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就活応援企画2022(後編) 情報保障を求め、働きやすい職場に

記事公開日:2022年02月12日

ろうや聴覚障害のある学生が就職活動で面接に参加する場合、音声以外の「情報保障」が必要です。情報保障は、主に「パソコンやチャットなどでの文字入力」「文字通訳・手話通訳」「音声認識アプリなどの利用」の3つ。その長所や注意点をわかりやすく紹介します。また、企業が実際にどのように情報保障に対応しているのか、人事担当者がレクチャー。就活応援の特別企画の後編です。

情報保障は“臨機応変な対応”を求めてOK

就職活動を控えるろうや聴覚障害の学生には『面接で情報保障をどこまで求めていいの?』という悩みがあります。

聴覚障害者と視覚障害者のための大学、筑波技術大学の教授・加藤伸子さんは長年、就活をサポートしてきました。

「会社と面接をするというのは、学生にとってこれまで経験したことのない場面ですし、普通の面接もあれば、集団面接やグループディスカッションとか、いろんな場面が出てきます。どの場面でどんな情報保障を求めていいのか、すごく迷われるんじゃないかと思います」(加藤さん)

画像(筑波技術大学教授 加藤伸子さん)

すでに面接を受けた経験がある大学3年生の小田麓(ふもと)さんは、どのように面接に取り組んでいるのでしょうか。

「今まで受けてきた面接はオンラインですので、音声認識アプリやチャットの使用が比較的簡単なほうです。対面ではどういうふうな情報保障をお願いしたらいいのか、悩みがあります」(小田さん)

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小田麓さん 大学3年生

面接で考えられる情報保障の手段は3つあります。

画像(対面面接での3つの情報保障)

対面面接での3つの情報保障

【筆談やチャットの文字入力】
やり取りに時間がかかりますが、自分の気持ちを直接伝えることができます。

【文字通訳・手話通訳】
手話通訳の場合は、会話の内容がわからなくなったときに確認したり、聞き直したりすることができます。

【音声認識アプリなどの使用】
使い勝手が良い反面、誤変換することがあるので注意が必要です。

「面接は、1回目、2回目、3回目と1つの会社でも何回かやっていくと思うのですが、毎回、情報保障を変えていく場合もあります。音声認識が合っていると思ったので、それでやり始めたけど、たまたまその場の環境がちょっと音声認識に合わなくて、うまくわからない。だから、その場で筆談に変えることを提案するといったように、“臨機応変に対応”してお願いすることはまったく問題ないと思います」(加藤さん)

実際に企業で面接を担当している方にも聞きました。ソフトバンク人事担当の伊藤香織さんと、日本IBM人事担当の杉田みどりさんです。

「現在、当社はすべての面接をオンラインで行っています。口頭でのやり取りが難しい場合、最初から最後までお互いにチャットでやり取りする方法、音声認識アプリを使う方法で対応しています」(人事担当 伊藤さん)

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ソフトバンク人事担当 伊藤香織さん

「チャットを利用する場合、少し時間がかかると思いますので、通常の面接よりも時間を長くします。また、グループディスカッションが通常のフローである場合に、どうしてもオンラインで複数名だと聞き取りにくい場面もあると思いますので、代わりに個人面談をするなど、一人ひとりの状況に合わせて対応をしています」(人事担当 杉田さん)

ここで、大学3年の小田さんから質問です。

「グループディスカッションがあった際、個人面接に切り替えていただけるという話が先ほどありましたが、もしそのような対応になった場合、評価が難しいなと思っています」(小田さん)

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日本IBM人事担当 杉田みどりさん

「人にたくさん会っている社員が公平な判断をしますので、そこについては安心していただいて大丈夫かなと思います。ぜひ、そうした不安も含めて、たとえば『こういうふうに切り替えていただいてありがとうございます。グループディスカッションで、御社が見たかったような要素で、私が今、説明したほうがいいことはありますか』とご自身から、その不安も含めて聞いてみるのは、相手の企業を知るという意味でも、もしかしたらいい材料かもしれません」(人事担当 杉田さん)

「情報保障は会社に入ったあと、社会に出てから重要性がさらに増してくると思います。面接という場面は学生さんから見ると、自分が会社から選ばれるかどうかがいちばん気になると思うのですが、逆に学生が会社を選んでいる場面でもあるかなと思います」(加藤さん)

障害について社員と共有し、自ら働きやすい環境をつくる

ろうの社員が働きかけたことで、社内の情報保障が進んだという会社があります。建築資材や水回りの製品などを手掛けるメーカーです。

ろうの小林なな恵さんは入社4年目。製品をPRする資料の管理を担当しています。小林さんが働きやすいように、会社では2021年、特別な会議システムを取り入れました。

誰が何を発言したのか、ほぼリアルタイムで表示されます。一方、小林さんの発言は、会議のメンバーが見られるファイルに書き込むことで共有されます。

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小林さんが働きやすいように取り入れられた会議システム

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会議システムに書き込まれた小林さんの発言

ファイルは議事録として残るので、あとで確認したり質問したりすることができます。

「小林さんが担当している業務では、小林さんがほぼすべて資料を作って、レクチャーをして、教育をして、完了してもらったテーマもありました。彼女自身、非常にスキルが高い部分もありますので助かっています」(小林さんの上司)

