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自宅で生活する障害者のための感染予防のポイントと心構え

記事公開日:2020年06月11日

新型コロナウイルスの感染が広がる中、5月に緊急事態宣言は解除されましたが、重症化の可能性がある基礎疾患や障害がある人にとっては、まだまだ気が抜けない状況が続いています。特に在宅でヘルパーの介助を受けて暮らす障害のある人にとっては、密着が避けられないこともあり、感染のリスクをどう減らせるかが大きな課題です。今回の記事では、自宅ではどんな対策や心構えが必要なのか、神奈川県で暮らすある障害のある女性から、実際に行っている対策を教えてもらいながら、考えていきます。

自宅で生活することの不安

新型コロナウイルスの感染の広がりは、障害のある人の暮らしにも大きな影響を及ぼしています。多くの障害者がともに暮らす入所施設では、各地で集団感染・クラスターが発生し、その感染対策の困難さが浮き彫りになりました。一方で、自宅で生活する障害のある人たちも、さまざまな困難にぶつかりながら暮らしています。
神奈川県で暮らす、コラムニストの伊是名夏子さんです。全身の骨が弱く折れやすい「骨形成不全症」という難病のため、電動車いすを利用して暮らしています。家の中では、普段は約15人のヘルパーが入れ替わりで自宅を訪れ、生活を支えています。

伊是名さんが感染への不安を感じ始めたのは、3月の終わり頃のことだといいます。ヘルパーの支えは必要不可欠ですが、外から来る複数のヘルパーが自宅に出入りするため、感染のリスクが避けられません。さらに、多くの介助は体を密着させながら行うため、身体接触によるリスクを避けることもできません。

「障害特性で肺の機能が弱い私は、感染した時に重症化する可能性が高いです。また、障害のある私が医療機関できちんと適切な治療を受けさせてもらえるか、という危機感もあります。」(伊是名さん)

わが家の感染対策(1)ヘルパーが家を訪れたとき

そこで伊是名さんは、企業でコロナウイルス対策を担当している友人の産業医に相談し、自宅でできる感染対策を徹底的に行うことにしました。

全部で30項目にも及ぶ感染対策のポイントを整理した伊是名さん。「ヘルパーが家を訪れたとき」「家の中での行動」「外出するとき」という生活のそれぞれの場面に合わせて、そのポイントをご紹介します。

まずは、ヘルパーが家を訪れたとき。伊是名さんの自宅には、1日に3人、交代で早朝と夜にヘルパーがやってきます。中には遠方から公共交通機関を利用して介助にやってくるヘルパーも。ヘルパーが訪問した際に、外から家にウイルスを持ち込まないことが、大きな課題となります。

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ヘルパーはまず、玄関で私物の携帯などを消毒。訪問後すぐの対応が重要

わが家の感染対策「ヘルパーが家にやってきたとき」

  1. 玄関のタイルの上をレッドゾーンにする。
  2. アルコールスプレーで手とメガネを除菌する。
  3. 基本、外から持ってきたものはレッドゾーンに置くようにし、部屋には持ち込まない。
    持ち込むときは消毒する。
  4. かばん(荷物)を袋に入れ、玄関に置く。
  5. 手紙の封筒、ポリ袋、商品の袋、食材などは、全部開けて、中身を詰め替えて、袋はレッドゾーンで捨てる。
  6. コートを玄関のドアにかける。
  7. 玄関で服を脱いで、服をポリ袋、もしくは持参の袋に入れる。
  8. 新しい服をカバンから取り出し、着替えをする。
  9. 携帯など家の中に入れるものを、除菌シートで消毒。
  10. マスクを玄関のゴミ箱に捨てる。
  11. 洗面台で手を2回洗い、うがい。顔も洗うとなおよい。
  12. 新しいマスクに変える。
  13. 1日1回、レッドゾーンと、廊下などの床を、拭く。

伊是名さんが行った感染予防のポイントは、「ゾーニング」です。自宅の玄関を、「レッドゾーン」と定めて、外から持ち込まれるウイルスに汚染されている可能性のあるものは、すべて玄関から出さないように徹底するのです。

訪問したヘルパーは、玄関で、ウイルスが付着している可能性がある衣類を脱いでポリ袋などにしまい、別の服に着替えます。バッグなどの持ち物はその場に置き、奥には持ち込まないようにしています。もちろん手洗いも念入りに行います。携帯電話など、家の中に持ち込む必要のあるものは、除菌シートで消毒します。

