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【特集】出生前検査(4)妊娠から出産後まで。いま求められるサポート

記事公開日:2019年07月09日

医療技術の進歩により、血液検査や超音波検査でも病気や障害の可能性が分かるようになってきました。しかし、出生前検査の結果しだいでは、妊娠した女性やその家族は「産むか、産まないか」という重い決断を迫られることになります。妊娠から出産後まで、一貫したサポートを行っている医療機関を取材しました。

チーム医療で取り組む出生前検査

おなかの赤ちゃんの病気や障害の可能性を調べる出生前検査。検査をめぐってさまざまな課題があるなか、医療機関でこれまでにない試みが始まっています。出生前検査を受ける前から、中絶あるいは出産後まで、一貫して支援する取り組みです。

画像(大阪医科大学附属病院)

大阪医科大学附属病院には、おなかの赤ちゃんの健康に不安がある女性たちを専門に診る、「胎児ハイリスク外来」があります。ここでは、女性たちの心のケアに力を入れています。

画像(産科医と、精神看護専門看護師の宮田郁さん)

宮田さん「やっぱりこう赤ちゃんの胎動もまだ分からないし、気になる、やっぱり心配っていうのであれば・・・」

産科医の隣にいるのは、精神看護専門看護師の宮田郁さん。心のケアのエキスパートです。診察中の女性に寄り添い、細やかな声掛けをしています。宮田さんは女性たちと継続的に関わり、その思いをくみ取ります。そして、医師や助産師、ソーシャルワーカーなどと連携。必要な支援をコーディネートしていくのです。

画像(医療スタッフと相談する宮田さん)

宮田さん「外来の患者さんなんですけれども、その人ちょっといま、すごく悩まれていて。いま16週なので、もう少し時間はあるのだけれども、これからいろいろ話し合いを、と。ご主人とも少し価値観が違うので、できたら両方1人ずつとお話して、そこからまた考えていこうといっているので」

この日も、出生前検査で陽性だった患者の悩みを聞き取った宮田さん。入院病棟のスタッフに伝え、対応を求めます。

宮田さん「継続されるにしてもなんにしても、担当の助産師さんにいてもらったほうがいいと思っているのと。詳しい内容をまたお伝えしたいと思います。宜しくお願いします」
助産師「はい」

宮田さんは、自身の役割について次のように話します。

「お母さんたちはそんなに簡単に『この子はたとえば染色体異常だから、なにか異常があるから、もうそれだったらやめます』なんていう人はほとんどいません。そこに行き着くまでにやっぱりいろいろなことを考えておられるんですよね。そういうお母さんたちを支えていくのって、やっぱりいろんな人が関わらないと無理なんじゃないかなと思っています。」(宮田さん)

サポートが母親の孤立を防ぐ

女性たちの心のケアは、子どもが生まれたあとも変わらずに続きます。宮田さんが4年前からサポートしている高城美幸さんです。

画像(高城美幸さん)

娘の愛茉(えま)ちゃんは、「ファロー四徴症(しちょうしょう)」という先天性の心臓の病気を抱えて産まれてきました。

画像(高城さんの娘・愛茉(えま)ちゃん)

愛茉ちゃんの病気は超音波検査で見つかりました。予期せぬ診断に大きなショックを受けた高城さん。宮田さんのサポートにより徐々に気持ちが落ち着き、出産にのぞめたと言います。

「ここに来てはじめて診察をしたときに、宮田さんが始めからいてくれて、不安なこととか、これからどうしていこうとか、お話を聞いてくれる人がいるっていうだけでだいぶ心が楽になるじゃないけど。共感してくれる人がいるっていう」(高城さん)

この日、宮田さんは、体調を崩して入院していた愛茉ちゃん親子のもとを訪れました。愛茉ちゃんは、心臓の病気に加えて、てんかんの持病もあり、入退院を繰り返してきました。

