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統合失調症の困りごと・お悩み 支援者からのアドバイス
後編 プライベートな人間関係

記事公開日:2020年05月29日

生きづらさを抱える誰かに対して、さりげなく味方でいられる人=「アライさん」をみんなで目指す「#隣のアライさん」プロジェクト。第1回のテーマは統合失調症です。「みんなの声~統合失調症 お悩み・知ってほしいこと~」に届いた77人の当事者や家族の声。ソーシャルワーカーの加藤真規子さんが、後編では家族との関係や性機能障害など、プライベートな生活圏の悩みに向き合います。

画像(加藤真規子さん)加藤真規子さん ソーシャルワーカー
自身もうつ病とひきこもりを経験し、いわゆる“社会的入院”の問題に先駆的に取り組んできた。精神疾患のある人たちが働くカフェや、グループホームを運営。

最も密に接する相手 家族との関係を考える

つらい
姉が統合失調症です。
もう10年になりますが、2年ほど前からひどくなり実家では暴れ、近所で大きな声で叫びながら徘徊し、しまいには母の腕をずっと掴みトイレにもいかせてくれない状況でした。その後入院しましたが、また再発し母の仕事場に何十回も電話し、私の仕事中にも電話の嵐。母も私も精神的に追い詰められてます。理解はしてるつもりですが、やはり限界はあります。こんな生活が続くと思うとこれからが不安でたまりません。

―周囲の人のなかでも家族は特に、密に接するだけに、対応が慢性的に続くという苦しさが生まれがちなのかもしれないと感じました。

加藤:そのとおりだと思いますね。この方は妹さんなのでしょうかね、自分の生活、自分の人生を、まずは大事にしてほしいと思います。理解しなきゃいけない、ケアしなきゃいけない、私を置いてでもっていうのがあると、苦しいでしょうね。お母さんだって、このお仕事が生きがいなのかもしれないし、もしかしたらお母さんがこの仕事に行かないと、ここのおうちは成り立たないのかもしれませんよね。そのことを病気のお姉さんにも、1回言って分かるわけではないだろうけれど、何べんも言う。できたらば、このお姉さんの関係者、例えばお医者さんだとかそういう人たちも、暮らしまで理解してくれる方たちだったらいいですよね。

―ご本人に言う、というのは、どういうふうに言えばいいのでしょうか。

加藤:「私」を主語にして話し合うことですね。「私は困る」。「私はこういうことをされたら、ここで働けなくなる」っていうことです。例えば、お母さんの仕事場に何十回も電話するということがありましたけど、これは我慢するほうが良いということではなくて、どこかで止めないと、お姉さんも気の毒な気がします。というのは、本当に人間関係を築いていけなくなってしまうからです。はっきり嫌だと伝えてもらうことで、かえって楽になるということがあると思いますね。例えば、電話をかけてくるのは2回までにしてほしい、という提案もあるかと思います。それで回数が増えてきたら、調子が悪いんだなっていう目安にもなりますね。

―家族との関係については、ポジティブなエピソードも届いていました。

今の生活
私は当初、パニック障害・慢性気分変調症などと診断されましたが、今の病院に変わり診断されたのが、統合失調症・ADHDの傾向ありでした。
今は、作業所併設のグループホームで暮らしています。
収入は以前よりかなり減りましたが、生活が充実しています。
入所以前は両親、妹と生活していましたが、言い争いがかなりありました。
今思えば、物理的距離を置いたのが正解でした。
お盆、年末年始に帰省しますがよい関係を築けています。
もう暫くこの施設のお世話になりたいと思います。
hiroto / 福岡県 / 男性 / 40代 / 当事者

―物理的な距離を置くことには、どんな良さがあるのでしょうか。

加藤:私が知るなかでは、やっぱり家族が懐かしい、家族のところへ帰りたいという方がたくさんおられて、なかなかhirotoさんのようになるまでには時間が大変かかると思いますが、この方は、気楽になられたんじゃないでしょうか。それまでは両親にいつも、もしかしたら面倒をかけちゃっているなっていう思いをお持ちだったかもしれないし。妹さんと生活していても、妹さんはお兄ちゃんを決してばかになんかしていなかったかもしれないけれども、妹さんと自分を比べて、「自分はお兄ちゃんなのに何もできてない」とか、思っていたかもしれませんよね。言い争いはかなりありましたってありますもんね。この言い争いからも解放されたんだから、良かったですよね。

