ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

人生の再出発 ある出所者の日々

記事公開日:2020年09月25日

刑期を終えて出所した人のうち、5年以内に再犯のため刑務所に戻ってくる人がおよそ4割います。原因のひとつに、仕事が見つからないことによる「居場所」の喪失があるとされています。そんななか、注目されているのが受刑者と企業をマッチングする専用求人誌『Chance!!』。一冊の雑誌で人生が変わった元受刑者を出所日から追い、再出発を支えるのに何が必要かを考えます。

人生の再スタートを踏み出す元受刑者

この夏、1人の男性の人生が動き出しました。3年の刑期を終えて沖縄刑務所から出てきた、26歳の末吉優一さんです。

画像

末吉優一さんと星山忠俊さん

出迎えたのは、埼玉県で建設会社を経営する星山忠俊さん。末吉さんは、星山さんの会社であすから働き始めます。

末吉さんが星山さんの会社を知ったのは、刑務所の中で読んだ日本初の受刑者専用の求人誌『Chance!!』です。

画像

受刑者専用の求人誌『Chance!!』

親から縁を切られていた末吉さんは、この雑誌を見て人生をやり直したいと応募しました。

「新しい土地で1から再出発してやっていく方が、自分の今後の人生のためにもなるんじゃないかなって。これからは日々努力しながら前向きに生活をしていくだけです」(末吉さん)

末吉さんは出所の翌日にさっそく出勤し、現場で働き始めました。仕事は住宅リフォームなどに使う足場の組み立て作業。新人の仕事は資材運びで、10キロを超える資材を休む間もなく次々と運びます。

画像

末吉さん

「きつい。3年のブランクがあるから。体力的にだね、いちばんきついのは。材料をしっかり覚えて、組み方から、ちゃんと1から勉強するつもりでいる」(末吉さん)

代表の星山さんは出所した人たちの雇用を去年から始め、これまで10人を採用してきました。

画像

星山忠俊さん

「別に、僕は犯罪者の味方なわけではないですよ。犯罪者の味方をしたいんじゃなくて、刑を終えて出所してきてやり直したいとか、反省してもう一回社会人として機能したいと思っている人に手を差し伸べるわけです。『助けてやってやるよ』という気持ちはないです。こっちも仕事に来てくれれば嬉しいし。一緒に会社を作っていくっていう感じですね」(星山さん)

社会的孤立が再犯を生み出す

末吉さんが小学生のときに両親が離婚し、母親と2人で暮らすことになります。しかし、中学生になると親子関係が悪化。仲間と非行を繰り返し、少年院に3回入りました。

「窃盗、道路交通法、傷害、恐喝。暇さえあれば、盗みに行くか、飲みに行くか、暴走族するか、女と遊ぶか。別に何かやっても親がケツ拭くからいいやと(思った)。甘い考えだった。申し訳ないと思う。自分の勝手な判断で人のものを盗ったり、傷つけるというのは」(末吉さん)

そして、23歳のときに傷害と恐喝未遂の罪で、3年間服役することになったのです。

末吉さんは自分の生き方を見つめ直し始め、出所しても以前の交友関係を断ち切らなければ、また罪を犯してしまうのではないかと不安にかられていました。

「仕事面にしろ、交友関係にしろ、環境にしろ、不安しかなかった。悪循環の流れにいて、元の関係に戻って、同じことを繰り返して、懲役に戻っての繰り返しは分かっていた。どこかでブレーキかけて、その方向性を変えないといけない」(末吉さん)

出所した人のうち、5年以内に再犯して刑務所に戻る人はおよそ4割にもなります。出所者の働き先が見つかりにくいことが、再犯をする原因のひとつとされています。金銭的にも苦しくなり、生きるために再び犯罪に手を染める人も少なくありません。

刑務所ではさまざまな資格の取得を推奨し、企業説明会なども開いています。しかし、こうした就労支援を受けた受刑者のうち、出所前に就職が決まる人は3割もいません。受刑者の就労支援に詳しい龍谷大学教授の浜井浩一さんは、就労による居場所の確保が再犯を防ぐいちばんの方法だと語ります。

画像

龍谷大学教授 浜井浩一さん

「刑務所を出たあと、人生をちゃんと生きていく道筋が立たなければ再犯を防ぐことはできない。そのために必要なのが『居場所と出番』ということ。ここは自分がいてもいい場所なんだと、ここに自分は受け入れられているんだと。出番、ここでは自分は必要とされている。自分は役に立つ存在なんだと思えること。そういう場所が必要です。そういう意味で、就労はいちばん大きな役割になると思いますね」(浜井さん)

受刑者にとっての新たな希望「Chance!!」

末吉さんの出所を待ち望んでいた人がいます。受刑者の就労支援を行う三宅晶子さんです。三宅さんは服役中の末吉さんに手紙を出し、2年間にわたって励まし続けてきました。

画像

三宅さんが末吉さんに送った手紙

「他人と過去は変えられない。変えられるのは、自分と未来だけ」
「一生、シャバと刑務所を往復して死ぬのか。選ぶのは優一くんだよ」
(手紙の文面より)

末吉さんにとって三宅さんは「マザー」と呼ぶ存在です。

「期待に応えるしかないなって思って。もしも、三宅さんがいなかったら、ここにもいない」(末吉さん)

