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【VR当事者会】ヤングケアラー(前編) 学校・友だち、日頃の“もやもや” について思うこと

記事公開日:2021年12月24日

障害や病気のある家族の介護や(身の周りの世話)、幼いきょうだいの世話などを担っている18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」といいます。勉強の時間が取れない、自由な時間がなく年齢相応に過ごせないなど、たくさんの課題があることが、自治体の調査などからも浮かび上がってきています。
今回はヤングケアラーの高校生3人と、大学生1人、そして専門家とNHK記者がVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)空間に集まり、日頃どのようなケアをおこなっているのか、周囲や自身に感じる“もやもや”などを語り合いました。

【参加者】
ゆずさん(高校2年生・女子) 難病の弟のケアを手伝う
ことねさん(高校2年生・女子) 認知症の祖父の介護を担う
あやさん(高校2年生・女子) 甥の世話をしている
とうじさん(大学1年生・男子) 精神疾患の母を支えている
濱島淑惠さん 大阪歯科大学医療保健学部教授・ヤングケアラーの調査や研究を行っている
大西咲 NHKさいたま放送局記者・ヤングケアラーの取材を続けている

自己紹介と参加した理由

ヤングケアラーの家庭事情やケアの対象などは実にさまざまで、担っている役割もそれぞれ異なります。今回は抱えている思いや課題を安心できる環境で語り合ってもらおうと、VR空間を用意。一人ひとりがアバターとなり、自由に動き回りながら交流をはかります。

集まってくれたのは4人のヤングケアラーのみなさん。難病のきょうだい児の看護を手伝うゆずさん(高校2年生・女子)、認知症の祖父の介護をすることねさん(高校2年生・女子)、兄の子である甥の世話をするあやさん(高校2年生・女子)、精神疾患の母を支えているとうじさん(大学1年生・男子)です。

4人のお話を伺うのは、ヤングケアラーについて詳しい大阪歯科大学医療保健学部教授の濱島淑惠さんと、NHKさいたま放送局でヤングケアラーの取材を続けている大西咲記者です。今回は濱島さんや大西記者がこれまで出会ったヤングケアラーのみなさんに声をかけました。

VR座談会は自己紹介から始まります。

大西:まずは私から自己紹介をします。私はNHKで記者をしている大西といいます。ヤングケアラーについて、皆さんのいろんな気持ちを今日は一緒に共有できたらなと思っています。

濱島:大阪歯科大学で教員をしている濱島といいます。ふだんは家族のケアを担う子ども、若者たちのインタビューをしたり、みんなで集まって話すような会を開いたりしています。今日、みなさんにお会いできるのをすごく楽しみにしていました。よろしくお願いします。

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濱島さんのアバター

ゆず:ゆずと言います。高校2年生で、ケアしているのは4つ下の弟です。弟は先天性の難病で、重度心身障害児なのでケアを手伝っているのと、最近は、弟のケアで体調を崩しがちなお母さんの話や愚痴を聞いたり、買い物に行ったり、料理とかをやっている感じです。
障害のあるきょうだいがいる子どものことを「きょうだい児」と言うのですが、きょうだい児ではケアラーをやっている子が多くて、ふだんはきょうだい児の集まる「きょうだい会」にオンラインで参加しています。ヤングケアラーだけの会は初めてだったので、みんなとしゃべってみようかなみたいな感じで参加しました。

ことね:高校2年生のことねです。2年生になった今年から、一緒に住んでいるおじいちゃんの介護をしています。歩けないのと、認知症なので、一緒にご飯を食べるなどケア全般をしています。私もヤングケラーの人と話したことがなかったので、話してみたいなと思って参加しました。

あや:あやです。17歳の高校2年生です。兄が仕事で出張に行っている間、甥っ子の面倒を見ています。部活はしていなくて、コンビニでアルバイトをしています。学校以外で集まる場所って意外と知らないので、参加してみようかなと思いました。

とうじ:とうじと言います。今は大学1年生で、高校1年生から今までずっとお母さんの精神的なケアをしています。僕はこれまでにもオンラインでヤングケアラーの方と話すこともあったんですけど、いつもどこか抵抗感というか、自分の人生と向き合うのはしんどいなと思うときもありました。この新しいVR空間はどういう感じなのかなとワクワクしていました。

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(左から)ことねさん、あやさん、ゆずさん、とうじさんのアバター

自己紹介のあとはそれぞれの“推し”のミュージシャンなどを教え合い、緊張感がほぐれてきた4人。最初の話題は学校についてです。

学校の友だちや先生には打ち明けられない?

