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もっと知ってほしい! 通勤・職場でも使える公的支援サービス

記事公開日:2021年12月28日

2020年10月、新たな就労支援「重度障害者等に対する通勤や職場等における支援」が始まりました。視覚に障害のある人の外出支援サービス「同行援護」の利用者を対象にした制度で、通勤時の付き添いや、職場での代筆・代読などが可能になります。しかし、開始から1年となる今も制度の利用は進んでいません。なぜこのサービスが利用されないのか。制度に詳しい専門家と共に、利用方法と課題をお伝えします。

視覚障害者も利用できる新たな就労支援サービス

新たな就労支援「重度障害者等に対する通勤や職場等における支援」によって、視覚障害者も職場への通勤の同行や業務の上で必要となる「代筆・代読」の支援を受けることが可能になりました。対象となるのは、外出支援サービス「同行援護」の利用者です。視覚に障害のある人の外出支援制度を専門とする、大阪市立大学特別研究員・青木慎太朗さんは新たな就労支援に大きな期待を寄せています。

「視覚障害者にとって非常に有意義な制度だと考えています。企業に勤めている人の場合、障害者雇用促進法では、全従業員の2.3%の障害者を雇用しなければならないのです。ところがこの法律では、障害の種類は問われません。その結果、単独で自力通勤が困難な視覚障害者は、なかなか雇ってもらえないのが課題になっています。一方、自営の場合、視覚障害者はいわゆる「あはき業」が多いですが、最近、目が見えるマッサージ師などが出張マッサージを行っています。その結果、視覚障害者は収入が減っているのです。こうした視覚障害者の就労の状況を改善できる制度になります。」(青木さん)

視覚に障害のある人にとって意義のあるサービスですが、実はまだ一部の自治体でしか利用できません。

「障害者総合支援法には大きく分けて、自立支援給付と地域生活支援事業があります。自立支援給付は、国が基準を決めてサービスを提供するもので、全国一律どこに住んでいても同じサービスが受けられる。従来の同行援護がそうです。それに対して今回の就労支援制度は地域生活支援事業の任意事業であり、実施については各自治体に任せられています。ですから、従来の同行援護と決定的な違いは、全国一律で使えるわけではなく、各自治体の判断になってしまう」(青木さん)

サービスを行うか否かは自治体の判断によりますが、制度が広まらないのは3つの課題があるからだと青木さんは指摘します。

「1つは、自治体の障害者福祉の担当者がこの制度を知っているか。次に自治体はお金を出すことになるので、市町村の財政力の問題が課題になってきます。さらに制度があったとしても、今度は担い手となるヘルパーがいるのか、引き受けてくれる事業所があるのかという点です」(青木さん)

ガイドヘルパーの担い手がいない点については今後も大きな課題です。

「担い手がいないと、サービスを提供したくてもできないですよね。担い手がいない理由としては、ヘルパーの賃金が低いことと、就労が安定しないということです。利用者が出かけてくれて、初めて仕事になります。ですから、事業所が安定的にサービスを提供するためには、介護報酬自体を上げる必要がある。安定的に運用できるくらいの水準に持っていく必要がある。そうしないと、ヘルパーにも十分な賃金を払うことができないんです」(青木さん)

当事者にとって大きなメリットがある制度

制度が始まってもなかなか広まらない支援サービスですが、一方で積極的に実施している自治体があります。今年8月から支援サービスをスタートした宇都宮市で、信沢紀久雄さん(80歳)は視覚に障害のある人として初めての利用者となりました。全盲の信沢さんは相談支援専門員の資格を持ち、事業所を経営しています。相談支援専門員として利用者の自宅を訪問する際に、この就労支援サービスを利用しています。

「実際に年に何回か利用者さんにお会いして、利用状況だとかをお聞きするんです。それは経済活動ということで、今までの同行援護制度では使えませんでした。それで今回の重度障害者の就労支援制度は経済活動がOKということなので、非常に助かります」(信沢さん)

信沢さんは、業務で必要な知識を得る研修や、営業活動でもこのサービスを利用しています。

「(使えるのかどうかわからない時は)市役所に聞きますね。『研修もいいんですか』と聞いてみると、『それは(仕事の)資質向上ですからいいですよ』と。ほかにも、事業所に近い地域包括支援センターに行って担当者にお話をして、今後、視覚障害者の人がいたらぜひ紹介してくださいという営業活動、そういったことも『いいですよ』と。だから幅が広いと思います」(信沢さん)

信沢さんは、移動先で代筆・代読の支援も受けられるようになりました。信沢さんが相談支援専門員として利用者に話を聞くときに、ガイドヘルパーの栃木肇子さんがサポートしてくれます。