末吉さんの就職を後押ししたのも三宅さんでした。全国の刑務所や少年院に無料で配布されている受刑者専用の求人誌『Chance!!』は、三宅さんが作っています。誌面には「仕事内容」はもちろん、「採用が難しい罪状」など、ほかでは得られない具体的な情報が満載です。さらに、代表者からのメッセージや仕事場の写真など、働くイメージが湧きやすい作りになっています。

末吉さんは『Chance!!』を読み、星山さんのメッセージに惹かれたと言います。そのメッセージは「どんな未来にしたいですか?目を閉じて、何分かけても良いのでイメージしてください。イメージを現実にできるように私たちがお手伝いします」というものです。

画像

『Chance!!』に載った星山さんのメッセージ

「最初これを見たときは、将来の夢もクソもなくて。『自分がこうやりたい、やってみたい』と話せばアドバイスをくれると勝手に解釈して、だったらやってみたいな。挑戦してみたいなというのがありました」(末吉さん)

末吉さんの背中を押す三宅さんは、これからも引き続き周りの人を頼りにしてほしいと語ります。

画像

三宅晶子さん

「せっかくこんなに面倒見のいい社長のところに入ったから、誰かに困っていること、ヘルプをだして。言えなかったら私でもいいし。とにかくいっぱい助けを求めてください。本当にお帰りなさい」(三宅さん)

成長するために必要なのは仲間の支え

末吉さんは働き始めてから2週間、先輩のもとでひたすら資材運びの毎日です。一人前になり、足場組みを任されるまでには1年以上かかります。

画像

資材を運ぶ末吉さん

この会社では、これまで10人の出所者を雇用してきましたが7人が退社。なかには重労働に耐えられず、誰にも連絡せずに辞めてしまった人もいます。

どうすれば長く働いてもらえるのか、代表の星山さんは社員たちを集めて月に一度話し合いを行ってきました。そして、ベテラン社員の江口淳さんが現在の課題を指摘します。

「受け入れの体制が全然整っていないと思う。(新人が)来たら『忙しいところに』と、ただの人材要員みたいになってはだめ。教えていく姿勢を見せないと、やる気もなくなってしまうと思う」(江口さん)

末吉さんも話し合いに参加し、率直な意見を言います。

「ぶっちゃけな感想で言うと、見習いとか未経験者からしたら、大野さんとか、江口さんとかの班が最初やりやすいのではないか。(資材の)配り方とかも教えながらできるというのもあるし、飲み込みやすい」(末吉さん)

星山さんは新人の面倒を見る体制が必要だと考え、末吉さんを希望通りに江口さんの班に入れました。江口さんの指導で末吉さんはいつもの資材運びだけではなく、一通りの組み立て作業を経験することができました。

「分かりやすく説明してくれる。ダメなものはダメで、良いものは良いと言ってくれるから、飲み込みやすいですね」(末吉さん)

末吉さんが作業することで、普段よりも倍の時間がかかりました。しかし、江口さんは経験を積ませることが大切だと考えます。

画像

江口淳さん

「いつまでも、下で(資材運びばかり)させていると嫌かなと思って。ちょっとでも早く覚えてもらえたらと思って。頑張ろうとしている人は信じてあげたいし、応援してあげたい。早く一人前になってもらわないと、俺も歳なので。頑張ってほしいです」(江口さん)

居場所があれば人生を再出発できる

休日、会社でバーベキューが行われ、サプライズがありました。この日、27歳の誕生日を迎えた末吉さんへのお祝いです。末吉さんが感謝を込めて、これからの抱負を同僚たちに述べます。

画像

社内でのバーベキューの様子

「健康第一で、一日も早く仕事を覚えてみんなの力になれるように頑張ります!」(末吉さん)

続けて、求人誌『Chance!!』の三宅さんに電話をかけ、感謝の気持ちを伝えます。

画像

三宅さんに電話をかける末吉さん

「三宅さんの一言一言がなかったら、今の自分はないと思う、マジで。落ち着いたら、2人でも良いし、ご飯行きましょう。その分稼ぐので、俺。第二の母ちゃんですよ、三宅さんはもう。本当にありがとうございます」(末吉さん)

最後に、末吉さんが現在の率直な気持ちを語ってくれました。

「いいね。楽しい。幸せだね。こんなクズな俺を拾ってくれたからね。みんな頼れるから。みんな気にかけてくれるし。安心できる場所かな。家族みたいな感じだから、なんか落ち着く場所みたいな。居場所が見つけられる感じかな。とにかく一日一日を大事にすることだね。ぶれずに、前向きに、まっすぐ。生きるためだね」(末吉さん)

星山さんも今後の末吉さんに期待しています。

画像

星山さん

「あいつは多分残るよ。親方になってほしいね。人に仕事を教えることで、仕事を楽しんでほしい。お金を稼いで、大事な人を見つけて、大事な人に生活を与えるというか。幸せ過ぎちゃって、もう変なことをする必要もない、そんなことをする理由がない人生を歩んでほしい」(星山さん)

家族のように受け入れてくれた職場で居場所を見つけた末吉さん。新しい人生の日々は続いていきます。

※この記事はハートネットTV 2020年9月14日(月曜)放送「人生の再出発~ある出所者の日々~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事