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重度の障害のある若者たちは養護学校を卒業後、働き先を見つけられず家に閉じこもるようになり、気力や体力が衰え、中には命を落としてしまう人もいるとも言われています。
シリーズ「働く」。3回目のきょうは、「二十歳の壁」を乗り越えるために、家族や地域は何ができるのか。ある作業所の取り組みを通して考えます。 |

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二十歳の壁を乗り越えろ! |
北海道南部の海沿いの町、上磯町に住む松永健太さん(19歳)は、脳性マヒで知的な障害があります。
朝9時半。健太さんと母親の登志子さんは、自宅から400メートルの所にある作業所に出勤します。手が不自由なため、電動車いすの操作が苦手な健太さん。通勤時間は約15分です。 |
健太さんたちが働く「はあと地域共同作業所」は、3DKの空き家を改造してことし5月にオープンしました。健太さんには2人の同僚がいます。養護学校の同級生、脳性マヒで足に障害がある嶋崎玲子さんと、心臓や腎臓などの機能に重い障害があり、体調の良い日に通ってくる佐藤麻衣子さんです。 |
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そして、3人を支える、施設の代表、登志子さんと、ボランティアの菅原真子さん、介護福祉士の本間かおりさんです。 |
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この日の仕事はひじきの袋詰め。地元特産のひじきを知り合いの海産物業者から安く仕入れ、作業所ブランドとして販売しています。
手の不自由な健太さんはシールを張る係です。重い障害のある健太さんたちは学校を出たあと就職の機会に恵まれないのが実情です。作業所は働くことが経験できる貴重な場所。収入はわずかですが、「社会とかかわっている」という実感を持つことができます。
また、作業所はかっこうのリハビリの場でもあります。通勤、手作業、そして仲間たちとの会話。そのすべてが心身の機能を衰えさせないことにつながるのです。 |
登志子さんを作業所づくりに駆り立てたもの。それは二十歳を目前にした健太さんの急激な変化でした。
健太さんは去年の春まで、隣の函館市にある養護学校に通っていました。技術の授業で本立てを作ったり、国語の授業で詩を書いたり。専門知識のある先生たちの指導のもと、健太さんは充実した日々を過ごしていました。 |
しかし、卒業した次の日から生活が一変しました。町には健太さんが働ける場所がなく、家にこもりがちになってしまったのです。体を動かす機会が減り、健太さんの筋肉の力は目に見えて落ちていきました。精神的にも落ち込む毎日でした。
このままいくと、だめの、だめの、だめの、だめの、だめ人間に……。(健太さん 昨年8月のインタビューで)
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元気をなくした息子の姿を見て、登志子さんはあることばを思い浮かべました。
親の間では「二十歳の壁」ということばがあります。“二十歳”というのが生き残る境目というか……。卒業してから、健太はだんだん機能的にも衰えて、顔も暗くなってきました。その“二十歳”が目の前に迫ってきて、すごく心配したし、自分も責めました。(登志子さん)
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健太さんが自分の力で働ける場を作るために立ち上がった登志子さん。資金作りのために町のフリーマーケットに参加し、「地域の障害者のための作業所を」とチラシを配り、寄付や協力を呼びかけました。
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そしてことし5月。登志子さんは念願の作業所を開くことができました。作業所で求められるのは、利用する障害者に合わせた仕事を見つけ出すことです。やりがいが感じられ、しかもリハビリになることが大切です。
そこで活躍したのが、ボランティアの菅原真子さんです。以前、函館で作業所を運営していた菅原さんは、豊富な経験を生かして、次々と新しい仕事を提案してくれました。
この日、みんなは腕飾りや携帯電話のストラップになる組みひも作りに挑戦しました。組みひもは8本の糸を順番に動かすことで1本のひもに編み上げます。きれいなひもに仕上げるには、動かす順番や位置をまちがえないことが重要。糸をうまくつまむことができない健太さんのために、菅原さんは発泡スチロールを付けてくれました。
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健太さんのできる作業を探しています。これよりももっと楽しくてできるものがあれば……。(菅原さん)
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うちにいる僕と、ここにいる僕は、なんか変わるんだ。みんな仕事をやっているから、おれも仕事をやんなくちゃって。(健太さん)
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健太さんの2人の仲間にとっても、この作業所は大切な場所になっています。
内臓に重い障害のある佐藤麻衣子さんは、1人で外出するのに不安があります。この作業所は家から歩いて10分と近く、体調にも気を配ってくれるので、無理なく通うことができます。
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嶋崎玲子さんは以前、函館市内の授産施設で働いていました。しかしその施設になじめず、8か月でやめてしまいました。そんな時に声をかけてくれたのが登志子さんでした。嶋崎さんは再び仕事を始めることができました。
一人一人とコミュニケーションがとれているので、すごくいやすいし、何でも相談しやすい。救われたところもありました。(嶋崎玲子さん)
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みんなが作業に取り組んでいる間、登志子さんは作業所の商品を手に、街に出ます。作業所ができてまだ2か月あまり。少しでも多くの町の人に知ってもらうためには、地道な営業努力が欠かせません。
登志子: 5個と5個で2,500円になります。どうもありがとう。健太たちね、すごく喜んでいたから、またよろしくお願いします!
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作業所の経営は決して楽ではありません。家賃、人件費、材料代。出費を賄うために多くの作業所が自治体の助成金に頼っています。上磯町にはこうした作業所に対して年間500万円を助成する制度があります。しかし、助成金をもらうためには「5人以上の利用者で2年間運営した実績」が必要です。登志子さんたちにとってはまだまだ遠い道のりです。
この日、登志子さんは地元の障害のある子どもの母親を作業所に招きました。地域に働ける場所があることの大切さを理解してもらうためです。そして、将来は子どもたちをぜひこの作業所に通わせてほしいと訴えかけました。
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登志子: 子どもさんに夏休みとかには来ていただいて、この雰囲気に慣れてもらって、卒業してからの進路の一部にでも入れておいていただけたら、ありがたいと思っています。
仕事のあとの晩ごはん。妹のゆうかちゃんと、建設会社で働く父親の茂さんもいっしょです。最近では仕事の話題で盛り上がることも増えました。
茂: きょうは何を作った?
健太: ひじきの袋にシール。 |
前はお兄ちゃん、寝てばかりだったけれど、仕事に行き始めてから、男前になった。(妹 ゆうかちゃん)
※松永健太さんは、昨年のNHKハート展に、妹のゆうかさんとの交流を描いた詩で参加。昨年秋に、この番組でご紹介しました。 |

