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「ひきこもり」は 犯罪者予備軍なのか

記事公開日:2019年09月18日

2019年5月末、川崎市で通学中の小学生ら20人が「ひきこもり傾向があった」とされる男性に殺傷される事件が起きました。さらに4日後、東京・練馬区で農林水産省元事務次官が、家にこもりがちだった長男を殺害し、「息子も周りに危害を加えるのではないかと思った」と供述。このふたつの事件は、「ひきこもり」の言葉とともに連日大きく報道されました。これを受け、当事者や支援者はさまざまな思いを抱えています。「ひきこもりと老いを考える会(ひ老会)」に集う人々を取材しました。

メディアと事件 自分たちは犯罪者予備軍なのか

月に一度、ひきこもりの当事者や経験者、支援者らが集う「ひきこもりと老いを考える会(ひ老会)」。ふたつの事件から2ヶ月あまりが経ったこの日、事件とその報道についての意見を交わしました。

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当事者・支援者らの交流会「ひきこもりと老いを考える会(ひ老会)」

最初に口火を切ったのは、ひきこもり歴30年以上の、ぼそっと池井多さん。事件がテレビや新聞などで取り上げられたとき、その表現に違和感を抱いたといいます。

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ひきこもり歴30年以上のぼそっと池井多さん

ぼそっとさん「ああいう事件が起こって、日本の社会の中に、ひきこもりは『犯罪者予備軍である』『暴発予備軍である』『モンスターである』まあいろんな表現が使われて、いかにも私たちひきこもり当事者が『社会的に凶暴な事件を起こす危ない存在である』ということを、印象付けて流布するような言葉が、メディアの中に溢れましたよね」

自分たちがみな危険な存在であるかのような偏見を持たれるのではないか―。ほかの当事者からも、メディアでの報道の仕方に疑問を感じたという声が次々とあがりました。

かすみさん「事件の後、ひきこもりと犯罪が結びつく報道があって、ひきこもりに悪いイメージを持っていた人たちに、さらに『“ひきこもりは悪いもの”っていう考え方が正しかったんだ』って思わせてしまったなって思いました」

サカモトさん「うーん、残念というか。もうちょっと深く、メディアの方も、過去の例とかデータもあるでしょうし、ひきこもりがどれくらい凶悪犯罪を行って、一般の人の凶悪犯罪の発生率と比べてどうなんだとか、調べてほしいです。多分同じぐらいか、むしろひきこもりの方が凶悪犯罪に手、染めたりしてないように思います」

ぼそっとさん「この社会は、政治にしても経済にしても、ひきこもりじゃない人が社会を動かしているものだから、そうでない存在っていうのは不気味な存在なんでしょうね。で、一方では、何か凶悪なことがあると、人間っていうのは『自分はそんなことしない』『自分の中にはそういう凶悪な動機や心は無い、全部それ誰か他の人がやってるんだ』って、こう思いたがるじゃないですか。そうすると不気味な存在である『ひきこもりがやったんじゃないか』とそっちの方に行きやすい」

「繊細」「エネルギーさえ枯渇」本人たちの現実

当事者や家族の支援を行っている上田さんやミルクさんは、ひきこもりの人々が「危険」だと感じたことはほとんどないといい、事件とその報道に対して複雑な思いで向き合っていました。

上田さん「今回『ひきこもりの報道が出るだけで外に出られなくなった』っていう本人たちの声は多いです。『犯罪とは結びつけないで厳に慎む』って言うのは報道されてはいるんですけど、ニュースが出るだけでも、自分が責められてるような引け目を持ってしまって、外に出られなくなるっていう。まだまだこれから、こういう報道が落ち着いてから、ようやく自分の不安を話せるような人も出てくるんじゃないかなっていう風に思っていますけれども、私もまだまだ色んな思いの中でいる感じです」

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親の立場から支援を行っているミルクさん

ミルクさん「私は2000年ぐらいから、ひきこもりの経験者とか当事者の方にお会いすることがあったんですけれども、私の印象では皆さんすごく繊細で、とてもその『犯罪予備軍』とか、そういうイメージとはまるっきり違う、真反対のところにいらっしゃる方だな、という印象を持っていました。私がよく知っている方などは「傷つけられるのも嫌だけども、傷つけたくもない」と。そういうこともしたくないっていうぐらいの繊細さをもっていらしたので、一番遠い存在だと思います」

ひきこもり歴20年のさとうさんも、「ひきこもりの人は危ない」というイメージと、自分の生活実態はかけ離れていると感じています。

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ひきこもり歴20年のさとう学さん

さとうさん「外出する頻度が少ないわけですから、一般の人よりも通り魔を起こす確率は圧倒的に低いと思うんですよ。なんでメディアで流している人はそれに気づかないんだろうな。怒りとか、憎しみってエネルギーがものすごい必要で、そのエネルギーさえ枯渇している自分からすると、犯人のやった行動って、自分とは真逆だなと思いました」

ひきこもりの本人が抱える「孤独」

「ひきこもり」が犯罪者であるかのような偏見を助長しないでほしい。こうした思いを抱いた人が多かった一方で、事件の後、ぼそっと池井多さんの元には、当事者仲間から複雑な心境を綴る声も寄せられました。

ぼそっとさん「ひきこもりに対する差別を助長するなって言う声と同時に『自分もああいう事件を起こしてしまうんじゃないかと不安である』というメッセージがいくつも、当事者仲間からやって来たんですね。みなさんはどういう風に思いました?」

