ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

セクシュアルマイノリティーの子どもたち 誰にも言えない思い

記事公開日:2019年08月26日

「同性に恋をした」「体は男だけど、自分が男だと思えない」など、性のあり方が「多数派」と違い「少数派」である人のことを「性的マイノリティー」と言います。とくに子どものうちは、親にも言えず、1人で悩む場合が多くあります。性的マイノリティーの当事者と、性的マイノリティーの子どもをもつ保護者に、その苦しい胸のうちを聞きました。

親に打ち明けられない子どもの気持ち

近年、「LGBT」という言葉が広がり、LGBTだけでなく、性が多様であることが広く認知されるようになってきました。

性的マイノリティーの子どもたちは、どんな状況にあるのでしょうか。
精神科医の針間克己さんによると、小さなころに自分の体や恋愛に違和感があっても、理解するまでに時間がかかるものだと言います。

画像(精神科医 針間克己さん)

「たとえば、体が男で自分は女の子かなと思っていても、そうなのかなってご本人自身非常に揺らぐこともあるし。体は女性なんだけどスカートはきたくないというのは、もう小さいころからあるっていうこともある。それがだんだん思春期になって、より自分は男でなく女だとか、女でなく男だというふうに強まるという変化をしていきます。ゲイ、レズビアンの人も、小さいころから何となく男の子好きだな、女の子好きだなという気持ちがあって、やっぱり思春期になって恋愛感情が強まる時期に意識し出すことが多いと思います」(針間さん)

パティシエの福田莉那さんがレズビアンだと理解したのは19歳のときでした。それまでは、自分はトランスジェンダーなのでは、と思った時期もありました。

画像(福田莉那さん)

「体が女性になってくる時期、胸が出てきたりとかっていうときに、なんかそれを受け入れられなくて。さらしを巻いたりとかっていう時期もありました。だから13歳から19歳まではどっちかなって、ふわふわしていた時期でした。それで、女性どうしで付き合っていて、男役みたいな感じになってしまうこともあって、やっぱり自分は男性になりたいんじゃないかって悩んだんですけど、その先で出会った彼女が私の女性である部分を好きになってくれて。女性としてきれいになりたいなと思うようになって、初めて自分の性を受け入れられるように、自分が女性だって自覚するようになりました」(福田さん)

彼女と出会い、愛されることで自分が女性であることを認められるようになった福田さん。しかし、レズビアンであることを19歳まで親に言うことができませんでした。

「やっぱり残念な気持ちにさせたくなかった。否定されるのが怖かったというのも結構強かったですね」(福田さん)

画像(斎藤みどりさん)

トランスジェンダーで教師歴24年の斎藤みどりさんも、35歳まで母親に性別に違和感があることを言えませんでした。

「私は、生まれたときの身体的な性は女子です。でも、本当に生まれてから一貫して自分に女性だという意識が一度もないですね。うちの母親はとても娘が欲しかったんですよ。うちは兄がいるんですけれど。せっかく女の子が生まれて女の子だと思って喜んでいるのに、その母親に『実は』なんてこれはもう絶対に言えないって思っていましたね」(斎藤さん)

親の反応を恐れて、自分の性について打ち明けられない。そんな、性的マイノリティーの子どもが置かれている苦しい状況が浮かび上がってきます。

トランスジェンダー 貴毅さんのケース

不動産会社で働く原岡貴毅(たかき)さんは、生まれたときの体の性別は女性。現在、男性として生活するトランスジェンダー。母親の春美さんに性的マイノリティーであることを言えず、中学校を卒業するまで、ずっと1人で悩んでいました。

画像(原岡貴毅さん)

「小学4年生のときに生理がきたんですけど、そのときに『女の子だね』って言われたときに、アレ?っていう違和感がすごくありました。鏡に映る自分も見たくなかった。なので、鏡を通さずに着がえるとか、いつになったらおちんちんが生えてくるのかなとかはありましたね」(貴毅さん)

女性として体が成長することに違和感があり、生まれたときに名づけられた「令佳(れいか)」という名前も嫌だったと言います。中学生になると、セーラー服を着るのがつらく、恋をするのはいつも女の子でした。

「『レズレズ』みたいな『気持ち悪い』はめちゃくちゃ言われましたね。何に対しての『気持ち悪い』なのかがわからなくて。何を直せばいいのかとか考えてましたよね。つらかったなっていう。死にたいなとも思いましたし」(貴毅さん)

貴毅さんは、まったく学校に行けなくなってしまいました。母親から何度も理由を聞かれましたが、言えませんでした。

「これは言うことじゃないって思ってたんです。自分でもわからなかったので。自分は何者なのかっていう、自分がはっきりしてないと伝えられないなと思ってて」(貴毅さん)

