大地震が起きて自宅などが被害にあった場合、より安全な場所への避難が必要になります。その際、障害のある人にとっては考えておかなければならないことがたくさんあります。車いすでの通行は大丈夫か、視覚や聴覚に障害があっても安全を確保できるか、避難所にたどり着いてからの生活が維持できるか・・・。「避難経路」と「避難所」での課題について見ていきます。
首都直下地震が発生した場合、障害のある人はどのように対応していくべきなのでしょうか。今回、NHK「体感・首都直下地震ウィーク」では、東京都23区を震源とする最大震度7の直下型地震が12月の平日午後4時4分に発生した場合を想定しています。
記事 「【特集】首都直下地震が起きたら(1)」「【特集】首都直下地震が起きたら(2)」では避難するかどうかの判断、そして避難すると決めた場合の備えまでを取り上げました。今回はその先、実際に避難するところから考えていきます。
まず、避難をするときに重要になるのが、避難経路です。障害のある人が通行するとき、どんなことに気をつければよいのでしょうか。
脳性まひで電動車いすを使用しているリポーター・千葉絵里菜が、地震が想定される午後4時過ぎに合わせて、居住地である東京都江戸川区の避難経路をチェックしてきました。
同行してくれたのは、障害者の災害支援が専門の北村弥生さん(国立障害者リハビリテーションセンター研究所)です。
「今日はあいにくの雨なんですけれども、実際地震はいつ来るかわからないので、こういう経験もいいかと思います」(北村さん)
避難所までの道のりを地図アプリで確認。さっそく出発します。
スタートして間もなく、北村さんから指摘が・・・。
北村さん「いま、ちょうどあそこに交差点があって、車も結構通っているので、災害のときって信号が消えちゃうときがあるんですね。ここの道を見たら信号がないので、ここを行ってみるというのもありますけど、どうでしょうか」
千葉「あっ!はい。じゃあ、それで行きます」
災害時は、ふだんと状況が変わるので、避難経路は複数考えておくのがいいそうです。
さらに移動していくと…
北村さん「あそこ、ちょっと大丈夫ですか?」
千葉「ここの建物、古いですね」
北村さん「そうですね。向こう側の白い建物も古い建物ですね」
北村さんが気になったポイントは…
北村さん「ここ瓦屋根なんですよ。瓦が落ちてきたりとか、この看板が落ちてきたりとかいうこともあるかもしれないので、こういうところ通るときには気をつけないといけないだろうなと思います」
古い建物や、落下物の恐れがある場所は避けたほうがいいそうです。
北村さん「ふだん道を歩くときに、ここ歩いていたときに地震があったら何が落ちてくるかな?そのときどんな格好でどこに逃げようかな?とかを考えるようにしたらいいですね」
地図アプリの指示にしたがい、やってきたのは遊歩道。
千葉「ここの道ほんとにでこぼこしてて。こっちが池なんですよね。おっかないですし、もう通りたくないです。すごい怖いですね、先生」
北村さん「ここは浸水してきて境目がなくなってくると、落ちても分からないですしね。それから、あそこのマンホールは、地震のあとは液状化現象でもっと持ち上がることもあるので。段差がもっと激しいこともありますから。こういう道をあらかじめ知っておくと、できるだけ通らないようにすることができます」
避難経路のチェックを終えた千葉リポーターの報告です。
「地図アプリをつい頼りにしてしまうんですが、災害時は何が起こるかわからないんだと教えられましたね。あと古い建物がたくさんあってちょっと驚きました。雨が降っていましたし、北村先生によると暗くなってからの避難は危険なこともあるので、状況を見て自宅に留まることも検討したほうがよいとのことでした」(千葉リポーター)
都内で1人暮らしをしていて、視覚障害(重度の弱視)がある吉本浩二さん。災害時、道にガレキが落ちているなど、ふだんと状況が変わってしまうことに不安を感じると話します。
「避難経路の確認とかはできてなくて。たとえば私は見えていないので、もしマンホールとか空いてたら、落ちてしまうんじゃないかって思いました」(吉本さん)
発達障害(ASD:自閉スペクトラム症)がある菊地啓子さんも、避難経路について不安を感じると言います。
「私自身は家のそばに開けているところがあったり、学校が近かったりするので、避難経路というのは考えてなかったんですけど、いま見ていると道路が持ち上がったりすると新たな迷路みたいな感じになってしまうのかなと思って。確認しておかないと怖いなという気持ちがちょっとわきましたね」(菊地さん)
避難経路を考える上でのポイントを、福祉防災学が専門の同志社大学教授・立木茂雄さんにお聞きしました。
「災害というのは、今まで普通に歩けていた環境に、突然新しい障壁、バリアが生まれる状況なんですね。そうすると今までであれば1人で移動できていた人が、1人ではなかなか難しくなる。誰かのサポートや支援が必要となる事態、それが実は災害なんだ、と思います」(立木さん)
評論家の荻上チキさんは、ふだんからの避難経路の確認の重要さを指摘します。
「災害時には必ず想定外のことが起きるんですが、それでもいろいろ想定しておくということはとても重要なことで、ふだんとは違う目で災害が起きたときにここがどうなるのかなと、ふだん歩いている場所を違う眼差しで歩いてみるのが大事になるのかなと思います」(荻上さん)
避難所に辿り着いてからも大きな困難があります。2016年の熊本地震の際、NHKが避難所で取材した障害のある人たちの声です。
「並びにいかないかんわけじゃないですか。水の配給にしても食べ物にしても。情報も何も入らんし」(被災者 全盲)
「周りの方が手伝ってくれません、全然。自分のことで精一杯なんでしょうね」(被災者 脳性まひ)
当時、避難所でつらい体験をした人に、千葉リポーターが話を聞きました。
松村有未さん(38)。脳性まひです。助けが来たのは、地震発生から40分後。ヘルパーと一緒に小学校に避難しました。
千葉「避難所の生活はどうでしたか?」
松村さん「普通のトイレしかなかった。せまかったので大変でした」
避難所では、さらに大変な状況に陥ります。ヘルパーはほかの障害者の救出に向かったため、1人避難所に残されたのです。車いすの乗り降り、食事、トイレなど、すべて周りの人に助けを求めながら、一晩を過ごしたと言います。
「快く助けてくれた人もいるし、嫌な目で見られたりとかはしましたね。ヘルパーさんの助けがないとなかなか厳しい状態でしたね」(松村さん)
限界を感じた松村さんは、仲間に電話で相談。翌日、福祉的ケアをしてくれる避難所に移ることになりました。
「(人と)つながることの大切さも改めて感じました」(松村さん)
取材を終えた千葉リポーターの報告です。
「松村さんは避難所では床で寝ていたそうなんです。脳性まひで緊張が強いと、思うように体が動かない不随意運動というのがありまして、それがひどくなるんですね。私も同じなのでよくわかりました。本当に大変だったんだなと感じました」(千葉リポーター)
障害のある人にとって、避難所での生活は不安や課題が山積みです。記事「【特集】首都直下地震が起きたら(4)」に続きます。
【特集】首都直下地震が起きたら
(1)「避難できない」をなくすために
(2)避難に必要な備え
(3)避難経路と避難所での課題 ←今回の記事
(4)誰も取り残さない防災
※この記事はハートネットTV 2019年12月4日放送「誰も取り残さない防災 首都直下地震が起きたら 後編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。