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これだけは知ってほしい!統合失調症の悩み・困りごと(後編)不安 社会に向けて

記事公開日:2020年05月18日

ハートネットTVで実施した、統合失調症についてのアンケート。当事者が周囲の人に「これだけは知ってほしい!」というお悩みやお困りごとについて聞きました。245人のみなさんが寄せてくださった回答結果を、アンケートを監修した精神科医の高木俊介さんに見ていただきました。後編は、「病気になったことで不安なこと」「周囲に『知ってほしいこと』」です。

画像(高木俊介さん)高木俊介さん 精神科医
臨床のかたわら、地域での暮らしの支援を行う多職種チームACT-Kを立ち上げ、医療と福祉の垣根を超えた活動で当事者との関わりを続けてきた。

病気になったことで不安なこと

【3】あなた(当事者)が病気になったことで不安なことは何ですか?最大3つまでチェックを入れてください

画像(グラフ 病気になったことで不安なこと)

1位「仕事ができない」が、189人と他の選択肢よりも突出した結果となりました。また、2位はどちらも95人が選択した「結婚・離婚・出産」、「恋人ができない」でした。自由記述も見てみましょう。

●「仕事ができない」に関する記述

「仕事にはつきたいのですが、なかなか採用してもらえず(統合失調症だからというわけじゃないかもしれませんが)クローズで働くしかなく、精神的につらい状況でもなかなか言えずしんどい思いをすることがあります」(ねむしん/30代)

「就労移行支援や生活訓練などの制度を使った事がありますが、どれも自分に合わずつらくなってしまいました。この先仕事につけるか凄く不安で困っています」(りーあ/20代)

「まともな仕事が出来ないのが苦痛。寛解していた時期に、事務系・IT系の仕事を5~6年していたことがあり、それを過去の栄光のように思ってしまって、作業所の仕事にやりがいを感じないし、申し訳ないが、低レベル・価値の無い仕事だと感じてしまう。自分の能力はこんなものではないのに、といったおごり高ぶった感情がある」(のりだー/40代)

「仕事の期間に終わりがないと思うと不安になってしまうので、短期のアルバイトしかできない」(うずまき/30代)

「仕事がなかなか定着しません。僕の睡眠の理想は7~8時間ですが、フルタイムで働くととれなくなります。睡眠がとれなくなってから、休職、復職、時短勤務を繰り返しました」(さーくん/30代)

「B型事業所で1日2時間、週3日働いていますが、長時間の勤務が難しく、工賃も安いので将来の展望が立ちません」(のりくん/30代)

「病状が安定しているので、働いてもいいよと主治医から言われていますが、クローズで働くことは怖くてできません。障がい者雇用で探していますが、なかなか見つからない」(みわりん/40代)

●「結婚・離婚・出産」/「恋人ができない」に関する記述

「婚活していますが、健常者の方と会うと、障害のことをいつ打ち明けようかとても悩みます。結婚も出産もしたいと思っていますが、飲んでいる薬の副作用もあり、病状もあり、とても不安で押しつぶされそうです」(るめあ/20代)

「同年代の家族連れを近所で見かけるとうらやましいが、自分の病気の面倒を自分で見るのに必死で、恋愛したくてもそれどころではない。副作用の高プロラクチン血症のため、二十代のころから不妊状態が続き、子育てに向かない疾病なので、恋愛や結婚をあきらめざるを得なかった」(なーな/40代)

「自分としては、恋人を作ることは心のどこかで諦め始めました。諦めた方が健康的なのではないかと、思い始めています。結婚や家庭を持つことも、また同じように諦めつつあります。低所得に加え、周囲に迷惑がかかると想像してしまいます」(たちつて/30代)

―この結果、高木さんはどうご覧になりましたか。

高木:「仕事ができない」ことの不安が大きいのに驚きます。驚いてはいけないので、社会に生きる人間にとって仕事がいかに大切なことなのかを思い知らされます。今の社会で「仕事」というのは、自分が人からどう評価されるのかということですから、仕事ができないという不安は、自分が周りの人たちから承認されていないという不安だと言い換えることができるかもしれません。「あなたは今のままでここにいていいのだよ」というまなざしを得ることができない、という不安です。

この「まわりから承認されている」という感覚は、ほんとうに人が生きていくうえでとても大切な感覚です。ですから、仕事につくということも、障害をもった人の人生をよくすることとして、周りも最大限の努力をしなければなりません。同時に、仕事も社会の考え方や歴史によってずいぶんと変わってきています。そのために、ほんとうは大切な仕事であるのに、価値のない仕事についていると感じて苦しんでいる人がたくさんいます。

障害をもっている人たちの仕事についても、その障害の特性にあって、心の病気の場合であれば病気の再発を招かないような仕事や働き方を、もっと社会の側がつくって提供していく必要があります。そのような考え方も少しずつですが、社会に広がってきています。当事者のみなさんも周囲と話し合いながら、どのような仕事なら、働き方なら、自分の自尊心を大切にしながら続けていけるのかということを自分たちで理解し、訴えていってください。

―もうひとつ大きな悩みが、結婚や恋人のことですね。

高木:これはほんとうに切実な思いでしょう。自由記述を読むと、「諦めた」という言葉が多く出てきて、胸が痛みます。どれだけ長い間、人知れず悩み続けたことでしょうか。以前は精神障害に限らず、障害をもった人が恋愛や結婚なんて、という風潮が世間一般にありましたから、性に関する悩みはたとえ恋人や結婚に対する憧れであっても口にするのははばかられていました。最近になって、ようやく世間に対して言えるようになってきた(古くて)「新しい悩み」なのです。答えや慰めにはならないかもしれませんが、「一緒に悩みましょう」と伝えたいです。

