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【特集】子どものSOSの“声” (2)子どもたちを保護する活動

記事公開日:2019年05月08日

親の不在や虐待から保護された子どもたちからの「意見を聞いてもらえなかった」という声。こうした現状のなかで、子どもの声を聞くキーパーソンとなるのが児童相談所にいる「ケースワーカー(児童福祉司)」です。子どもたちを保護する活動ではどんな役割が求められているのか、取材しました。

ますます大きくなるケースワーカーの役割

家庭でSOSを発した子どもや親への対応、児童養護施設や里親に移った子どもに対する支援などを担うのが、児童相談所のケースワーカー(児童福祉司)です。

画像(ケースーワーカーが担う役割)

この20年で、全国の児童相談所が対応した児童虐待の相談件数は、およそ20倍に増加。年々ケースワーカーの負担が大きくなっているのです。

画像(児童虐待相談対応件数(出典:厚生労働省))

出典:厚生労働省

こうしたなか、子どものSOSを聞き逃さないための体制作りを模索している児童相談所を取材しました。大分県にある児童相談所には、年間5200件以上の相談が寄せられます。とくに虐待などのシビアな相談は年々増加しています。

「子どもさんは痛がっている?ではないですよね?」(相談員)
「お孫さんが発達障害かということは?」(相談員)

こうした電話だけでは解決できない問題に継続して対応するのがケースワーカーです。ここでは、25人が勤務。一人一人が抱えるケースは多く、負担の大きさが懸念されています。

画像(ケースワーカー 鈴木さん(仮名))

経験豊富な指導員の協力で負担を減らす

去年、異動してきた新人の鈴木さん(仮名)は、非行問題を抱えた子どもや、養育困難な家庭の支援などを担当しています。

「全体としてはたぶん100件ぐらいあるんですけど、いま現在で動いているものは30件ぐらいかなと」(鈴木さん)

画像(児童心理司と一緒に訪問先に向かう鈴木さん)

午後2時半。この日は担当する家庭の訪問に出かけます。
子どもと面談する際は、児童心理司が同行します。子どもの心の底にあるSOSを逃さないよう、専門的な見地からの心理状況を読み取ります。異動もあり、経験にばらつきがあるケースワーカーにとって心強い存在です。

1時間半、丁寧に親子の様子を聞きとった鈴木さんは児童相談所に戻り、面談結果をまとめて今後の対応を検討します。業務に追われるなか、その責任の重さ、難しさを日々感じています。

「子どもって、保護して初日に聞く質問と、保護して1週間後に同じ質問をしても違う答えが返ってきたりっていうのがあるので、何回か聞くこととか。でも何回か聞いたら、負担になっちゃうこともあるので。人の人生をある種、左右するわけですから、もっとじっくり考えて丁寧にやっていく必要というのは感じています。もっと余裕があればもっとできたらなとは思っています」(鈴木さん)

この児童相談所では、若手を支えるため、個別のケースについて、必ず5年以上の経験がある指導員がつく体制を整えています。この日、鈴木さんが指導員に相談したのは児童養護施設で生活する17歳の男の子の進路について。本人は大学に進学したい、そして、関東に出たいと希望しています。しかし、家庭の経済状況から、金銭的な援助が難しく、両親は地元での就職を第一に望んでいます。

画像(指導員に相談する鈴木さん)

鈴木さん「本人は都会への憧れがちょっとあって、その辺でずっとマッチングしない。学校でも先生にも言われるんですけど、本人は言われると落ち込むらしくて・・・」
指導員「進路に関しては本人の意向と家庭の状況とあわせて作っていかんといけんから。県立の短大であったりとか、提示しながら。もう高校3生になってくるので、ある程度は自己選択というのもしてあげんといけん」

「進学」の希望をかなえつつ、「関東に出たい」という思いも尊重するためにはどうすればいいのか?一つ一つ丁寧に選択肢を提示していきます。

指導員「本人がどうしても関東という希望があれば、それは大学優先でいくのか、関東優先でいくのかというのもありますよね」
鈴木さん「本人的には関東ですね」
指導員「そうしたら関東だったらこんな仕事があるよ、とかいうのを今後提示していくというか」

鈴木さんを担当している指導員はこう話します。

「どうしても大人の理論でやっぱり進めていきがちなんですけど、やっぱり子どもの視点から見たときにはどうなのか。子どももなるべく納得ができるような提案というのはやっぱり考えていかないといけない」(指導員)

里親支援ソーシャルワーカーの役割

一方、児童相談所外の専門職との連携によって負担を減らす取り組みもあります。

里親のもとで暮らす子どもたちの近況連絡会に集まっているのは児童相談所の職員と「里親支援ソーシャルワーカー」。児童養護施設や乳児院にいる児童養護の専門家です。

画像(連絡会に参加している里親支援ソーシャルワーカー)

