ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

介護の楽しさを広めたい 安藤なつさん

記事公開日:2023年01月06日

お笑い芸人として活躍中の安藤なつさん(メイプル超合金)は、実は介護のスペシャリストです。資格を持ち、介護歴は20年以上。幼い頃から叔父が運営する福祉施設に通い、楽しんで介護に取り組んできました。「介護は人と人が直接ふれあうことで得られるものがある」と話す安藤さんは、介護の楽しさや魅力を発信する活動にも力を入れています。聞き手は、薬物依存からの回復を目指す俳優・高知東生さんです。

子どもの頃に出会った“楽しい介護”の世界

お笑いコンビ、メイプル超合金の安藤なつさんは、バラエティやドラマでも大活躍し、その圧倒的な存在感で、世代を超えて人気を集めています。

安藤なつさん

安藤なつさん

そんな安藤さんには、介護のスペシャリストという意外な一面があります。ボランティアも含めると、介護職歴は20年以上。

ホームヘルパー養成研修2級(現在の介護職員初任者研修(※1)に引き継がれた資格)と、介護福祉士実務者研修(※2)の資格も持っています。

※1 介護職員初任者研修
介護の仕事をする上で最低限の知識・技術、それを実践する際の考え方のプロセスを身につけ、基本的な介護業務を行えるようにするための研修。

※2 介護福祉士実務者研修
より質の高い介護サービスを提供するために実践的な知識と技術の習得を目的とした研修

安藤さんが介護と携わるきっかけは、身近なところにありました。

小学校の夏休みに叔父の家を訪ねた安藤さん。当時、安藤さんの叔父は、自宅の一部を改修し、障害者向けの小規模な介護施設を運営していました。

車いすに乗った脳性まひの子どもや、自閉症の若者、認知症のお年寄りたちが、歌や遊びに興じていました。

一緒に遊んだ後、金平糖を食べた。夏祭りみたいだった。とても楽しかった。

それは、おとぎの国に迷い込んだような体験でした。

小学生のころの安藤さん

小学生のころの安藤さん

中学生になると、毎週末、泊まりがけで叔父の家に通い、介護の手伝いをするようになります。

入浴や食事の介助に、口腔ケア。当時はまだ一緒に遊んでいる感覚でしたが、できないことが、少しずつできるようになっていくのが、楽しかったと言います。

安藤なつさんと高知東生さん

安藤なつさんと高知東生さん

安藤:最初は、本当に叔父の家に遊びに行く感覚でしたね。改造されて大きくなった部屋に、脳性まひの方がビーズクッションに横になっていて、「一緒におやつしてくれない?」ってスタッフさんに頼まれて、一緒に食べました。お友だちと一緒に遊ぶ感覚でした。

高知:抵抗はなかったんですか?

安藤:当時、抵抗は何もなかったですね。大変とかつらいというイメージもありませんでした。脳性まひの方(の体)が湾曲しているのを見て、「何かの病気なのかな?」というのはありましたけど、とくに怖いとか、違和感はなかったですね。

高知:へえ。

安藤:楽しく(施設に)行っていた気がします。小学校の低学年のときはおやつを一緒にとか、公園に一緒に遊びに行こうとか、そのぐらいでしたけど、中学生になってからはボランティアという形ですけれど、週末、土曜日に学校が終わってから泊まりに行って。柔道部もやっていたので、部活もしながら。

高知:それは自分の意思で?