「信沢さんが質問なさることとか、確認なさることをメモしておく。例えば同意書を読んでご本人に確認してもらいます。県で相談支援専門員として必要な研修会があったんですけれども、研修会(の参加者)は基本的に見える方です。点字の書類はないんですね。ですから、書類を読んだり、『画面にこんなことが映ってますよ』と教えて差し上げたりしました」(栃木さん)

新たな就労支援で信沢さん本人だけではなく、家族も助かっています。一緒に事業所を運営する娘の恵美子さんは、以前は信沢さんが外出する際に同行していました。支援サービスによって心身ともに大きな変化があったと語ります。

「今までは父が仕事で出かけたいと言っても、私の業務状況に応じて我慢してもらったことがありました。この制度で、父が相談支援専門員として出かけたい日にガイドヘルパーさんが行っていただけるので、ありがたいと思っています。父が就労支援を使って出かけている間に、私は別な場所で仕事が同時進行できるのは、私の精神的な部分でも物理的な部分でも楽になっています」(恵美子さん)

本人の働く環境を整えることができて、家族の負担も減らす新たな制度。信沢さんの地元、宇都宮市では対象となる当事者に直接アプローチして制度を伝えてきました。宇都宮市障がい福祉課の金枝稔夫さんが取り組みを説明します。

「2021年の8月からこの制度を開始しましたが、同行援護利用者のなかで、うちで把握できた方については直接説明をしました。まず事前にお電話して、詳しいことは直接お伺いして説明します。その場には、サービス利用にかかる相談支援専門員やご家族、関係者に一緒に立ち会っていただく場面もあります」(金枝さん)

こうした丁寧な対応によって、マッサージの治療院を営む視覚に障害のある2人が11月から新たに利用を開始しました。制度を行政側から発信するという宇都宮市の対応について、青木さんは絶賛します。

「素晴らしいという言葉に尽きると思います。全国の自治体にまねをしてほしい。というのは、視覚障害者の障害は『情報障害』なんですね。(制度を使うには)基本的に本人から申し出がなければ利用できない。いわゆる申請主義なんですね。申請するためには、(制度が)あることが分かるからできる(しかし制度を知らない視覚障害者が多い)。いちばんいいのは、自治体から『こういう制度ができましたよ』と言うことですね」(青木さん)

就労支援サービスの利用方法

この新たな就労支援は各自治体が行うサービスです。まずは住んでいる市町村の障害者福祉の窓口に問い合わせ、サービスが行われているか確認します。利用できる場合、自営業の人と、企業に雇用されている場合で手続き方法が異なります。

自営業の場合は、担当者に伝えるべき内容があるので準備しておきましょう。

【自営業の場合】
・どのような仕事をしているか?
・どのような場面で支援が必要か?
・支援によって収入増につながるのか?

会社に雇用されている場合は、雇用納付金を財源として就労支援に充てることになっているため、自営業の場合と流れが変わります。

【企業に勤めている場合】
・支援サービスを利用したいと会社に伝える。
・会社側から申請手続きする。

いずれの場合も、まずは市町村が支援サービスを行っているかを確認してから始めます。

支援制度は私たち一人ひとりが作っていくもの

当事者にとって大きなメリットがある支援サービスですが、まだ一部の自治体でしか導入されていません。自分の住んでいる自治体でサービスが利用できない場合、どうすればいいのでしょうか。当事者団体の日本視覚障害者団体連合にも、多くの相談が寄せられていると総合相談室長の工藤正一さんが語ります。

「(窓口に)出向いたら、『必ずやらないといけない制度ではない』と言われる。『1人や2人が必要だと言っても、自治体としてはやるわけにいかない』とか、『そんな制度は知らない』と言われた人もいます。そう考えると、個人で対応するのではなく、地域の視覚障害者団体がこれを取り上げて、市に要望して実現をお願いすることが必要だと感じています」(工藤さん)

周囲の人たちと相談しながら、諦めないで交渉を続けることが大切です。支援制度は私たち一人ひとりが作っていくものだと青木さんは訴えます。

「同行援護ができるまで、代筆・代読の支援制度がなかったんです。それが10年前に同行援護ができて、代筆・代読をはじめとする情報提供を支援の中心にしようと始まったんですね。これは長年の働きかけがあったからできたことなんです。でも、通勤や営業活動は支援の対象外となっていたんです。それがようやく今回使えるようになりました。いろいろな要望、あるいはやっていくなかで気づいた問題点を少しずつ改善して、変わっています。だから私たち一人ひとりが、皆さんも私もですけど、制度をよりよくするためのメンバーだと、お互いに共有したいなと思います」(青木さん)

※この記事は、2021年11月14日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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