距離を置いてみることで、お母さんの方も、自分のことを大切にしやすくなったということもあるかもしれません。私の話になりますが、母が私の病気で医師に相談したとき、医師は「娘さんのことばっかりに取り組んじゃだめだよ。真規子さんがいちばん嫌なのは、元気になったときに、あの子がいたからうちはだめになったとかって言われることなんだから。お母さんはお母さんのやりたいことをやんなさいよ」っていうふうに、本当に言ってくれたわけです。それで母はお習字を再開したり、本を読む会に入ってみたり、縁日に欠かさず行くようになったりしまして、そうしたら私にとっても、本当に家の雰囲気がよくなりましたね。ですから、お母さんはお母さんの人生をきちんと大事にすることが、結局は患者さんを助けることになるよっていうのは、私、本当にそうだと思います。

―それほど大きな効果があるんですね。

加藤:ただ、それを行き当たりばったりではなくて、本当にそれが患者さんの病にとっても役に立つんだっていうことが納得できていれば、お互いにとてもいいと思います。納得できていないと、「厄介払い」のような責める雰囲気になってしまって、それは患者さんを傷つけるでしょうね。

―投稿者のhirotoさんのようにグループホームに入ることは、ハードルが高いという方もいるかもしれません。短期的に、距離をとれるような方法はあるのでしょうか。

加藤:1日単位で利用できるのは、デイサービスや、ナイトケアというものがあります。それから、地域活動支援センターというものもあって、これはまさしく、居場所と、相談と、若干のグループ活動というもので、利用しておられる方は多いです。これくらいのものであれば、全国にたくさんあります。

男女ともに起こりうる性機能障害

統失になると女性も性機能障害に
40代当事者の女性です。よく、統失の薬を飲むと性欲がわかないとか言いますけれど、この問題は本当に深刻なんです。男性は「勃起障害」「射精困難」と、かなり具体的に悩みについてアンケートなどをされていますが、女性だとほとんど取りざたされない。女性だって人間ですから、性欲はあるし、性機能に障害があれば、男性と同じように悩むんです。私もオーガズム障害、不感症になり、とてもいいづらかったけれど、担当医である初老の男性医師に相談して、今は保険のきかない漢方薬と、薬の飲み方を工夫することで何とかしています。悩んでいる女性、勇気を出して声を上げましょう。男性にとってそうであるように、女性にとっても性は、自分の根本と切り離せない大事なものです。セルフプレジャーが「自分の強烈な自己肯定感を与えてくれる、唯一の行為」と、悲しみで張り裂けそうな叫びをあげた女の子もいました。あなたにならできるから、頑張って。
みっつ / 東京都 / 女性 / 40代 / 当事者

―性機能障害は、実際のところ、どのように皆さん悩まれているのでしょうか。

加藤:抗精神病薬のなかには、男女に関わらず、副作用として性機能が減退する可能性があるものがあります。とっても大好きな人と、裸になって、あったかくくっついてるっていう感じ、抱かれている感じって、男の人でも女の人でも、やっぱり幸せじゃないですか。違うかな。そういう欲求があれば、結婚するかどうかは別にして、恋人とか、そういう人と交わりは持ちやすくなるでしょうね。ですから、今パートナーがいない方でも、そういう意欲や気持ちがないと、悩みになると思います。自信にも関係してきます。「相手を私は喜ばせることができるんだ」っていうのって、大きいんじゃないでしょうか。「寒いと具合悪い」という言葉を投稿してくださった方がいましたが、それと似ているような気がします。自分もあたためてあげることができる、あったまることができる。そういうのが自分にはないんだと思えば、自信が喪失しちゃうから。

それからこの方は、自分でする場合について書いていらっしゃいますね。それがなくなってしまうのも、悩みになりますよね。この方、自分で自分を楽しませる方法だってあるじゃないって、そこまで正直になるって、すごくかっこいいことですよ。

―この方が書かれているように、主治医には相談しづらいと思いますが…。

加藤:何でも主治医に相談するのがいいのかな。同性なら何でも言えるかっていうと、そういうものでもない相談内容ですよね。例えば主治医に相談しづらいときは、主治医じゃない方で私はいいように思います。お友達、身の回りにいる方に相談をなさるっていうのもすごくいい。人間関係の命綱が、医師ひとりしかいないなんて、それこそ寂しいんじゃないかな。自分よりも年下だろうが、年上だろうが、「ねえねえ」って言える相手がいるかもしれないですから、ご自分の生活をもう1回、振り返る価値はあると思いますよ。そういうなかで、主治医の方にも話せる気持ちが生まれれば。この方、最終的にはお医者さんに相談できて、そのお医者さんも親身になって聞いてくれてたんですね。よかった。