安藤:自分の意思で行きたいって言って、食事介助、お風呂の介助、排泄の介助とかをスタッフさんにいろいろ教えてもらいながら、一緒に成長していく感じでしたね。いま思うと、育ててもらっている感じがありました。こうしたほうがやりやすいよとか、相手の人は痛くないよとか、いろいろ教わりました。スタッフの人といろいろ話して、すごく居心地が良かったと思います。

画像(安藤さん)

介護の喜びに触れる出来事もありました。

安藤さんがときどき、任されるようになった認知症のおばあさん。朝食前に服を着替えさせなくてはなりませんが、毎回うまくいきません。試行錯誤を続けること数か月。もう無理かもしれないと、あきらめかけた矢先のことでした。

いつもは嫌がられていたけど、今日は、おばあちゃんと一緒に着替えができた。心が通じ合えた気がした。

中学生の安藤さんが介護の仕事にやりがいを感じた瞬間でした。

安藤:毎週、泊まりがけで行って、朝ご飯をスタッフさんが作っているときにミッションがありまして、ある認知症のおばあちゃんの着替えを手伝うんです。おばあちゃんは、とても快くお部屋に迎え入れてくれるんですが、なかなかパジャマから私服に着替えてくれなくて、朝ご飯に間に合わないんですよ。毎週、毎週「ダメだな」って、スタッフさんを呼んで「今週もダメでした」というのが続いて・・・。でもあるとき、調子が良かったのか、タイミングが良かったのか、着替えてくれました。数か月通って、やっと着替えてくれたときは、すごくやりがいを感じましたね。通じ合ったというか、私のことを認めてくれたというか、信頼してくれたんだと感じて、本当にうれしかったですね。

高知:うんうん。何よりも心のつながりというのが大事ですよね。何げない時間をともに過ごす。その積み重ねが信頼につながっていく。そこには年齢とかは関係ないんですよね。

安藤:介護の魅力はいっぱいあるんですけど、いまの話のように、信頼関係ができるところ、成長しあえるところがいちばんですね。もちろん、こちら側には知識も重要です。でも、本当に人間と人間がぶつかりあうお仕事だから、知識レベルではないところでつながる、心の通じ合えるところがあるので。そこがやりがいかなと思います。

高知:自分も介護を経験して思いましたが、相手のためと言いながら、結局「早く片付けたい。こうしたい。こうしてほしいのに。次はこうなのに」と自分の都合を思いがちな部分があったんですね。いま振り返ると、本当にそれがその人にとって良いことだったのか。結局、形にこだわってしまって、心を本当に伝えながらキャッチボールしてなかったんじゃないかなと。そこは、改めて次につなげようと感じましたね。

安藤:勉強していくと、いろいろなやり方があるし、こういう考え方も持っていなきゃいけないということもあるので一概には言えないんですけど、本当に正直にというか、真正面からぶつかりあうしかないと思っています。たとえば、自閉症の方や知的障害の方は、世間体とかそういうのは関係なしに、自分のやりたいことを直球でぶつけてくるので、そこをお互いに、どう折り合いをつけていくか。彼らにとって過ごしやすい生活スタイルをどう見つけていくか。よく観察するというか、察するというふうに心掛けているところがあります。

お笑い芸人になっても

中学生にして介護にやりやりがいを見いだした安藤さん。高校生になり、将来のことを考え始めました。介護の世界を目指すのかと思いきや、選んだのは「お笑い芸人」の道でした。

高校在学中にお笑いトリオを結成し、初舞台を経験。卒業後はお笑いプロレスに入団し、リングで暴れまわったものの、なかなか芽が出ませんでした。

高校生の頃の安藤さん

高校生の頃の安藤さん

出口の見えないトンネルの中でもがき続ける安藤さん。そんな不遇の時代を支えたのが、介護の仕事でした。

選んだのは、時給がいい夜間の巡回介護。一晩で15軒から20軒のお宅を回り、安否確認やおむつ交換などを行います。

芸人の仕事では食べていけず、介護の収入に助けられました。でも、お金を稼ぐための手段だけでは、なかったと思います。

思うように客を笑わせることができず、自らの芸のつたなさに落ち込む毎日。そんなとき、利用者がかけてくれる「ありがとう」の一言は、何より安藤さんの心にしみました。

自分を必要としている人たちがそこにいた。もうひと踏ん張りしてみようという気持ちになれた。

そして2015年、安藤さんは、カズレーザーさんとコンビを組んで、若手漫才師の日本一を決める大会で決勝戦に進出します。安藤さんは、その前夜も介護施設で夜勤の仕事をしていました。