画像(愛茉(えま)ちゃんの病室で相談にのる宮田さんとソーシャルワーカー)

宮田さんは、まもなく退院する愛茉ちゃんの、自宅での介護について相談にのりました。

高城さん「ごはんを。愛茉ちゃんの離乳食を、流動食のサポートが一番お願いしたいんですけど」
宮田さん「いけそうなん?」
ソーシャルワーカー「えーとね、栄養士さんにちょっと関わってもらったり・・・」

実はいま、高城さんは3人目の子どもを妊娠しています。今回も、宮田さんのケアが受けられるこの病院で出産することを決めています。
妊娠・出産・育児まで、母親の孤立を防ぐための宮田さんの伴走は続きます。

検査の結果をみんなで支える覚悟を

心のケアのエキスパートが一貫して支援する取り組みについて、ジャーナリストの河合蘭さんと、出生前検査に詳しい明治学院大学教授の柘植あづみさんは高く評価します。

画像(ジャーナリスト 河合蘭さん)

「精神看護専門看護師さんという方たちは、日本にいま310名くらいいらっしゃるんですけれども、特定の科に属さなくて、いろいろな科の、心理的に非常につらい思いをしている患者さんのもとに行くという立場の方なんですね。心理面でのケアっていうのも一つの専門性の高い領域で、それが非常にこの分野で求められてるっていうことが明らかですね」(河合さん)

画像(明治学院大学 教授 柘植あづみさん)

「出生前検査が、妊娠中に検査を受けて、その検査結果を受けて、産むか産まないかを決めて終わりっていうものではないですよね。やはりその検査を受けたあと、どうやってサポートするのかっていうことを産科だけではなくてもっと広く考えていかないといけないかなと思っていて、大阪医科大学附属病院の取り組みはとてもいいと思います」(柘植さん)

産んだあとのサポートの重要性と現在の課題について、河合さんと柘植さんはこう話します。

「たとえば、ダウン症候群の赤ちゃんが生まれたとき、まず産科がどんなサポートをしてあげているか。病院によっては実はほとんどサポートがないですね。それから退院したあとに、療育という形で、赤ちゃんの能力を伸ばしていくという場所があるわけですけれども、そこもまだまだ数が足りてないんです」(河合さん)

「いまの出生前検査が、その情報を提供して、“産むか産まないか、育てるか育てないか”をお母さん決めてください、またはご夫婦で決めてください、っていう形になっていますが、すごく孤独になりますよね。決めた結果も、女性が抱えないといけなくなりますよね。そのあり方を根本的に変えないとダメかな、と思っています。こういう障害があったときに、それは私にはとても産めないよ、私にはとても育てられないよ、というときに『あなたがもし育てたかったら、こういうサポートがありますよ』というような情報をもらえること。それから、ものすごくお母さんだけが頑張らないといけない、っていう、その社会のいまのあり方みたいなものを、もう少しみんなで支える、っていうのができるようにしたいなと思ってるんですね」(柘植さん)

柘植さんは、出生前検査を行っているこの社会の一人一人に覚悟が必要だと言います。

「社会が支えるって言っちゃうと簡単に聞こえるかもしれないですけど、決して簡単なことではないと。この検査をこの社会の中で応用していくのであれば、他の人たちも覚悟が必要なのかなって。お母さんだけが覚悟するのではなくて、私たちにも覚悟が必要なんじゃないかなって思いました」(柘植さん)

検査の結果を母親や家族に押しつけず、みんなで支えていく。そのような姿勢が、出生前検査が広がりを見せている社会において、いま求められています。

【特集】出生前検査
(1)求められる情報提供のあり方
(2)検査を受けるか受けないかの選択を支える
(3)「産むか、産まないか」つらい決断を迫られた親たちのケア
(4)妊娠から出産後まで。いま求められるサポート ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2019年7月9日放送「シリーズ出生前検査(2)『それぞれの選択を、支えるために』 」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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