ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

平成生まれの「職場がつらい」 変わる価値観と職場環境の狭間で

記事公開日:2019年01月23日

平成の30年は、バブル崩壊後、年功序列や終身雇用が保障されなくなり“働き方”が激変した時代。一方で、依然として残る古い組織風土に苦しんでいるのが、若い世代です。番組には「みんなも頑張っているから頑張れと言われるのが苦痛」「人手不足で誰にも相談できない」など切実な声が寄せられています。働く側と雇用の両面から、未来へのヒントを探ります。

悩みの原因は世代間の価値観のギャップ

若い世代の採用現場は今、「売手市場」。一方で、入社3年以内の離職率は3~4割にもなります。そんな若い働く世代が職場で苦痛に思うことの1つが、「精神論」にもとづく上司や会社の価値観だといいます。

「見て覚えろ」と仕事のやり方を具体的に教えなかったり、苦しい状況を「気合いで乗り切れ」と諭したり。昭和生まれの世代が経験してきたことをそのまま平成生まれの若い世代にあてはめることで、世代間のギャップが生まれてしまっているのです。

「精神論が苦痛。本当に苦痛です。他人の定義する『当たり前』とか『普通』を押しつけないでほしい。甘えとか怠けとか、努力が足りないとか。」(ケヴォーキアンさん)

「事務をしていましたが『見て覚えなさい』と言われていました。役に立ちたいけど、どうしたら改善するかわからず『やる気がない』と言われ悩みました。」(ちぃさん・福岡県の女性・20代)

「私の職場では、全社員が出席する忘年会の席で、新人に一発芸をさせる風習があります。私の代は同期全員で女装をし、アイドルのモノマネを披露することになり、残業に追われる合間に練習にいかなければならなくなりました。納得のいかないものを、どうして誰も辞めようと言えなかったのでしょうか。自分でも悔いが残ります。」(ひろあきさん・男性・20代)

このような世代間の価値観の違いを、全国の企業・団体400社以上の研修を支援してきた人材育成企業代表の前川孝雄さんは次のように話します。

画像(人材育成企業代表 前川孝雄さん)

「昭和生まれの人は精神論で、我慢すれば経済的に豊かになれるという価値観だった。今の平成生まれの人たちは、どちらかというと将来が不安だから今のハッピーが幸せ、という価値観。そのギャップでお互いが悩んでいる」(前川さん)

30年で一変した価値観 問題を内面化する平成生まれ

昭和生まれと平成生まれの世代の価値観の違い。その背景には、この30年間の経済・雇用の変化があります。
30年間に起こった主な出来事や流行語を見てみると、例えば、猛烈サラリーマンが象徴的だった平成元年の流行語の1つに選ばれたのは「24時間戦えますか?」。しかしその後、バブルが崩壊し、平成5年には「就職氷河期」が流行語に。

画像(流行語と社会的出来事)

その後、金融機関の破綻などで有効求人倍率が1を切る状態は10年近く続き、派遣労働が拡大。さらにリーマショックが訪れると、再び就職が難しい時期が到来します。若い世代の過労自殺が社会的な課題となり、「ブラック企業」という言葉が流行。近年は、少子化や団塊世代の退職など、人手不足も深刻化するなか、働き方改革が進められているという状況です。

しかし、依然として組織の内部には、働き方や習慣、価値観など、「24時間戦えますか?」の時代の価値観も残ります。その狭間で悩んでいるのが平成生まれの世代なのです。
そんな世代の1人、20代のKさんから届いた声です。

「夢見ていた仕事。仕事がうまく覚えられなくて、だんだんと周りの態度も当たりも強くなって、周りの人が怖くなった。何をどうしたらいいんだろう。」(Kさん・女性・20代)

東北地方に暮らすKさんは短大卒業後、幼いころからの夢だった保育士として働いてきましたが、今、職場がつらいと感じています。

画像(Kさん)

きっかけは、書類作成や園児への配慮がうまくできず、指摘を受けたこと。やることをメモにするなど工夫しましたが、自分の判断に自信が持てず、周りの目が怖く感じるようになりました。

「ちょっとした失敗に対して先生たちがこそこそ話してるのを見てしまって、それから何かした後に先生たちが集まって話してるのを見ると、自分のことを話してるんじゃないかと思ってしまったり、何か行動する前に失敗しないようにと思うと行動できなかったり。悪循環になってしまって」(Kさん)

自分を変えたいと、思い切って上司に相談をしたKさん。
しかし、「あなたは努力が足りない。社会人としての自覚がない。みんな頑張っているんだから」と言われてしまい、さらに悩みを深めていきます。

うまくいかないのは自分のせい。でも、どう頑張ったらいいのか、わからない。次第に職場のことを考えて眠れない日が続くようになりました。その後、Kさんは病院で、抑うつ症状があると診断され、休職せざるをえなくなりました。

「みんなが頑張れてることを私は頑張れてないんだなと思うと自己嫌悪になったり、みんなが普通にできていることなのに私はできていないんだなっていう風に悪い方に捉えてました。社会人って何なんだろうってすごく悩んでました」(Kさん)

問題を内面化し、自分の責任にしてしまうことで、より悩みが深くなってしまうと精神科医の松本さんはいいます。

画像(精神科医 松本俊彦さん)

