2003年度2004年度2005年度
2003年4月〜2006年3月の放送記録 
  火曜日 こころの相談室 10月7日・2004年1月6日(火)
手を洗わずにはいられない
〜 こころの病 強迫性障害 〜

渡辺アナ 戸締まりはきちんとしただろうか。ガスの元栓はちゃんと閉めただろうか。やったつもりでも、つい心配になってもう一度確認をしてしまう。

 日常よく経験することでありますが、これが何度確認しても気が済まない。やめずにいられないということで苦しむ人たちがいます。それが 「強迫性障害」 こころの病です。治療法の研究も進み、回復の可能性も見えてきた、この強迫性障害。きょうはその実態を見ていきます。

手を洗わずにはいられない

手を洗い続ける男性 トイレから出たあと、手を洗い続けている男性 (35歳) がいます。トイレから出たときだけではなく、ソファやカーペットの汚れにも過敏に反応し、長々と手を洗い続けるこの男性。

 このときは結局、10分間も手を洗い続けました。そしてなぜか、自分の頭や顔、着ているTシャツにまで水をかけて、ようやく終わりです。

自分に水をかけている男性の様子 長いときは20分くらい。1日20回くらい洗っていたときもありました。最後に水をかけたのは、 「これはトイレでかかったものではない。自分でかけてぬらしたものなんだ」 と納得できるように。ごまかしです。 (男性)

コンセント この男性の強迫性障害は、大学2年生の時に突然現れました。

 火の始末が無性に気になりだしたこの男性は、特に 「コンセントから引火して火事を起こすのではないか」 と、ラジカセのコンセントをちゃんと抜いたか、1日に30回以上も確認していたと言います。

 自分の部屋は2階だったんですけれど、下に降りてきたらコンセントが気になって、また部屋に戻るというのを何十回もやっていました。コンセントの先の穴の感触まで確認して……。 (男性)

トイレ 大学卒業後、大手電機メーカーに就職したこの男性は、仕事に追われる生活の中で、コンセントに対する心配は薄らいでいきました。ところが、結婚し、子どもにも恵まれ、幸せな生活が始まろうとしていたそのやさき、強迫性障害が突然再発したのです。

 それまで何気なく使っていたトイレが、急に不潔に思えてしかたなくなり、用を足すたびに20分以上も手を洗い続けるようになってしまったこの男性、やがて仕事にも支障を来すようになります。

 手洗いをしている途中で、石けんが腕に飛んだら腕も洗わなくちゃ、顔に飛んだら顔も洗わなくちゃ。やっと全部終わったと思って蛇口をひねったときに、そこがぬるっとしていたら、また最初から。 (男性)

 そのころ、血液による感染症のニュースがテレビで盛んに報じられていました。それを見たこの男性は、今度は血を連想させる赤いものに対して、極端な恐れを抱くようになりました。

本についた小さな染み どんな小さなものでも、 「これは血かな? 古い血の色はこんな色だな?」 と思うと、自分の中ではそれがもう血になってしまうんです。

 朱肉がちょっと着いたもの、赤いボールペンがすれたもの、茶色から赤にかけての色が全部駄目でした。 (男性)

 

男性の妻 いくら 「ボールペンだよ」 と言っても分かってもらえなくて、 「血かな?」 ってずっと聞くんです。夫婦の会話はそういうことばかりになってしまったので、私も気持ちが不安定になって、つらかったです。 (男性の妻)

 赤いものへの恐怖におびえ、妻に何度も問いただす夫。夫の奇妙な行動に耐えられなくなった妻。憂うつな毎日が続きました。

夫妻 「どうしてこのつらさが分からないの? それに付き合うぐらいの広い心を持てないの?」 という感じでした。孤独感と、 「誰もわかってくれないから、自分でなんとかするしかない」 というあきらめ。 (男性)

 本当にせっぱ詰まった毎日でした。夫は恐怖でつらくて、その恐怖で私はつらくて、一緒に暮らすのもいっぱいいっぱいという感じでした。 (男性の妻)

