ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

障害者雇用 働く現場での悩みと解決のヒント

記事公開日:2019年05月29日

昨今、なにかと話題になる「障害者雇用」。ハートネットTVでは2018年4月から、障害者雇用の特別プロジェクトを始動し、「就職しづらい」という声に応え、本人と雇用主が出会う機会を増やせるような取り組みを重ねてきました。その一方で、番組には多くの「働く現場での悩み」が—。今回は専門家と一緒に、障害のある人が就職したあとの悩みや、問題解消のヒントについて考えます。

上司や同僚とのコミュニケーションの悩み

「せっかく就職しても、その後なかなかうまく働けない」
そんな悩みが、精神・発達障害のある人から番組に多く寄せられています。

障害当事者・雇用側の双方から500件以上のトラブル相談に応じてきた久保修一さん(障害者のための労働組合書記長)と、ご自身も当事者として転職を経験されている、就労アドバイザーでNPO法人DDAC(発達障害をもつ大人の会)代表、広野ゆいさんと一緒に、寄せられた悩みについて考えます。

画像(左:就労アドバイザー 広野ゆいさんと、右:障害者のための労働組合 書記長 久保修一さん)

まずは、職場の配慮について。

「障害者雇用枠で入ったとしても、障害に対しての配慮がありません。事前に障害に関する資料を渡しトラブルを最小限にしようとしたのですが、その資料すら拒否されました。障害者雇用をするのであれば、上司の方は多少なりとも障害者に対する知識や扱い方の技術を学んでいただけることを切に願います」(ユウキさん・30代)

広野さんは職場に事前に渡す資料の必要性を認めつつ、こう指摘します。
「自分の疾患や特性の取扱説明書も必要ですが、実際現場に入ったときに全然それが使えないということもあります。入ったら切り替えて1からスタートという気持ちも大事ですね」(広野さん)

「その出した書類の量が多かったとか、1回でそれだけのことを全部対処するのは難しいというような、やりとりがあったのかな、と思います。そういう小さい溝が対立みたいになるのは、もったいないですね」(久保さん)

職場で障害の情報が共有されていない、という声も届いています。

「精神2級で障害者雇用で働いていました。採用時の配属課の管理職しか私の障害について知りませんでした。電話対応はゆっくり慣らそうという方針により、他の人より長い期間、免除されていました。しかし私の障害について知らない先輩や上司は、電話出てと言ってきます。そのとき私はどう答えれば良いのだろう」(ぺんぎんさん・20代)

「仕事が忙しくなり、パンクしかけたので、上司と相談し、1つの作業を終わらせるまで次の作業を振らないようにしてもらいました。そのことは同じチームで共有したはずでした。でも、上司がいないときには、あれをやって、これもやって、と、仕事を振ってきます」(ポーラさん・女性・ASDとADHDの当事者/二次障害あり)

情報が共有されず、障害への配慮がないまま、なし崩し的に仕事を任されてしまう状況はどうしたら変えられるのでしょうか?

「慣れてくると、周りの方が頼りにしてしまうこともあるかもしれません。頼まれごとを『見える化』して、これ以上は無理だということを視覚的に示すとか、工夫があるといいですね。
また、障害のことを管理職が勝手に職場に情報共有するのは難しいため、どのくらいの情報をどういう範囲の人に伝えるかということを自分から働きかけて事前に擦り合わせをする。本人が伝えるのか、上司の方が言うのか、どの場所で言うのかなど、丁寧に話し合えると良いですね。当事者がどうしてほしいのかが大事」(広野さん)

何度も諦めずに職場に相談 ももさんのケース

画像(広汎性発達障害の当事者 ももさん)

番組に声を寄せてくださった広汎性発達障害のももさん(仮名)。
障害者雇用で働いて4年目になります。入社当時、まっさきに立ちはだかった壁、それは苦手な電話応対でした。そこでももさんは、電話応対から外してもらえないか上司に相談。それでも電話がまわってきてしまうことが続きました。なんとか対応しようと試みましたが、やはりうまくいかず、体調を崩してしまいます。それでも諦めずに何度も相談。その結果、取り次ぎだけで済むようになりました。

「何度も伝えることが大事かなと思っていて。またタイミングを見計らって上司に相談して、3〜4回は言ったかと思うんですけども。それぐらいしてようやく、上司の方も周りの方も、『電話応対はいいからね』って」(ももさん)

諦めずに職場とコミュニケーションをとることで、今では「自分だけの仕事」ができて自信をつけることが出来たというももさん。実は以前、一般雇用でうまく働けなかった経験があり、以来考え方を改めたのだと言います。

「我慢するか辞めるかじゃなくて、もう1個、環境を変えるか、ていう選択肢が増えたかなと。私にとっても長く働きたいというのがあるので。」(ももさん)

広野さんもご自身の経験と重ねながら話してくださいました。

画像(就労アドバイザー 広野ゆいさん)

「私自身も電話対応が苦手だったんですが、言ってもわかってもらえなかったら、ちょっと失敗してみる、のもありですよね。自分自身でもこういう失敗をするんだと分かってみたり、諦めずにやってみたりする。失敗も多いと学ぶことも大きいですからね」(広野さん)