アオネさん「『孤独』っていうのはすごく、強いと思うんですね。今回の問題の犯人も、結局、『孤独』の最終的な解消方法が本当にああなってしまったのは、非常に残念な話で。どこかで『あなただけじゃないよ、同じような悩みを抱えている人が他にも周りにも実はいるんだよ』っていうのが、本当は伝わって解消されるべきだった」

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うつ病を患った経験から「孤独」について話すアオネさん

タロウさん「自分はたまたま色んな出会いがあってそういう凶悪犯罪者にはならなかったけれど、もしそういう出会いが無かったならば、十分になった可能性はある」

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ひきこもり歴10年のタロウさん

家族ごと孤立していく

ひきこもりの本人が抱える「孤独」。一方で、東京・練馬区での事件について、自分たちの家庭と重ね、家族がまるごと社会から孤立していたのではないかと語る発言が相次ぎました。

ぼそっとさん「私自身は、まずやっぱり殺された息子に自己投影しましたね。親御さんがあそこまで『家の中の恥』にしてしまって、なぜ外に出さないのかということ。それに違和感を持っています。」

さとうさん「うちの場合、母親が保健師だし、姉がソーシャルワーカー。一見恵まれている感じに思いきや『外部と繋がりにくい環境だった』という点では、もしかしたら練馬の父親の環境に似ているのかなっていうのは思いましたね。『なんでここまで隠すんだろう』と。ちょっとでも外部と接触を持てば、好転するかも知れないのに、それを自らの手でその可能性をなくしてしまったっていうのが、うーん、自分の家と重なる部分がありますね。」

なぜ、ひきこもりの家族が孤立していってしまうのか。その背景には、家族自身も悩みや不安を外に出せずに抱え込んでしまうことがあるといいます。

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自身の父親について語るサカモトさん

サカモトさん「僕の父親も、国立大学を出て、大きな会社に勤めていて、母親が高卒で。そうすると差があって、やっぱり父親の意見が絶対で、子育てに関しても父親が全部決める。『一流大学に入れて、一流企業に勤めさせ、そのために今から準備する』みたいな事を言っていましたから。でも母親はもう、ただ従うだけ。言い合いになってもやっぱり勝てないですから、父親に。なので、母親がもう完全に引っ込んで、父親の方がもう『全部俺が決めるんだ』と。そういう雰囲気の結果があれだと思います。」

上田さん「今、家族会をやっていますが、問い合わせが普段より20倍以上増えたってことは、それだけ今まで親御さん自身が不安を持ち続けて、『これはなんとか自分たち、自分の家族だけで何とかしなきゃいけない』と(抱えてきたと)いう現れだと思います。ご家族の方から『どうしたら良いんだろう、とにかく外に出させないといけない』とか、『働かせないといけない』っていう声が急激に増えて、私はそれに、恐れというか不安を感じました。なぜかと言うと、報道から親御さんが不安になって、その不安は誰に行くかって言うと、結局ひきこもっている本人に行ってしまう。『何とかこの子を、何とかさせないと』って、本人を追い詰めてしまう。でもそこに、実は親自身の不安を出せる場所がこんなに無いんだなっていうのを感じたんですね」

画像(室内イメージ)

ミルクさん「やっぱり『鎧』と言うかね。自分と社会、自分と世間との間に、ものすごい重装備の鎧を付けていらして、自分の率直な気持ちとかを出せない状態。『本当に困った、助けて』ってだんだんだんだん他の人達と気持ちを分かち合ううちに、割と素の自分というのが出てくるけれど、それがなかなか出来なかったんだろうなって、私は想像しました。」

さとうさん「親子が一緒の空間にずーっと長年過ごしていて、子どもがひきこもりっていう状態。果たして親の方が、正常な状態で居続けられるのかって言うと、それ厳しいんじゃないかな。父親の方も、すごい追い詰められて、視野が狭くなっていたんじゃないかなと思いました。もしかしたらこのような事件は、これから起きるかもしれないなっていうのはすごく感じています。」

私たちの社会ができること

就労支援協会の理事であるアンジーさんは、事件になる前に、周囲の人間や社会ができたことがあるのではないかと考えています。

画像(就労支援協会の理事であるアンジーさん)

アンジーさん「起きた事件は悲惨なことで、本当にそのことに関しては、擁護することは何もできない事ではあるんですけど、きちんと社会と繋がって、その社会が支援をするということをできたら、もっと違った形にもなれたんじゃないかな、という風に思って、すごくすごく残念に思っています」

ポエートさん「川崎の事件の犯人を犯行に駆り立ててしまったのは、日本の社会の特性である『同質性』っていうか『普通である』ことかなと(思いました)。まあ実体はないんですけど『普通であることを最重要視する社会』の、非常に均一的な、多様性を重んじない、あるいは『自分と他者は同じだということを前提とする社会』が、あの犯行に至しめたんじゃないかと思っています。日本の社会がもっと個というものを認め合って、違うっていうことを前提としたり、違いを認め合ったり、人権意識をもっと持った方がいいと思います」

ハートネットTVでは、これまでも度々「ひきこもり」について取材してきました。私たちはこれからも、どのような社会を目指せばいいのか、本人やその家族、ひとりひとりの声に耳を傾けながら、考え続けたいと思います。

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