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「依存症」の家族が抱える苦しみ 悪いのは「あなた」ではない

記事公開日:2018年08月03日

アルコール、薬物、ギャンブル・・・。さまざまなモノ、コトに依存し問題を引き起こす「依存症」。近年、芸能人の薬物問題などをきっかけに、メディアで大きく取り上げられることも増えてきました。しかし、依存症が「病気」だという理解はなかなか進んでいません。依存症の人の家族が抱える苦しみについて掘り下げます。

本人も家族も「病気」と気づかず・・・

私たちの心身の健康を損なうおそれがあるとされる“依存”。その対象には、大きく分けて、アルコールや薬物など「精神に作用する物質を体に取り入れるもの」と、ギャンブルや買い物、インターネット、窃盗など「特定の行動にのめり込むもの」があります。

画像(依存は「物質系」と「行動系」に分けられる)

番組には、こうした問題を抱える人の家族からさまざまなSOSが届きました。

「夫は10年近くギャンブルがやめられません。借金を作り、多重債務。横領をして解雇になってもやめられない。嘘をつき、お金を持ち出す、家の物を売る。私は職場にさえ貴重品を持ち歩く生活。こんな訳の分からない夫に苦しんでいます。」(にあさん・群馬県)

依存症の家族支援に取り組んでいる国立精神・神経医療研究センターの近藤あゆみさんは、家族が陥りがちな状況についてこう話します。

画像(国立精神・神経医療研究センター 近藤あゆみさん)

「依存症という病気は、本人だけではなく家族も巻き込んで、一体となって健康を奪っていく特徴があります。本人は病気になっているので、自分自身の問題を、自分の力で片付けたり責任を負ったりすることが難しい状態です。そのため、家族からすると本人のケアだけでも大変なのに、それに加えて問題の対処にも追われることになって、そうした毎日を送っているなかで、どんどん追い詰められ、消耗して、家族の健康も奪われてしまう、ということが非常に多くのケースで起きています。」(近藤さん)

元夫がギャンブル依存症で、現在は神奈川県立精神医療センター依存症対策協議会委員を務める佐藤しのぶさんは、自分も夫も当時は「病気」であるということに気付かず、「私が何か一生懸命に頑張れば、彼が良くなるのではないか?」と思っていたといいます。そのため、家族が本人から距離をおいたり、外に向かって大変だと言ったりすることはなかなか難しいと痛感しています。

画像(神奈川県立精神医療センター依存症対策協議会委員 佐藤しのぶさん)

近藤さんは、依存症の診断は専門の医師でないと難しいとしたうえで、家族には「本人が依存症かどうか」が分からなくても、「家庭に薬物やアルコールの問題がある程度はっきりあること」「本人や家族の生活のなかに実際にそのことと関連するような問題が起きているかどうか」をポイントにして、そのようなことがあれば相談に行ってほしいと訴えます。

親の依存症が子どもに与える影響

家庭の中に依存症の人がいるということは、子どもに大きな影響を及ぼします。

画像(漫画「酔うと化け物になる父がつらい」の1コマ)

今春からWEBサイト上で連載された漫画「酔うと化け物になる父がつらい」。アルコール依存症の父親によって家族が壊れていく様子を、子どもの目線で描いています。

主人公の家は、両親と妹との4人家族。父親は近所の仲間と酒を飲んでばかりで、家族団らんがありません。シラフのときは無口でおとなしい小心者。それなのに飲むと突然、化け物のようになる父親。さまざまなトラブルを起こしては、家族を巻き込みます。

主人公「介抱するこっちの身にもなってよ!それでも親なの?」
バシン!(酔った父親に殴られる)
(漫画より)

漫画に描かれているエピソードは、すべて作者の菊池真理子さん自身の体験です。

画像(漫画家 菊池真理子さん)

「当時はそれが当たり前だったので。穏やかな普通の暮らしっていうのが、想像する機会もなかったというか。突然嫌なことが起こるので、対応できないんですよ。突然すぎて。」(菊池さん)