自己紹介では、ヤングケアラーについて話す機会があまりないという話題が出ました。4人が多くの時間を過ごしている学校では、友だちや先生に自分がヤングケアラーであることを打ち明けているのでしょうか。

画像(学校・友だち)

ゆず:人を見極めてから話すから、(打ち明けるまでに)めちゃめちゃ時間がかかります。あと、話すと決めた友だちでも、2人きりのときじゃないと話しにくいっていうのはあります。学校の教室とかでふだんの雑談みたいにしゃべることはないかなって感じです。空気の重さっていうか、同級生だとその場を暗くしちゃうみたいな・・・。
先生だと大人だし割り切ってくれてるから、「あ、そうなんだね」って受け止めてくれるけど、同世代だとそこまでいかないから、どうしても暗くしちゃったり、重くしちゃったりして、気を遣われるのも嫌だなと。

ことね:もうなんか全部同じ(笑)。みんな経験したことがないから、どうせ言ってもわかんないだろうなみたいな感じで、友だちにはまだ話したことがないです。「なんで学校に来ないの?」とか言われても、その理由が言えないからごまかしています。それですごく責められるけど、大変っていうことをわかってほしい。

濱島:うん、そうだよね。でも話してもわかってくれなさそうな気がするんだよね。学校の先生にも話したいと思うことってある?

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VR空間の様子

ことね:先生には事情があって遅れるとか話してるけど、先生も忙しそうだから私の話をするのはなあって思ってしまいます。だから表面的に、「体調が悪いんで」って言って休んでいます。

大西:あやさんも途中でうなずいてくれましたけど、お友だちには話したことはありますか?

あや:私は友だちに話したことはあるんですけど、うまく伝わらずに終わっちゃったことが多いですね。話すときは悩みました。友だちに伝えたときのことをよく覚えてないので、なんて言ったか忘れたんですけど・・・。ただ、相手の反応は「何の話をしてるんだろう?」みたいな、ちょっと引かれたというか、そういう感じでした。そういう反応があると、今後打ち明けにくくなるし、他の方にも話しにくなって怖くなっちゃいます。

とうじ:高校の3年間は自分の状態に気づいてないというか、家のことはそもそも友だちに話すべきじゃないみたいなのが、もともとありました。ヤングケアラーっていう言葉も知らなくて、(自分がそうだと)気づいてなかったので、話すっていうのはなくって・・・。でも担任の先生が3年間ずっと同じで、結構話を聞いてくれて、自分も「この人になら話せるな」と思えた。
でも、友だちにはあんまり話さないし、大学に入ってからもあんまり話さない。話しても相手もいっぱいいっぱいになるというか、わかってもらえなくて。だから最近は、ちょっとまとめてというか、相手のことを考えて、話したいことだけ話すみたいなことをしています。

濱島:みんな、すごく相手のことを思いやっているんですね。「こういうことを話したらつまんないんじゃないかな」「重くなりすぎないかな」といつも気を遣って、友だちのことも思いながら話してるんだなと思いました。

大西:去年ぐらいから急にニュースやいろいろな場所で「ヤングケアラー」っていう言葉が広く言われるようになって。だから、とうじさんがお話ししてくれた通り、「ヤングケアラーっていう言葉知らなかった」っていう人も多いと思うんです。なので、こういう場があると、みんなの違った意見とか、「あ、これ共感する」という部分が出てくるかなと思って、今日の会を計画しました。

“ヤングケアラー”と呼ばれて

とうじさんのように、自分がヤングケアラーであることに気づけなかった当事者は少なくありません。ヤングケアラーと呼ばれることについて、4人はどのように感じているのでしょうか。

画像(ヤングケアラーと呼ばれて)

