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同性婚を認めないのは違憲(2)~研究者・当事者と考える同性婚の実現がもたらすもの~

記事公開日:2021年04月19日

「#隣のアライさん」プロジェクト、第7回のテーマは“セクシュアルマイノリティ”です。番組の放送日であった2021年3月17日、“同性婚”が認められないのは憲法違反であるとして、北海道に住む同性カップル3組が訴えた裁判に判断が示されました。初めてとなるこの判断は当事者への希望をもたらしたと同時に、さまざまな課題を浮き彫りにしています。これから社会はどう変わっていくべきなのか。専門家・当事者に話を伺いました。

画像(棚村政行さん顔写真)棚村政行さん 早稲田大学法学学術院教授/弁護士
専門は民法。ジェンダー問題に詳しく研究テーマのひとつに「LGBTと家族法」がある。



画像(杉山文野さん顔写真)杉山文野さん NPO法人東京レインボープライド共同代表理事
日本初となる渋谷区パートナーシップ制度の制定に深く関わる。またトラスジェンダーとしての経験を綴った著作を発表。現在、二児の父として子育てにも奮闘中。



画像(松岡宗嗣さん顔写真)松岡宗嗣さん ライター/一般社団法人fair代表理事
さまざまな媒体でLGBTQに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等で多数研修や講演も行う。



画像(みたらし加奈さん顔写真)みたらし加奈さん 臨床心理士
性暴力や性的同意に関する専門的な知識を発信するメディア「mimosas(ミモザ)」の理事も務める。SNSを通してメンタルケアを身近なものにするための情報を発信。私生活では同性パートナーとの生活やLGBTQに関する問題について取り上げるYouTubeチャンネルを運営している。

年々高まるセクシュアルマイノリティへの関心

違憲の判断が示され社会に大きなインパクトをもたらした今回の訴訟。同性婚やLGBTQなどセクシュアルマイノリティについての関心は年々高まってきています。
東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さん、ライターの松岡宗嗣さんはこう話します。

「私は2015年の渋谷区の同性パートナーシップ制度に関わっていたので、いろんな方とお話をする機会も多いのですが、近年のLGBTQに対する世間の目は、圧倒的に変わってきています。
たった5年ほど前はLGBTQということばがほとんど知られていなかったのが、いまは一般常識と言えるほど認知度は上がっているように感じます」(杉山さん)

「世論はすでに変わりつつあります。昨年11月発表のある意識調査でも20~30代の8割が同性婚に賛成していて、身近な人が同性愛者だったら『嫌だ』と思う人も減少したと報告されています。(※)
同性婚がより早く認められるためには、まずは当事者をもっと身近に感じてもらう必要があると思っています」(松岡さん)

※身近な人が同性愛者だったら『嫌だ』と思う人が減少したと報告
釜野さおり・石田仁・風間孝・平森大規・吉仲崇・河口和也
2020 『性的マイノリティについての意識:2019年(第2回)全国調査報告会配布資料』 JSPS科研費(18H03652)「セクシュアル・ マイノリティをめぐる意識の変容と施策に関する研究」(研究代表者 広島修道大学 河口和也)調査班編より

臨床心理士で同性パートナーと暮らすみたらし加奈さんは、当事者として情報を発信することでセクシュアルマイノリティへの偏見を減らしていきたいと考えています。

「私のできることは草の根運動のような形で、ただパートナーとの幸せな日常を発信することです。異性同士のパートナーシップであっても同性同士のパートナーシップであったとしても何も変わらないんだよ、と。
同性カップルであっても異性のカップルや家族の日常であるような会話が当たり前のように行なわれていて、そこに違いはないということをコンテンツを通して伝えていくことも大切だと感じています。」(みたらしさん)

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みたらし加奈さんはパートナーとともに日々の出来事を投稿動画サイトに上げている。チャンネル登録者数は2021年4月の時点で4万7千人に上る。

セクシュアルマイノリティへの関心が集まるなか、札幌地裁の判決の2日後には同性の事実婚カップルを、男女の場合と同じように法的な保護の対象と認めた司法判断が最高裁で確定しました。このことは国の動きを促すことにもつながると、早稲田大学法学学術院教授の棚村政行さんは話します。

「最高裁も同性の事実婚を真正面から認め、札幌地裁もとなると、これまで動きにくかった司法という分野が、セクシュアルマイノリティに対して多大な理解や声を聞き届ける状況になる可能性が出てきました。そうすると国会が動かなければならないのではないか、という後押しになってくると思います」(棚村さん)

