガー症候群は、放っておくと二次障害になる場合が多いということですが。

梅永: はい。二次障害としてうつ病、あるいは強迫性障害といった、ストレスからくる障害が発生することもあります。


―子どものころのアスペルガー症候群と、大人になってからのアスペルガー症候群、どのように違ってくるのでしょうか。

梅永さん梅永: 子ども時代は、学校や家庭でセーフティネットという形で防御しています。ところが成人期になると、社会に出て一人で生活していかなければならない部分も出てきます。そうすると、誰もサポートしてくれませんから、「変わり者」「わがまま」「勝手な行動をする」といった周りとの隔たりが非常に強く出てくるのではないでしょうか。

 

大人のアスペルガー症候群 必要な支援とは

アスペルガー症候群の男性 中学生のころにアスペルガー症候群と分かり、センターに通い続けているこの男性(20)は、2年前から事務や掃除などを中心とした職業支援を受けています。パソコンでの作業が得意で、細かいデータ入力もすばやく行うことができる男性。センターではこの特性をさらに伸ばそうと、名簿やスケジュールなどのデータ入力を任せています。

アスペルガー症候群の男性いい意味で、本当に時間を忘れるというか、時間を忘れるくらい力が入ります。(アスペルガー症候群の男性)

スケジュール表 しかし、男性はやるべき仕事がいくつかあった場合、自分では優先順位を決めることができません。また、一つの作業に熱中してしまうと、集中しすぎてなかなか次の行動に移れなくなります。そのためセンターでは、「男性のスケジュールをあらかじめ表にまとめて本人に渡す」という工夫をしています。午前中は主に掃除の時間。どこから始めるか、休憩はいつ取るかなど、一日およそ40項目が決められています。

ごみ捨て この日最初の仕事は、ごみ捨てです。事務所やキッチン、会議室や倉庫など、センター中のごみをすべて集めます。作業の手順さえ明示しておけば、男性が迷うことはほとんどありません。

タイマーをセットして休憩 ごみ集めが終わると、スケジュール表をチェック。すぐにタイマーをセットして次の休憩時間に入ります。休憩は10分間。好きなゲーム雑誌を読み始めると、つい時間を忘れてしまうので、それを制限するのがタイマーの役割です。

 細かいスケジュールを立て、進行状況を目に見える形で確認できるようにすることが、もっとも効果的な支援策になるのです。

アスペルガー症候群の男性どこまでやったのか分からなくなるので、(スケジュール表が)なかったら、きょうはどこまで仕事ができたかというのが分からない。「どこまでやったか忘れました」と言わなくていいようになりました。仕事のほうに集中できます。(アスペルガー症候群の男性)

仕事をしている男性 職業訓練を通して、決められた仕事をこなせるようになった男性。今でも支援は必要ですが、その働きぶりが評価され、センターから給料ももらえるようになりました。

アスペルガー症候群の男性今は週3日働かせてもらっていますけれど、一つ一つの仕事をもっと丁寧にできるようにして、週5日働けるように頑張りたいと思っています。(アスペルガー症候群の男性)

アスペルガー症候群の女性 1年前からセンターに通っている33歳の女性も、今、社会復帰を目指しています。センターで週4日の職業訓練を受けていますが、ここ数日遅刻が続いているようです。自分の意思で行動するのが難しく、次の動作に切り替えるのが苦手な女性。この日の朝もどうしても起きられず、遅刻してしまいました。

スケジュール表 このままでは仮に就職しても、仕事を続けていくことは困難です。どうすればスムーズに動作を切り替えられるようになるのか。相談センターでは女性の自宅を訪問し、日常生活の支援にも乗り出しました。ここでも重要になってくるのは、目に見える形で自分のスケジュールを把握すること。まず、朝起きてから寝るまでの日程を細かく書き出し、生活のリズムを立て直すことから始めました。

女性と支援者女性: この、決めた時間以上は休んではいけない。

支援者: そうそう。この時間で動いていったほうが……。まずは、一緒に決めたこのスケジュールに沿って生活して、自分の生活リズムというのを作っていくのも大切。

女性: そうですよね。これで何とか改善できれば。

支援者: 少しずつね。焦らない。焦らない。もし、これでも何か違ったらまた考え直したり……。


アスペルガー症候群の女性まず、働くことが目標です。とりあえず働くこと。一つずつやっていこうと思っています。(アスペルガー症候群の女性)

障害福祉課であいさつ さらに相談センターでは、女性の職業訓練の一環として実際の職場を体験してもらうことにしました。訓練に協力するのは佐賀県。障害に理解がある障害福祉課がこの女性の受け入れ先です。
 初対面の人がほとんどでしたが、あいさつは無事に済ますことができました。女性はまず、週に一回程度、事務や掃除を手伝うことになりました。当面は、新しい環境で訓練をしながら、少しずつ他人とのコミュニケーションに慣れていくのが目標です。

アスペルガー症候群の女性緊張しますね。やっぱり人がたくさんいるのがちょっと気にはなりますけど、私の頑張り次第で、またいろいろ変わってくるから、力まず頑張っていきたいと思います。(アスペルガー症候群の女性)

町永アナと梅永さん―とても積極的かつ、きめ細やかな取り組みだと思ったのですが、このような所はまだまだ少ないのでしょうか。

梅永: そうですね。まだこれからといった状態です。

<アスペルガー症候群 必要な支援>

アスペルガー症候群 必要な支援

・スケジュールや手順を明示する
 視覚的な刺激に非常に敏感なので言葉で指示指導するよりも、文字に書いてビジュアル的に支援をするほうが理解しやすい。言葉だけだと混乱する。
 また、私たちは毎日スケジュールに従った行動をというと窮屈な感じがするが、アスペルガー症候群の方々は、そのほうが見通しが立って安心。

・指示代名詞を使わない
 「ここ、やっといて」だと分かりづらい。「このフロアを掃除機、またはモップできちんと掃除しておいて」と言えば分かりやすくなる。「これ」「あれ」「それ」といった抽象的な言葉はアスペルガー症候群の方々には分かりづらいので注意。

・複数のことを同時に頼まない
 「玉ねぎの皮をむいた後、床を掃除して。それから、お皿を洗っておいて」と言われると混乱する。リストを作り、「一つのことが終わったら、チェックをして、次にいく」というふうに指導するのがよい。

・ジョブコーチをつける
 今まで、ジョブコーチとは知的障害の方に対して、仕事を分かりやすく説明するという支援が多かった。しかし、アスペルガー症候群の方々は知的障害はないので、仕事そのものの指導というよりは、職場の人間関係の調整が必要。

 アスペルガー症候群に詳しく、職場の中の上司や同僚にアスペルガー症候群という障害の特性をきちんと説明できる人がよい。

 

―ジョブコーチの支援体制について

梅永さん梅永: 地域の障害者職業センターにジョブコーチは配置されています。また、自閉症・発達障害支援センターというのが、現在22か所設置されていますが、この4月から発達障害者支援センターと名称が変わり、県に一つ以上設置される予定です。昨年12月3日に発達障害者支援法が制定され、自閉症、アスペルガー症候群、ならびにDL、ADHDといった発達障害全般の支援が広がりつつあります。

 まずは周囲の理解。そのことで本人が、その苦痛から逃れられるというのもこの障害の特徴かもしれません。今後さらに、支援体制を整備していくことが必要だろうと思います。

 

● スタジオ出演
梅永 雄二さん(宇都宮大学教育学部教授・臨床心理士)
町永 俊雄アナウンサー
(ナレーション:河野 多紀さん)