周囲に「知ってほしいこと」

アンケートの一番最後に、自由記述のみで社会(周りの人たち)に対して「知ってほしいこと」を伺いました。

画像(グラフ 病気になったことで不安なこと)

【4】あなた(当事者)が、周りの人に「知ってほしいこと」を教えてください

「統合失調症は特別な病気ではなく、誰が発症してもおかしくない病気です。差別や偏見を無くすために病気の正しい理解と教育が社会に向けて必要と切実に感じています」(ウッドストックちゃん/30代)

「いきなり精神の病気という固定観念で判断するのではなく、現在は非常に良い薬も上市されていて、ほぼ健常者と変わらない人たちもいるという状況にも目を向け、もう少し寛容な心で配慮してほしい」(やっちゃん/50代)

「病名を聞いて避けるのではなく、想像してほしいです。もし、自分や近しい人がこの病気になったらと。どんな対応をするでしょうか?100人に1人がなる病気です。病気ではなくその人そのものを見てください」(クウ/20代)

「"診断名をひとつとっても、困りごとは様々で一般化は難しいと思っています。精神障害のことをわかってほしい、けどなかなか一言でいえないところもあるということをまずは『知っていてほしい』と思います。偏見や差別はよくないと頭ではわかっていても、という人も多いと思います。当事者との交流の経験が大事だと思います。たとえば、地域の福祉イベントなどを通じて、当事者との出会いが理解促進につながればと思います。それを応援する取り組みが必要だと思います」(ヤマダ/30代)

「実は心の病の人は身近にいて、本人が打ち明けられないでいるだけかもしれないということ。脳の疾患なので偏見を持たないでほしいということ」(うずまき/30代)

「"障害者である以前に、私たちは『同じ人間である』という事実をきちんと認識していてほしい。
いま健常者でも、明日何かがあって、あなたやあなたの大事な人が障害を持つかも知れない。私の生き方は私や家族にとってはかなりタイヘンだけれど、『かわいそうな存在』ではない。障害を持って生きることこそ、覚悟の上。これでも自分に誇りを持って生きています」(なーな/40代)

「一言で統合失調症と言っても、症状の出方は一人一人違うので、病名で人を判断しないで欲しい。病名でこの対応がよいとするよりも、人として対応したほうが、私たちも安心して接することができます」(フク/30代)

―皆さんが求めていることのなかには、「病気よりも人間性をみてほしい」という思いが共通しているように感じました。

高木:「当事者との交流の経験が大事」「病気ではなくその人そのものを見て」「実は心の病の人は身近に」「障害を持って生きることこそ、覚悟の上」・・・コメントを付け加えるべきことは何もないでしょう。「病名でこの対応がよいとするよりも、人として対応したほうが、私たちも安心して接することができます」私が今回の考察で言いたかったことも、この一言に尽きます。ありがとうございます。

―では、アンケート全体を通して感じたことをお願いします。

高木:統合失調症という病気は、おそらく少しずつ違ういくつかの病気の集まりであり、そのために現れている症状は非常に多彩で、人それぞれに違いがあります。全体としては100人にひとりというように、とても普通にありふれた病気なのですが、その症状の幅広さのためになかなか理解されにくい面があります。また、教科書に書かれているような症状は、周囲の人だけでなく、本人にとっても自分たちが実感している苦痛、しんどさ、困り事とはかけ離れているように思われます。

アンケートに表れているように、本人が強く感じているのは、孤独や不安、病気への絶望感、周囲とうまく関係が結べないことの苦しさです。周囲の人たちにこのことがなかなか伝わらないのですが、うまく伝われば、統合失調症という病気はわけのわからない何かまったく常識からかけ離れたことではなく、人間が周囲との関係を絶たれたり、恐ろしい特別な体験をした時に感じることと同じだと理解できると思います。その特別に恐ろしい体験というのが、統合失調症の人たちにとっては突然襲いかかってきた幻覚や妄想という想像もしなかった世界です。しかし、それは大変なことのようでいて、実は脳の中のほんの一部分の不調(失調)が心の中で大きく膨らんだもので、残りの脳も心もまったく正常なのです。正常だから、大変な経験に苦しむのです。

―「一部分が不調で、大部分は正常」というのは、ハッとさせられました。「不調」の方にばかり、気をとられてしまっていました。

高木:脳の一部の失調は、脳というコンピューターのプログラムの小さなバグのようなものかもしれません。プログラムが大きく間違っていたらコンピューターは完全に動かなくなってしまいますが、小さなバグだとまったく正常に動いていたかと思うと急におかしな具合になったり暴走したり、あるいはとてもゆっくりしか動かなかったり、また急に正常に戻ったりします。このようなことが統合失調症の人の頭の中で起こっているのかもしれません。そして、同じようなことは、誰も完全な脳を持っている人はいないのですから、私たちも皆、どこかで少しずつ経験しているようなことばかりなのです。統合失調症の人の症状には、統合失調症の人にしかないような症状はなく、すべて他の病気でも現れることがあるようなものなのです。

何かとても恐ろしい体験をしてしまった人が、ひきこもったり自信をなくしたり、誰にも自分のことをわかってもらえないと感じているのと同じことが、統合失調症の人たちにとってもいちばん苦しんでいるところなのだと理解することが、まず彼らの助けになるための第一歩です。そして、その第一歩からできることは、彼らを同じ人として尊重すること、苦しいときにすぐに手をさしのべられるぐらいのところに寄り添っていることだと思います。

これだけは知ってほしい! 統合失調症の悩み・困りごと
(前編)症状 周囲との関係
(後編)不安 社会に向けて ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2020年4月22日放送「#隣のアライさん これだけは知ってほしい!統合失調症のこと」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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