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| 関
宏之さん |
ゲスト:
大阪障害者雇用支援ネットワーク
代表理事 関宏之さん |
関: 妹のゆうかさんが、「働き始めてから男前になった」と。これは最高の褒めことばですね。自分のことを「寝てばかりで、だめだめ」と言っていた彼が、社会人としての自覚も出てきていました。とてもいいことだと思います。
−重い障害のある人が働くということは、作業効率や生産性という点からみると厳しいのが現実。
関: そうですね。しかし、人は作業効率で測られるのでしょうか。違います。人は存在することによって測られるべきです。今、彼は「男前になった」といういい尺度があるのですから、それが評価されるべき。それが賃金の対象になるべきだと思います。
−シリーズ1回目では、技能ある障害者が働く形を紹介しました。この方たちの働く形と、今回のご紹介している重度障害者の働く形では、共通するところと、違うところと、両方ありますね。
関: 共通して底流にあるのは、「人間である」ということだと思います。
−その舞台としての、作業所。
関: 全国に約6,000か所の作業所があり、約9,000人がサポートしたり、されたりしながら働いています。わが国の福祉の底流を作業所が支えていると思うのですが、「非常に厳しい」というのが実態ですので、その点については、もっと改善されなければいけないですね。 |

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地域と作業所 |
知り合いが、昆布漁を営む漁師の佐々木茂さんを紹介してくれました。ふだんは家族で昆布の袋詰めをしていますが、「少しなら仕事を分けてくれるかもしれない」というのです。この日、佐々木さんとは初対面の登志子さん。おそるおそる話を切り出しました。
登志子: 車いすの子どもたちのために、袋詰めの仕事をさせていただきたいと思いまして……。「佐々木さんなら」って仲間のお母さんに教えていただいたので、できればお願いしたいのですが。よろしいですか。 |
佐々木さんは快く引受けてくれました。これで、夏から秋にかけての仕事が確保できました。
よかったです。初対面なので、「怒られちゃうかな」と思いながら来たんですよ。佐々木さん、いい方でホッとしました。(登志子さん)
上磯町の夏祭り。2万5,000人が繰り出す町一番のイベントです。その一角に健太さんたちは作業所の商品を売る店を開きました。町の人たちに作業所をPRする絶好のチャンスです。自慢の品物を並べ、玲子さんと麻衣子さんは、一生懸命お客さまに説明します。「いらっしゃいませー!」と、健太さんは大きな声で呼び込み係です。
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「よっしゃー」ていう感じのガッツポーズ。(玲子さん)
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「これください」って言ってくださった瞬間が、すごく感激します。(麻衣子さん)
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夏の日差しのもと、健太さんたちは約9時間頑張りとおしました。
この僕は今までの僕と違って、この僕が好きだね。だから、作業所できて……、作業所できてよかった。(健太さん)
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−「この僕が好きだ」と健太さん。働くことの手応えですかね。
関: そうですね。女性たちも生き生きとしていました。
−作業所を地域の中でどう支えるか。
関: 夏祭りで「いらっしゃいませ」「買ってください」と叫んでいましたが、実はあれは、あそこに来ている人だけではなく、市民、あるいは国民に叫んでいるのかもしれないですね。その叫びにどう応えていくかです。
いろいろな形の地域があります。それぞれの役割もあるでしょう。先ほどの佐々木さんのような支え方もあるだろうし、行政には行政なりの支え方がある。いろいろなネットワークを提供していくことができれば、いい地域が耕せて、そしてそこにまた、いい地域ができていくのではないでしょうか。
1つの作業所があることによって、地域が耕され、それから地域が活性化していく。それがまさに作業所の果たす大きな役割だと思います。 |