区域をきちんと仕分けることで、部屋の中を清潔な「クリーンゾーン」に保てるよう、工夫しているのです。

わが家の感染対策(2)家の中での行動

外からのウイルス侵入への対策を徹底した後、家の中で過ごす際にも、気を抜くことなく予防対策を講じています。

わが家の感染対策「家の中での行動」

  1. 手洗いをこまめにする。よく乾かす。できる時は、ハンドクリームで保湿もするといい。
  2. タオルは自分用を使い、うがいのコップは洗って使う。
  3. 目、鼻、口をさわらない。マスクやメガネ(伊達メガネやサングラス)を使うことも効果的。
  4. 換気をこまめにする。
  5. トイレ使う前と、使った後に、便座にトイレのスプレーをかけ、ティッシュで拭く。
  6. トイレを流す時、ふたを閉めてから水を流す。
  7. 水をこまめに飲む。
  8. 夕食は時間をずらして、それぞれ食べる。
  9. なるべく生野菜は食べない。
  10. 食器の中身を入れる部分(お椀の内側など)は、お箸やスプーンは洗った後、なるべく手を付けない。コップの淵、口を付ける部分も同じく、なるべくさわらない。
  11. パンやおにぎり、お菓子も、素手では食べず、お箸で食べる。
  12. キッチンで料理をお皿にとりわけて、食べる分だけをテーブルに出す。
  13. 1日2回、手袋をして、除菌スプレーと雑巾で、 キッチン→リビング→各部屋→洗面台→トイレ→玄関の順に除菌する。冷蔵庫の取っ手、キッチンの引き出しの取っ手、電気のスイッチ等、触る回数が多い部分に気を付ける。(一番汚い玄関は最後に行う)

これらの対策を自宅で行っていくうえで、伊是名さんは特に気を付けたポイントがあるといいます。それは、実際に生活してみながら、ルールを柔軟に修正していくこと。例えば伊是名さんには、2人のお子さんがいますが、感染対策の意味を理解してもらうことが最初は難しかったそうです。

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子どもたちが、感染対策を理解できるよう工夫した張り紙。時間をかけて手を洗えるよう、洗っている間に歌う歌のタイトルを書いて壁に貼っている

そこで伊是名さんは、ヘルパー向けの対策とは別に、子どもが楽しんで取り組めるようなレクリエーションを組み込んだ方法を考えました。手を洗う際に、十分時間をかけられるよう、洗いながら歌える歌の一覧を壁に貼ったのも、そのひとつです。
こうして、実際に対策を行ってみて感じたポイントを2度3度と微調整し、現在の感染対策が出来上がりました。

障害がある人の場合、その人にあった生活のスタイルを変えることが特に難しい場合もあります。伊是名さんは、生活の実情に合わせて工夫しながら感染対策を行っていくことが大切だといいます。

わが家の感染対策(3)外出するとき

伊是名さんは、外出することも感染リスクを高めてしまうため、宅配などを利用することで、できるだけ外出の機会を減らすようにこころがけています。しかし、全く出かけないわけにはいきません。

わが家の感染対策「外出するとき」

  1. 車いすは洗えないので、車いすにタオルを敷いて、その上に座り外出。
  2. 車いすは家に入れず、玄関の外に置く。
  3. スーパーに行く回数もなるべく減らし、滞在も短時間にするため、行く前に買うものをリストアップ。1回あたりの買う量を増やして、行く回数を減らす。
  4. 外から帰ってきたら、できるだけすぐにお風呂に入る。

外出をする場合、ポイントとなるのは車いすです。
伊是名さんは、外出するときには電動車いすを使用していますが、その車いすがウイルスを媒介する可能性もあります。これまでは自宅の中に入れていた電動車いすを玄関の外に置くようにしました。

また、電動車いすは洗浄することができません。直接シートに座るのではなく、タオルを敷いて座り、タオルを外出の度に取り替えています。そうすることでウイルスの付着をできるだけおさえています。

コロナ禍で気づいたヘルパーとの関係性

生活のそれぞれの場面に即して定められた、綿密な感染対策のルール。しかし、伊是名さんはこのほとんどを欠かすことなく行っているといいます。

「はじめに医師から対策を聞いたときや、実際にやってみたときにはかなり労力を感じました。でも2週間も続ければ慣れてしまいましたし、なによりきちんと対策をしていることの安心を感じられるようになりました」(伊是名さん)

画像(ご自宅で2人のお子さんと過ごす伊是名さん)

また今回の感染対策に加えて、特に伊是名さんがやっておいてよかったと感じたことがあります。それは普段からのヘルパーとの関係性のことです。

「普段から『私はこうしたい』ということを率直に伝えるようにしていました」

ヘルパーと話し合いができる関係を築けていたことで、感染が拡大し始めたときにも、しっかりとコミュニケーションをとりながらルールを決めることができたといいます。ヘルパーの仕事以外に、飲食店でも働いているという人には、飲食店で働いたときは1週間あけてからヘルパーに入ってほしいとお願いしてシフトを調整しました。逆に、この状況の中で介助に来たいか来たくないかをヘルパーにたずね、その意思を尊重したといいます。さらに、すこしでもヘルパーの体調が悪いときは、ドタキャンでもいいので、休んでほしいと伝えています。現在は接触人数を減らすため、また感染に不安が強いヘルパーに配慮をするため、普段は15人でまわしているヘルパーのシフトを、10人に減らして生活をしています。

伊是名さんは、感染の第2波が広がる可能性もあるほか、お子さんの学校の再開されることで今後も感染リスクに備える必要があると考え、しばらくはこういった対策を続けていく予定とのことです。

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