児童相談所のケースワーカーは施設や里親のもとで暮らす子どもの支援も担っていますが、その声をくまなく聞きとるには限界があります。

画像(里親支援ソーシャルワーカーが担う役割)

そこで、「里親支援ソーシャルワーカー」が近隣の里親家庭に訪問。里親だけでは解決できない子どものSOSをくみ取り、協力して対応する体制が作られています。

「いまマッチング中ということで期待もあるけど不安もあると話していたのが印象的でした」(里親支援ソーシャルワーカー)
「ニコニコしながら里母さんにじゃれあっていく姿を見て、相当好きなんやなって」(里親支援ソーシャルワーカー)

ここでは週に一度、連絡会を開いています。全国的に見ても密な連携で、子どもの変化に素早く対応できるようにしているのです。

画像(大分県中央児童相談所 小野幹夫課長)

「日々変わる子どもの意向にきちんと対応できる職員体制やシステムになってるかどうか。子どものなにげない一言にきちんと反応できる感度があるかどうか。そういったスキルなり感性、感覚を持った職員がどれだけ増えるのかなというのが、これから児童相談所で大事になるんじゃないかなとは思ってます」(大分県中央児童相談所 小野幹夫さん)

求められる大人たちの“聴く”姿勢

ケースワーカーの負担が大きくなっている現状に対して、政府は児童虐待の防止対策の1つとして児童福祉司を2,000人増やすとしています。こうした支援体制を改善していくために、児童福祉司として児童相談所で勤務した経験から虐待問題や子ども家庭相談のあり方を研究している明星大学 常勤教授の川松亮さんは人材の養成の重要性を訴えます。

画像(明星大学 常勤教授 川松亮さん)

「児童相談所は人手が足りなくて1人がたくさんのケースを抱えていて、一つ一つのケースに丁寧に寄り添って支援することが難しい現状です。人が増えることは大歓迎なんですけども、新しい人がたくさん入ってこられてその方たちを養成することがとても大きな課題になります。研修だけではなくて、異動することで経験年数が蓄積しないという課題もありますので、できれば異動周期も長くして、バランスの良い年齢構成の職場で伝えていきながら、採用、養成、研修の仕組みをきちんと整えていくことが必要かなと思います」(川松さん)

一方の里親支援ソーシャルワーカーと密に連携して、ケースワーカーの負担を軽減する取り組みについて、児童養護施設で育った経験があり、社会的擁護の当事者団体 副代表の中村みどりさんは次のように話します。

画像(当事者団体 副代表の中村みどりさん)

「国は今後、里親家庭をもっと増やそうという動きがあり、そうなると、やはり支援の充実がとても大事になってくると思っています。児童養護施設という養護の専門家が里親支援ソーシャルワーカーとして関わるということでは、里親さんにとって子どもの色んなことを施設の職員さんに聞けるのでとても心強いのではないかなと思いました」(中村さん)

ほかにも、一部の地域では、「ファミリーグループカンファレンス」というものがあります。地域の人たちと一緒に支援のあり方を考える取り組みです。

「親子に関わるさまざまな関係者、保健師さん、保育士さん、学校の先生、民生委員などが、みんなで手を携えて協働して支援していくネットワークでの支援が大変大切です。親子がその中に入って自分たちのことを自分たちで決めていくという、子どもの意見も聞くという取り組みとして、ファミリーグループカンファレンスもより取り組まれるといいなと思います」(川松さん)

子どもの声を聞く上で一番大切なこと、そして私たち一人一人にできることはどのようなことなのでしょうか?

「子どもたちは地域の中で生活していますので、必ず誰か1人の大人とはつながっていると思います。その大人一人一人が子どもたちの声を聞くという姿勢を保つのが大切かなと思っています。子どもたちがいま何か困ってるんじゃないかと思える、見方を変えることで、よりSOSをキャッチしやすくなるのではないかなと思っています」(中村さん)

「周りの大人が、子どもが安心して話せる環境を作る、話してもいいんだよって思ってもらえるように“聴く”ことが大事だと思います。子どもたちも『見守ってもらえる』という感覚を持っているだろうし、やはり一度でも相談した経験、相談を聞いてもらえたという経験が子どもたちの次につながっていくのではないかなと思っています。“聴く”という字には、目と耳と心という漢字が入っています。子どもたちが言えないでいるようなことを目で見て、耳で聞いて、心で“聴く”という姿勢を周りの大人が持っていけるといいなと思います」(川松さん)

子どもたちを守る支援制度が、今後ますます充実していくことが望まれる一方で、大人たちの“聴く”姿勢も絶えず求められています。

【特集】子どものSOSの“声”
(1)大人が聴き逃さないために
(2)子どもたちを保護する活動 ←今回の記事
(3)保護された後
(4)「アドボケイト(代弁者)」という考え方

※この記事はハートネットTV 2019年5月7日放送「シリーズ 子どものSOSの“声”1大人が聴き逃さないために 」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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