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B面談義「コンビニ“エロ本”販売中止」について思うコト 能町みね子さん サムソン高橋さん

記事公開日:2019年02月25日

千原ジュニアと濃すぎるコメンテーターが「ちまたの話題」についてエッジの効いたトークをする「B面談義」。今回のテーマ「コンビニの成人向け雑誌の販売中止」にちなんだエッセイを、能町みね子さん、サムソン高橋さんが寄稿してくださいました。

「コンビニでエロ本を買ってみました」 能町みね子

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漫画家・エッセイスト 能町みね子
著書・テレビ出演多数。相撲愛好家でNHKのニュースシブ5時では相撲解説を担当。

 成人向け雑誌(かしこまった言い方でアレなので、エロ本と言います)がコンビニで売られなくなることについてどう思うか、というテーマでコラムを書けと言われました。
 私はエロ本をコンビニで買ったこともなければ、あって不愉快だと思ったこともありません。私が好きなSMモノはどうせ書店でしか売ってませんし、エロ関係の情報は昔からほぼネットで仕入れていました。かつて、ディープなカルチャーも扱うことで支持されていた書店・ヴィレッジヴァンガードがエロ関係の扱いをやめると言い出したときの失望感に比べれば個人的には屁でもない話です。また、子供にとってあの程度のエロ本の存在は、ネットで事故的にエロ情報にアクセスしてしまう危険性よりはまだマシだと思っています。なので、あってもなくてもどっちでもいいと思っています。
 コンビニがエロ本を置かなくなるのは、女性が見てどうの、外国人が見てどうの、という理由もありますが、多くの人がすでに指摘しているとおり、単純に「売れないから」という理由も大きいようです。確かに若い人はみんなネットで過激な物を見ているし、エロ本の需要はどんどんなくなっているんでしょう。

 ところで、かつて気まぐれに買ったことのあるSM系の雑誌では、写真よりも結局コラムがおもしろかった、というようなことがままありました。今のコンビニのエロ本には、そういうオモシロ読みものみたいなものがあるんでしょうか。気になって今日買ってみました。買わないことには分かりませんからね。
 近くのファミマで手に入れたのは、いちばん目立っていた『レズラブ!VOL.7』というものと、いちばんタイトルがゲスだと思った『ヤラれる10代流出映像』というものです。というか、買うとき超恥ずかしかったのでロクに吟味せずに買った。立ち読みできないようにテープが二つも貼ってあるし。もうこんなことしたくない。
 家で開けてみると、まず2つともDVD付きです。そして、裸の写真が当然ガツガツ載っているんですが、これが(たぶんすべて)既存のDVDを写真に起こしたものなのでした。
 私が期待したようなコラムなんかひとつも載ってませんでした。長い文章は広告のページにしかないです。
 つまり、私が見た限り、今のコンビニのエロ本って、ほぼ、エロDVDのカタログです(例がたった2つで申し訳ないけど、任意の2冊がそうだったんだからおおむね同様と思われる。原稿料からしても恥ずかしさからしても、あと5冊も10冊も買うのは厳しいから勘弁)。
 まさかこんなことになっているとは知りませんでした。エロ本って昔からこうだったんでしょうか?知らないままこれを書かなくてよかったです。コンビニのエロ本、文化としてはもう終わってる感じがします。読んでみて、これはいらないし別に今後も求められないだろう、と確信してしまいました。意外な結論でした。

 あ、エロ本のコーナーには少数ながら漫画もありまして、これに関しては個人的に廃れてほしくないと思っているんですが、むしろそういう好事家は書店やネットのほうが買いやすいのではないかと思ってしまいます。
 ということで、コンビニの成人向け雑誌はいらない、という結論になりました。漫画のほう買えばよかった。

「コンビニに二冊ぐらいはゲイ雑誌を置いて欲しかった」 サムソン高橋

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ゲイライター サムソン高橋
雑誌「SAMSON」編集者・ライターとして勤務後、フリーに。ゲイ雑誌などで連載。

