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指定難病の認定で大きく変わる治療環境

記事公開日:2018年05月23日

国が認定する「指定難病」の制度。医療費の助成を受けるために、難病患者の多くは自分の病気が指定難病となることを望んでいると言います。現在、指定難病の数は331疾患。難病法が制定された2014年以前には56疾患でしたが、4年間でその数は大幅に増えました。しかし、申請をしても認定されない難病が多い中で、どんな条件が整えば認定にいたるのでしょうか。今回は、今年の4月に最新の331番目の指定難病となったキャッスルマン病の患者会代表に、病気のことや認定をめぐる活動についてお話をうかがいました。

新たに指定難病となったキャッスルマン病

2018年4月、指定難病が1疾患増え、計331疾患に拡大しました。
追加されたのは「特発性多中心性キャッスルマン病」。

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第62回日本リウマチ学会総会・学術集会のキャッスルマン患者会のPRブース

キャッスルマン病は、1956年に米国の病理医であるベンジャミン・キャッスルマンが提唱した疾患です。「リンパ節の腫大が見られるものの悪性腫瘍ではなく、特徴的な病理組織所見と多彩な症状を呈する疾患」。国内の患者数は約1500人で、きわめてまれな難治性疾患です。

症状としては、貧血や発熱、体重減少、倦怠感など多岐にわたります。間質性肺炎、腎機能障害、がんなどの合併症を引き起こすこともあり、重篤な場合には命の危険にさらされることもあります。

一部のリンパ節だけが腫れるタイプを「単中心性」、複数のリンパ節が腫れるタイプを「多中心性」と呼びます。この「多中心性」のうちヒト・ヘルペスウイルス8型感染のない原因不明のものが、今回新たに「指定難病」に追加された「特発性多中心性キャッスルマン病」です。

難病の患者会の中には、「指定難病に認定されること」を活動の目的の一つとしている団体が数多くあります。キャッスルマン病患者会も、そのような患者会のひとつでした。

キャッスルマン病患者会の代表である福島かおりさんは、大阪大学の吉崎和幸特任教授率いる研究班の力を借りながら指定難病の申請を続けるなど、長年患者会の活動に尽力されてきました。

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キャッスルマン病患者会の福島かおり代表

同じ病気であっても、人によって症状が異なり、確定診断にいたる経過も人それぞれなのが、多くの難病の特徴でもあります。福島さんは20代の頃には血液検査をするとかならず炎症値が異常に高いことを指摘されてきましたが、目立った症状はなく、すぐには治療にいたらなかった過去がありました。

「私の場合は貧血、発熱、そして体がだるくなる症状が出るようになったのは30代半ば頃でした。それでも、本格的に治療を始めたのは10年以上経った40代の半ばからです。キャッスルマン病は突然症状が出るものではなく、年単位でゆっくりと悪化していくものなので、初期の頃には症状に慣れてしまっていて、治療もせずに、放置していたのです。あまりに辛くて、働くのが難しくなってから、治療を始めることになりました」

画期的であるが、高価な治療薬

現在キャッスルマン病を完治させる治療法はありませんが、その症状を抑える「トシリズマブ」という薬が2005年に薬事承認されています。「トシリズマブ」は、インターロイキン-6(IL-6)という炎症性サイトカインの働きを抑えることで、炎症に由来する症状を鎮静化させる薬です。大阪大学と製薬会社が共同開発したもので、リウマチの薬としても使用されています。2週間に一回使用することで、多くの患者は血液検査の値はほぼ正常値になります。福島さんも「トシリズマブ」によって、ふつうの生活が送れるようになったと言います。

しかし、この薬は高価であることが課題でした。
高額療養費制度を受けても、福島さんは年間60万円近くの医療費がかかっていました。年収によっては年間100万円以上かかる人もいました。このため、「医療費の負担ができないから」と治療を控えて、症状を悪化させたり、借金を背負ったりした患者もいたと言います。
だからこそ、「指定難病の認定を受けて、治療費助成を受けられるようにすること」を患者会は切望してきたのです。

指定難病となり、一気に広がる認知

指定難病に認定されるためには以下の5つの要件を満たさなければなりません。

指定難病の要件
1)発病の機構が明らかでない。
2)治療方法が確立していない。
3)長期の療養を必要とする。
4)患者数が日本の人口の0.1%程度以下(現在総人口は約1.27億人なので、約12.7万人程度以下)。
5)診断に関し、客観的な指標による一定の基準が定まっていること。
(厚生労働省 指定難病検討委員会資料より)

「この5つの条件のうち、どれかひとつでも欠けると認定は受けられなくなります。患者数が多過ぎたり、療養の程度が軽かったりすれば、指定を受けるのは難しくなります。キャッスルマン病は、この5つの条件のうち5番目だけが外れていました。これは患者会の努力だけではいかんともしがたいことで、研究班の力添えが大変大きかったと思います」(福島さん)

難病患者のみなさんがよく嘆かれるのは、病名を「知らない」と言われることが多いことです。一般の人に言われるのは仕方がないとしても、医療関係者にそれを言われると無力感に襲われると言います。医療関係者に病気の存在を知ってもらい、研究へとつないでもらうことが、認定を受けるための第一歩となります。

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キャッスルマン病を広めるための患者会のキャラクター

「患者会の活動は、仕事をしながら、治療も続けながらのボランティア活動でしかありませんので、限界はあります。しかし、会員の方々の地道な努力によって、医療関係者にも認知が広がっていきました。さらに指定難病に指定されたことで、血液学会、リウマチ学会などの各学会でも理解が広がっています。国が指定難病として認めてくれたことで、研究環境も整うことになりました。患者会と研究班の努力によって、ようやく未来が開けていくような気がしています」(福島さん)

指定難病の数が4年間で56疾患から331疾患に増えて、状況は改善に向かっています。しかし、多くの患者団体の悲願は、すべての患者が重症度や希少性などの条件によって線引きされることなく、医療費助成を受けられることです。

さらに言えば、財政上の負担の大きさから医療費助成の対象を限定せざるを得ないとしても、あらゆる難病患者が、就学、進学、年金、介護などの援助が受けられて、生活上の困難が少しでも軽減されることが切に求められています。

執筆者:Webライター 木下真

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