とうじ:高校3年生のときにヤングケアラーという言葉を知ったけど、そのときは自分のことだとは思いませんでした。高校で介護の勉強をしていて、施設に実習に行ったときに、「あんなにしんどいことを家でもやってるんだ、何とかしないといけない」って、最初は支援する側としてヤングケアラーという言葉を理解していたんです。
だけど大学に入ってから、ようやく「あ、自分もヤングケアラーだったかもしれない」と思えるようになりました。そのときは自分の家でのよくわからなかった負担感とか、周りの子より自分は劣っているのかなと思っていたのが、ヤングケアラーという言葉がついて、ちょっと良いほうに捉えられるようにはなりました。
でもヤングケアラーという言葉が曖昧で、「自分がそれに該当するのか?」と1か月ぐらい悩む時期がありました。そこからいろんな人に相談して、ヤングケアラーと名乗っていいんだと思うようになりました。お母さんがもともと精神的な病気を患っていたんですけど、最近、お母さんもヤングケアラーという言葉を知って、「負担にさせてたんだね」みたいなことを僕に言ってくるようになって、それが最近の悩みでもあります。

濱島:たしかにヤングケアラーってすごく幅広くて、自分が当てはまるのかわからないという話をよく聞きます。とうじさんのほかに、自分がヤングケアラーなのかわからないと思った人はいますか?

ことね:ヤングケアラーのことを知ったのは、「おじいちゃんの介護をするようになりました」って先生に報告したとき。その先生に「ヤングケアラーね」みたいに言われてから、「あ、そうなんだ」って。

濱島:先生にそう言われたときはどんな気持ちになりました?

ことね:うーん、ふつうの人と分けられている感じがします。

濱島:なるほど。ゆずさんもうなずいてくれましたね。どういうふうに感じましたか?

ゆず:最初、知ったときは「へぇ、そうなんだ」って感じでした。今まではあまり気にしてこなかったんですけど、友だちにケアのことを話せないのはなんでだろうって考えたら、今までは“ゆず”として接してくれていたのに、話すことによって、“ヤングケアラーのゆず”とか、“弟に障害があるゆず”とか思われるのが嫌だなって。数日前に親戚から、「昔はめちゃくちゃ弟の世話をしててケアラーだったけど、今は行政の力とか借りて少しは楽になったかい?」みたいな話をされて、人から改めて言われるのって嫌だなって感じました。

大西:自分の中でそうかなって思うのと、ほかの人に「あなた、そうだよ」って言われるのって、またちょっと違いますよね。あ、うなずいてくれていますね。やっぱり違和感って、結構感じますか?

あや:私は今もヤングケアラーっていう自覚が正直ないというか・・・。周りには「ヤングケラーだよ」って言われる機会が少ないので、今も自覚がなくて参加してるんですけど、たまに改めて考えてみると「ああ、そうなのかもな」って思うぐらいです。

濱島:私は研究者なのでヤングケアラーという言葉をよく使いますが、その言葉を必要としているのは、先生とか福祉の専門職とか大人の側だけで、子どもたちや本人には必要じゃないのかなって思うんですよね。自分の人生の中で、その言葉がしっくりくる瞬間があったり、使いたいなと思う瞬間がいつかどこかで来たりしたときに使えばいいものであって、大人が勝手に言ってるみたいな感じ(笑)。
ただ、もしかすると、みなさんが自分のことを説明するときに、「だからヤングケアラーだって!」みたいな感じであえて使ってみると、わかってくれる人もいるかもしれないなと、ときどき思ったりします。

大西:お友だちに言うときは、まだその言葉を知らなかったりするかもしれないですけど、例えば学校の先生だと今はちょっとずつ理解が進んできているから。大人に話す分には、だいぶん理解されやすくなっていたりするんでしょうか。

濱島:どうだろう・・・。まだ知らない人も少なくないので、もう少し待ってからのほうがいいかもしれないですね。間違って理解している大人もいるし。

ケアをしていて楽しかったこと、“もやもや”すること

ヤングケアラーのみなさんは、ケアを通して、家族や生活にどのような思いを持っているのでしょうか。思い出に残っていること、楽しかったこと、“もやもや”することなどを挙げてもらいました。 まずは楽しかったことを、ゆずさんから。

