ある日突然、親が倒れて介護が必要に。一体どうすればいい?情報が溢れているにもかかわらず、本当に知りたいことがわからない・・・。介護家族のためのカフェを開くなどの活動を行っているNPO法人UPTREE代表の阿久津美栄子さんに、介護が始まったばかりのあなたに向けて、「後悔しない介護をするために知っておくべきこと」を伺いました。
親が突然倒れて、介護が必要になった。
そんなあなたは「一体、何から始めたら?」と不安に襲われているかもしれません。
仕事を持っているか、独身か家族がいるか、親の近距離に住んでいるか遠距離かなど、介護を行う側の立場はさまざまかと思います。また、親の介護度も異なります。ですが、そういった介護する側の状況や親の状態に関わらず、まず知っておきたいのは、介護が始まってから終わるまでの時間の流れ、「ロードマップ」です。
介護のロードマップ
(C)ディスカヴァー・トゥエンティワン
突然始まった介護にも、必ずゴール、つまり死別があります。そこにいたるまでの時間の長さは異なりますが、4つのステップがあることを知れば、客観視でき、対処しやすくなります。
「ステップ1」は、突然始まる介護に戸惑う「混乱期」。
健康だった親の会話や行動がおかしいことに気が付き、混乱します。毎日変化する状況に対応するので精いっぱいですが、親の変化を受け入れるためには時間も必要。誰もが経る最初のステップです。ここでやるべきことは、「介護申請と主たる介護者の認定」です。
「ステップ2」は、「負担期」。
親にとっても介護する子どもにとっても、疲労の出てくる時期です。できないことが増えてくる親自身も混乱し、それを家族にぶつけてくることも。家族は疲弊したり、絶望的な気持ちに捉われることも少なくありません。この時期には、進行を抑制するために心身機能の維持のためのレクリエーションを行ったり、在宅介護のための福祉用具のレンタルや、リフォームなどを検討する必要があるでしょう。これらには介護保険が利用できますので、忘れずに申請しましょう。
「ステップ3」は、「安定期」。
寝たきりになるなどひとりで過ごせなくなり、施設への入所を考える時期。家族にも割り切りの気持ちが生まれ、受容できるようになっています。次のステップである“介護の終わり”についても考える時期。この時期が十数年続くこともあれば、数か月で終わることもあります。
「ステップ4」は、「看取り期」。
「混乱期」と同様、突然にやってくる事態に、否定や絶望の気持ちを抱くこともありますが、延命治療をどうするかや、遺産相続などについてしっかり話し合いをしておきましょう。
介護の終わりは、必ずやってくる別れの日です。この事実を念頭に、親も子どもも充実した日々を過ごせるように介護にあたりたいものです。
介護が始まったばかりの方々から、よく相談されるのが「何を、どこに、どのように?」です。
私自身がそうだったのですが、親が要介護になったとき、どこにどのように相談したらよいのかまったくわからない。10年以上経ちますが、その状態は今も変わりません。介護保険制度はもちろんありますが、介護する家族のための支援制度が何もないため、どうしたらよいのか戸惑う方が多いのです。
親の介護が必要となったときに、まず相談すべきところは、「市区町村窓口」か「地域包括支援センター」です。
「地域包括支援センター」とは、介護に関する総合的な相談を受けるために行政より委託された事業者。主任ケアマネージャー、保健師、経験豊富な看護師・社会福祉士などが連携を取り合い、要介護者とその家族を総合的にサポートしてくれます。介護が必要となってからばかりでなく、介護が始まるかもしれないという不安を抱えた場合も相談にのってくれること、福祉や医療周りのことで高齢者とその家族に関わることなら何でも相談できる頼れる窓口です。ただし、地域によって名称が異なることがあるので、注意しましょう。
とくに重要なのが、ケアマネージャーの存在です。ケアマネージャーが介護を受ける人や、家族の希望に応じて、ケアプラン(サービス計画書)を作成するので、しっかりとコミュニケーションをとることが大事です。また、相性が合わなかったり、希望を聞き入れてくれなかったりするなど、対応に納得できない場合は、市区町村や地域包括支援センターに相談して、変更してもらうことも検討しましょう。
「市区町村窓口」では、要介護認定に必要な書類の配布や申請の受付を行ってくれます。ただし、さまざまな制度が用意されていても、自治体から積極的にアドバイスしてくれることは少なく、こちらが調べて申請するという「申請主義」のため、介護者は自ら知識や情報を得るための努力が必要となります。
また、申請書類などでは、介護にまつわる専門用語が多く出てきますが、そうした言葉についてもあいまいにしないことが大切です。初めて聞くと戸惑うことも多いと思いますが、わからない場合はその旨をはっきり伝えて、その意味がきちんとわかるまで説明を受けるようにしましょう。
<介護保険申請・要介護認定までの大まかな流れ>
どこに?