―薬の悩みは、性機能障害のほかにもいろいろあると思います。アドバイスはありますか。

加藤:舌が回らないとか、頭が回らないとか、いろいろな悩みがありますよね。これに対してのアドバイスはですね、ちょっと厳しいですけれども…薬をお飲みになっている人は患者さんです。でも、もう一人、薬を出している人っていうのがいますよね、お医者さんです。お医者さんと患者さんが、きちんとそれについて吟味できることが必要ですね。話し合うことがね。かなり多くの患者さんが、これを迂闊に思っていらして、「薬を飲む自分が選ぶべき唯一の当事者であって、薬を出しているお医者さんなんてどうでもいいんだ」って思ってらっしゃる方がいます。

概ねの方は2週間に1回通院されていると思いますから、ここが気に入らない、あそこがおかしいっていうことも伝えられるといいし、どうしても伝えられなかったら、それこそ作文にしていくとかね。誰かに手伝ってもらってお手紙にしていくとかね。スマホにメモしていって、それを見せるというのも本当にいいと思います。とにかく薬を出している人と飲んでいる人が、それこそ向かい合わないと危険だと思います。やりとりを大切にするということです。やりとりが怖いと思うときは、誰かに一緒に行ってもらえるといいですね。例えば作業所の指導員でもいいし、グループホームの世話人でもいいし、場合によったら家族だっていいかもしれない。「横から見ていてもちょっと大変かなっていうふうに見えるんです」のようなことを言えば、お医者さんだって、患者さんから頭ごなしに「あんたはだめだ」なんて言われるよりもずっといいと思いますね。同席を断られることはないと思いますが、ゆっくり話を聞いてもらうために、予約は必要だと思います。

子育て中に発症したら…

育児中に発症
息子4歳、育児中に発症しました。保育園に任せきり、とにかく休んでいないと辛いので息子の相手がまともにできていません。
夫は仕事が忙しく、田舎の両親は理解がなく、周囲に頼れる人もいません。
将来の息子の情緒等にも問題が発生するのではないか、なんのために生きているのか、このまま死んだほうが楽なんじゃないのか、考えが止まらない毎日です。
かなし / 東京都 / 女性 / 30代 / 本人

―自分の症状と付き合いながら子育ても…と思うと、その大変さは計り知れません。しかもこの方のように、周囲に頼れる人がいないと、ますます苦しいですね。

加藤:どうしたらいいでしょうね…。保育園に任せている自分を責めていらっしゃる感じもしましたが、甘えられるということは、信頼しているということだと思います。保育園をそれだけ信頼している、当てにしているっていうことは、いいことですよね。平凡ですけれども、そういう人たちにご相談ができるようになるといいですね。私が出会ったなかにも、子育てされている方がいますが、「もうちょっとしっかりしなさい」と思われてしまいそうであっても、ご本人は、本当に精一杯やっているんだと思います。だから…いっぱい褒めてあげたい気持ちがします。例えそれがウェブの言葉ではあってもね、ちゃんと認めるというか、そのくらいしかできないけれど。

また、例えば主治医の方などは、この方を認めていらっしゃるんじゃないでしょうか。「あなたも大変だよね、よくやっているね」っていうぐらいのことは、おっしゃっているんじゃないでしょうか。もし、お医者さんに安心できないのであれば、お医者さんを替えるということはしてもいいと思います。それとね、本当に田舎の両親は理解がないだけなのか?夫は本当に、仕事が忙しくて省みてくれないのか?その人間関係のなかに、もっと何か、苦しいものがあるんじゃないでしょうか。「私は今のままで尊い」という確信が、人間の命の根源だと私は思っています。どういう子育てをすべきかよりも、今のままの自分への安心を確保していく方が大事だと思いますね。

今の自分に安心できるような人間関係が、誰にもあってほしいと感じました。声を寄せてくださった77人の皆さん、ありがとうございました!

統合失調症の困りごと・お悩み 支援者からのアドバイス
(前編)症状/仕事と将来/支援サービス
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※この記事はハートネットTV 2020年4月22日放送「#隣のアライさん これだけは知ってほしい!統合失調症のこと」の取材を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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