この会議システムが導入されたのは、小林さんが同僚とともに立ち上げた社内専用のSNSのグループがきっかけでした。小林さんが入社して半年後に投稿した内容です。

救急車のサイレン音や飛行機のエンジン音は、近くにいないと聞こえないレベル。聞こえたとしても、その音を言葉として捉えることはできません。

自分のことを丁寧に伝えたのです。

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小林さんが社内専用SNSグループに発信した内容

小林さん:こういうことをしてほしいとか、これはたしかにお互いに負担になるけれども、お互いに共有する場をつくる。そういう環境をつくる。つくっていけば必ず助けてくれる。協力してくれると私は信じています。(手話)

小林さんが学生のみなさんへ、メッセージを贈ってくれました。

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小林なな恵さん

小林さん:私から伝えたいことは3つあります。まず1つ目は、きちんと自分の障害、困っていることを詳しく相手に伝えること。ちゃんと理解をすること。2つ目は伝える場を限定しない。この部署のメンバーだけに伝えるのではなくて、さらに会社全体で知ってもらおうという動きが必要だということ。そして3つ目は、会社選びは自分にとってやりがいを感じられる場所だけではなくて、人を大切にしているとか、理解をしてくれる環境の会社を見つけることかなと思っています。

聴覚障害者が進める“コミュニケーションのユニバーサルデザイン”

大学2年生の伊東碧海(あおい)さんは、小林さんの企業での活躍を見て不安が少なくなったようです。

伊東さん:障害があっても、ほかの人と同じように仕事をすることができる。理解をしてもらうことができるという状況を見て、簡単な言葉になってしまいますが、すごくいいなと思いました。先ほどの会議のときの音声認識アプリありましたよね。リアルタイムで表示されていて、今の技術が発展しているなということも感じました。(手話)

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伊東碧海さん 大学2年生

大学3年の小田さんは、積極性が必要だと感じたようです。

「ツールと、もう一つ積極的な相談っていうところが、すごく大切だとすごく感じました」(小田さん)

企業で人事を担当する伊藤さん、杉田さんも積極的に会社に相談していくことが大事だと言います。

画像(ソフトバンク人事担当 伊藤さん、日本IBM人事担当 杉田さん)

「当社で今、情報保障のメインで使っているのが音声認識アプリなのですが、実はそちらを人事に紹介してくれたのは聴覚障害の社員でした。いちばん大事なのは、『こういうふうにしてくれると、もっと良くなるよ』とか、『じゃあ、こういうふうにしたらどうかな』とお互いに話し合っていくことだと思います。何か感じることがあったら率直に伝えていく。そして、そのフィードバックを聞く。お互いに、どうやっていったらいいのか考えていく。こんな視点でずっと対応していっていただけると、非常にうれしいなと思います」(人事担当 伊藤さん)

「実は、コロナ禍で一気に在宅勤務に切り替わったとき、全社員でオンラインディスカッションをして、どういったことに困っているか、いろんなトピックでディスカッションをしました。たとえば在宅勤務になったことによって、唇の読み取りがこれまでできていた方も、読み取りできなくなった。その代わりにどういったことができるか。また、聴覚障害のある場合、雰囲気がわからないととても不安で、唇の読み取りを少しでもしたいということもありますので、みんな画面をオンにしようとか。お互いに助け合うということをしています」(人事担当 杉田さん)

最後に、大学生の二人に今回の企画について感想をお聞きしました。

画像(小田麓さんと伊東碧海さん)

「相談するという部分が大きく学びになったところだと思いました。具体的に言うと、普段、私たちは『こういうふうにしてほしい』と伝えることが多いと思うんですが、その背景、『何でこうしてほしいのか』というところを伝える。そうすると、企業にとっても、『代わりにこういう方法だったらできるんじゃないか』という考え方ができるかもしれないので、そこはすごく学びになったなと思いました」(小田さん)

伊東さん:相手とどのようにコミュニケーションを取るのかだったり、入社後にどうやって働いていくのかという見通しであったり、さまざまなことを含めて就職活動なんだなと、今回の機会を通して知ることができました。(手話)

「こういう二人が、面接の場面に行ったり、会社の中に入って行ったりすることで、会社の中のコミュニケーションを変えてくことができるのではないかなと思っています。聴覚障害者がいることで“コミュニケーションのユニバーサルデザイン”が進んでいく。そういうことの核になれるお二人なのではないかなと思います」(加藤さん)

就活応援企画2022
(前編)エントリーシートで障害をどう伝える?
(後編)情報保障を求め、働きやすい職場に ←今回の記事

※この記事はろうを生きる 難聴を生きる 2022年2月12日(土曜)放送「就活応援!2022後編 面接 情報保障をどうすればいい?」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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