「若い世代の人は真面目な人が多く、悪口を言って誰かと連帯したりせずに、自分の中で受け止めて、いつも自分にダメ出しをしている。そういったなかで自分には価値がないのではないか、消えたい、という思いが『死にたい』に変わっていく。こういった状況で、自殺未遂をしてしまうケースはまれならずあります」(松本さん)

相談できないのは人手不足も一因

職場の悩みを抱え、誰にも相談できないという声は、番組にも多く寄せられています。

「よく言えば個人主義、実際のところは『それはあなたの仕事でしょ』『体調を崩すのはあなたの資質の問題』と見放された気持ちになります。たしかに個々の仕事はそれぞれに任されていますが、最後の支えは職場の人たちとのつながりです。個人主義と無関心は別物だと思うのです。」(なりんさん・女性・20代)

「職場には相談できる場所はありません。相談しても流され、ずっと泣いてました。親しい友人がいるならば早く相談すればよかったと後悔しています。」(涙色さん・北海道の女性・20代)

こうした思いを抱えた人が、誰かに相談したり、頼ることができれば少しは悩みも軽くなるはずです。しかし、それができない要因が、今、深刻化している「人手不足」です。

番組に投稿してくれた20代のあかねさんは、大手チェーンの飲食店でアルバイトとして働いて7年。人手不足の職場で働き、仕事をつらく感じて上司に辞めたいと切り出しましたが、受け入れてもらえませんでした。

画像(あかねさん)

「『別のマネージャーさんが死んでしまう』って言われてしまって、自分のことよりも他のマネージャーさんのことが心配なんだなって。今、辞めたらお店の運営に関わってしまうので、辞めてほしくないというのは自分自身としてもすごくわかるんですけど」(あかねさん)

お店は常に人手不足。正社員は常駐せず、あかねさんが現場の責任者です。接客、調理、コストの管理、後輩の指導など、仕事は増えるばかり。それでも、同僚に負担をかけまいとすべて引き受けています。職場での悩みをあかねさんは誰にも相談できていません。

画像(あかねさんの勤務時間を記す手帳)

「そういう話をして向こうの気持ちも暗くなってしまうのもいやだし、話してしまうと、やっぱり話してよかったのかなっていう申し訳なさとか、相手も負担になってしまうんじゃないかっていう考えがいつもありますね」(あかねさん)

職場の悩みを、上司や同僚はもとより、友人や家族にも相談できない。こうした状況が生まれるのは、構造的な背景もあると人材育成企業代表の前川さんは指摘します。

「構造的に就職氷河期が長く続き、相談できる身近な少し年上の世代が職場にいない。かつ効率が求められ、ぎりぎりの人数で回しているので、少しの雑談もできないような状況になっている職場が多くなっている」(前川さん)

さらに、昭和生まれと平成生まれの人の考え方の違いとして、昭和生まれの人は「友人だからこそ本音で話す」という考えなのに対し、平成生まれの人はやさしいがために「友人に話すのも遠慮してしまい、自分の中でためてしまう」傾向があると前川さんは分析します。

第3の場所を見つける大切さ 勇気を出して相談を

職場がつらく、相談するのも苦手。そんな状況でも、1歩を踏み出すきっかけをつかんだ人もいます。
職場での悩みが原因で休職せざるをえなくなった保育士のKさんです。

今は週に一度、SNSで知った「手話サークル」に通っています。地域の社会人が集まる趣味の場で、Kさんは初めて悩みを他人に打ち明けることができました。

画像(Kさんの手話のイラスト)

「友だちも話せば相談には乗ってくれたと思うんですけど、子どもとの関わりが不安になっている自分を、保育士を目指して頑張ってたころを知る友だちに出すのが怖かった。サークルのなかで相談したら、あまりまだ自分を知らない人だったので、『こういうことを悩んでるよ』とか『こういう風に思って仕事してた』と言いやすかった。選択は間違ってないと言われるとちょっと安心できたり、『これでよかった』と自信を持てるようになりました」(Kさん)

若者の自殺や自傷行為について詳しい精神科医の松本さんは、職場でもプライベートでもない「第3の場所」を作ることの大切さを訴えます。

「職場の利害関係が絡まないような人間関係、また家族や友人だとディープな話をすると関係がギクシャクすることがあるので、そうでないところ。困難な状況に耐える方法として、別の場所を持つことは非常にいいと思う。そういうのを許してくれない職場であれば、去ってもいいのではないかと思います」(松本さん)

また、前川さんは少し勇気を持って誰かに相談することで、新しい展開が生まれるきっかけになるとアドバイスします。

「上司世代の人は、ハラスメントなどを意識して1歩踏み込めていないところがある。待っている状況なので、若手の方から相談してもらえると、上司世代が受け入れてくれることはけっこうあると思います。ちょっとした勇気で相談すると、展開が変わっていくきっかけになると思います」(前川さん)

自分の価値観を押しつけるのではなく、相手の話を聞いてみる。1人で抱え込まず、勇気を出して相談してみる。そんな互いの歩み寄りが、若い働く世代の悩みを軽くするきっかけになるのではないでしょうか。

※この記事はハートネットTV 2018年12月6日(木)放送「チエノバ 平成生まれの職場がつらい」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事