 妻にも理解されず、こころの闇を抱えたままの男性は、やがて会社を無断欠勤するようになり、ついには解雇を言い渡されました。

男性 がく然としました。もう何が何だか分からない。すべてが足もとから崩れ落ちていく感じ。 (男性)

 仕事を失った男性は、カラオケボックスでアルバイトを始めました。家族との生活を支えていくため、朝10時から明け方6時まで、毎日13時間以上働き続けます。

カラオケボックス 例えば、マイクだってべたべたしている。灰皿には口紅の付いたたばこがある。カーペットには飲み物がこぼれている。もう一つ一つが全部恐怖でした。

 でも、とにかく家族を路頭に迷わしちゃいけないというほうが先でしたから、 「汚い」 ということは感じていましたけれども、 「金を稼がなきゃ」 という焦りが先でした。 (男性)

 夫の奇妙の行動の原因を知ろうとしていた妻は、一冊の本に出会いました。そこで 「強迫性障害」 という病気があることを知ったのです。

 「強迫性障害」 についての本を読む妻 それまで全く訳が分からなかったものですから、安心しました。病気だということなので 「治療法があるんだろうな」 「ほかにもこういう人がいるんだろうな」 と。

 それから、主人が朝晩、本当に休みなく働くようになって、 「血?」 と聞くことも減りましたし、何より頑張っている夫の姿を見て、 「ありがたいな」 と思えるようになりました。 (男性の妻)

 

 その後、病が軽くなったこの男性は、新しい仕事に就き、今は家族3人平穏な暮らしを続けています。

 当事者と周りの人間で話し合いを持ってもらいたいです。 「こういうふうに助けてほしい」 と率直な意見交換をしてください。 「わかってもらえている」 と思えるのと、思えないのとでは孤独感が違います。 (男性)

夫妻 強迫性障害が夫をコントロールしているんだと思って、あまり口を出してもいけないし、必要なときに手を出してあげる。温かい目で見守ってあげることが大切だと思います。 (男性の妻)

 

強迫性障害の主な症状

松永寿人先生大阪市立大学医学部 精神科医
松永 寿人 先生

 今の男性に見られた繰り返しの手洗い、 「洗浄行為」 というのは、 「汚染恐怖」 と言いまして、典型的な強迫性障害の症状です。

・強迫観念
ばかばかしいと思っていても、ある考え、イメージ、想像にとらわれてしまう。

・強迫行為
自分でも 「やりすぎ」 と分かっていても、その行動を繰り返さないと気がすまない。

※強迫観念から生まれるさまざまな不安を緩和するために、強迫行為が行われることが多い※

 

強迫性障害の主な症状■ 強迫性障害の主な症状

・不潔恐怖
何かに汚染されたと思い、例えば手洗いがやめられないというようなこと。

・確認行為
戸締まり、火の元などを過剰に確認してしまう。

・加害恐怖
自分の不注意で誰かを傷つけたのではないか、と恐れること。
 例えば、子どもやお年寄りとすれ違ったときに 「誤って転ばせたりしなかっただろうか」 と、繰り返し確認する。

・儀式行為
自分の決めたとおりに物事をきちんとしないと、不吉なことが起こると思ってしまう。
 例えば、子どもの茶わんを自分が決めた方法で洗わないと、子どもに何か不吉なことが起こるという思いにとらわれる。

・数字へのこだわり
4 (死) 、9 (苦) 、42 (死人) といった数字に対して、非常に怖がる。
 例えば、物を4個変えない。42分になると、動けなくなる。

松永寿人先生 縁起を担ぐというレベルを超えて、日常生活、社会生活に障害を来すということが、強迫性障害の診断の根拠となります。

 強迫性障害の原因はまだはっきりと分かっていません。ですが、対人関係、仕事上のストレスなどが、発症のきっかけとなることが多いようです。しかし中には、 「脳こうそく」 などの脳の病気から二次的に強迫性障害の症状が出現することもあります。また、性格や遺伝的な要因がこの発症に関連するかということに関しては、今のところ指摘されていません。 (松永 先生)