惜しくも優勝は逃したものの、これを機に人気芸人への階段を一気に駆け上がった安藤さん。介護の仕事に見守られながらつかんだ夢でした。

画像(高知東生さん)

高知:話を聞いていると、本当に物おじせずいろいろなことに興味をもって、自然と受け入れてチャレンジしていますね。誰でもできるものじゃないです。

安藤:将来設計的なことはぜんぜん考えていなかったんです。

高知:お笑い芸人は目指していたのではなく、偶然タイミングが合って、出会った人たちに介入してもらって、っていうところですかね。

安藤:そうです。だから、もう浮き草なんですよね(笑)。流れに身を任せすぎちゃって、好きは好きなので、ということで。

高知:安藤さんは不思議な人のつながり持っていますね。

安藤:流れ着いた感じです(笑)。

安藤:(当時、介護の仕事は)週に2、3回くらいですけど、そのときは夜間の仕事をやっていました。朝に帰ってきて寝て、夕方から活動してというスタイルでしたね。大人のおむつ交換などをするのですが、叔父の施設ではトイレ誘導はあったんですけど、大人のおむつ介助は体験していなくて・・・。だから「こういうふうにするんだ」って衝撃でした。机上では勉強しているんですけど、体の動かし方とかも人によってぜんぜん違いますし、すごく難しかったですね。この仕事は、今までやってきたケアや対応と違って、めちゃくちゃ勉強になりました。

安藤:芸人活動していくなかで落ち込むことも結構あるのですが、介護の仕事に行って、お手伝いやケアをしているときに、「ありがとう」って言われるとすごくしみるんですよね。ああ、うれしいなって思いますし、座席を譲ってくれた時とかの、ちょっとした「ありがとう」も、「ありがとう」としては一緒なんですけど、その人の生活に関わる「ありがとう」って結構、重たい「ありがとう」なんですよ。それを言われたときは良かったなと思います。すごく癒やされるんです。なかなか直球で「ありがとう」って言われることって少なくなるじゃないですか。本当に心の底から言ってくれているんだなって感じると、「あぁ、しみる」って。(お笑いと介護で)バランスが取れていたのかなと思います。だから介護職が合っているんだと思います。

高知:必要とされている、もしくはそこが自分の居場所だと思える。これってすごく幸せだよね。

安藤:本当にそう思います。空気を読むじゃないですけど、「今この人はこういう気持ちなのかな」って、くみ取る姿勢はお笑いと共通していると思います。空気を読み違えることもあります。ただ、相手の表情を見たり、観察したりというのは近いんじゃないでしょうか。

ケアする人が感じるやりがいとは

多忙なタレント活動の合間を縫って、介護の楽しさや魅力について精力的に発信を続けている安藤さん。そんな安藤さんのもとには、かつての職場などから、「人手がとにかく足りない」という声が届いています。

厚生労働省の推計によれば、全国で不足する介護職員の数は、2025年度で32万人。2040年度には69万人に達する見込みです。

不足する介護職員の数

出典:「第8期介護保険事業計画に基づく介護人材の必要数について」厚生労働省)

安藤さんは、そんな今だからこそ、未来を生きる若者に、介護の世界に飛び込んできてもらえたらと考えています。

「介護の仕事って魅力的だけど、大変そうだな」って思っている若い人たちに伝えたい。
「やってみなよ」って。
山を見て「登るの大変そうだね」っていうのと、実際に登ってみて思うことって違うはずだから。