繰り返される混乱の日々。菊池さんは、次第に感情が麻痺していったといいます。

「何が起こっても、あまり自分のことと思わないような人間になっていきました。何が起こってもパニクらないとか、嫌なことが起こっても嫌だと分からないようにするとか。自分がそっちの人間に変わっていくというか。変なことが起こるのは当たり前なので、なんとかそれに振り回されないように、自分の心をシャットダウンする感じでしたね。」(菊池さん)

漫画はSNSなどで拡散され、大きな反響を呼びました。同じような経験をしたという人から、たくさんの共感の声が寄せられたのです。そうした声に接するうち、菊池さん自身の気持ちにも変化があったといいます。

「『よく頑張りましたね』『苦しかったですね』っていう感想をいただいたときは、『ああ、私、苦しいって言ってよかったんだな』という思いがいちばん最初に来て、本当にありがたかったです。私も“自分を許せる”じゃないですけど、自分を認められた部分もあるので。でも、それと同時に『私もこういう目に遭いました』とか、もっと苦しんでいる方がたくさんいて、『何でこんなにいるんだ』って。こんなに苦しんでいる人がいっぱいいるのは、おかしいっていう思いになりました。」(菊池さん)

近藤さんは、依存症を抱える親の存在が子どもに与える影響は大きいと指摘します。

「(依存症が家庭の問題としてあると)いつも家のなかが暗かったり、ケンカが絶えなかったり、そういったなかで大きくなると、子どもは健康な自尊心がなかなか育たなかったり、感情が凍りついてしまって、自分の感情を味わったり、それを率直に表して生き生きと生きていくことがとても難しくなることが多いです。そうした生きづらさといったものを抱えながら生活をしていくことで、子どもたちは大きくなってからも依存症を始めとする、さまざまな問題を抱えやすいと言われています。」(近藤さん)

追い打ちをかける周りの無理解

夫がアルコール依存症で精神科へ入院させようとしたところ、大変な思いをしたという方から、次のような声が寄せられました。

「夫は怒り狂い、親戚や友人に言いふらしました。私は姑にも自分の母にも怒られ、『妻としての責任を果たせ』と言われました。家族が苦しい原因は2つ。『依存症の人から苦しめられる』そして『周りの無知と無理解に苦しめられる』です。」(すぷりんぐさん・高知県・50代)

家族が周りからも追い打ちをかけられる。評論家の萩上チキさんは、「依存症は病気である」ということについて、社会の理解が進んでいないことがこういった事態を招いていると指摘します。

画像(評論家 荻上チキさん)

「『家族でなんとかしろ』と言われると、非常に閉じこもったなかで“苦痛のサイクル”みたいなものが、どんどん膨らんでいってしまう。依存症の問題は“気持ち”の問題とか“性格”の問題、そして“家族の愛情”の問題だと思われてしまい『あなたが献身的になんとか説得しなさい』とか『寄り添いましょう』みたいな話になってしまう。病気という理解がないが故に、そうした追い込みが進んでしまう。依存症というのは病気で、家族だけでなんとかできるものではありません。」(萩上さん)

抱え込まずに相談を

現在、渦中で苦しんでいる家族に向けて、かつて困難をくぐり抜けた人たちから励ましのメッセージも届きました。

「次男が薬物にはまり、家族を苦しめました。怒鳴り、羽交い締めにし、いつ終わるのか分からない地獄へ堕ちていく感覚。そんななか、家族会へ行き、対応を学びました。今、次男は仕事もしながら、楽しみを持って生活しています。困っている家族の方、希望はあります。家族会に出かけてください。」(ちよさん・神奈川県・50代)

「元夫はアルコール依存症でした。どこに行っていいのか分からなかったのですが、自治体の広報に載っていた保健所の番号に電話をかけ、ようやく相談につながりました。『妻が夫を支えるもの』『私がなんとかすれば』という呪縛に縛られていましたが、『私は私で良い』と、自己肯定感を持つようになりました。今悩んでいる方、まず、自分を大切にしてください。」(ははつよしさん・神奈川県・50代)