市区町村・最寄りの地域包括支援センターの窓口に相談
↓
申請書類「要介護認定・要支援認定申請書」に記入
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何を? どうやって?
介護を受ける人が住んでいる市区町村の窓口に、介護を受ける人の介護保険被保険者証(※1)を持って 申請書を申請
↓
主治医意見書(※2)や心身の状況に関する調査(訪問調査を含む)を踏まえ、介護認定審査会が審査
↓
要介護認定
↓
通知
※1 65歳未満の人は「医療保険の被保険者証」。
※2 主治医がいない人は市区町村指定の医師の診察を受けます。
介護サービスの内容は、自治体によっても異なります。予防プログラムが用意されていたり、細やかなサービスが受けられる地域がある一方、そうでない地域もあります。また、担当する事業者や担当者の知識、取り組みへの温度差もある現実も、知っておきましょう。
現在の介護保険制度では、介護を受ける当事者は必要なサポートに応じて、「要支援1または2」と「要介護1から5」の要支援認定、または要介護認定を受けることで、さまざまな介護保険サービスを受けることができます。介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、介護サービスにかかった費用の1割(※)で、家でサービスを利用する場合は、下の表のように支給限度額が要介護度別に定められています。
※一定以上所得者の場合は2割または3割。所得の低い人や、1か月の利用料が高額になった場合は、別に負担の軽減措置が設けられています。
家でサービスを受ける場合の1か月あたりの利用限度額(2019年9月時点)
介護がスタートしたら必ずやってほしいことは、介護を可視化することです。
介護をする側は、すぐに対処しなければならないことに翻弄されがちですが、そのままにしておくと、肉体的にも精神的にも消耗し、そこから抜け出せなくなりかねません。自分の置かれている状況を可視化して客観視するために、介護にまつわるさまざまな事柄をノートにまとめることをお勧めします。
親の健康保険番号から既往歴、自立度など「介護される側の状況」から、子どもである自分の就労状況や相談相手など「介護者の状況」の整理。そのほか、双方のタイムスケジュールを記すことで時間を確保しやすくなるなど、さまざまな利点があります。
介護にまつわるメモをまとめた「介護手帳」を作ることは、介護と冷静に向き合うためにも役立ちます。私どものNPOでも、そうした項目をまとめた専用の「介護者手帳」を出しています。
また、介護における自分の役割の認識も大切です。とくに、自分が主たる介護者となる場合、司令塔となることを意識したいもの。兄弟や周りの親族、介護サービス事業者、病院や行政窓口など、さまざまな人がいわば“プレーヤー”的に関わる介護において、そのすべてを俯瞰して見る司令塔の役割は、介護を続けていく上で大切なものとなります。
知識や情報がないまま突然始まり、やらなければいけないことが山積する介護。第2回では「お金の問題」と「介護者の心を守るために必要なこと」について考えます。
介護が始まったばかりのあなたへ
(1)最初にすべきこと ←今回の記事
(2)介護で倒れないために
※この記事はハートネットTV 2019年2月6日放送 ハートネットTV「平成がのこした“宿題” 第6回『超高齢社会を生きる』」に関連して取材したものです