高知:ジーンときますね。

安藤:私自身、若い頃から介護に携わっていたので、若い子たちにもっと先入観なく介護の世界に、「ちょっと登っちゃいなよ」みたいな感じですかね。介護がもっと身近であってほしいんですよね。介護って別に特別なものじゃないよって。こういうお仕事もあるし、こういう人たちもいるしって、わかってもらえたらなって思います。若い頃から(介護が必要な人と)一緒に遊んだりとか、一緒に時間を過ごしたりっていうのがあると、もっと興味を持ってくれるんじゃないかなと思います。

画像(安藤さんと高知さん)

しかし、世間的には、介護に対するネガティブなイメージが強いことは否めません。安藤さんは、介護に携わる人にとって働きやすい環境とはどうあるべきか?今こそ社会全体で考えるべきだと訴えます。

安藤:介護職は薄給とかお給料が少ないとか、体力的に大変だとかよく聞くので、どういうシステムにしたらお給料を上げていただけるのかな、というのはすごく気になりますね。人手不足も深刻な問題ですし、介護の質を下げてほしくないというのもあります。ただ、ケアする側もプライベートが充実していないと、心の余裕もなくなってきてしまいます。
やりがいのある、カロリーを結構使う仕事なのに、もらえるお金が少ないとなると、働き手が離れていって、離職率も高くなってしまうのではないかなとは思いますね。もちろんやりがいも大事ですけど、やっぱり保障は大事ですね。

高知:そうですよね。心がいくらあっても、自分自身も生きていかなきゃいけない。そのバランスはすごく大事ですよね。

安藤:ケアする側の体力面も心配です。介護は体力仕事なので、機械を導入するとか試行錯誤して、介護の世界がもっと良くなっていけばいいなと思っています。

書籍などを通じて、介護に役立つ情報についても発信している安藤さん。家庭で介護に関わっている人たちに、どうしても伝えたいことがあると言います。

安藤:いろいろな家庭があるし、一概には言えないですけど、もし「自分の生活はどうなっていくんだろう」と不安を抱えている介助者がいたら、プロに頼んでほしいなと思います。家族だからこそ許せること、家族だからこそ許せないことがある。でも助けを求めることによって救われるというか、事故が防げるというか、お互いに余裕のある生活ができると思うので、人に頼ることは恥ずかしいことでも何でもないので、無理することはないと思っています。

高知:過去に、自分の身内も介護を受けることがあって携わったんですけど、正直に言って簡単ではない。大変だと思いました。僕らの場合は、プロの方にお願いして、1か月に何回かはミーティングをして状況を把握しました。安心して身内でできることと、やっぱりプロに任せなきゃできないことがあると思います。たとえば、自分が良かれと思って抱き抱えようとしても、起こそうとしても重くて、無理なんですよ。でも、ヘルパーさんにすれば、ちゃんとコツがあるんですよね。

安藤:私も介護の資格取得に向けて知識を身につけるなかで、やっぱり、知っているのと知らないのは違うんだなと感じました。

高知:安藤さんには一本のスジがあって、軸がブレていない。芸人として笑いをみなさんに送って、いろいろな生きづらさを心に秘めている人が、それを見てクスッと笑顔になる。安藤さんだから選ばれた役割なのかなって、すごく感じましたね。

安藤:流れに身を任せてきたので、そう言ってくださるとめちゃくちゃうれしいです。

画像(安藤さん)

そんな安藤さんには、夢があると言います。

安藤:自分が広報(の担当)になれればなとは思いますね。「介護にちょっと興味持ったよ」と思ってくれればすごくうれしいです。もし、みんなで介護施設に行けるようであれば、一緒に行って楽しく遊んでみたいですし、いろいろやってみたいですね。
介護はどうしても良くないイメージのほうが勝ってしまうから、介護の場の体験をするのは、いちばんいいと思います。人手不足解消のために機械を導入するのはもちろん大事なんですけど、機械にはできないこともやっぱりある。そこを人間同士でやれるお仕事で、ケアしていけたらいいですね。

※この記事はハートネットTV 2022年10月18日放送「私のリハビリ・介護 ~お笑いも介護もハッピー!! 安藤なつ~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事