 今回、ハートネットTVから依頼されたエッセイのテーマは、「コンビニが成人向け雑誌の販売を中止することについて」だった。
 なぜにハートネットTVがこのテーマなのか。コンビニの成人雑誌発売中止。
 その決定がなされた理由を、コンビニ各社は主に「家族連れや女性や子供、高齢者や外国人など、すべての人が快適に利用できる環境のため」だという。
 女性や子供や高齢者への配慮だと聞くと、人権意識が一歩進んだ素敵なことだわね、と思う。しかしこれを「臭いものに蓋をしておしまいとする手段」ととらえると、これはまた話が違ってくる。
 さらにこれをオリンピック・ウォッシング、つまり五輪前にいかがわしいものを漂白して表向きだけきれいにあつらえた世界にする運動の一環だと仮定すると、いまだにいろいろ賛否両論かしましい東京五輪への複雑な思いとあいまって、「おい、ちょっと待てよ」と言いたくなってしまう。
 なるほど、これは確かにハートネットTV向きの話題かもしれない。

 ただ、意外と物事はそんなに複雑ではないと思う。
 今の時代、雑誌、特に成人雑誌は、あまり誰も買ったりしないのだ。
 平成も終わりになって、書籍、特に雑誌の売り上げは落ちる一方だが、中でも成人雑誌は風前の灯だと聞く。それはそうだろう、雑誌の売り上げ低下の大きな要因はネットだが、成人雑誌で主に扱われている「エロ」こそ一番ネットで代替可能なものだからだ。
 おそらくコンビニ各社からしたら、単に店内スペースと採算を考慮して損切り判定しただけのことだろう。そしてそれに「すべての人に快適な環境を」ときれいな言い訳をしただけのことなのだ。
 ひとつ確実に言えるのは、これをきっかけに成人雑誌の多くが廃刊に追い込まれるだろうということだ。

 私もかつて成人雑誌で働いていた。『サムソン』という今も存命のゲイ雑誌である。

 自分が働いていたのは90年代中盤から8年ほどだが、ちょうどそのころがコンビニの成人雑誌が一番勢いがあった時代かもしれない。店内の一区画に数十冊が置かれ、しっかりとその存在を主張していた。
 そのころの私はこんなことを思ったものだ。
「ゲイ雑誌もコンビニで気軽に手に入ればいいのに」
 私は、ゲイは全人口の5%程度はいるに違いないと思っていた(今でもこの計算は大きく外れてはいないと思う)。それならば、このコンビニに二冊くらいはゲイ雑誌は置かれてないと不公平ではないか。
 私が夢見た未来は、ゲイもストレートも差別も区別もない世界だった。コンビニにゲイ雑誌も含めた成人雑誌が絢爛豪華に華咲くような。しかし、実際の20年後は、ネットではどんな性指向でも区別も差別もないけれど、コンビニでは成人雑誌というジャンル自体が無くなってしまうのだった。
 ちなみに当時は6誌ほどあったゲイ雑誌は、『サムソン』を除いてみんな廃刊になってしまっている。

 蛇足かもしれないが、ちょっと昔話をさせてもらう。
 当時のコンビニの成人雑誌は、明らかにひとつの文化だった。80年代から続く『投稿写真』、そして90年代半ばに創刊された『GON!』や『BUBKA』など、私は夢中になって読んでいた。ゲイなのに。確実に自分の中の何割かは、そのときに育んだものだ。エロやアイドルなどという言い訳さえあれば何でもありの世界。今だとコンプライアンス的に無理だったりもするだろう。
 コンビニの成人コーナーでひたすら立ち読みしたあのころはもう遠い昔だ。そもそもテープで封をされてコンビニで雑誌を立ち読みするのが不可能になってから随分になる。
 コンビニの成人雑誌が消滅するのも、時代の流れ、と言うしかない。
 ただ、あのとき自分が夢中になったものは、形を変えてどこかの世界で生き延び続けているのだと思う。
 サブカルチャーとは、おそらくそういうものだからだ。

※この記事はハートネットTV 2019年2月25日放送「B面談義 #8」に関連して作成しました。情報は放送時点でのものです。

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