 

洗濯がやめられない

洗濯機 同じ洋服を7回も8回も洗い続ける女性 (51歳) がいます。

 きっかけは、自宅のベランダに飛んでくるはとのふんでした。子どもや自分の健康に悪い影響があるのではないかとの不安が広がっていったのです。何回洗っても、はとの汚れが落ちた気がしません。

 また、自分の体にもはとの汚れが染みついていると感じたこの女性は、頻繁にシャワーを浴び、何度も何度もタオルでこすり続けるようにもなりました。腕が赤くただれても、やめることができないのです。

はとの糞シャワー

 

 洗濯は朝から晩までやっても、全然洗えていない。お風呂は2時間くらい入っているから、皮はむけちゃう。だけど、それをずっと繰り返していて、終わりがないの。気付いたらみんなが帰ってくる時間になって、 「まだ終わっていない」 って。 (女性)

 1年後、せっぱ詰まったこの女性は精神科を受診します。強迫性障害と診断され、6種類の薬を処方されました。しかし、半年間のみ続けたものの一向によくなりません。 「もう治らない」 。女性は自殺を考えます。

強迫性障害と診断された女性 どんな薬を飲んでもよくならないじゃないですか。 「ああ、もう自分はよくならないんだ」 とおもっちゃった。 (女性)

女性の転機になった番組 「きょうの健康」  5年前、一命を取り留めた彼女に転機が訪れます。それはNHKの健康番組がきっかけでした。出演者に連絡を取ったこの女性は、ある病院の医師を紹介されました。

宍倉久里江先生 初めてお目にかかったときは、とてもつらそうな表情をなさっていて、 「何とかして、家族のためにもよくなりたい」 とおっしゃっていました。

 人柄のよさも思われて、何とか治療の手助けをしたいとこころから感じたのを覚えています。
(精神科医 宍倉久里江先生)

薬 宍倉医師はこの女性に、1種類の抗うつ薬だけを処方しました。これは前の精神科医からもらった6種類の薬の中にも入っていたものです。宍倉医師は、ほかの薬をやめ、この薬だけを以前より多めに飲むように指示しました。

 女性は毎晩4錠ずつ、1年間欠かさずのみ続けました。そして今年8月。とうとう一度洗うだけで洗濯を終えることができたのです。

宍倉先生に相談した女性 うれしかったです。だって、今までは一日中かかっていてもできなかったのに、1時間でできるんですよ。私にとっては奇跡です。 (女性)

 はとへの恐怖も治まってきたこの女性。万が一の再発を防ぐために、もうしばらく薬をのみ続けます。

 

―― 同じ薬を飲んでいたのに、効果に差が出たのはどうして?

松永先生松永: 強迫性障害に対する抗うつ薬の使用は、うつ病よりも高容量で、長期間の継続が必要だと言われています。最低3か月間は服薬を続けていただきたいです。

―― 長期間となると、副作用が気になりますが。

松永: 強迫性障害で使われている、 『選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) 』 は、従来のうつ病薬、抗うつ薬に比べると、副作用は非常に軽くなっています。吐き気、食欲低下、眠気などが出ることはありますが、重篤なものは特にないと考えていいでしょう。

―― 強迫性障害には、早めの医療機関への受診が大事ということですね。

松永: 強迫性障害は、通常の生活上の行為 (手を洗う、戸締りを確認する) の延長上にあります。しかし、日常生活、社会生活に影響が出るほどになりましたら、早めに専門の医療機関を受診されるのがいいかと思います。

―― 最後に、ご家族の方への治療へのポイントを。

松永: この障害は、ご家族への影響も大きいと思います。ですから、ぜひご家族も一緒に病院に行き、この病気について知っていただく。そして、患者さんへの応援の仕方を説明していただくことも非常に大事かと思います。

渡辺アナと松永さん どうもありがとうございました。


●スタジオ出演

松永 寿人 (まつなが・ひさと) さん  (大阪市立大学・精神科医)
渡辺 英紀 アナウンサー (キャスター)

 

 



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