画像(楽しいこと もやもやすること)

ゆず:寝たきりの弟が、ちょうどコロナの自粛期間中にちょっとだけ寝返りが打てるようになりました。12歳だったか13歳だったか忘れたんですけど、今までできなかったことができるようになって、「ああ、やっと成長したんだ、うれしい」と思いました。もともと寝返り自体はできていたんですけど、片方の腕が体の下に入っちゃって抜けない状態。それが抜けるようになって、本人も調子に乗って、何度もやり出して、頭も自分で上げられるようになってきました。

濱島:聞きながらすごく感動しちゃった!それはうれしいですね。

大西:嬉しいですね。長く見ているからこそというか、家族でずっと近くにいるからこそでしょうか。あ、うなずいてくれましたね。とうじさんは楽しいことありますか?

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ことねさん、あやさん、ゆずさんのアバター

とうじ:僕は楽しいことが何も思い当たらなくて。笑ってることは何回もあるんですけど、楽しいことが家の中になくて、最近は家の外でいろんな人と会っています。今はちょっと楽しいことが思いつかなかった。モヤっとすることは高校1年生から始まって、2年生ぐらいからは、「楽しい」がもうわからない。相手のことを思って笑顔を作るときもあるけれど、素の自分や感情を好きに出せるときがあまりなくて、それは今もまだ続いていて、モヤモヤしています。

濱島:家の中では好きに感情を出すよりは、相手のことを思って感情を出すことが多かったということですか?

とうじ:そうですね。感情を好きに出すと家族全員が崩壊というか、立ち上がれなくなるので。

濱島:きっと、とうじさんがバランサーとして、家族のバランスを取っていたんだね。外で人と話すことのほうが今は多いという話でしたが、外では楽しいことはありますか?

とうじ:たまに知り合いのシェアハウスを訪ねることがあるんですけど、そこが温かい雰囲気ですごく好きです。そこに行けるだけで安心できるみたいな感じで、すごく楽しいです。

濱島:たしかにそういう場所があると。ホッとできていいですよね。私も何か嫌なことがあったとき、にそのシェアハウスに行きたいな(笑)。

甥の世話をしているあやさんも思いを話してくれました。

あや:先々月ぐらいにちょうど兄が出張で、甥っ子が家に長くいる期間があったんです。そのときに、夜にゲームを一緒にしたりテレビを見たりして、過ごすのが楽しかったです。甥っ子が楽しそうにしているともっとうれしくて・・・。モヤモヤすることは、そういうときに兄から電話がかかってきて、「今は何をしてる」みたいなのを話さないといけないとき。楽しい時間が遮られて、ちょっと嫌だったなあというか、モヤモヤしたなっていうのはありました。

濱島:甥っ子さんはあやさんにすごくなついていそうだね。

あや:歳はちょっと離れているんですけど、弟に近い感覚ですね。すごく大好きかと聞かれると、たぶんそこまでじゃないというか(笑)。そんな感じです。

認知症の祖父の介護をしていることねさんはどうなのでしょうか。

ことね:モヤモヤすることは、祖父から何度も同じことを聞かれて、イライラしてあたっちゃうとき。楽しいことは一緒に笑っている時間です。

濱島:一緒にいる時間は長いんですか?

ことね:そうですね、夜はずっと一緒にいます。認知症で、10秒前ぐらいのことを何度も聞き返されたりすると、本当にちょっとイライラしちゃって。「さっき言ったよ」って言いそうになっちゃって、そのあとに後悔してます。忘れたくて、忘れてるわけじゃないのになって。祖父のことはずっと見てないといけないので、発散できる時間はあまりありません。

家庭の事情も、ケアの対象も異なる4人のヤングケアラーのみなさんですが、抱えている思いには共通するものがありました。後編ではあったらいいなと思う支援や、ヤングケアラー同士だからこそ聞いてみたいことについて話し合います。

【VR当事者会】ヤングケアラー
(前編)学校・友だち、日頃のモヤモヤについて思うこと ←今回の記事
(後編)必要な支援と、こんなときどうしてる?

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