同性婚や事実婚などについて大きく動きだした司法の場。その動きに期待が高まるのはセクシュアルマイノリティに関わる切実な悩みを抱えている人がいるからです。

「トランスジェンダーについては自らの身体の違和感から手術を望むぶんには個人の選択だと思いますが、本当は手術したくないのに『結婚できないから』『戸籍を変えられないから』という理由で、手術をせざるを得ない状況に追い込まれている当事者がかなりいて、それはやっぱり良くないだろうと思います。
生きるために制度があるわけで、制度のために生きているわけじゃない。それなのに制度に合わせるために身体を切る。加えて、保険適用がなかなか難しいし、身体も心もお金も本当に大きなリスクを背負いながら手術をしている。ここはすごく問題だと思うんですね。婚姻平等が実現すれば、そういった問題がかなり軽減されます」(杉山さん)」

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杉山さん一家。親友の松中権さん(中央)から精子提供を受け二児を授かった。(写真・杉山さん提供)

「欧米の調査では同性婚が認められることで、LGBTQの自殺率が低下したという結果が出ています。もちろん同性婚だけが要因ではなく、他にもいろいろなLGBTQを取り巻く社会の変化の結果だと思います。
しかし国が同性婚を法制化することで特に若い世代の当事者たちが『平等に扱われるんだ、自分らしく生きていいんだ』とスティグマ(押し付けられた負のイメージ)を減らす可能性はあるのではないかと思っています」(松岡さん)

反発、差別・・・同性婚の法制化にたちはだかる“壁”

しかし司法の分野でセクシュアルマイノリティへの理解が進む一方で、同性婚の法制化にはまだ“壁”があると専門家や当事者は口をそろえます。

「今回の判決で婚姻の目的は生殖、子どもを持つことのみではなく永続的な共同生活を営むことだと述べていて、おそらくここはすごく反発が起こるだろうなと思っています。
『伝統的な家族観』を重要視している人にとって婚姻の目的は子どもを持つこと、家をつないでいくこと。そこは議論になるだろうなと思っています」(松岡さん)

「『日本の伝統的な家族が壊れる』ということを盾に反発が起きるとは思いますね」(棚村さん)

「最高裁に向けてこの流れが途絶えないでほしいですね。風潮としてちょっと良いニュースがあるとバックラッシュのような、その流れを止める動きって起きてきちゃうじゃないですか。『なんでそんなに騒いでいるんだ』とか。私の願いとしては、この良い流れを止めずに最高裁までいってほしいですね」(みたらしさん)

「違憲判断が示されても、まったく変わらない現実があります。差別禁止法もできない、同性婚もできない、性同一性障害特例法の要件の緩和もままならない。ありとあらゆるところで、差別や偏見など、根強いものがある。
最近、『LGBT盛り上がっているよね、受け入れられているし』と応援してくれる人が増えているのは嬉しいけれど、現実はそんなに簡単な話じゃないということが見落とされがちになっています。さらにトランスジェンダーであり女性であるというダブルマイノリティなど、そういった課題は見落とされがちです」(杉山さん)

伝統的な考えを持つ人からの反発、社会に根強く残る差別や偏見。これらの“壁”をどう乗り越えていけばいいのでしょうか。松岡さんは、周囲の“アライ(理解者・味方)”の行動に期待を寄せます。

「周りの人にもできることはたくさんあって、ぜひアライシップを示していってほしいですね。『私は味方でありたい』と発信してほしい。同性婚の法制化を支持していると身近な人に話すことでもいいし、当事者に対して何か困っていたらサポートするよとか、何も変わらずに友だちでいるよとか、いろんな示し方があると思うので、ぜひ声をあげてもらえたらと思います。
ただ残念ながらアライシップを示すだけでは法律はできないので、法整備のための具体的な行動も起こしてほしいと思っています。そのひとつは同性婚に賛成の国会議員に投票すること。投票行為だけが民主主義における政治参加ではないので、たとえば『同性婚を法制化してほしい』と地元の議員に手紙を送ってみたり、事務所に電話してみたりして、ぜひ伝えてほしいと思っています」(松岡さん)

杉山さんは、同性婚の実現には、賛成派と反対派の合意のとり方に工夫が必要だと考えています。

「反対する人も賛成する人もいるなかで、ここだったらお互いが合意できるという場所を見つけていく。アジアで初めて同性婚を認めた台湾のケースを聞くと、(同性同士の結婚で)家と家が結びつくという考え方をするといろんな反対意見が出てくる。でも個人と個人の結びつきというところであれば合意がとれたと聞いています。
日本においてもその合意がとれるポイントを見つけたりつくったりしながら、しっかりと同性婚の法制化に向けて進めていくことが大事だと思っています(杉山さん)

