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聞こえなくてもできる工夫がある 就労の専門家 岩山誠さん

記事公開日:2020年12月12日

ろう者の岩山誠さんはハローワークの“聞こえない相談員”として、数々のトラブルを解決してきた就労の専門家です。厚生労働省で働いていた経験があり、世界の聴覚障害者の就労事情に精通する研究者でもあります。聞こえる人とともに働くためには、どんな工夫が必要なのか?自分を積極的にアピールし、自ら仕事をつかんできたという岩山さんが、先輩として母校の生徒たちに夢実現のためのスキルを伝授します。

聴覚障害者の離職率

就労の専門家・岩山誠さんが訪れたのは母校の立川ろう学校。授業には、就職を間近に控えた専攻科の5人の生徒たちが参加しました。

画像(就労の専門家 岩山誠さん)

5人は、就職に向けスキルを身につけようと頑張っていますが、聞こえる人とのコミュニケーションに不安を抱えていました。

岩山さんがまず取り出したのは、ある深刻なデータです。身体障害者と比べ、聴覚障害者の離職率が高くなっています。職場に定着しにくいという厳しい現実が見えます。

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出典:障害者職業総合センター(1992 1997)

辞めた理由を具体的に調べたデータでは、35%以上の人が職場になじめず孤立しています。岩山さんがハローワークで最も相談を受けてきた大きな課題です。

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出典:平成25年度障害者雇用実態調査

しかし、聞こえる人との間にある壁は、就職を前にしてすでに多くの生徒が感じはじめていました。

染谷百音さん(専攻科1年 夢はダンサー):私は今、習い事をしていて、周りは聞こえる人ばかりで、あまり自分から話しかけたり行動したりできず、自分からコミュニケーションがとれるのかすごく不安です。(手話)

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染谷百音さん 専攻科1年

岩山さん:大丈夫です。心配はいりません。このような問題を解決できる方法を、この授業でみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

積極的に自分をアピールしよう

岩山さん:今からゲームをしたいと思います。みなさんはこの会社に入社することになったと考えてください。つまり、みなさんは新入社員です。もし、この中で自由に選んでもいい場合、どの席を選びますか?(手話)

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岩山誠さん

聞こえる人ばかりの職場に、どうやってとけ込むか・・・。岩山さんが実際に職場で行った“工夫”は、座る場所にポイントがあるといいます。

入江さんが選んだのは、端の席。堀田さんもまた、端の席を選びました。

入江さん:偉い人の近くにいるのはちょっと迷惑かなと思ったので・・・。(手話)

堀田さん:私は聞こえないので(知らずに)音を立ててしまうんです。会議室の近くにいれば迷惑をかけてしまうので、会議室から離れたところを選びました。

迷惑をかけないよう、生徒たちは周りの人を気遣っていますが、岩山さんはまったく違う考えです。

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生徒たちが選んだ席

岩山さん:私はここ。“自分という存在をアピールするため”です。(手話)

岩山さんは誰よりも早く出社し、入り口付近の席で“自分をアピールする作戦”を毎日繰り返したといいます。

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職場の席を選ぶゲームで、岩山さんが選んだ席

当時の様子を再現します。ろう学校の先生が上司役です。

〈1日目〉
岩山さん:おはようございます。(手話)

突然のあいさつに上司はビックリします。

画像(上司にあいさつする岩山さん)

〈2日目〉
岩山さん:おはようございます。(手話)

画像(2日目の再現)

上司に驚かれることはなくなりました。

〈1週間後〉
岩山さん:おはようございます。(手話)

「おはようございます。岩山くんですよね」(上司)

岩山さん:はい。(手話)

「いつも朝早いですね」(上司)

岩山さん:はい。(手話)

上司との何気ない会話が生まれました。作戦は見事成功です。

画像(1週間後の再現)

岩山さん:みなさん、私がこの席を選んだ理由がわかりましたか?この席を選ぶと、社員が入ってくるとき顔を合わせることになります。毎日繰り返していると、向こうもだんだん私に慣れてきます。私の声がはっきりしていなくても、あいさつをしていることがわかるようになります。自分という人間をまず理解してもらった上で、人間関係を作ることを心がけてきました。(手話)

【1限目のポイント】
積極的に自分をアピールする

自分から仕事を取りに行こう

岩山さん:みなさん、会社に入ったあとに、お給料がいくらくらいもらえるか気になりますよね?(手話)

障害種別の平均賃金を比較したデータです。聴覚障害者と内部障害者とは、およそ月5万円もの開きがあります。

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出典:平成30年度障害者雇用実態調査

岩山さん:やはりコミュニケーションの問題があると、周りが安心して仕事を任せることができない。不安になりやすいです。そのために自分が任される仕事の幅もせまくなる、そういう原因も考えられます。(手話)

この問題をどう解決すればよいのか、実体験を伝えます。

毎朝一番に出社した岩山さんでしたが、当初やりがいのある仕事を任せてもらえませんでした。しかし、“ある工夫”で仕事をつかんでいったと手話で話します。

岩山さん:一生懸命机を雑巾がけしています。そのときの動きを見てみると、なんだか怪しい動きをしています。どうしてだと思いますか?(手話)

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授業を行う岩山さん

堀田さん:他の人の机を拭きながら、他の人がやっている仕事内容・情報を知りたいから、書類を見ていると思います。(手話)

岩山さん:机の上には、その人がやっている仕事が置いてあります。それを見れば、今どういう仕事をしているのか把握しやすかったんです。聞こえる人たちは、周りで話をしている内容を聞いて、今こういう仕事をしていると把握できると思います。でも、私たちろう者は話を聞くことはできないので、仕事を把握するため、どうしたらいいのか考えた結果、このような方法を思いつきました。すごく忙しそうな人がいたら、『こういう仕事をされてるんですよね?よろしければお手伝いしましょうか?』と提案できます。すると『私の仕事をよく把握しているね。じゃ少し分けてもいいかな』と、仕事をもらうことができるわけです。このように、少しずつ仕事を増やしていきました。職場では、積極的な姿勢を見せる社員に仕事が集まりやすいです。そういった状況をきちんと理解した上で、このように積極的に自分から仕事を取りに行く工夫が大切だと思います。(手話)

【2限目のポイント】
自分から仕事を取りに行く

授業の最後に岩山さんは、社会に羽ばたいていく生徒たちに熱いエールを送りました。

岩山さん:今は耳が聞こえなくても、医者になる、弁護士になる、薬剤師になることもできます。さまざまな職業に就く人が増えています。だからみなさんが一生懸命頑張れば、社会の変化もより大きくすることができるわけです。ですからみなさんも、大きな希望を持って、前向きに頑張っていくことを大切にしてもらえれば、私としてもうれしいです。(手話)

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授業を行う岩山さん

入江栞さん(専攻科2年):自分から積極的に行動すれば、相手から信用されるということがわかったので、これから頑張ってみようと思いました。

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入江栞さん 専攻科2年

熟田優愛さん(専攻科1年):自分が邪魔になるという考え方よりも、それを変えて、自分から話せるようにすることが大切だとわかりました。まずは短いあいさつから頑張ってみようと思います。

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熟田優愛さん 専攻科1年

積極的に夢を追いかけてほしい。岩山さんのメッセージです。

※この記事はろうを生きる 難聴を生きる 2020年12月12日(土曜)放送「聞こえないセンパイの課外授業 就労の専門家」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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