貴毅さんのように、子どものうちは性が多様であるという知識がないため、周りとの違いに悩み、なかなか自分では解決できません。そうしたなか、学校に行けなくなった理由を母親に言えなかった貴毅さんは、16歳のときに、インターネットで体と心の性別が違う人がいることを知り、自分もそうではないかと気づきました。

中学卒業後に就職した貴毅さんは周囲の環境に恵まれ、少しずつ気持ちが楽になっていったこともあり、体の性別に対する違和感を母親に打ち明けました。しかし、母親の反応は理解とはほど遠いものでした。

「『あんたは違うから!』『まぁ私の学生時代にも、そう思ってたけど、違ったっていう子がいるからね』みたいな、何も話聞いてくれないじゃんみたいな感じで。親に認めてもらえなかったら、これは生きていけないというか、母親に認めてもらえない生き方はだめだと思ってました」(貴毅さん)

そのとき、母親の春美さんの思いはどのようなものだったのでしょうか。

画像(貴毅さんの母親 原岡春美さん)

「衝撃すぎて、そこで、ガシャーンって、もう本当に、私の思ってた子どもじゃなくなってしまった、全然違う子になってしまうんだっていう、すごい抵抗が私の中で起きたんだと思うんですよね。本当に私“趣味”だと思ってたし、“治る”と思ってたし、変わると思ってたし、変な期待もしたし。それでも子どもが大好きだったし、なんで私こんなにわかってあげられないんだろうっていうところに、いつもいた。その葛藤ですよね」(母・春美さん)

しだいに親子の会話はなくなり、貴毅さんは、家を出て行きました。ちゃんと話し合うこともできないまま、ときが過ぎていきました。

「7、8年もしたころに、でも、この子は何も悪くないと思えるようになりました。まだこの子を苦しめるのか、私の理想の子になってほしい、それを押しつけていただけっていうのに気づいて。私の子どもなんだから、私の子どもが幸せにならないと嫌だって、だったら応援しようって。誰よりも私この子の味方でいたいって思ったんですよね」(母・春美さん)

そして、「令佳」と呼ぶのをやめ、子どもが望む「貴毅」という名前で呼ぶことにしました。

「そのときは驚きましたね。親は理解までは別にしなくていいと思うんですよね。ただその、その人の意見を尊重するというか、『私はまだ受け入れられないけど、あなたはそう思うんだね』って、ひとこと言ってあげるだけで、その子の人生は結構大きく変わるんじゃないかなっていう。自分は生まれてきたことによって、幸せだと思っています」(貴毅さん)

親はまず話を聞くことが大事

子どもがトランスジェンダーで、19歳のときカミングアウトされた田上小百合さんは、貴毅さんの母親の気持ちがよくわかると話します。

せっかく子ども自身が見つけたセクシュアリティー。しかし、本人の中で考えが深まらなければカミングアウトできないと、精神科医の針間さんは言います。親はどんなふうに子どもと向き合えばいいのでしょうか。

画像(精神科医 針間克己さん)

「(子どもが)そうじゃないかなと思っているのであれば、理解がある親なんだよということを、何気なく示すのがいいと思います。結構よく聞くのは、たとえば家帰ったら、テレビ見て、『こういう人・こういう生き方』もあるよねと親が言っていたので安心したとか、家へ帰ったら、性同一性障害の本が置いてあって、あ、親も勉強しているんだなって思ったとか。そういうサインを出していくというのはいいと思います」(針間さん)

そして、子どもがカミングアウトをしてきたときは、親はまずしっかり話を聞くことが大事だと言います。

「お子さんにとっては、それが8割9割ぐらい大事なことだと思います。親はこれまでどおり自分のことを愛してくれるし、あるいは相談にも乗ってくれるし、あるいは何かあれば具体的に学校や病院なんかとやり合うときの支援もしてくれるとなると、非常に心強いですよね」(針間さん)

子どもが20歳のときにゲイであるとカミングアウトされた松岡さんは、自分の対応は失敗だったと話します。

「『彼女できたの?』と繰り返し息子に聞いていまして。のちに息子から聞いた話によると、『お母さんがそう言った言葉が辛かった』と。『それを一度でもいいから、“好きな人できた?”とか“恋している?”って聞いてくれたら、“してるよ”とか答えられたのに、全部を嘘にしなきゃいけないことがストレスになるんだよね』って言われて、そこではじめて自分は今まで男女でしかものを考えてなくて、それが自分の中で当たり前になっていたんだなっていうことに気がついて」(松岡さん)

画像(スタジオの様子)

少数派であるために、なかなか自分の気持ちを言い出せない性的マイノリティーの子どもたち。自分の性のために悲しい思いをしないよう、まずは親が子どもの性を受け入れてあげることが大切だといえそうです。

セクシュアルマイノリティーの子どもたち
学校生活の悩み
学校現場の取り組み
誰にも言えない思い ←今回の記事
心の支え

※この記事は2019年7月20日放送 ウワサの保護者会「性的マイノリティーの子どもたち① ~誰にも言えない思い~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事