あらゆる人が生きやすい社会をつくるために

当事者に希望をもたらした札幌地裁の違憲判断。セクシュアルマイノリティを取り巻く時流はますます勢いづいているように見えます。しかしこれから先、たとえ同性婚が制度化されたとしてもその影響は限定的だと松岡さんは話します。

「(今回の判決で)同性カップルが法的保護を受けられないのは、『法の下の平等』を定める憲法14条に違反する差別だと裁判所が言ってくれたのは嬉しかったのですが、よく考えてみるとこの判決が言っているのは当たり前のことなんですね。当たり前のことをただ当たり前だと裁判所が言ってくれた。だからこそ国はその当たり前をちゃんと法制化すべきだと言いたいですね。
制度を利用しない人からすれば(同性婚が法制化されても)明日は何も変わりません。一方で制度を利用する人にとってはより安心して生きられるようになったり、明らかに変わってくると思っています」(松岡さん)

同性婚の制度化が叫ばれている背景には“真に平等な社会”“多様性が認められる社会”を求める声があります。同性婚の制度化を目指す動きはそれを皮切りとして、さまざまな立場にあるマイノリティの人たちへポジティブな影響を及ぼす可能性があります。

「(同性婚が法制化されることによって)より多様な家族のあり方が認め、平等に扱っていこうという動きにつながっていくと思います。婚姻という形ではないパートナーシップのあり方やそもそも結婚をしない人たちも同じように保障されていくべきだと、世の中が動いていくのではないでしょうか」(松岡さん)

「たとえば同性カップルのもとで暮らしている子どもたちも含めてひとつの家族として認めていくかどうか。日本でも子どもを育てている同性カップルはたくさん出てきていますが、『親子になる』『夫婦になる』『家族として生きているんだ』ということまで包括して認めるには、法律も社会の支援も仕組みも整備しないといけませんから、もうちょっと時間がかかるでしょう。
だから今回の札幌の判決はその第一歩、しかも大きな第一歩をもしかすると踏み出すきっかけになるのかなと考えています。お年寄りや女性もそうですが、マイノリティが排除されて自分らしく生きられないときに社会や経済はマイナスになっていくと思うんですね。
多くの人たちが生き生きと自分らしく働ける、生きられることによって私たちの社会の発展や活性化が生まれてくると私は考えています」(棚村さん)

「同性婚は同性愛者のためだけに認めるものじゃないと思っています。もし同性婚が法制化されれば『なぜ選択的夫婦別姓はダメなの?』『なぜこれはダメなの?』と、いろいろな問題点が次々に出てきて、国はそれぞれについてきちんと向き合わなくてはいけない。
そういう意味で同性婚は、他者の選択肢に対して社会や国がどれくらい関わって、向き合っていくかを示すひとつのバロメーターのような側面もあると思っています」(みたらしさん)

「同性婚や内縁関係の事実婚はひとつの角度からではなく、いろんな角度から声をあげていくのが大事だと思うんです。
2021年の東京レインボープライドでも同性婚だけではなくて“多様な家族”をテーマにシンポジウムを開催して、特別養子縁組や選択的夫婦別姓、婚姻の平等も含めて多角的に語ることで、共通項を見つけて解決策を見つけていこうと考えているんです。LGBTQのことをLGBTQの人たちだけで語らないということもすごく大事だなと思います」(杉山さん)

さらに杉山さんは、同性婚実現への取り組みは次代を生きる子供たちへの財産にもなると考えています。

「たとえば自分の子どもに『自分らしく生きてほしい』と考えていても『どうして友だちはみんな結婚できるのに、自分だけ結婚できないの?』と聞かれたら、そのとき親としてどう答えるか。『あなたはマイノリティだから幸せになれないのよ、我慢しなさい』と言うのか、それとも『マイノリティでもマジョリティでも同性愛者でも誰でも平等な幸せになる権利があるんだよ、そうできる社会を準備しておいたよ』と言える大人になりたいのか。いま、そこが問われているんじゃないかって思うんです」(杉山さん)

だれを好きになるか、だれと人生を歩むのか。結婚を選ぶのか、それとも選ばないのか…。
出来る限りの選択肢が示される社会へ。同性婚の法制化はその一歩となることが期待されています。

同性婚訴訟に違憲判決。研究者・当事者はこう考える
(1)判決のポイントと今後の課題
(2)同性婚の実現がもたらすもの ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2021年3月17日(水曜)放送「#隣のアライさん ~これだけは知ってほしい!“セクマイカップル”のこと~」と関連して作成しました。

執筆者:幸田理一郎(番組ディレクター)

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