一方で、なかなか職場に希望を言い出せない人も。そのような人に、久保さんは次のようなアドバイスを送ります。

「障害者雇用は労働契約ですから、当然、会社と障害者は対等な立場なんですね。障害者には自立するために努力する義務が、企業側はその努力に応える義務があり、その障壁になるものを取り除いていくことが必要。だから働きやすくする環境づくりは、どちらかがやることではなくて、共同作業でやるんだという意識があると良いと思うんです。そう思えれば、少しは割り切れるかなと。一番大事なのは、会社は必ずミスをするということを覚えておくこと。そうしないと、コミュニケーションもとれませんし、会社がミスをしてくれたおかげで、よりよい配慮の形が出てくるという可能性もあります」(久保さん)

希望する配慮は具体的に 双方のコミュニケーションも大事

自分から職場にどう配慮を求めたらいいのかわからない、という声も多く寄せられています。
これらの声に、久保さんは、自分の特性や苦手なことをまとまりなく伝えても、職場はどうしたらいいのかイメージしづらいため、「パーテーションを作ってほしい」「文章中心の指示にしてほしい」など、“具体的に配慮してほしいこと”に変換して伝えることが大切、と提案します。

画像(合理的配慮の具体的な伝え方の例)

障害のある人が一方的に希望を伝えるだけではなく、職場からも確認を受け、相互にコミュニケーションをとることでより深い理解につながるのだそうです。

一方で、一般雇用で働く障害者も配慮を受けることはできるのでしょうか。その場合、職場に障害を開示するときのポイントとは?

「一般雇用で働く場合も、障害者は障害者雇用の対象として見るべきという判例もあるので、これまで話してきたケースと同じ。開示のポイントは、なにをしてほしいから開示をするのか、求める配慮をよく考えて伝えるように心がければトラブルになりにくい。」(久保さん)

職場の外に相談する場がほしいという声もありました。

「当事者同士で、仕事のあとに会社以外で話せる場所がほしいです」(けんじろうさん)

「社外に相談できる機関を2つ3つ作ることが大事だと思います。あとはフリートークができる自助会なんかもいいと思います」(えびかにさん)

当事者グループに参加した経験があるという広野さんは、その効果を実感。職場の人に直接、気持ちをぶつけてしまうとトラブルになりかねず、むしろ職場の外にある場で話をすることで、問題が整理できると言います。

障害者雇用を持続可能にするために必要なこと

障害のある人が悩みを抱えている一方で、職場の同僚にも悩みがあるようです。

「職場に障害者雇用の方が多いのですが(窓口業務で人が多いから何人かいても大丈夫だろうと思われている)それをフォローする余裕が職場になく、自分がうつになりそうです」(わさん・20代・栃木県)

「身体及び知的障がい者が正社員として雇用されています。『いい子だしできることを見つけてやらせればいいから』と言い残し、その後採用した上司は異動に。他事業所に同じような雇用はなく、またマニュアルもなければ研修もない。障がい者雇用のスタッフへの教育。丸投げする側は『できることを見つけてあげて』と簡単に言いますが、それも我々の仕事でしょうか?」(晴さん・30代・東京都)

現場にしわ寄せがきているという声に、久保さんは、会社や同僚側からの一歩踏み込んだコミュニケーションが必要だと言います。

画像(障害者のための労働組合 書記長 久保修一さん)

「この場合、相手を障害者としてだけ見るのではなくて、やっぱり同じ会社で働いている同僚、仲間という目線をちょっと持てると、どこまでしゃべっていいかとか、言っていけないこと、いいことの線引きが意外とわかりやすくなりますし、少し楽になると思います」(久保さん)

ほかにも、企業側の工夫としてどんなことがあるのでしょうか?
たとえばメンター制度をうまく運用することで、障害者雇用がうまくいっている企業があります。(詳細はこちらの記事で紹介しています→「障害者雇用 定着のためのヒント」

また、企業側の取り組みとして大切なのは、相談窓口の整備です。
障害者を雇う企業には、相談窓口が義務付けられています。まずは、その窓口が誰なのか、障害者にはっきりと伝える必要があります。そして、この窓口を機能させるためには、「よろず相談はダメ」だということです。あれもこれもと相談を受け付けても解決どころか、トラブルになってしまうことがあります。

そうならないために、相談票を作るという方法があります。

画像(ポイント、左:相談票の一例、右:メールで相談票をうけとり担当部署と対応検討)

具体的には、4つの項目にわけて、どれか1つに○をして、具体的な悩みや相談したいことを伝えてもらうようにします。そうすることによって、何について、解決したいのかが分かって、相談を受ける側も明確に答えを導きやすくなります。

「相談票をメールで受け取り、まずは担当部署と協議して回答を作ってから本人と面談するのがポイント。回答期限をきちんと伝えることも大切です。」(久保さん)

障害のある人は職場任せにせず、自分から働きかける。悩みを抱え込まずに、相談できる場をもつ。企業側は同僚・仲間という意識を持って工夫をする。そんな取り組みを重ねることで、障害のある人にとって働きやすい職場となり、その環境は誰もが働きやすい社会となるのです。

※この記事はハートネットTV 2019年3月7日放送「LIVE相談室チエノバ 障害者雇用 働く現場でのお悩み」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

※久保修一さんが、それぞれの悩みにアドバイスをした記事はこちらから「障害者雇用」スパルタ塾 番外編

あわせて読みたい

新着記事