元夫のギャンブル依存症で苦しんだ佐藤さんも、家族会や自助グループ、相談機関を訪れたことが回復への糸口につながったと振り返ります。

「最初は『依存症が病気である』ということに対しても半信半疑で、『ここで良くなるのかしら?』と思いました。しかし、家族会へ行くと、それまでまったく知らなかった依存症のことについて、学ぶことができたんです。今まで聞いたこともないような、常識とは思えないようなことを教わりました。『夫の借金を返すのは私の役割』と思っていたら、『そういうことは一切してはいけない』といったことなど。そこで教わらなかったら、またやってしまっていたと思うんですよね。支えていただいたこと、とても心強かったと思います。」(佐藤さん)

依存症は“否認の病”とも言われ、本人が自分自身が病気であることを認めたり、治療やサポートを求めたりすることが難しいという特徴があります。そのため、まずは周囲にいる人が問題に気づき、先に相談につながることが大切です。長年、家族支援に取り組んできた近藤さんは、「実際に家族が支援を得て行動を変えていくことで、本人の回復にも大きな良い影響を与えることができる。」と話します。

画像(相談窓口)

家族の相談窓口には、「精神保健福祉センター/保健所」「専門の医療機関」「リハビリ施設」「家族会・家族の自助グループ」などがあります。医療機関については、全国的に依存症を診られるところはまだ少ないため、インターネットなどで事前に確認が必要です。相談窓口はこちら

近藤さんは、「相談先で思うような対応が得られなかったりしても、一度であきらめずに根気よく支援者を探してほしい」、さらに家族会や自助グループについては「一度行っただけではその良さや効果が実感しづらいことが多いため、なるべく一定期間通うことを勧めたい」と強調します。

依存症は「病気」です。「意思が弱い」「家族が支えなければ」などの精神論ではなく、正しい知識を持ち、本人と家族を適切な治療・支援につなげていくことが必要です。

出演者から

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佐藤しのぶさん
元夫がギャンブル依存症 神奈川県立精神医療センター依存症対策協議会委員

「日本の社会は、『子どものことは親が尻拭いして当たり前、それができない親は親としてダメ』『夫の不祥事や問題は妻の責任』という考えが染み付いてしまっています。でも、他の人から『頑張らなくて良い』と言ってもらって、自助グループなどを通じて、家族が頑張らなくても本人が回復していくケースを見せてもらったことで、ようやく『私がやらなくていいんだ』って思えてきた。正しい知識を得るためには、いろんな人と話さないと分からない。だから、とにかく1人で頑張らないことが大事だと思います。」

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近藤あゆみさん
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 診断治療開発研究室長
依存症の家族支援が専門

「(依存症は)『家族が悪くてなる病気じゃない』ということと、『家族は本人の回復の責任を負わなければならない存在ではない』ということを一番に伝えたい。そのうえで、回復の責任は家族にはないけれど、家族がもしそうしたいと願ったならば、家族が本人の回復のためにできることがたくさんあることも伝えたい。そのためには、家族が依存症という病気をよく理解したり、回復のために何が必要かを学んだりしたうえで適切に関わることがとても重要です。」

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漫画家 菊池真理子さん
漫画「酔うと化け物になる父がつらい」作者

「家族にとって“普通”だと、依存症って気付かない。誰から見てもアルコール依存症になってしまえば、みんな止めると思うんですが、その手前の人たちでも家族が苦しむっていうことを分かってもらえたらいいなと思っています。私はずっと、自分が悪いから自分が父を許せない、っていう思いと戦ってきたんですが、(社会で依存症がもっと啓発されていれば)そういう不毛な戦いをしなくて済むのかなと思います。たとえ飲んじゃったにしても、“この人は病気だからこうなっているんだ”、“私のせいじゃない”って思えたら、もうちょっと家族も生きやすくなれたんじゃないかなと思います。」

※この記事はハートネットTV 2017年11月2日(木曜)放送「WEB連動企画“チエノバ” “依存症” ―家族はどうすればいい?」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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